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■娘たちのベイビー(16)

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なお、この和解を受けてアクアのファンクラブ会員番号は少し移動されることになった。これまで
 
87.高岡越春(予約) 88.長野支香 89.長野松枝 90.上島雷太 (81-90非公開)
 
となっていたのを
 
87.高岡越春 88.高岡尚子 89.長野支香 90.長野松枝 91.上島雷太 (81-91非公開)
 
とする。尚子が私もファンクラブ会員証欲しいというので1つずらすことにした。ずらさなくても支香を91にして松枝と上島は今の会員証をそのまま使ってもよかったのだが、それだと上島と支香が並びの番号になり、アルトさんが怒るだろうと忖度して!ずらすことにした。
 

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11月4日の4人の話し合いは途中で志水照枝と田代夫妻(実はさいたま市内で待機していた)も呼んで7人での話し合いになり、田代夫妻が手配していた松花堂弁当で夕食とした。それで18時頃になって、今日はお互いいい話し合いができましたねなどと言って解散しようというのでタクシーを呼ぼうかと言っていた時、突然雨が降ってきた。
 
すると部屋の中に水滴が落ちてくる。
 
尚子が押し入れから紙おむつ!を持って来て水滴の落ちてきた所に置いた。
 
「雨漏り!?」
「雨漏り対策にはオムツがいちばん」
 
「そういう話は聞いたことがある」
 
「水滴が落ちてくるところはだいたい5ヶ所なのよね。そこにこれを置けば問題無い」
などと尚子は言っている。
 
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龍虎が言った。
 
「おのぉ、思っていたんですけど、ここ2階で、階段を昇り降りするのも大変でしょ? 豪邸とかはプレゼントできないけど、私が家賃持ちますから、1階かあるいはエレベータの付いたマンションで、雨漏りの無い所に引っ越しません?」
 
「ああ、そのくらいはあんたが出してあげていいよ」
と支香も言った。
 
越春と尚子は顔を見合わせていたが、尚子が言った。
 
「だったら、孝行者の孫にそれは甘えようかな」
「はい!」
 
それでこの件は、龍虎は多忙すぎるし未成年なので、支香が適当な引越先を見つけてあげることにした。
 

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2015年11月22日(日).
 
千里は毎月恒例の貴司とのデートをしたのだが、この日、阿部子が貴司の行動を怪しみ、ベビーシッターを呼んで京平のお世話をしてもらって、貴司の後を尾行した。千里と貴司はすぐに尾行に気付いたので、全然気付いていないふりをして普通に?デートをした。
 
帝国ホテルのラウンジで昼食→男子バスケットの試合を見る→別の体育館でバスケット練習→銭湯→地下鉄の駅で別れる
 
その後貴司が御堂筋線(北大阪急行に直行)の駅に入っていくので阿部子は慌てて同じ電車に乗るが、このままでは自宅に帰る時に貴司に見つかってしまう。どうしよう?と焦っている。ところが貴司は千里中央の1つ手前、桃山台で降りた。
 
貴司がいつもチームの練習で使っている体育館のある駅である。
 
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そうか!練習するのか!と思い、阿部子は「良かったぁ」と思ってそのまま千里中央まで乗ってマンションに帰還した。
 
しかし実は貴司は桃山台駅で、A4 Avant を運転してきた千里に拾ってもらい、そこからホテルでデートをしたのであった! 阿部子の行動を全て見透かした上での心理的な盲点をついてのデートであった。
 

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ホテルのベッドでお互い少し眠った後、貴司は千里に言った。
 
「結局さ、京平の身体を作った卵子って、千里の卵子なんだよね?」
「まさか。私は元男の子だったんだから、卵子なんかあるわけない」
と千里は答える。
 
「ある訳ないのか、それとも実はそうなのか、確かめさせてもらえない?」
「どうやって?」
 
「DNA鑑定をしたい。僕の遺伝子、千里の遺伝子、京平の遺伝子、そして念のため阿部子の遺伝子も採取して、DNA鑑定をしてくれる所に持ち込み、検査してもらう」
 
千里はしばらく考えていた。
 
「それ、こちらから持ち込むのではなく、まず鑑定会社に話をして、私と貴司と京平、そして阿部子さんと4人で行って、会社の人にサンプルを採取してもらわないといけないはず」
 
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「僕と千里はいいよね?京平は何とかする。阿部子には秘密にしたいから、毛髪か何か取ればいいかな?」
 
