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■娘たちのベイビー(23)

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さて、このアクアの
「ボクは男の子なのでさすがにビキニの水着を着るのは無理です」
 
という発言に一部のファンが反応した。
 
「アクアちゃん、こんなに可愛いんだもん。ビキニの水着くらい着てもいいけどな」
 
すると女装趣味のある人たちからの反応がある。
 
「私もビキニって買ってきてつけてみたことあるけど、どうしても“こぼれる”のよね」
 
「こぼれるって、チンコが?」
「ちんちんは小さくして後ろ向きに収納すればこぼれないけど、玉が勝手に動いて、泳いでいる内にこぼれちゃうのよ。水中で焦って押し込んだことある」
 
「だったら、動くような玉を取っちゃえばいいんじゃない?」
「玉取っちゃえば、アクアちゃん男っぽくなったりしなくて済むよね」
 
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「アクアちゃんに玉取って下さいという運動しない?」
「あ、投票サイトにそういうトピ立てようか?」
 

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一方でファンの間では別の動きがあった。お正月の『ねらわれた学園』1時間スペシャルで、実はアクアが関耕児と高見沢みちるの2役を演じていて各々の声はボイスチェンジャーで出していたことを明らかにしたのだが、やはり不安の声が出てくる。
 
「今はまだアクアちゃん声変わりが来てないから、男の子っぽい声も高見沢みちるみたいな低めの女の子の声もボイスチェンジャーで作れるだろうけど、声変わりがきたら厳しいんじゃない?」
 
すると実際にボイスチェンジャーを使っている人たちからこういう声が出る。
 
「男の声しか出ない人がボイスチェンジャーを使っても、甲高い男の声にしかならない。女の声として聞けないこともないけど、かなり機械的な雰囲気になってしまう。ボイスチェンジャーで女の声にできるのは、元々中性的な声の持ち主だけだよ」
 
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「だったらやはりアクアの声変わりは阻止すべきだ」
「女性ホルモン飲んでもらうか」
「あるいは去勢しちゃうか」
「去勢くらいしちゃってもいいんじゃない?」
 
「俺はあの可愛いアクアに睾丸なんて醜いものが存在するのが許せない」
「そんなの付いていたら取るべきだよね」
 
「そうだ、アクアには去勢手術を受けてもらおう」
 

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最初は2つトピックが立ったのだが、2つあることに気付いた人が出て両者で調整が行われた。それで合同で大手オンライン署名サイトに新たに請願「アクアさんは声変わり防止と男性化防止のため去勢手術を受けてビキニの水着姿を披露して下さい」というのが立てられたのである。ここで一定数の署名を獲得した請願は、それに関する権限を持つ人(この請願ではアクア本人と§§ミュージックになっていた)に届けられることになっている。この請願の発起人には、松浦紗雪とマリも名前を連ねていた!
 
そして紗雪やマリがツイッターにも書いたことから、オンライン署名はあっという間に20万件を突破した!
 

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レッドインパルスは27,28,3/1の準決勝3試合で2勝1敗と勝ち越し、決勝戦に駒を進めた。それで千里は3月2日にチームメイトたちと一緒に新幹線で東京に戻ったが、その日の夜もスペインでの試合に出た。
 
3月5日はプラドを大阪まで返しに行く。午前3時に東京を出て千里と《こうちゃん》で交替で運転して大阪に向かう。途中7時半頃、冬子から電話が掛かってきた。ちょうど《こうちゃん》が運転していて千里は後部座席で寝ていたので電話を取る。
 
「千里、今どこ?」
「大阪に向かっている最中」
「いつ戻る?」
「今日中には戻るよ。午後からバスケット協会との打合せがあるから」
「だったら明日14時から福島でKARIONのステージでフルートと龍笛を吹いてくれない?吹く予定だった風花がインフルエンザで倒れちゃったんだよ」
 
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「ありゃあ。でも私は明日は試合があるんだよ」
「試合かぁ!」
「代わりに青葉を推薦するよ。ついでにアクアの次のシングルの作曲も頼むといいよ」
「なんでそんな話まで分かるわけ?」
 
青葉は受諾して自分の車で福島へ移動したようである。
 

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千里はプラドを大阪で貴司のマンションに帰すと新幹線で東京に戻り、バスケット協会に出て行った。千里を呼んだのは日本女子代表のアシスタントコーチでU18以来の付き合いのある高田裕人であった。
 
