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■娘たちの卵(4)

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「バスケは結構シーズンの違うリーグに二重在籍する人が多いんだよ。私は春から夏に掛けて、日本の40 minutesに所属して大会とかに出て、秋から冬に掛けてはスペインのリーグに出る。日本で大きな大会がある時は、その時だけ帰国する」
 
「え〜〜〜!?」
「湧見昭子の所属しているジョイフルゴールドに所属する高梁王子もアメリカのNCAA(エヌ・シー・ダブルエー)のチームを兼任しているね」
 
「すごーい」
「スペインには去年の春から日本バスケ協会の強化選手として派遣されていて1年だけ滞在して、今年は日本のWリーグに入ってと言われていたんだけど、今バスケ協会は凄い内紛中でさ」
 
「あれ、ひどいですね」
と英美も顔をしかめる。
 
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「それで私の扱いが宙ぶらりんになっているから、結局今年は暫定的に派遣されたチームでそのままプレイしながら、日本バスケ協会の籍を確保するのにクラブチームに入ったんだよ」
 
「そういう事情があったんですか」
「英美ちゃん。君はできる。そして君は今年はまだほとんど警戒されていない。これはチャンスなんだよ。インターハイの得点女王とリバウンド女王を狙いなよ。北海道の女王になったから、次は日本の女王になる番だよ」
 
「頑張ります」
と英美は熱い情熱に満ちた目で答えた。
 

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その日の試合では英美が爆発して1人で30得点取り、過去にBEST8になったこともあるチームを完全粉砕した。圧勝して2回戦に駒を進めた。
 
千里は満足した顔で喜んでいるチームを見ると、夏恋に
「先に帰るね」
と声を掛けて、会場を出る。校門の近くで待っていたら5分ほどで《こうちゃん》が車を持ってくる。
 
「ありがとう。私が運転するね」
と言って運転席に座り、車を出す。
 

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それで葛西方面に戻ろうとしていたら、少し先を青葉が歩いているのに気付き、車を停めてクラクションを鳴らす。
 
青葉と他に見たことのあるお友だちが3人居る。美由紀ちゃんと奈々美ちゃんと・・・えーっと、もう1人は・・・日香理ちゃんだ!
 
「どこまで行くの?」
と千里は訊いた。
 
「東京に出てどこかホテルに泊まろうと思ってたんだけど」
と青葉は言う。
 
「取り敢えず晩御飯でも食べない?」
と訊くと
「おごってくれるなら大歓迎です」
と美由紀が言った。
 

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それで4人を乗せて少し走った所にあった回転寿司屋さんに入った。
 
なんでも奈々美の高校のバスケ部がインターハイに出場して、12人枠に入れなかったバスケ部員の奈々美たちは応援に行くことにしたものの、3人も欠席者が出て、どうしようと思っていた所、偶然高岡駅で青葉たち3人に会ったので徴用したということらしい。
 
「でも私も高校時代、奈々美ちゃんたちの高岡C高校と対戦したことあるよ」
と千里は言った。
 
「ちー姉って、その時選手だったんだっけ?」
と青葉は混乱して尋ねた。
 
「そうだけど」
「女子だよね?」
 
「高岡C高校も強いのは女子だけでしょ?」
と千里。
「そうなんですよ。男子はいつも地区予選1〜2回戦負けで、まだ県大会にも進出したことないんです」
と奈々美が言う。
 
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「お姉さんも、もしかしてバスケの応援ですか?」
と奈々美は訊いた。
「そうそう。うちの高校が来てたから。会場は松陰高校体育館」
 
「勝ちました?」
「うん。勝ったよ。奈々美ちゃんたちは?」
「途中まではいい勝負してたんですけどね。後半投入された相手の1年生が凄くて。負けちゃいました」
「それは残念だったね」
 
「奈々美ちゃん、バスケットやってるのなら、これ見せてあげる」
 
と言って千里はバッグの中からさっき後輩たちに見せたものを取り出して渡した。
 
「なんかメダルがたくさんある!」
「賞状もいっぱい」
 
「嘘。インターハイの銅メダル?」
「ウィンターカップの銀メダル!?」
「アジア選手権の金メダル!?」
「うっそー!?世界選手権の銅メダル!??」
 
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「賞状は国体優勝の賞状に始まって、スリーポイント女王の賞状がいっぱい」
「うん。いっぱいありすぎて、私も全部は覚えてないかも」
 
「全日本総合バスケットボール選手権大会。これなんか凄そう?」
「通称オールジャパン。バスケットの全ての連盟の日本一を決める大会だよ。高校生・大学生・教員・クラブ・実業団・プロ、全てが出場する」
「そんな大会でスリーポイント女王って、日本一のスリーポイント・シューターということですか!?」
 
「というか、これ Three point goal leader 2011 FIBA U21 Women's World Championship って、つまり世界チャンピオンじゃん」
「あくまで21歳以下のね」
 
「すごーい」
「奈々美ちゃん、普通の子の中では背が高い方だけど、バスケット選手としてはそんなに長身という訳では無い。でもドリブルは必ずしも得意ではないと言ったよね。そういう子が生きる道がスリーだよ」
と千里は言った。
 
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「そうかも・・・」
と奈々美も言う。
 
「スリーをたくさん練習しなよ。奈々美ちゃんだと多分スモールフォワードという感じかな」
「ええ。私は2番(シューティングガード)というより3番(スモールフォワード)だと思います」
 
「スモールフォワードってゲームの鍵を握るんだよね。自ら得点もする。攻撃の起点にもなる。そしてスリーも放り込む。オールマイティ・プレイヤー」
 
「私のプレイを見た先輩が『あんたは3番向きの性格』と言ったんです」
 
「そのスモールフォワードが高確率でスリーを入れることができたら、何といっても、24秒のバイオレーションを避けることができる」
 
「そうなんです!それ言われました」
 
どうしても攻めあぐねた場合、24秒で時間切れになる前にスリーを撃つことが多い。そこでどのくらいの確率でゴールできるかは、勝負の分かれ目になる。
 
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「だからスリーを入れられるスモールフォワードは貴重。たくさん練習するといいよ」
 
「頑張ります」
と奈々美は明るい声で言った。
 

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青葉は唖然としていた。
 
ちー姉って・・・女子バスケット選手だったの〜〜〜?
 