「それも鑑定会社に相談すればいいと思う」
「分かった。だったら鑑定会社に話をして、サンプル採取には協力してくれる?」
「まあいいよ」
 
貴司はシャワーを浴びてから千里と一緒にホテルを出ると、タコ焼きをお土産に買ってマンションに帰還した。
 

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アクアの4枚目のシングルについては、3枚目のシングルのタイトル曲を書いた青葉が大学受験で忙しいというので、ちょうど自分たちのアルバムに関する作業が終わりつつあったケイが再び書くことになった。つまりタイトル曲は
 
上島→ケイ→青葉→ケイ
 
とリレーされることになった。ところがアクアのシングルのカップリング曲を一貫して書いて来た東郷誠一Hこと醍醐春海(千里)はこの時期、物凄く忙しかった。
 
スペインでLFBのリーグ戦をスペイン全土に移動しながら戦いつつ、40 minutesで幾つもの大会に出場し、負けたら終わりのトーナメントの世界で戦っている。一方でレッドインパルスからは練習要員として1軍帯同を求められ、そちらの試合でも日本全国飛び回っている。しばしば千里は頭の中が混乱して、広川妙子にスペインで話しかけて「私日本語以外分からない」と言われたり、サンドラに日本語で話しかけて「それ何語だっけ?」と言われたりしていた。
 
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その状態で「千里にしかできない」とケイから頼み込まれてケイたちの『振袖/門出』の音源製作にも協力したので、とてもアクアの曲まで書いていられない!と思った。アクアに渡す曲は仕上げに物凄く時間が掛かるのである。
 
それで11月23日、千里は青葉に電話を掛けて
 
「青葉、ぱーっとお金儲けたくない?」
と言った。
 
「そういう話は何だか怖いけどな」
と青葉は言っていたが、“誘導”に弱い青葉の弱点をついて、うまくこの仕事を押しつけてしまった。それでこの4枚目のシングルに関しては“東郷H”ではなく“東郷J”が書くことになったのである。
 
青葉はせっかく自分は大学受験で忙しいからと言って、ケイさんに代わってもらったのに!と思った
 
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2015年12月5日(土)の夜、アクアはドラマの撮影が終わった後、鱒渕が運転する“白いアクア”に乗って、大田区蒲田のサテライト・オフィスに向かった。ここは信濃町のオフィスの機能を補うためのオフィスで、信濃町が営業の中心であるなら、蒲田は制作の中心である。音源製作や写真・動画撮影などができる設備が整っており、多数の楽器や大量の衣装もストックされている。ただ、信濃町からの移動に結構時間が掛かるため音源製作は新宿付近の貸しスタジオでおこなうことも多い。
 
アクアが到着した時には、スタジオには、秋風コスモス社長・川崎ゆりこ副社長、桜野みちる、品川ありさ、高崎ひろか、が既に来ていた。
 
「全員揃ったね。じゃ着換えよう」
「何をするんですか?」
と高崎ひろかが言うが
「まあ着換えてからのお楽しみ」
とコスモス社長は言った。
 
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着付師さんが6人呼ばれていて、ここにいる6人に振袖を着付けしてもらうということであった。
 
「わあ、振袖ですか!」
とアクアが嬉しそうに言うのを、ありさとひろかが一瞬顔を見合わせたものの、
「龍ちゃんの振袖、可愛くなりそう」
などとありさは言った。
 
それで30分ほど掛けて振袖を着付けてもらった。着付け作業は“第1”と呼ばれている、もっとも広いスタジオでそのまま行われている。全員服を脱いで下着姿になり、その下着の上に肌襦袢・長襦袢と着て、その上に振袖を着る。ほんとうはふつうの下着は取って肌の上に肌襦袢のはずだが、この年は普通の下着の上に肌襦袢を着てもらった。
 
「さすが龍ちゃんの振袖は豪華」
とひろかが言う。
 
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「舞ちゃん(桜野みちる)のと龍ちゃんのがいちばん高い。どちらも200万円の京友禅」
とコスモスが言う。
 
