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■娘たちのベイビー(1)

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(C) Eriki Kawaguchi 2019-08-23
 
2015年5月、アクア人気が物凄いので、秋からアクア主演の中高生向けドラマを放映しようという企画が立てられた。それで主要キャストの候補を局側で考えて各々の所属プロダクションに打診し、学園ドラマにすることにしたので、生徒役の中高生タレントを100人ほどオーディションで選んだ。西湖はコスモス社長から「あんた演技がうまいから絶対オーディション通るよ。受けておいでよ」と言われて出ていくと、美事合格して生徒役として採用された。
 
それで6月になって、一度顔合わせをしようという話があり、アクアと西湖、ほかにもオーディションに合格して生徒役で出演することになった、研修生の米本愛心と3人で打合せに出て行った。主要キャストが紹介される。
 
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「主演の関耕児役・アクア君、ヒロインの楠本和美役・元原マミさん、黒幕の京極は大林亮平さん、山形先生は倉橋礼次郎さん」
と紹介され、各々立ち上がって礼をする。
 
「アンチ・ヒロインの高見沢みちる役・榊森メミカさん」
と監督が言ったのだが、反応が無い。
 
「榊森さん!?」
 
みんな会議室内を見回すものの、榊森メミカの姿が無いようである。
 
「お休み?」
「そういう連絡は受けてないですが」
「まあいいや。遅くなっているのかも知れないし」
と言って監督は紹介を続ける。
 
「男子生徒、吉田一郎役の鈴本信彦君、荻野誠二役の松田理史君、女子生徒、西沢響子役の横川れさとさん、青山玲子役の馬仲敦美さん」
 
各々の名前を呼ばれた人が立ち上がって挨拶をする。
 
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更に関耕児の両親役の役者さん、生徒指導主任役の役者さん、が紹介される。それ以外のおとなの役者さんはほとんどが名前の付いていない先生役である。
 
名前を呼ばれなかった中高生の役者(今回中学1年生以上・20歳未満で募集された)は名前の付いていない生徒役なので、積み上げられている制服の山から各々自分サイズのものを取って、男子はこの部屋で、女子は隣の部屋で着換えるように言われた。
 
西湖は男子制服のSを取って着換えたのだが、Sでもかなり大きい。見回っていた監督が西湖の所で足を止めた。
 
「君、それ大きすぎるよ。ひとつ下のサイズがいいと思う」
「すみません。これSなんですけど」
「Sでもそんなに余るのか!困ったな」
 
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この時、西湖は降ろされるかも?と一瞬思った。その他大勢の役者さんに特別なサイズの服なんて、用意してもらえるわけがない。ところが監督は思わぬことを言ったのである。
 
「君、いっそ女子生徒役をする?」
「え!?」
「今気付いたんだけど、君って、結構女顔だもんね。ちょっと女子制服着てみない?」
 
「はい、着てみます」
と西湖は答えた。嫌だと言ったら「帰っていいよ」と言われるだろう。
 
すると西湖が即答したので監督は気を良くしたようである。
「いいお返事するね!」
と笑顔で言った。それで西湖は、まだテーブルに積み上げられている女子制服のSを取って着換えてみた。女子制服を着るのではあっても中身は男の子だから、この部屋でそのまま着換える。
 
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女子制服のSだと、西湖も何とか着られた。男子制服Sのズボンはウェストが大きすぎてずり落ちてしまうし、袖も長すぎて手が出なかったのだが、女子制服のSならスカートは落ちないし、袖からちゃんと手が出る。これは元々女子制服の袖は男子制服の袖より短めに作られているというのもある。
 
女子制服を着た西湖を見た監督は嬉しそうに言った。
 
「女の子に見えるじゃん!」
「ありがとうございます」
「君、名前は?」
「§§プロ所属、天月西湖と申します。まだ芸名は付けてもらっていません」
「せいこ? まるで女の子みたいな名前だね」
「こういう字なんです」
と言って、西湖が書いてみせると、監督は「その字か!」と言って感心していた。
 
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「あれ?§§プロなら、アクア君と同じ事務所?」
「はい。『ときめき病院物語』ではアクアが1人2役するので、そのボディダブルを務めております」
 
