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■娘たちのベイビー(18)

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12月22日に、千里と貴司が最初にしたのは、先日事故で大破したAudi A4 Avantの後継の車を買うことだった。2人はトヨタの販売店に行き、各々の希望を摺り合わせて結局ランドクルーザー・プラド(TZ-G Diesel 7人乗り)を購入した。
 
車選びの後は、いつものようにランチを食べ、バスケ練習をしてからNホテルの同じ部屋に入り、練習で掻いた汗をシャワールームで流す。そのあと“非結婚”3年目の皮婚式で革製品を贈り合った。
 
貴司がいつものようにダメ元でセックスさせてと言う。すると千里は根負けしたようなふりをして、貴司がジャンケンに勝ったらセックスに応じてもいいよと言った。それで千里はわざと負けてセックスをした。本当は千里はもう貴司の妻に復帰したのでセックスもOKという気持ちなのである。
 
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一眠りして起きてから千里は貴司の目の前で
「こないだ久しぶりにこれをつけてみた」
などと言って、大学1年の時にもらったアクアマリンの指輪を左手薬指にはめてみせた。
 
「この指輪は私が持っていていいんだよね?」
と千里は再確認する。
 
貴司は真剣な眼差しで見つめて
「うん。それは千里が持っていて欲しい」
と言った。
 
そしてふたりはキスをした。
 

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貴司はバッグの中に入っていた書類を取り出した。
 
「これ、鑑定書が送られてきた」
と言って貴司は千里にその書類を見せた。
 
《ムラヤマチサトがホソカワキョウヘイの生物学上の母親である可能性は未鑑定の母親候補(事前の可能性=0.5)と比較して99.999%以上です》
 
《ホソカワタカシがホソカワキョウヘイの生物学上の父親である可能性は未鑑定の父親候補(事前の可能性=0.5)と比較して99.999%以上です》
 
《ホソカワアベコがホソカワキョウヘイの生物学上の母親であることは否定されました。親子である可能性は全くありません。0%です》
 
「へー。やはり京平の生物学的な母親は貴司なのか」
「千里だよ! 僕は男なんだから母親になれるわけない」
「私も元男なんだから母親になれるわけない」
 
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「いや、元男だったという千里の嘘がこれで明確になった」
 
千里は苦笑していた。
 
「でも京平とはお母ちゃんになってあげる約束していたからね。だからあの子の母親ということでいいよ」
 
「こないだの事故では突然京平が泣いて僕が暴走車に気付いていなかったら3人とも大怪我するか、へたしたら死んでいた。やはり京平って物凄い霊感を持っている気がする。そのことで僕はあの子はやはり千里の子供だと確信したよ」
などと貴司は言っていた。
 
「まあまだあの子は本来の能力の0.1%も使えてないけどね。1歳の誕生日をすぎたら1%くらいは使えるようになると思うよ」
「へー」
「封印は徐々に外れていってフルパワーになるのは1000年くらい先かな」
 
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「よく分からない話だ」
 

2015年12月22日の午後(13:50)、建築中であった§§プロの新しい研修所(寮を兼ねる)が竣工して検査の上引き渡された。年末年始は忙しい人が多いので1月中に各自引っ越してもらって、旧研修所は2月以降に解体することになる(最終的に3月になった)。
 
この土地は用途が比較的自由で、建蔽率60% 容積率300% なので、新しい研修所は(建て面積は敷地の30%なので)地上8階・地下2階とし、主として防音のため、地下に音楽練習室を作った。そのため真夜中にフルパワーでエレキギターを鳴らしても全く平気である。
 
1階にダンス練習室、講義室、サロン、楽器倉庫、図書室などを作り、2階より上が居室(宿泊室)になっていて、各部屋にシャワー付きユニットバスを装備した。このため1フロアの居室数が10から8に減っている。また建物の1階と門の所に守衛室を設置し、交替で女性の警備員さんに24時間常駐してもらうことになった。門には警備員さんもいるが、電子キーのセットされたカードを持ち生体認証もパスしないとここを通過できない。むろん研修所全体にセキュリティが掛かっている。
 
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フロア間はむろん階段でも移動できるがエレベータ付きなので大きな荷物などを運ぶ時はエレベータを使用してよいと言われた。
 