高田はこれまで何度も千里が日本代表から“逃亡”している点をあらためて指摘し、9日に日本代表を発表し、千里は当然そこに入っているけど、今度は絶対に逃げないように、と釘を刺した。
 
そういえば、U19世界選手権の時、自分を始め玲央美、華香、サクラと何人も逃亡者が出て、高田さんの“鬼ごっこ”で全員つかまったんだったよなと思い起こしていた。もう7年も前のことだ。自分は・・・自分は・・・あの時より進展しているのだろうか、それとも劣化しているのだろうか。千里は自分に不安を感じた。
 
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「今度はオリンピックだから、君に逃げられては困るんで、君とは長い付き合いになる僕に釘を刺しといてくれと言われてね」
 
「高田さんからそこまで言われたら、逃げる口実が見つからないです。私、去年なんて妊娠中に合宿して、出産直後にユニバーシアードやっちゃったから、今更妊娠や出産も理由にできないし」
 
「ああ、やはり去年村山が出産したのでは?という噂は本当か」
「でもどういう人が選ばれるんですか?」
「これ誰にも言うなよ」
と言って高田は選手名簿を見せてくれた。
 
千里は平静を装った。だから、千里が驚いたことに高田も気付かなかったと思う。
 
それで千里は高田さんに
「ちゃんと代表活動に参加します」
 
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と約束して千里はバスケット協会を出た。
 

そして千里は、すぐに鞠原江美子に電話を掛けた。
 
「なんでエミの所属が無所属になってんのさ?」
「なんでそれ知ってんの?まだどこにも発表されていないはずなのに?」
 
要するに江美子はクビになったばっかりだったのである。それで千里は自分のチームに入らないかと勧誘した。
 
「40 minutes?」
「違うよ。レッドインパルスだよ」
「でもレッドインパルスは既に来年のロースターが固まっていたはず」
「挽木さんが引退するんだよ。だから枠が1つ空くんだ。来る気があるなら、すぐにでも上と話しする」
 
「千里とチームメイトになるのもいいかな」
「うん!」
 
それで千里は来期からレッドインパルスで活動するのに、貴重なパートナーを確保することができたのである。
 
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千里はその日(3月5日)の深夜にはまたスペインで試合に出てきた。6日は40 minutesで江戸娘との練習試合をする。マジ100%で戦わなければならないスペインの試合に比べると40 minutesの試合はだいたいにおいて気楽である。千里は、先日のオールジャパンでのプロチームとの試合を除いてはだいたい6〜7分程度の力で戦っていた。
 
その日の深夜(3/7 1:00 CET=3/6 17:00)頃、スペインでのチーム練習を終えてグラナダのアパートで夕食を食べていたら、青葉から電話があった。
 
青葉は★★レコードの松前・町添派と、村上・佐田派の権力闘争について教えてくれと言ってきた。この問題はここ数年、所属アーティストの間でもかなり話題になっていたのだが、やはり青葉は東京にいなかったのもあって、全く知らなかったようであった。それで詳しく教えてあげた。
 
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青葉は町添さんを守りたいと言った。もし★★レコードが町添さんを排除したら数年以内に倒産するだろう。
 
「だったら村上さんを呪殺しちゃう?」
「人殺しはちょっと・・・」
「軟弱な。だったら無藤激勝さんと鈴木準子さんを離婚させちゃう?」
「え〜〜?」
 
千里が準子さんは夫から酷いDVを受けている上に離婚を考えられないように、霊的な縛りが掛けられていると教えてあげると青葉は憤慨していた。
 
「前の奥さんともDVで離婚したんだよ。それで今の奥さんには逃げられないように呪を掛けている」
「それでDVするなんて、許せない!」
と青葉はかなり怒っている。千里はわざわざ、その霊的な縛りが確認できる場所まで教えてあげた。
 
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『おい、千里、青葉に何をさせるつもりだ?』
と《こうちゃん》が訊いた。
 
《こうちゃん》は千里や青葉を停めようとするのではなく、むしろ“自分にも少しやらせろ”という顔をしている。
 
『あんたたちも好きね〜』
 
青葉はまだ福島に居たのだが、自分の車で東京まで出てくると千里に教えられた場所に行き、都内の某占い師の家と無藤邸の間に特殊なブリッジが架けられていることを確認する。
 
青葉の正義感が「女を暴力と霊的な操作で縛り付けるなんて許せない」と思わせた。そして青葉にしては珍しく、私的な義憤でこの霊的なブリッジを破壊した。
 
しかし破壊してしまうと、青葉は急に罪悪感を感じてそこをそのまま放置し、とぼとぼと桃香のアパートに帰ってしまった。このあたりがまだ覚悟ができていない所である。青葉は姫様に訊いた。
 
