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■春一(20)
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真白が放送局の名刺、川上さんが僧侶の名刺、伊勢さんが〒〒テレビの名刺を出したので3人はとっても信用された。真白は警察に説明した。
「先日からここの道を降りて行く時に1ヶ所しか無いはずのお地蔵さんを2回・3回見るという話をリスナーの方たちから頂いていたんです。それって、お地蔵さんが何かを知らせようとしているのではとも思って調べに来たんですよ」
伊勢さんたちも、同様の噂を聞きつけて番組で取材しようと思ってきて偶然知り合いの遊佐さんと遭遇したので、一緒に調べていたと説明した。
警察が掘り返した所、女性と思われる遺体が見付かり、検屍の結果、猛スピードの車にはねられて亡くなったと思われた。死後4-6ヶ月経っているとみられた。4月に行方不明になって捜索願いが出ていた女性と身長が一致することからDNA鑑定が行われて、その女性であることが確認された。着ていた服も本人が普段着ていた服と思われた。
現場に犯人につながる遺留品があまり無く、警察は目撃者を探すが、人通りのある所ではなく、麓は高速のインターがあって逆にどんな車が居ても人の記憶に残らない。各テレビ局・ラジオ局でも目撃者を求める広報をしたのだが一向に手がかりは得られなかった
そんな時、川上さんから連絡があったのである。
「ある特殊な方法で霊視してみたいんだよ。被害者の遺品、できたら事故に遭った時に身に付けていたものを借りられないかな。そのものは破壊しないしちゃんと返す」
「聞いてみます」
真白は遺族に連絡を取った。
「こちら、お嬢さんが埋められていた場所を発見した、ラジオηηの記者で遊佐と申します。可能だったらお線香を上げさせていただきたいのですが」
お父さんは見付けてくれた記者さんなら歓迎というのでお邪魔して、お仏壇に香典を備え線香を立てて合掌した。そしてお父さんに頼んだ。
「現場を発見した時に一緒に居たのが、私と、〒〒テレビのAD、そして川上瞬葉という住職の資格を持った女性なのですが、この川上さんは〒〒テレビの番組では“金沢ドイル”という名前で色々霊的な事件を解決していまして」
「ああ、金沢ドイルさんですか。あの人、霊能者としては凄くまともっぽいですね」
「その金沢ドイルさんが犯人につながる手がかりを霊視してみたいと言っているんです。御本人が今妊娠中であまり動けないので私に訊いてみてくれないかと頼まれたのですが、お嬢さんが亡くなった時に身に付けていたもので、できたらその後、洗ったりしてないものが借りられないかということなのですが」
「妊娠中ってあの人50代では?」
とお父さんが言うので、真白は可笑しくなったが笑いはこらえた。
40-50代に見えるよね?
「けっこう老けて見えますけど、わりと若いみたいですね」
とだけ真白は言っておいた。
お父さんはしばらく考えていたが「これなら」と言って、当時被害者が持ってた水筒を持ってきた。
「多分この蓋がいいです。御本人が口を付けておられますし」
「なるほどー」
それで真白はその水筒の蓋を預かって伏木の川上青葉の自宅まで持っていった。
教えられた住所にカーナビを頼りに行ってみると大きな家である。さっすがと思う。家の東側に車が駐められるようなのでそこに進入すると妹の村山千里(金沢コイル)さんが出て来て
「突っ込んで駐めて」
と言う。確かに他の車も突っ込んで駐めてある。それで車を駐めて降りると、村山さんが言った。
「そんなに強い“子”をそのまま連れてたら警戒されるよ。普段は隠しておいたほうがいい」
と言って、シールドの仕方を教えてくれた。壱越が見えなくなる。
へー、凄い!