でも『体力を鍛えるため階段を利用しよう』という紙が貼られている。
 
「体力を鍛えるためというより、経費節減のためということは?」
「若者は歩こう」
「はーい!」
「深夜帰ってきた時はエレベータ使っていいよ」
「使わせてもらいます!気力が足りないです」
 
「しかし、お風呂が個室に付いているのは便利だけど、龍ちゃんの入浴を襲撃できなくなるのが残念だ」
などと愛心が言っていたので
 
「あんたたち、ふだん何やってんのさ?」
と川崎ゆりこが呆れていた。
 

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↓新しい部屋番号
 
201.秋田利美(小5)
202.南田容子(中1)
203.佐藤ゆか(中2)
204.米本愛心(中2)
205.
206.
207.
208.
 
301.
302.
303.
304.大村祭梨(高1)
305.川内峰花(高2)
306.品川ありさ(高1)
307.高崎ひろか(高1)
308.田代龍虎(中2)
 

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中学生以下を2階、高校生を3階にしたが、アクアだけは中学生だが3階である。これはデビュー済だからということで説明された。各々できるだけ元のと同じ数字の号室にしているが209の品川ありさだけは9号室が無くなったので3階の6号室に移動になった。大村祭梨は本来なら302になる予定だったが、1人だけ離れるのは寂しいと言って304になった。また、船橋市の伯母の家から通ってきていた南田容子が、部屋が増えたのを機会に入寮することになり、202に入った。
 
なお旧206号室に置かれていた海浜ひまわりの荷物は1階のストックルームに移動された!
 
「今井葉月君は入寮させなくてもいいんですか?彼、桶川市でしょ?終電がなくなってビジネスホテルに泊まったりしてるみたいだけど」
と大村祭梨が心配して言った。
 
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「この寮は基本的に男子禁制だから」
と川崎ゆりこ。
 
「あっそうか」
「どうにもならなくなったら、西宮ネオン君と同様に都内にアパートを借りてそこを使ってもらうよ」
「なるほどー」
 
という会話をしたが、アクアだって男子かも?という問題には祭梨もゆりこも全く気付いていない!
 

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12月25日、都内の病院で伊藤秋好(秋風コスモスの姉で芸名は秋風メロディー、作曲者としては上野美由貴・阿木結紀などの名前使用)が赤ちゃんを出産。父親との話し合いにより薫と名付けられた。
 
源氏物語で薫大将が両親から見放されたものの、秋好中宮に可愛がられて育ったというのを下敷きにしている。
 
「ごめんね。忙しい時に顔出してもらって」
と秋好は妹の宏美(秋風コスモス)に言った。
 
「まあ私は何もしてないけどね。偶然様子を見に来たら、ちょうど出産に立ち会うことになっただけだし」
 
「でも色々手伝ってもらったり連絡とかもしてもらって助かりました」
と赤ん坊の父親も言っている。
 
「籍はいつ入れるの?」
「赤ちゃんは母子手帳と出生証明書を書いてもらったら、すぐこの人に出生届け出しに行ってもらうよ」
「いや、赤ちゃんじゃなくてお姉ちゃんたちの婚姻届けは?」
 
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ふたりは顔を見合わせた。
 
「僕は今すぐにでも出したいんですけど」
「私は出したくない」
 
「なんで〜〜〜?」
と宏美は困惑したように声をあげた。
 

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2015年12月27日(日)早朝。都内の雨宮三森の自宅にこういうメンツが集まった。
 
龍虎、田代涼太・幸恵、長野支香、長野松枝、志水照絵、高岡越春・尚子、南川彩佳、上島雷太・茉莉花、下川圭次、雨宮三森・三宅行来、水上信次、海原重観、山根次郎、加藤銀河、秋風コスモス、鱒渕水帆、紅川勘四郎・知世子、佐々木川南、白浜夏恋、村山千里、若生暢子、ケイ。
 
