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■娘たちの卵(24)

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10月11-13日の連休に、足立区にある§§プロの研修所で、デビューを控えている、佐藤絢香(品川ありさ:フレッシュガール2014)と柴田邦江(高崎ひろか:初代ロックギャル)が集中研修を受けていた。ふたりとも中学3年生である。
 
今回の研修は、10月10日(金)の夕方から始まり、13日(月)の夜遅くまで合計36時間の講義が行われ、14日(火)早朝に開放されるという高密度授業である。神奈川県在住の絢香は火曜日朝の授業に間に合うが、北海道在住の邦江は結局火曜は学校を休まざるを得ない。金曜も学校を休んで出てきている。一応、彼女は11月までに都内の私立中学に転校する予定である(そこから同系の高校に内部進学できる)。
 
実はこの研修所は寮も兼ねており、邦江は東京に出てきたら高校を卒業するまではこの寮に住む予定である。寮には他にも数人の(地方から出てきた)研修生が住んでいる。防音の音楽練習室が4つと講義室が1つ、居室が10個あるが、食事は隣の棟の、紅川社長の自宅で、社長の奥さんの手料理を食べるシステムになっている。プロの料理人を雇った方が美味しい料理を食べられるだろうが、10代の子には家庭の感覚を味あわせたいという紅川夫妻の考え方なのである。§§プロの先輩・神田ひとみ(17)も昨年まではここに住んでいた。現在住んでいるのは研修生だけである。
 
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佐藤絢香と柴田邦江は初日、お互い紹介しあって握手をした。
 
「わあ、あなたが初代ロックギャル?フレッシュガールコンテストの最終選考まで残った人でロックギャルコンテストでも最終選考まで行ったという人が言ってたのよ。凄い可愛くて歌の上手い子が優勝したって」
と絢香が言うと
 
「いや、それ私じゃないのよ。私は準優勝なのよね」
と邦江は言う。
 
「へ?なんで?」
「優勝者はなんか参加資格が無かったらしくて」
「あらら」
「だから私が繰り上げで初代ロックギャルになったけど、優勝者は別途第1回ロックギャルコンテスト優勝者としてデビューさせるらしい」
 
「資格が無かったって、年齢が足りなかったのかな?」
「応募資格は、芸能事務所と契約していない12-19歳の女性ということだけど、20歳すぎには思えなかったからまだ11歳だったのかも」
「他の芸能事務所と契約していたとかは?」
「それなら別途デビューにはならないだろうし」
「あ、そうか。女性ではなかったとか?」
「まさか。あの子が男だったら、私、裸で山手線一周しちゃう」
 
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(と言ってしまったことを高崎ひろかは後悔することになる)
 
「じゃやはり年齢かなあ」
「かもね」
「でもそういう子なら、別の名目でデビューさせたいだろうね」
 
「今回彼女も来るのかなと思ってたけど、来てないみたいね」
 
今回の講師は、ベテラン歌手の立川ピアノ、芸能学校講師の下條泰美がメインで、それに作詞家のゆきみすずが4枠、日野ソナタ、春風アルト、秋風コスモス、川崎ゆりこ、桜野みちるも1枠ずつ登場する。ほか若干の外部講師も頼んでいるが、全員女性である。この研修所は基本的に男子禁制になっている。
 
しかしとにかく高密度の授業なので、ふたりとも「頭が爆発する!」と叫んでいた。
 

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10月10日(金).
 
10月5日に体外受精させて育てていた胚を阿倍子の子宮に移植することになった。今回、作成した受精卵は6個とも育っていた。それでその内の2個(WC群とDH群から1個ずつ)を子宮に投入し、残り4個は冷凍して、今回失敗した場合には来月それで胚移植をすることにする。
 
千里は前日に産婦人科に連絡し、自分の卵子が子宮に投入される現場の近くに居たいという希望を伝えた。それで貴司や阿倍子と顔は合わせないものの、病院の2階の病室で待機していていいことにさせてもらった。そこで朝から新幹線で大阪に向かい、お昼前に入院させてもらった。この費用は千里が負担する。
 
阿倍子はいつものようにお昼前に起きて、のんびりとお昼を取る。阿倍子はあまり料理も得意ではなく、しかも“ほぼ一人暮らし”状態なので、しばしばお昼はカップ麺なのだが、今日は赤ちゃんを身体に迎え入れる日だしと思い、出前でカツ丼を取って食べた。
 
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15時過ぎに貴司が戻って来る。A4 Avantにふたりで乗って病院に行く。それで色々検査を受けて17時頃、胚移植を実行することになる。この時刻は医師が2階病室にいる千里にもメールで伝えてくれた。
 

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千里は青葉に電話した。青葉は学校から帰って宿題をしていたようである。
 
「今から胚移植やるんだけど、お願いできる?」
「うん。そこ大阪だよね?」
「正確な位置を言うね」
と言って千里は青葉に緯度・経度を伝える。青葉はその場所をGoogle Mapで確認。地図上に病院の名前が入っているのを見る。
 
電話を繋いだまま先日の新幹線トンネルの怪異のその後について色々話していたが、30分ほどして
 
「胚移植を始めるみたい」
と千里が言う。
「OK。奥さんの波動を捉えた」
と青葉。
 
「今、奥さんはベッドに横になった。足を広げて楽にしてと言われている所」
 
この時、千里自身もベッドに横になって下着を脱ぎ、足を広げる。
『小春?』
『挿入される直前に入れ替えるから』
『よろしく』
 
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「お医者さんが培養した受精卵を吸い上げたチューブを・・・・今膣に挿入した」
と千里が青葉に伝えた瞬間、千里はショックが来るのを感じる。
 
