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■娘たちの卵(20)

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運玉投げの所に来る。
 
「この素焼きの玉をそちらから、向こうにある亀の形をした岩の窪みに投げ入れることができたら運が開けると言われています。男性は左手で、女性は右手で投げてください」
 
と説明を受け、全員5個ずつ玉をもらう。
 
最初に雨宮先生が右手で投げたが2個岩の凹みに入った(雨宮先生は実は高校時代甲子園まで行った元野球選手:外野手である)。上島は左手で投げたが1個も入らなかった。冬子は右手でやってみるが、全く届かない。
 
「次は龍虎ちゃん行く?」
と冬子が言ったが、千里が
「龍虎は真打ちだよ。私が先に行く」
と言って千里は右手で5個全部入れた。
 
周囲から歓声が上がる。
 
「さっすが、世界一のシューター」
と冬子が言った。
 
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「さて、龍ちゃんの番だよ」
 
それで龍虎が左手に玉を持って投げようとしたのだが、近くにいたおじさんが注意する。
 
「君、女の子は右手だよ」
 

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龍虎は一瞬上島の顔を見たが上島は笑って頷いている。それで龍虎は
右手に持ち替えて投げた。
 
遠く届かない。
 
「それ全力で投げないと届かないよ」
と雨宮先生が言う。
 
それで龍虎は大きく振りかぶって思いっきり投げた。しかしあと少し届かない。
 
「これ、マジで全力出さないとダメですね」
「そうそう」
 
それで龍虎は2〜3歩助走まで入れて思いっきり投げた。
 
玉は岩の凹みに当たったものの、跳ねて向こうに行ってしまった。
 
「当たった、当たった。その調子」
「はい」
 
それで4個目を投げるがわずかに軌道がずれて右側に落ちてしまう。
 
「しっかりと目標を見て」
と千里が助言する。
 
それで龍虎は最後の玉を思いっきり投げる。手を放す瞬間まで目を離さない。しかし投げた勢いでバランスを崩す。それを千里がさっと抱き留めた。
 
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玉はきれいに岩の凹みに乗った。
 

「やったやった」
「これで龍ちゃんの望みは叶うね」
「何望んだの?」
 
「あっ」
「ん?」
 
「何も考えてませんでした」
 
「ああ、だいたいそんなもの」
 

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鵜戸神宮を出た後、一行は黄泉の国から戻った伊邪那岐命が禊ぎをした場所を訪問した。そこには大淀川の豊かな流れがある。それをしばらく見ていた時、上島は言った。
 
「龍虎の芸名はアクアにしよう」
 
「アクア?」
 
「伊邪那岐命が黄泉国の汚れ(けがれ)をこの川の水で禊いだように、龍虎の歌で人々の心が浄化されるようにという意味だよ」
と上島。
 
「それにこないだ龍虎のホロスコープを見てくれた占い師さんが龍虎は水星が根だと言っていたでしょ?」
 
「あ、そんなことを言われました」
 
「水星が龍虎の運気の鍵となる。水の星が運気を握っているから、やはりアクアでいいと思う」
 
「龍虎って出生時刻はいつだったっけ?」
と千里が訊く。
 
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「14:21です」
 
千里は携帯を操作している。そしてしばらく見ていた。

 
「ああ。確かに水星がファイナルになっている」
と千里は言う。
 
千里はメモにこのような感じのダイアグラムを描いた。
 
V/獅子→太陽/獅子(F)
 
火星・冥王星・A/射手→木星/蟹→月/乙女→水星/乙女(F)
M/天秤→金星/蟹→月↑
E/山羊→土星/双子→水星↑
 
海王/水瓶→天王/水瓶(F)
 
「これって、太陽もそのファイナルになるわけ?」
「そうそう。太陽もFinal dispositorになる。でもそちらは実質太陽だけ。多くの天体が月や水星が絡む支配星系列に入っている。まあ龍虎の女性的な面が強いのも分かるよ。女性的な局面のほうがエネルギーが大きいんだな」
 
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「じゃ、龍虎の芸名はアクアということで」
と雨宮先生が言った。
 
「この旅は結果的にはアクアの芸名を決める旅だったんだな」
と雨宮先生。
 
「そうだったんですか!」
と龍虎は驚いたように言った。
 

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この日はステーキ屋さんに行って宮崎牛をみんなで堪能した。コースが終わった後、デザートを食べていたらお店の人が入ってきて
 
「本日はレディスデイで、これは女性のお客様だけに特別サービスです」
と言って、冬子、千里、龍虎の前にだけアイスクリームを置いていった。
 
上島が悩んでいる。
 
「なぜモーリーの前には置かれなかったんだろう?」
と上島が言うが、雨宮先生は
「私男だし」
と言っている。
 
「どうして僕の前にも置かれたのでしょうか?」
と龍虎が言うが、雨宮先生は
「女の子にしか見えないし」
と言っていた。
 

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お店を出た後は、青島近くのリゾートホテルに泊まった。部屋はツインの部屋とトリプルの部屋を予約していた。予約した冬子は、こう泊まればいいと考えたらしい。
 