「おぉ!確かに君、アクア君と背格好が似ているね」
「はい、それで採用されたんです」
 
「アクア君と同じ体型なら、男子制服が入る訳無いね。あの子、背も低いし、体型が女の子体型だし」
「そ、そうですね」
「さっきのズボンはウェストはあまっていてもヒップがきつかったでしょ?君スリーサイズは?」
「B70-W59-H80です」
「完璧に女の子体型じゃん!」
「そう言われることあります」
 
「女子制服を着た姿に違和感が無いのは、アクア君のボディダブルで女子中生役も演じていたからかな?」
「はい。それと私、父が劇団の役者で、小さい頃からよく舞台で女の子役をやらされていたので、スカートとか穿くのも慣れているんです」
「だったら君はもう女子生徒役で確定だな」
「はい、女子生徒役で頑張ります」
 
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「ちなみに君、女の子の声とか出せないよね?」
「出るように練習します」
と西湖は即答する。
 
「うん。だったら、女の子の声が出るようになったら、数回に1回程度セリフのある役をあげるよ」
と監督はニコニコして言った。
 
それで西湖は女声を出す練習をすることにしたのである。
 
「あ、そうそう。女生徒役をするなら、次回からは撮影現場には女子制服で入るようにしてね」
と最後に監督さんは言った。
 
「はい、セーラー服で参ります」
と西湖も笑顔で答えたが、内心『うっそー!?』と思っていた。
 

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6月28日に京平を出産した阿部子は通常より長い入院を経て、7月17日に退院した。貴司は合宿中であり、阿部子には親戚や友人もないということだったので、それで退院中に気分でも悪くなられては困ると考えた千里は、大阪在住のバスケ関係の友人に頼んで、阿部子の退院を手伝ってもらった。
 
この日千里自身は青葉に呼ばれて富山県J市に行き、“妖怪徘徊”事件の処理をしていた。
 
千里は7月14日にユニバーシアードが行われた韓国から帰国し、15日にフル代表に招集することを告げられている。次のフル代表の合宿は7月21日からであった。
 

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アクアの初ツアーとなる2015年8月のツアーは次の日程で行うことがファンクラブ速報メールで5月の連休明けに発表された。
 
8.16(日)福岡 博多海浜公園 20000
8.22(土)北海道 岩見沢野外音楽場 18000
8.23(日)大阪 吹田記念公園 30000
8.29(土)愛知 常滑臨海公園 18000
8.30(日)埼玉 大宮アリーナ 20000
合計発売枚数 106,000枚
 
最終日の大宮アリーナ以外は野外である。これは企画を作った田所が、夏だし開放的な野外でやるのもいいのではと考えこういう計画を立て、各々会場を押さえた。埼玉には適当なこの規模の野外会場が無いので大宮アリーナにした。
 
チケットのファンクラブ先行予約は5月8-14日の1週間、会員サイトからの申し込み、会場は選べない全国一斉抽選(但し申込時に優先順序を指定)で1人3枚まで、申し込み時に入場者全員の氏名・生年月日を指定、入場時に本人はファンクラブ会員証、同伴者も会員証か写真付き身分証明書が必要とした。
 
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それで・・・・
 
申し込みは100万枚分あったのである。
 
(名寄せをして重複を除くと1割程度は減る可能性あり)
 
チケットの販売予定は約11万枚だが、その内ファンクラブで販売するのは§§プロのポリシーとして最大でも8割である。つまり9万枚程度しか用意できない。
 
紅川、コスモス、田所、ケイ、★★レコードの加藤課長の5人が緊急会談をした。
 
まず公演回数を10ヶ所かできたら20ヶ所くらいにできないかと加藤課長が言うが、アクアの体力がもたないとしてコスモスが反対する。彼はツアーに専念できる訳ではなく、ドラマの撮影をしながら、またその他のテレビ出演などもしながらツアーをするので、せいぜい増やしても1〜2ヶ所が限界だとコスモスは言ったのである。
 
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「だったら、今からドームが確保できる場所がありませんか?」
とケイが言った。
 