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「私って悪いことしてないですよね?」
 
すると姫様は厳しい顔で青葉に言った。
 
「青葉、お前は卒業しなければならない」
「卒業?」
 
「霊的な仕事には仏の面と鬼の面がある。これまで青葉は仏の面だけしてきた。それは今までお前の周囲の、曾祖母さん、菊枝さんや瞬嶽さん、時には天津子ちゃん、そして千里などが青葉が手を汚さなくていいように、鬼の面を引き受けてきたからだ。青葉はそういう保護された状態からは卒業して一人前にならなければならない」
 

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青葉が霊的な縛りを破壊した後、そのまま帰ってしまうのを見て、千里は焦った。
 
「ちょっとぉ、このままだとあの占い師から反撃されるじゃん!こうちゃん!」
「任せろ」
 
それで《こうちゃん》は、深夜に不意打ちをくらって、相手がまだ何が起きたか把握できていない内に、向こうの呪い道具を完全破壊してしまったのである。実際問題としてあのブリッジが架かっている状態では《こうちゃん》にも手が出せなかったのだが、青葉の破壊により結界に穴が空き、手が出せるようになった。千里も《こうちゃん》もあらためて青葉のパワーの凄まじさを感じていた。
 
でも詰めが甘すぎる!というか何も考えていない!
 
そしてこの占い師の結界が壊れたことにより、元々この占い師を恨んでいた全国の何人もの占い師や祈祷師がこの人を霊的に攻撃。結果的にこの人は再起不能状態に陥ってしまうのだが、他の祈祷師たちの攻撃については千里も知らないことである。
 
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この夜、実は村上専務と佐田常務、そして無藤激勝は子飼いの社員30名ほどと都内某所でパーティーを開いていた。6月の株主総会でMM派の勝利はもう確実になったとして、前祝いをしていたのである。お酒だけではなくマリファナも入って、パーティーは乱れに乱れ、あちこちでレイプやSMプレイが進行していた。更にはジャンケンで負けた男性社員に女装させてその社員を村上自身がレイプするなどというとんでもないことまでやっていた。佐田はジャンケンに負けて女装させられ若い男性社員に犯れていた!? そして激勝は以前から懇意にしていた女優とパーティーを抜け出し、ホテルに入った。
 
そしてこのパーティーの様子、激勝と女優とのデートの写真が、何者かにより、無藤邸と週刊誌の郵便受けに投函されたのである。
 
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週刊誌では深夜に緊急編集会議を開き、すぐに速報を流し、今週の号は普段の3倍の印刷をすることを決めた。
 

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その報道を事前に察知した人たちが★★レコードの株を売り始め、夜間市場で株価が暴落し始めた。その動きに偶然気付いた雨宮三森は冬子と千里から資金を借りてこの相場に参戦した。
 
千里は今回の事件は激しい仕手戦になるのは確実と思い、自分で株相場に参戦しようかとも思ったものの、元々自分が仕掛けた事件なのでマッチポンプだよなと思い悩んでいた。その時、雨宮先生が資金を貸してくれと言ってきたので、他人が操作するのならいいだろうと思い、全資金を雨宮先生に任せた。
 
すると相場が落ち着くまでの間に雨宮は巨額の売買益を得て、千里と冬子に還元してくれた。思わぬ巨額の資金が手に入った千里は冬子に
 
「共同で体育館を建てない?」
と提案した。冬子は
「コンサート会場としても使えるものなら、その話乗った」
と答えた。
 
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それで“深川アリーナ”がほぼ2人の共同資金で建設されることになるのである
 
また同様にこの相場で巨額の利益を得た山吹若葉はレストランを作りたいと考えて、これが後のレストラン&温泉旅館チェーン《ムーラン》の出発点となる。
 
青葉の感情的爆発が実は様々なものを産みだしたのであった。
 
そして鈴木準子が離婚を表明し、無藤激勝が薬物使用で逮捕され、MM系の★★レコード乗っ取り作戦は失敗に終わる。村上氏は6月の株主総会で予定通り社長には就任したものの、制作部・営業部など主要部門は創業者系に押さえられて、人事も両者の妥協的なものになった。
 
この大騒動の発端が青葉による霊的攻撃であったことに、青葉自身は全く気付いていない。
 
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娘たちのベイビー(23)

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