2人部屋 上島・龍虎(男性同士)
3人部屋 雨宮・千里・冬子(女性同士)
 
ところがホテルのフロントが「未成年の女の子を苗字が違う男性と一緒の部屋に泊めることはできない」と主張した。少女売春を疑われたのである。龍虎は男の子だと言っても信じてくれない。すると雨宮先生は「自分と上島を同室にして」と言った。
 
「私と彼は元恋人なの。だから一緒でも構わないから」
「分かりました。それではその部屋割りでよろしくお願いします」
 

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そういう訳で、こういう部屋割りで泊まることになったのである。
 
2人部屋 上島・雨宮(恋人??)
3人部屋 千里・冬子・龍虎(女性同士??)
 
御飯はもう食べてきたので、一息ついた所でお風呂に行くことにする。上島は作業があるという話で、雨宮・千里・冬子・龍虎の4人で地下の大浴場に行った。男女が別れる所で龍虎はひとりで男湯へ、冬子・千里・雨宮は女湯へと別れて暖簾をくぐる。
 
ところが、暖簾をくぐった途端、男湯の方から
 
「お客様、困ります!」
という声が聞こえてくる。
 
そして困ったような顔をした龍虎が、女性従業員に《連行されて》女湯に来る。
 
「女性のお客様はこちらでお願いします」
と言って従業員さんは出て行った。
 
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「ボクどうしましょう?」
と龍虎が困ったような顔で言うが
 
「女湯に入ればいいじゃん」
と雨宮先生は言った。
 
「え〜〜〜!?」
 
そういう訳で、千里たちは龍虎を女湯に入れてしまったのだが、龍虎がそもそも女の子用の下着をつけていることに呆れ、浴室に入って、あそこはしっかりタオルで隠しているものの、恥ずかしがったりしている様子が全く無く、どうも“女湯慣れ”しているとしか思えないことに、冬子も雨宮も呆れているようであった。
 

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浴槽の中でおしゃべりしていたら、長崎から来たという女性2人組が入ってきた。向こうはどうも雨宮先生を母親、冬子・千里・龍虎を姉妹と思ったようであった。
 
ちなみにこの4人は全員出生時には男性であった!
 
「そちら大学生と高校生と中学生くらい?」
と女性客が訊く。
 
「私は去年大学を出て今はOLなんですよ。この子は高校生で、この子はまだ小学6年生で」
と冬子は答える。冬子は本当は千里の1つ下なのだが、千里はだいたい若く見られがちなので、そちらが妹と思われたのだろう。
 
「なるほどー」
「いや、中学生にしてはおっぱい小さいなと思った」
 
冬子は龍虎の胸が少し膨らんでいるようにも見えたのだが、体育の成績は1学期は4だったなどと言っているから、運動が得意で腕を支える胸の筋肉が発達しているのかも、と解釈したようである。千里は龍虎の胸が膨らんでいる理由を知っている。
 
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女性客の言葉に、龍虎は顔色ひとつ変えずに言った。
「私も早くお姉さんたちみたいにおっぱい大きくなるといいなと思うんですけど」
 
やはり胸を大きくしたいのか!?
 
「大きくなるよ。だってお姉ちゃんたち2人ともおっぱい大きいもん」
と女性客は笑顔で答えた。
 

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お風呂からあがった後は22時頃に寝た。翌朝は5:30に起きて、青島に渡り日出を見たが、この時点で月はまだ西の空に残っており、はからずしも太陽と月を左右に見ることになった。前方には大海原が広がる。
 
「これがまさに左・天照大神、右・月読命、前・須佐之男命かもね」
という意見も出た。
 

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「よし帰ろう」
 
それで一行は宮崎空港に行き、レンタカーを返却。羽田行きにチェックインした。手荷物検査を通り、搭乗案内を待っていた時、唐突に声が聞こえる。
 
「君、女子トイレが混んでいるからといって、男子トイレに来るなよ。それ、おばちゃんのすることだぞ」
 
見ると龍虎がまたまた男子トイレに入ろうとして、咎められたようである。千里は苦しそうに笑った。冬子がそちらに行く。
 
「だめじゃん、龍ちゃん。私と一緒にこちらにおいで」
と言って冬子は龍虎を女子トイレに連行した。
 

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9月9日朝、千里・冬子・龍虎・雨宮・上島の5人は宮崎から羽田に戻った。
 
