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■娘たちのベイビー(9)

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(C) Eriki Kawaguchi 2019-08-30
 
2015年8月時点で、§§プロと何らかの契約を結び、毎月数回以上の仕事をもらっている(あるいはもらえそうになった)練習生・研修生の類いには下記のようなメンツが居た。括弧内は生年度である。
 
高校生
川内峰花(1998) 2014ロックギャル4位,2015ロックギャル3位 “ハナちゃん”研修所No.205
大村祭梨(1999) 2015ロックギャル2位 研修所No.202
仲原恵海(1999) 2014ロックギャル6位 川口市在住
 
中学生以下
月嶋優羽(2000) 2014ロックギャル3位・2014フレッシュガール2位 川崎市在住
米本愛心(2001) 2013フレッシュガール3位(1位=明智ヒバリ)研修所No.204
佐藤ゆか(2001) 2015ロックギャル8位 研修所No.203
南田容子(2002) 2015ロックギャル10位 船橋市在住
天月西湖(2002) アクアのボディダブル 桶川市在住
溝口ルカ(2002) 2015ロックギャル12位 八王子市在住
秋田利美(2004) 2015ロックギャル優勝 研修所No.201
 
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「私、コスモス社長に提案したんだよ」
とその日ハナちゃんは言った。
 
その日は偶然にもこの10人が全員大田区のサテライトオフィス(通称“スタジオ”)に集まっていたのである。
 
「ほら、他の事務所の歌手だと、テレビとかライブとかで歌う時に、同じ事務所のまだデビュー前の子がバックダンサーとかコーラスを務めたりしているじゃん。うちもそれやりましょうって」
 
「ああ、それは面白いかも」
「コスモス社長はあまり歌う場面がないけど、川崎ゆりこ副社長、桜野みちるさん、それにアクアちゃん、ありさちゃん、ひろかちゃんは結構テレビにも出るし、ライブも結構ある」
 
「実質その5人かな」
 
「このあと西宮ネオン君のライブとかも出てくると思う」
「男の子のバックは少し緊張するな」
 
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「その時はみんなで男装しようか?」
「マジ?」
「まあ、ネオン君のは置いといて、他の女の子たちのバックでは、女装で」
「女装なのか!?」
 
「なんか可愛い感じのユニフォーム作ってもらってさ。それを着てバトンとか持って踊る」
 
アクアさんは男の子じゃないの〜?と西湖は思ったが、誰もアクアを男の子とは思っていないようである。しかし別の質問がある。
 
「バトン!?」
 
「バトンでもいいし、ステッキでもいいし、魔法のスティックとか、あるいは新体操の輪っかみたいなのでもいいし、いざという時に武器になるものがいいかな」
 
「武器〜〜?」
 
「でもユニフォームはミニスカかなあ」
「うん。ミニスカが可愛いと思うよ。下にはブルマ穿いておけばいいね」
 
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西湖は内心「ミニスカ〜?それ僕も穿くの〜?」などと思いながらも聞いている。
 
「それでチームの名前も付けてテレビなんかだとチーム名もテロップに入れてもらいましょうよ、と言ってたのよね」
 
「それ広告料取られるのでは?」
「局にもよるらしい。でもそのくらいいいよと社長は言った」
「ほほお」
「でも何てチーム名にするの?」
 
「信濃町ガールズなんてどうよ?」
「ああ、いいかも」
 
そういう経緯で“信濃町ガールズ”は発足したのである。
 

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「メンバーはここに今居る10人?」
「他にも10人くらい、うちが費用を補助してレッスンに通っている子たちがいるでしょ?あの子たちもメンバーに引き込もう」
 
「それ全国にいるよね?」
 
「うん。地方にいる子は20-30人いるかも。その子たちは近くにライブツアーで行ったような時にダンサーに加わってもらえばいい」
「ああ、それでいいよね。踊っている所のビデオを送っておいて、練習しておいてもらう」
 