それは物の前にカーテンをするような感じだった。
「君かなり力があるみたいだけど自己流でしょ?」
「実はそうなんです」
「まあこの世界、パワーのある人ほど自己流だけどね。強い人はその人に教えられるほとの人が、めったに居ないから」
「ああ、そうかも」
中に入るとリビングに、遺体発見の時にも居た伊勢真珠さん(金沢パール)、番組のもうひとりのアシスタントの沢口明恵さん(金沢セイル)も来ていた。
まず水筒のふたを川上さんに渡すと、青葉さんは
「お預かりします」
と言って、それを持って部屋を出て行った。そして村山さん、伊勢さん、沢口さんんと一緒に真白はサンルームに移動した。
「まあひと休みしていってください」
と言って沢口さんがお茶とお菓子を持って来てくれる。すぐに川上さんも戻って来て“つもる話”をした。
「ああ、遊佐さん、どこかで声を聞いたことがあると思ったら、ラジオκκレポーターの角間36号さんか」
と伊勢真珠さんが言う。
「はい。レポーターを3年やった縁で、今年の春から本名でラジオηηの番組を担当しています」
「その番組、ドライブ中に何度か聞いた」
と沢口明恵さん。
「ありがとうございます」
「ねえ、遊佐さん、以前片町で会ってない?」
と沢口明恵さんが言う。
「はい。チンピラが老人夫婦に絡んでいた件で協同しましたよね。テレビで見た時に『あ、あの時の人だ』と思いましたよ」
「何かあったんだ?」
と伊勢さんが訊くので、真白と沢口さんは、4年ほど前にあった出来事を話した。
「色々縁があったんだねー」
「ところで、遊佐さん、多分性別、あれだよね」
と真珠さんが言う。
「良く分かりますねー。めったにリードされないのに」
「この場に居るのは全員同じ性別だから」
と明恵さん。
「うっそー!?」
「でも全員既に女性になってるね」
「すごーい」
「あなたもきっと1年以内に女性になりそう」
「あははは」
やはりぼく性転換手術受けちゃうのかなぁ。
美里からはいつ性転換手術してもいいからねと言われてるし。礼恩はもう自分のことを「お姉ちゃん」と呼ぶし。
「きっと5年以内に妊娠する」
「え〜〜!?でも私、女性と結婚しているんですが」
「ああ、この世界にはビアンの子も多い」
「それでもきっと妊娠する」
「どうやって!?」
やはり壱越が言うように卵子融合??
でもぼく卵子あるんだっけ?
(↑きっとある)
霊的な事件についてもたくさん話した。
「そちらの番組で3年前に扱った幽霊屋敷で**にあった案件は私も少し関わっていたんですよ」
「あ、もしかしてここに住んでいたらやばいから退去したほうがいいと言った霊能者というのが」
「はい私です」
「じゃニアミスしてたんだね」
「でもあんな怖い案件を処理しちゃうのが凄いです」
「あれは金沢ドイルさんにしかできなかったと思う。私じゃ無理」
と明恵さんが言っている。明恵さんは電話占いでかなり稼いでいたらしい。番組の正式アシスタントになってから辞めたらしいが。
「真白ちゃん、今どこに住んでるの?」
「N町なんですが」
「もしかして以前の実家?」
「はい。夫婦と、私の母と3人で」
「お父さんは・・・」
「金沢に出ました」
「よかったぁ!」
真白が母と住んでいると言ったので、父は霊障で亡くなったかと思ったのだろう。7年前、父は「自分は真白の高校卒業を見られないと思う」とか言っていた。でも青葉さんが処理してくれたおかげであの家の霊的圧迫は消え、父もそういうことは言わなくなった。母も沈んでいたのが元気になった。
そして2人は別居した!
「だったら、あそこを防御強化したんだ?」
「あ、分かります?」
「防御強化してないと、真白ちゃんが、こんなに元気であることを説明できない」
「防御無しであそこに住んでたら死ぬか病気になるかだから」
「確かにあの地区に住んでいるの、今やうち以外には5軒だけなんですよ」
「まあ普通住めないよね。毎晩多数の兵士が攻めてきたら」
「特に里から来る上杉軍が凄いんですよねー。山側から来る長(ちょう)の軍勢はそれほどではありません。でも里側・山側両方の家を買い取って、そこを前衛・後衛にしたんですよ」
「なるほどー」
「それと青葉さんに作ってもらった、**神社との接続を強化しましたから」
「まあ最後は神社頼りだよね」
「はい。あれは人の力で抑えられるものではありません」
「そうそう。私の師匠は、人間の力でジェット機を止めようとするなと言ってたよ」
と青葉さんが言う。
「素晴らしいことばですね」
「この世界には相手の力量を見誤って命を落とす人多いから」
「怖いですねー」