「すごーい!」
「私とエルちゃん(川崎ゆりこ)のは110万円くらい、クニちゃん(高崎ひろか)とあやちゃん(品川ありさ)のは100万円くらい」
 
「ひぇー!これ100万円ですか?」
「成人式の時はもっと豪華なのを買うといいよ」
「売れてればいいですけど」
 

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「ところで何かの撮影ですか?」
と品川ありさが尋ねた。
 
「うん。実は年末年始のご挨拶のCMを撮ろうと思って」
とコスモスは言った。
 
「へー!」
 
「去年はうちのプロダクションもトラブル続きだったじゃん」
「ですね〜」
「でも今年は絶好調」
「おぉ!」
 
2014年春に海浜ひまわり、夏に千葉りいなが引退。デビューしたばかりの明智ヒバリがツアー中のステージで唐突に錯乱し、そのまま精神病院に入院。秋には17歳の神田ひとみが結婚するので引退させて欲しいと申し出て、紅川や田所たちが調整や交渉のため走り回ったのである。その中で品川ありさ・高崎ひろかの2人が引退したり休養したりした人たちの仕事を頑張ってカバーしてくれたので何とか§§プロは持ち堪えた。当時、§§プロはこのまま倒産するのでは?と思っていた人たちもいたし、紅川自身もう事務所を畳もうかと思っていた。
 
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しかし今年1月にアクアがデビューすると、物凄い売上げを稼いでくれるようになり、§§プロは瀕死の状態から、業界でも最も注目されるプロダクションへと変貌した。4月にコスモスが社長に就任したのも、コスモスの若いセンスが良い方向に働き、売上げが物凄いことになって、急遽経理スタッフを増員し、事務用のコンピュータシステムも刷新したのである。
 
「今年の粗利は昨年の10倍らしいよ」
「それは凄い」
「誰かさんのお陰だな」
とありさたちは言っているが、アクアは自分のことを言われていることに全く気付いていない。「へー、そんなに売れているのか」などと思っている。
 
「まあそれでこんなに売上げが上昇したのも、ほんとに多くのファンの人たちに支えられたおかげだから、今年の締めくくり、12月30-31日に『今年はたいへんお世話になりました』とみんなで挨拶するCMを流そうと思ったのよ」
 
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とコスモスは趣旨を説明した。
 
「それ年明けはどうするんですか?」
「今度は『今年もよろしくお願いします』というCMを流す」
「なるほどー」
「つまり2本CFを撮るわけ」
 

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CM撮影と聞いて、アクアは急に心配になった。
 
「あのぉ。CMだったら、一般の人たちが見るんですよね?ボク振袖でいいんでしょうか?」
 
「他の子たちもみんな振袖着ているんだから、龍ちゃんも振袖でいいんだよ」
とみちるが言った。
 
「あ、みんな振袖ならボクも同じでいいのかな」
「そうそう」
 
それでスタジオにピアノが運び込まれてくる。カワイのグランドピアノ GX-7 である。指揮台と楽譜置きも設置される。
 
「エルちゃん、ピアノ弾いて。私が指揮する」
とコスモスが言った。
 
「何弾けばいいんですか?」
「C−G7−C。それでみんなで挨拶」
「音楽の時間の最初と最後の礼ですね」
「それな」
 
それで立ち位置も決める。4人が、ピアノ側から、ひろか・アクア・みちる・ありさと並んだ。カメラマンの男性が入って来て、カメラの位置などを調整している。
 
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そしてそこまで出来た所で、西宮ネオンがマネージャーの山本君と一緒に入ってきた。ネオンは紋付き袴の姿である。山本は唯一の男性マネージャーなので、“唯一の男性タレント”西宮ネオンを担当している(男手も必要というので山本を雇用した直後にネオンがオーディションに合格したので、結果的に彼の専任に近い形になっている)。
 
「あれ〜?ネオン君は振袖じゃなくて紋付き袴なの?」
とアクア。
 
「僕は男だから振袖を着るわけない」
とネオン。
「じゃ、ボクは?」
 
「アクアは振袖でよい」
と、ありさ・ひろか・みちる。
 
「じゃ撮影するよ」
とコスモスが言う。ネオンはありさの隣に並んだので、こういう配列になる。
 
(ピアノ)ひろか・アクア・みちる・ありさ・ネオン
 
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つまりトップアーティストである桜野みちるを中心に5人並んだ形である。
 
それでコスモスが青い指揮棒を振って、ゆりこがドーソードを根音とする和音を弾き、同時に全員お辞儀をしてから、一緒に
 
「今年は大変お世話になりました。来年もよろしくお願いします」
 
と言った。
 
 
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娘たちのベイビー(16)

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