高岡猛獅・長野夕香の十三回忌の法要なのである。
 
それで龍虎の親族ともいうべき人たち、特に個人的な関わりの深い人たちが集まった。龍虎自身の友人では、龍虎の実親が誰かを元々知っていた彩佳だけが出ている。
 
なお上記のリストは各自の記帳にもとづくが、秋風コスモス(伊藤宏美)とケイ(唐本冬子)は本名ではなく芸名で記帳した。三宅行来は戸籍名の行恵ではなく通称の行来で記帳した。“喪主”の龍虎本人は、高岡・長野・志水・田代のどれを名乗っても他の両親に悪いからといって苗字を付けずに龍虎とだけ記帳した。
 
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ともかくも総勢27名である。
 
実はこの人数が入る場所として雨宮の自宅が選ばれた。ここは駐車場も広く、(常識的なサイズの)普通乗用車なら20台くらい駐められる。実際今日は14台も車が駐まっている(千里があらかじめ石灰で白線を引き、駐車場の誘導係もした)。
 
この日は朝4時頃から車の相乗りで集まり始め、4:51に1分間の黙祷を献げ、海原先生が般若心経を唱えた。その後、用意していた仕出しで朝食を食べる。これは24時間営業のお弁当屋さんが対応してくれた。千里・川南・夏恋の3人で予め出やすい場所に駐めていた川南のウィングロードを使い取りに行ってくれた。
 
6時過ぎにお坊さんが3人来てくれたので、お経をあげてもらう。焼香をして7時すぎに儀式を終了。お坊さんたちには仕出しのお弁当を出し、既に朝食を食べている参列者には、紅茶とサンドイッチまたはケーキを配って、お斎(おとき)にしようとしたのだが
 
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「もう1個弁当お腹に入るよ」
という声があちこちからあがったので、結局半分くらいの参列者に予備で用意していたお弁当を配った。
 
もっともケイは
「マリを連れてこなくてよかった。まあ熟睡していたから放置して出てきたんだけどね」
などと言っていたが。
 
「実はそのマリさんが来た場合に備えてお弁当は20個余分に用意していたんです」
「ああ、あの子が来るなら、そのくらい必要」
「だったらもしかしてまだ少しある?」
「ありますよ」
「じゃ全部配っちゃおうよ」
 
ということで、お弁当は全部はけてしまった。
 

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お坊さんたちはお弁当を食べて30分ほどで帰ったのだが、その後、集まりは宴会と化していく。楽な服装に着替える人たちもある。そしてお酒が入る!何しろ雨宮邸にはたくさんお酒がある。雨宮先生はお酒が入ると気前がよくなるのでドンペリを5本も開けている。
 
5時の会食でも生前の猛獅・夕香のことを知っていた人たちを中心に2人の昔話が色々出ていたのだが、この“宴会”では、お酒のせいで、かなり暴走した話も出ていて、上島や加藤などの“常識派”が「その話はまずいよ」と言って停めたりするシーンもあった。
 
でも龍虎は父や母のことがたくさん聞けて、凄く嬉しかった。
 
「だけど龍は、そんな男物の喪服ではなくて女物の喪服を着ればよかったのに」
と言い出したのは(お酒は入っていない)川南である。
 
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ふつう中学生が法事に出る場合は制服でよいのだが(実際彩佳はセーラー服で来ている)、今回は喪主なので正式の喪服(和装・袴付き)を着ている。
 
「川南さんは絶対それ言うと思った」
「女物の喪服賛成。ついでに1月に新学期が始まったら学校へはセーラー服で通学を」
「もうそれ言われるのだいぶ慣れた」
「そう言われて実は嬉しいんだろ?」
「えっと・・・」
 
「龍がセーラー服で通学してきても誰も驚かないと思う」
と彩佳は言っている。
 
「誰もそのこと自体に気付かなかったりして」
と夏恋。
 
「ああ、人は普段と違うものを見たら違和感を覚えるんだけど、龍ちゃんのセーラー服姿なんて、龍ちゃんと長く関わっている人はみんな見ているしね」
とアルトさんまで言っていた。
 
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なお龍虎は仕事があるので、鱒渕と一緒に9時で離脱。彩佳やアルトなど女性陣にもそれを機に帰る人たちが出てくる。車はきちんと通路も確保された白線内に駐められているので、内側に駐まっている車も問題無く出ることができた。
 

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