宮崎7:35(SNA51)9:10羽田
 
なおSNAはスカイネット・アジア航空(現ソラシド・エアー)である。
 
その後、上島は吉竹零奈の制作に顔を出し、雨宮も誰かの音源製作があるらしかった。冬子はKARIONのアルバム制作に入り、龍虎は学校があるので、熊谷に戻り、お昼頃に到着して午後の授業に出た。制服は彩佳に電話して学校まで持って行ってもらっておいたのだが、彩佳は学生服とセーラー服を並べ
 
「どちらを着たい?」
と言った。すると龍虎は
「どっちにしよう?」
とマジで悩むように言ったので、クラスメイトたちが
「やはり悩むのか!?」
と言っていた。
 
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千里は葛西のマンションに戻って夕方まで寝た。
 
横浜→成田→大阪(卵子採取)→高岡(神様の引越)→東京→宮崎→東京
 
4000kmの旅であった(飛行機870kmとワープ470km以外はほぼ車での移動)。その前日には名古屋まで新幹線往復700kmというのもあった。
 

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9月10日は夜中スペインでチーム練習に参加(8-9日は休ませてもらった)した上で午前中寝てから午後作曲作業をする。そして夕方、合宿のために東京に出てきた貴司を迎えて、北区の合宿所まで送っていった。
 
「社内に不穏な空気が漂ってる」
と貴司は言った。
「社長が入院したままだから副社長が会社を動かしているんだけど、こないだから2つも大きな受注を逃したんだよ」
「ありゃ」
「会社は必ずしも一枚岩では無い。先代社長の頃からの社員は今の社長に反感を持っていた。その人たちが副社長を支持しているけど、この2連続受注失敗で社長派が、副社長の経営手腕にあからさまに文句を言い始めて、会社が真っ二つに割れてしまいそうな気配なんだよ」
 
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「社長の病状は?」
「全く変わらず。意識は戻っていない」
 
「貴司、マジで今年こそNLBでもbjでもいいから行きなよ。それ逃げ出した方がいい気がする」
「そんな話も今バスケチーム内で出ている感じ」
 
貴司は11日からNTCで合宿した上で、韓国仁川に移動し、アジア大会に出場する。アジア大会は9月17日からである。
 

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§§プロでは全ての社員、パート社員、派遣社員、臨時雇いスタッフなど、および全所属タレント・委託契約タレント、全研究生・練習生の薬物チェックを行った。その結果、薬物の反応がある人は皆無だった。そもそもヒバリが契約したのは昨年だが、彼女の髪の毛から推察される薬物摂取時期は今年の夏くらいの時期に限定されるのである。
 
紅川と鈴木はツアー参加者と楽屋に出入りした可能性のあるイベンターやレコード会社関係者にターゲットを絞ったが、フリーのアーティストなどはキャッチするのが難しく、しかも穏やかに薬物検査に協力してもらうために結構な苦労をしていた。
 

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福岡市近郊の精神病院にしばらく入院して“薬抜き”をすることになった照屋清子(明智ヒバリ)は母から言われた。
 
「社長さん平謝りしてたけど、変な薬を盛られるとか、芸能界って怖い所だね。あんたこれ直ったら、もうそんな事務所辞めて、こちらであらためて高校に入りなおさないかい?」
 
ヒバリはオーディションに合格したので高校を辞めて上京している。一応彼女はNHK学園に編入して通信で高校の授業を受けてはいる。入院中もお勉強は続けることにしている。それがむしろ精神を安定させるのに効果があることが期待されるのである。スクーリングも保護者の付き添いで出席する方向で調整中である。
 
「お母さん。私やはり歌が好きなの。だから、半年くらい入院してここを出たらまた東京で頑張るよ。入院中もお給料は出してくれるというから、その恩返しもしたいし。薬はほんとに怖いから、飲み物とかには気をつけろってデビュー前にも言われていたもん。私が脇が甘かっただけだよ」
 
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「そうかい。でも帰りたくなったらいつでも帰っておいで。違約金請求されたら、母ちゃんもパートに出て頑張って返すから」
 
「うん」
 

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冬子は&&エージェンシーを解雇されてしまった、Purple Catsの4人に何か仕事が無いだろうか?と音羽(織絵)から尋ねられて、あちこち聞いてみた。すると∞∞プロで近々デビューする、丸山アイちゃんという女性歌手の音源製作を手伝ってもらえないだろうかという話が飛び込んで来た。彼女は現在18歳で長崎の高校を卒業して東京に出てきて、自主制作CDをあちこちの事務所に持ち込みしている内に、∞∞プロの目に留まったらしい。
 
引き合わせてみると、お互いに結構息が合う感じであったし、音楽に関する価値観もわりと合う感じだった。それで、アイも自主制作音源は作っていても、プロの音源製作は未体験なので、そのあたりの指導も含めて、∞∞プロが取り敢えず年末まで4人を雇ってくれることになった。
 
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「もしそちらが空いていたら、春のツアーにも付き合ってもらえると嬉しい」
と∞∞プロの鈴木社長は言っていた。
 
 
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娘たちの卵(20)

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