話が盛り上がりすぎて、結局その晩、真白は青葉さんの家に泊めてもらった。別棟にスタジオのようなものが作られていて、そこに4つ宿泊室があり、それを真珠さん、明恵さん、真白の3人で使用した。
このスタジオでアクアちゃんとかに渡す楽曲が生み出されているらしい。真珠さんたちの話では、青葉さんの収入は99.9%が書いた楽曲の著作権収入という。なるほどー、経済的な余裕があるから、霊関係ではあまり高い鑑定料を取らないのかなと、真白は思った。
その日の“午後”。つまり、真白たちがサンルームで楽しくおしゃべりしていた頃、七尾警察署に電話が掛かって来た。
「七尾城山の遺棄事件で、今から言う番号の車を調べてください。車は廃車になってるかも。***-****。では」
「待ってください。もう一度」
「録音を聴いて下さい」(*35)
と言って電話は切れた。
真白がその晩ぐっすり眠ってから翌朝リビングに出ていくと、青葉さんが水筒のふたを返してくれた。
「終わったよ」
と青葉さんは言った。
「多分撥ねた車のナンバープレートが分かった。公衆電話から警察に匿名で密告した」
「公衆電話なんですか?」
「だって、私が霊視で犯人につながる情報を見付けたら、その後どんどん様々な事件の調査依頼が持ち込まれてくる。とても身が持たなくなる」
「ああ」
「だから霊能者なんて、お笑いで済ませておかないと、いづれ死ぬかダークサイドに墜ちるかどちらかだよ」
「ダークサイドに墜ちちゃう人多いですね」
(*35) 電話を掛けたのは青葉L(妊娠している側)で、わざわざ福井県内まで車(千里姉が貸してくれたダイハツ・ロッキー)で行って電話しているが、電話口でしゃべったのは眷属の玉鬘である。
そしてこの日伏木に居て真白と話したのはお昼までがLで午後が青葉Rだった!
真白から水筒の蓋を預かった青葉Lは、それを別室に持っていく振りをして、天野貴子に渡した。彼女は橋本に瞬間移動し、そこで待機していた青葉Rに渡した。そのまま天野が運転して★★院に行き、Rは水見式をした。
お昼過ぎにRが目覚めたので★★院を退出し、天野さんに伏木のスタジオに飛ばしてもらった。Rが来たところでLは席を立ちRと交替する。そしてLはスタジオ側に駐めていたロッキーに乗り、福井県内まで走って七尾警察署に通報した。県境をまたいだのは緊急配備しにくいようにである。
Lは久々の外出だったので、その後福井市内のパリオCITYまで行き、夕方には徳光PA(ハイウェイオアシス)まで戻って夜まで過ごし、夜中に千里姉と位置交換で伏木に帰り、翌朝真白にふたを返した。
Lが退屈そうにしてたので、Rは福井までの往復ドライブをLにさせてやった。眷属はL側からもR側からも呼び出せる。但し雪娘・海坊主は通常Lのそぱに居る。Rは雪娘の代わりに蜻蛉を傍に置いている。しかしRも3週間ぶりに日本語を使った!
グラナダではメイドたちとスペイン語で会話するし、千里姉までスペイン語で話すので、日本語を忘れそうである!
でもスペイン語で話しているとなんか思考がアバウトになっていく感覚がある。国民性って言葉から導かれる部分もあるのかも、などと青葉は思う。
真白は翌日被害者のお父さんに水筒のふたを返しに行った。
「すみません。霊視はしてみたものの、やはり時間が経ち過ぎてて、あまり明確なことは分からなかったそうです」
「やはり4ヶ月も経てば難しいですよね」
とお父さんは残念そうに言っていた。
真白は言付かっていった川上瞬葉名義と伊勢真珠名義の香典だけ供えてきた。
「お母ちゃん遠い所に旅行に行ってるんだって」
と幼稚園くらいの女の子が言っているのが涙を誘われた。たぶんこの年齢なら母が死んだことを理解していると思うけど、自分でもそういうことにしておきたいのだろう。この子と、近くでお人形さん遊びをしている3歳くらいの妹のためにも絶対犯人を見付けなくてはと真白は思った。
「可愛いお嬢さんたちですね。お嬢さんたちのためにも早く犯人捕まるといいですね」
と真白は言った。
「あ、はい。本当は2人とも男の子なんですが、こういう服が好きみたいで」
へ?
と真白は思ったが
まいっか。
と真白はすぐに思い直した。
「それに男の子に女の子の服を着せて育てると丈夫に育つといいますし」
「あ、それ結構ありますよね」
真白は自分の家の者が全員女だから持ちこたえていたのかもという気がチラッとした。初めて壱越に会った時も、あいつ言ってたじゃん。男はみんな死んでしまったって。今うちの近所に残ってる5軒も全部住人が女性ばかりだ!
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