この日程を全部ドームに振り替えることができればファンクラブに21万枚程度のチケットを用意できそうだ。当選確率は10分の1から5分の1程度に改善される。
 
「緊急に調べてみます」
と田所。
 
「もし同じ日で取れる所があったら即予約して」
と紅川。
 
それで調べてみた所、大阪の関西ドーム、札幌の北海ドーム、名古屋の愛知ドームは同じ日が空いていることが分かり、★★レコードの名前で即押さえ、予約金を即振り込んだ(各1000万円程度)。加藤課長が来ているからこそできるワザだ。
 
「あと埼玉と福岡は・・・」
 
「福岡は日程をずらしてもドームは確保できない?」
「翌日の8月17日なら空いています」
「押さえて!」
 
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「埼玉は?」
「29日なら空いているのですが」
「それは名古屋でやってるからダメだな」
 
「あのぉ、埼玉ドームはダメですが、関東ドームなら、8月30,31日が空いているのですが・・・」
 
「押さえて!」
「どちらを?」
「両方!」
 
そういう訳で、あまりのチケット申し込みの多さに、ツアーの会場は変更され、東京は公演日程まで追加され、即訂正発表されたのであった。特に福岡は日付も変わったことが注意された。
 
8.17(月)福岡 博多ドーム 40000 日付変更!
8.22(土)札幌 北海ドーム 50000
8.23(日)大阪 関西ドーム 50000
8.29(土)愛知 愛知ドーム 40000
8.30(日)東京 関東ドーム 55000
8.31(月)東京 関東ドーム 55000 日程追加!
合計発売枚数 290,000枚
 
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元の予定の3倍近いチケット数である。
 
チケットはファンクラブで23万枚程度を売り、6万枚程度を一般発売に回す。ここで§§プロのポリシーとして、両者は公平に分けるので、例えばアリーナ1列目がもし80枚あれば、ファンクラブに64枚と一般に16枚割り当てる。それで運が良ければ一般販売でも最前列が取れる可能性がある。
 
しばしばファンクラブで良い席は全て占めて一般発売には後ろの方の席しか出さない所があるが、§§プロでは、ファンクラブはアーティストを支援する組織であり、アーティストを独占する組織ではないと考えている。ファンクラブに入ってないとチケットが取れないのであれば、そこまでの投資には積極的になれないファンは離れていってしまうであろう。
 
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ファンクラブ先行の抽選(倍率約4倍)は名寄せによる重複除去作業が終わった5月21日(木)にメールで通知され、入金期間内の5月27日(水)までにクレカまたはコンビニ決済で入金された人を確定とし、入金の無かった分は自動キャンセル扱いになって一般発売枠に追加された。自動キャンセルになった人は“ランク”が下がり、以降当選確率が10%ずつ減っていく(連絡してのキャンセルで正当な理由がある場合はランクが落ちない)。
 
実は∞∞プロ系列の過去の人気アーティストの申し込み結果統計から、自動キャンセルになる確率を予測してあらかじめ多めに当選を出しているのだが(先行予約だからできること)、アクアの自動キャンセル率は過去のアーティストより高く、結局一般発売は予定より多い7万枚程度となった。それだけ人気が過熱していることを表す。次回からは率を調整する。
 
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なお住所と会場地が概ね100km以上離れている人には大手旅行代理店のツアーや優待券の案内をしている。
 

西湖は事務所に女声の練習について打診してみた。すると上島雷太さんの知人で木崎さんというボイストレーナーさんが、女声発声の訓練で評価が高いという話があり、その人の所にレッスンに通うことにした。もっともレッスン代は高く、1回1時間のセッションが2万円である。とても自分のお小遣いからは出せないので、母に相談したら、そのレッスン代を出してくれるということであった。
 
「そうか。あんたもやっと女の子になりたくなったのね。可愛い声で話せる女の子になれるといいね。去勢はいつする?」
などと母は言う。
 
「去勢なんてしないよ!」
 
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「だって早めに去勢しないと、体つきが男っぽくなってしまうわよ。喉仏もまだあまり目立たないけど、早く去勢しないと、もっと出っ張るようになって女の子としてパスできなくなるよ」
 
「僕、別に女の子になりたい訳じゃなくて、女子生徒役をするだけなんだけど?」
 

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