「単にレッスンだけ受けているのより、そういう実践があった方が絶対いいよね」
「そう思う」
 
「ギャラは1人1公演5000円くらいでどうですか?と社長に言ったけど、社長は『うーん』って悩んでいた。もしかしたら少し値切られるかも」
「まあギャラはいいよ。ステージに出ること自体が楽しいもん」
 
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「リーダーはハナちゃんさんですか?」
と秋田利美(後の白鳥リズム)が質問した。
 
「“ハナちゃんさん”は二重敬語だ」
「ハナちゃんでいいよ」
「いや、何か呼び捨てしてるみたいで」
「さかなクンは“さかなクンさん”と呼ぶべきなのか、みたいな議論もあるよね」
「ハナちゃんは、うちのホームページには“仮名ハナちゃん”と書かれている」
「あれ最初“仮名”は苗字かと思った」
 
「まあ、自分で付けた竹本和恵なんて名前もあるんだけどね」
とハナちゃんは言っている。
 
「それ絶対本名のほうが芸名っぽい」
と愛心が言っている。
 
「本名は?」
「川内峰花(かわうち・みねか)。最後の“花”の字からハナちゃん」
「小学生の頃からのニックネームと言ってたね」
「小学1年の担任が“かわちみね・はな”さんって誤読したんだよ」
「それは難易度の高い誤読だ」
「前の学校で担任したクラスに川内丸信(かわちまる・まこと)君という子がいたんだって」
とハナちゃんは字で書いてみせる。
 
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「ああ、それで!?」
 
「でも“はな”ちゃんって可愛いじゃんと言われて、友だちみんなから“はな”ちゃんにされてしまった」
「なるほどー」
 

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「まあそれで思ったんだけど、高校生はシニアメンバーということでいいと思う」
とハナちゃんは言う。
 
「ほほぉ」
と同じく高校生メンバーの大村祭梨(後の花咲ロンド)が感心するように言う。
 
「高校生はわりと単独での仕事も多いしね」
ともうひとりの高校生メンバー・仲原恵海。
 
「まあ使いやすいからね。中学生は時間制限も厳しいからテレビ局も使いにくい。それでライブとかでは積極的にダンサーを務めればいいんじゃないかな」
 
「確かにそれがいいかも」
と祭梨も言う。
 
「だから中学生からリーダーを出そう」
 
「だったら中3の優羽(ことり)さんがリーダー?」
「いや、私は研修所に住んでいないから、研修所に住んでいる人からリーダーは出した方がいいと思う」
「それはあるね〜。緊急時に連絡とかしやすいし」
 
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「じゃ中学2年のゆかちゃんとアコちゃんでじゃんけん」
 
「じゃんけんかぁ」
と言ってふたりはお互いを見つめる。そしてお互いの呼吸を読んで
 
「ジャンケンポン」
と早口で言ってジャンケンした。
 
「やった、負けた!」
「くぅ!勝ってしまった!」
 
ということで、ジャンケンにより佐藤ゆかが信濃町ガールズの初代リーダーと定まったのであった。
 

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8月下旬、研修所に八重夏津美(海浜ひまわり)が、やってきた。
 
「おはようございます。何かお仕事ですか?」
と、廊下で遭遇した愛心が声を掛ける。
 
「いやあ、コスモス社長から210号室を空けてくれと言われて」
「なるほどぉ!」
 
今研修所は10個の部屋に8人が入居しているが、206には明智ヒバリの荷物がいまだに入ったままで、210は海浜ひまわりの荷物置き場と化していてどこも空いていないのである。
 
「ちょっと荷物移動させるね」
と言って、彼女は腕力のありそうな女性2人を伴ってきていて、その2人で210号室にあった荷物を段ボールに詰めて全部206に移動してしまった(ここは業者などを入れる場合も原則として男子禁制)。
 
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「これで210は誰かが臨時に泊まる時に使えるから」
「あのぉ、206は?」
 
「何か荷物置く時は勝手に入って使っていいよ。ヒバリちゃんの荷物は、沖縄に送るにしても福岡のお母さんの家に送るにしても送料が掛かりすぎるから賞とかの類い以外は廃棄するか、誰か要る人があったら使っていいって」
 