この瞬間、小春が阿倍子の女性生殖器(卵巣・卵管・子宮・膣など)と、千里の女性生殖器を交換したのである。これは妊娠が成功した場合は出産後(後産の後)、失敗した場合は次の生理の時に自動的に元に戻る。
 
そして阿倍子の生殖器が自分の体内に入った瞬間、この人が妊娠出来るわけないと千里は確信した。この生殖器はあまりにも機能が低すぎる。卵巣も子宮もよくない。膣もまるで性転換手術で大腿部の皮膚など伸縮性の無いものを材料にして作った人工膣みたいに出来が悪い。これではセックスした男性は充分な快感を得られないだろうと思った。きっとコンニャクの方が気持ちいい。
 
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まあどっちみち出産まで貴司はセックス無しだな。
 
なお、体液循環上は阿倍子の体内に入れられた生殖器はあくまで千里の身体の一部として動作する。結果的に千里の脳下垂体の管理下になる。また受精卵投入用のチューブが自分の体内に入ってきているのを千里は感じていた。これって一種のセックスだよね?貴司との2年ぶりのセックスだ。
 
そして私は貴司の精液を受け入れて妊娠する。
 
この初めての妊娠を体験する女性生殖器は千里が小学4年生だった2000年9月に骨髄液を取られて、それからIPS細胞を作成し、小春の体内で2年半育ててから千里に再移植されたものである。IPS細胞としてリスタートしてから14年。つまり女子中学生が妊娠するようなものだ。
 
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千里は万感の思いのあまり涙がこぼれた。《たいちゃん》が心配するようにこちらを見ていた。
 

青葉は千里を通して伝わってくる「情景」が物凄くビジュアルであることに驚いていた。まるで青葉自身がその場にいるかのように「見える」のである。やはりちー姉って凄い霊的能力を持っているみたい、と思っている。
 
「今、受精卵が投入された」
と千里。
「誘導するよ」
と青葉。
 
青葉にはその瞬間、チューブの先から飛び出した受精卵が2個見えた。しかし1個は明かな欠陥品だ。精子か卵子かどちらかが極端に品質が悪かったのだろう。育つ訳が無い。しっかりしている感じの1個に意識を集中して、その受精卵が無事、子宮粘膜に着陸するのをサポートした。
 
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「30分くらい安静にしているように言われている」
「1時間安静にしておいて欲しいんだけど」
「伝える」
 
それで千里は医師に電話して「奥さんに1時間以上安静にしてもらって欲しい」と伝えた。結局阿倍子は2時間ほど休んでから帰宅することにしたようである。
 
その間、青葉は千里との電話を通じてずっと阿倍子の生殖器(実は千里の生殖器)に気を送り続けてくれた。千里は下着は戻したものの、ずっと阿倍子同様、病室のベッドで寝ていた。1時間ほどで着床した受精卵は安定したので青葉のサポートは終了し、千里の現場中継も終了した。
 
「青葉、ありがとう。お疲れ様」
「ちー姉もずっと中継しててお疲れ様。でもこれは成功したと思う」
「良かった」
 
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「でも、ちー姉、あの後考えていたんだけど、元彼が奥さんとの間に子供を作るのをサポートしても平気だったの?私なら凄く辛いと思うのに」
 
「私の子供だからね」
 
実際卵子は千里の物、着床した子宮も千里の物である。更に精子は貴司のものだから、これは貴司と千里の“愛の結晶”なのである。京平、お母ちゃん頑張ってあんたの身体を作るからね、と千里は考えていた。
 

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青葉はこないだからずっと疑問に感じていたことを言ってみた。
 
「もしかして、使用した卵子は奥さんのじゃなくて、ちー姉の卵子?」
「私に卵子があるわけ無い」
「じゃ精子がちー姉の?」
 
「過去の試みで、貴司の精子と阿倍子さんの卵子では受精卵が育たないのが確認済みなのよ。それで生殖細胞を他の人から借りることになった」
「だから体外受精なのか」
 
「受精卵は2個投入したけど、1個はダメだったでしょ?」
「うん」
「そちらが阿倍子さんの卵子と私の精子を掛け合わせたもの」
「ああ」
「だから、着床したのは貴司の精子を使用したものだよ」
「その卵子は誰のもの?」
「内緒」
 
なぜそれを内緒にする!?
 
姫様が笑っている。それで青葉はその卵子はやはり千里の卵子だと確信した。なぜ千里に卵子があったのかは分からないけど。
 
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「だけど、ちー姉がそばに居ることを、よく奥さんが承知したね。夫の前妻なんて普通なら不愉快な存在だろうに」
 
「私は病院内には居たけど、別室だよ。胚移植をしたのは1階の処置室。貴司はその外の廊下。私は今2階の病室に居る」
 
「だって細かい状況をレポートしてくれてたじゃん」
「そりゃ、こんなに近くに居たらそのくらい見えるよ」
「ふつうの人は壁や床の向こうの様子なんて見えないんだけど!?」
「そうだっけ?」
 

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阿倍子と貴司がA4 Avantに乗って帰宅した後、千里も退院することにし、精算して病院を出た。貴司には今日1日阿倍子さんに付いててあげて言ってある。千里は少し不愉快な思いが湧き上がってくるのを抑えて、新幹線で帰京した。
 
阿倍子の女性器はこれから出産までの10ヶ月間千里の体内に置かれたことで物凄く機能回復することになるのだが、そのことを千里も阿倍子も知らない。
 
なお妊娠するのはあくまで千里なのだが、どうしてもホルモンが漏れていくので阿倍子もHCGホルモンが高い状態になる。
 
 
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娘たちの卵(24)

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