「それ必要なものをお母さんでもいいから選別してもらえませんかね?」
「連絡してみよう」
 

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それで夏津美が沖縄のヒバリに直接電話で連絡してみると、翌日福岡在住のお母さんが(ヒバリの)従妹の女子中学生さんと2人で新幹線で駆けつけて来た。
 
「ごめんなさい。荷物がそのままになっているって全然知らなかった」
「誰も連絡してなかったのかな?」
「昨年夏の段階では引退なのか休養なのかよく分からない状況だったしね」
と愛心。
 
「でも結局現役復帰するみたいですね」
とハナちゃんが言う。
 
「そうなの!?」
とお母さんが驚いている。そんな話は聞いていなかったのだろう。
 
「来年の春くらいにCDをリリースする予定があるらしいです」
 
「あの子、また歌手をするのかしら?」
「沖縄を離れられないから、制作も全部沖縄でやって、ライブとかもしないしテレビ出演とかもしないそうです」
「ああ、それなら何とかなるのかも」
 
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それでお母さんと従妹さんに、ハナちゃんや愛心など、たまたまその時研修所に居た女子たちが手伝って、必要そうなものだけ、段ボール箱10個にまとめた。その他に明らかにゴミというものも結構出る。
 

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衣類を整理していたら利美が
「それ捨てるならもらっていいですか?」
というので
 
「うん。欲しいのはどんどん持って行って」
とお母さんが言う。
 
「私スカート持ってないから、スカート何着かもらっちゃおう」
などと利美は言っている。
 
「スカート持ってない!?」
「あんた女の子だよね?」
「生物的には女だと思いますけど、新潟の小学校ではほぼ男子とみなされてました。バレンタインとかもらっちゃうし」
 
「もらう方なんだ!」
 
「あんた男の子になりたい女の子とか?」
「あるいは実は女の子になりたい男の子とか?」
 
「取り敢えずちんちんは持ってないです。男でも生きれる気はするけど、取り敢えず女のままでいいでーす」
 
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「よし。女になる気があるのなら、ヒバリちゃんの服は君がもらって、少し女の子ライフに慣れなさい」
 
とハナちゃんが言い、結局下着とか以外はほぼ全部利美の部屋に、衣裳ケースごと移動されることになった。
 
(でも新学期になって転校先の小学校に出て行くと、男の子と誤解され1年半にわたり“男子児童生活”を送ることになる)
 

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ヒバリの部屋はみんなで協力したおかげで3時間ほどで仕分け完了となる。お母さんがゴミの処理代金概算として5万円渡そうとしたが、ハナちゃんはそれを押しとどめた。
 
「ゴミの処分代は事務所で出すからいいですよ。送料もコスモス社長から言われていますからこの伝票使って下さい」
と言って事務所の名前・登録番号が印刷された、宅急便の伝票をお母さんに渡す。
 
「ありがとうございます」
 
「それとこれ2人分の往復の交通費」
 
「すみませーん!」
 
「受け取りのサインだけください」
と言って署名をもらう。
 
「何か多いんですけど」
 
「福岡からは飛行機の往復で計算するから。差額はもらっておけばいいですよ」
「じゃそうさせてもらおう。余った分は山分けしようか」
と従妹の人と言っている。
 
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「では残った家具とか寝具とかは、他の子で使わせてもらいますね」
「はい、よろしくお願いします」
 
それでNo.206には、ベッドと布団、本棚(本棚の中身は沖縄に送った)や食器の入った食器棚などのほか、海浜ひまわりのスタンプが押されたよく分からない段ボール(記号?で中身が書かれている)20個ほどが押し入れに積み上げられた状態となり、緊急の時にはここにも人を泊められるようになった。
 
なおワーキングデスクは利美、ドレッサーは祭梨、ミシンは佐藤ゆか、と、新しく入居してきた3人が譲り受けた。本棚はヒバリとひまわりが使用していた6個が空っぽの状態で壁際に並べられており、欲しい人がいたら持って行ってと寮生たちに告げられた。
 
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娘たちのベイビー(9)

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