だってだって、高校時代、バスケやってたから頭は丸刈りにしていたとか言わなかった?? それって男子選手ってことだよね?女子選手が丸刈りを強要される訳が無い。
 
でもでも、スポーツの世界で性別の取り扱いは物凄く厳しい。オリンピックでもしばしば半陰陽の選手が問題になる。少なくとも睾丸が存在すれば絶対に女子選手になることはできない。ちー姉が高校時代から女子選手だったとしたら、その時点で少なくとも睾丸は無かったことになる。
 
でもでもでもでも、私、2011年にちー姉の睾丸を活性化させて、それで精液を冷凍保存したよ!?ちー姉の高校時代は2006年から2008年。これ絶対おかしい!!
 
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青葉が悩んでいる間に、お店のスタッフさんがオーダーしたティラミスを持ってきたが、千里がそのスタッフさんに手を振っている。
 
「あれ〜、千里だ」
「浩子ちゃん、久しぶり」
 
「お友達ですか?」
「そうそう。バスケットのチームメイト」
「高校時代の?」
「ううん。大学生の時、クラブチームに入っていたんだよ」
「へー」
 
「浩子ちゃん、こちらはうちの妹の青葉、それから妹の友だちの奈々美ちゃん、美由紀ちゃん・日香理ちゃん」
「そしてこちらは、千葉ローキューツというチームの元キャプテンで石矢浩子さん」
 
「いや、名前だけのキャプテンで申し訳無い」
などと浩子は言っている。
「でもチームを率いてオールジャパンに出たからね」
「あれは一生の想い出だよ」
 
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そんなことを少し話していたのだが、すぐに他で呼ばれて浩子は飛んで行った。
 

「ちー姉って、バスケは高校時代だけじゃなかったんだ?」
と青葉は尋ねた。
 
「私も大学に入ったらバスケやめるつもりだったんだけどね〜。でも何もしていないと身体がなまるから個人的に体育館で練習していたんだよ。そしたら浩子ちゃんに会って、誘われて彼女たちのクラブに参加したのよ」
と千里は説明する。
 
「今もそのチームに所属しているの?」
「ううん。もう2年前にやめたよ」
 
「女子のチームだよね?」
と青葉は確認した。
 
「彼女、男に見える?」
「女性に見えたけど」
 
青葉はもっと千里を追及したい気分だったようだが、この場ではやはりまずいかと考えたようで、その日はそれ以上はその件は話題にしなかった。
 
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結局その日は全員で桃香のアパートになだれ込み、毛布や布団を奪い合ってごろ寝した。
 
「可愛い女の子がたくさん」
と偶然こちらに来ていた桃香が言ったが
 
「高校生に手を出したら淫行で捕まるよ」
と千里は釘を刺していた。
 

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千里は冬子から電話を受けた。
 
「急な話で申し訳無いんだけど、今月16日から来月7日までのKARIONのツアーに横笛系奏者として参加してもらえないかと思って」
 
「横笛というと?」
「篠笛、フルート、アルトフルート」
「それならいいよ」
「それとできたら『夕映えの街』での巫女舞と、『恋のブザービーター』でのドリブル&シュートパフォーマンス」
「それもいいけど、フルートを投げずに済むようにして」
「それ花恋に取りに行かせるよ」
 
「それならいい。ちなみにKARIONのライブなら昼間だよね?」
「うん。13時から15時半くらいまで」
 
「日中ならOK。夜20時以降はちょっとまずいんだよね」
「夜間、何かお仕事とかあるの?」
「夜間道路工事のバイト」
「え〜〜〜?」
 
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「でも急だね」
 
「実はフルートで予定していた人が指を怪我してしまって」
「ありゃー。それは大変だね。そういうことならいいよ」
「助かる!もしよかったら8月9日・土曜日、横須賀のサマーロックフェスティバルにも出てもらえないかな。これも日中」
 
「土曜日なら大丈夫だよ。9月までなら土日は夜でもOK」
「へー」
「土日は道路工事が休みだから」
「ホントに道路工事してるの〜〜?」
 

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男子日本代表は7.28-8.02に第4次合宿、8.04-8.06に第5次合宿を行った。つまり8月3日は休みだったが、そのままNTCに居残りする選手も多かった。貴司は朝から千里に選手村前までインプレッサで迎えに来てもらい、常総ラボに行った。そして一日ひたすら練習した。
 
「貴司、かなり気合いが入っている。これならウィリアム・ジョーンズ・カップ良い成績残せるかも」
 
「それがさぁ。また龍良さんが怪我しちゃって」
「え〜〜!?」
「昨日1人、緊急召集された」
「彼が居ないと日本は辛いね」
「実力では彼にかなうような人がひとりも居ないからね」
「貴司頑張りなよ」
「さすがに彼には追いつけない」
 

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夕方一緒に居室に行き、汗を流す。先に千里がシャワーを浴びるが、身体を拭いただけで、裸のまま戻って来る。貴司はゴクリと唾を飲み込み、急いでシャワーを浴びて、適当に身体を拭いて戻って来る。
 
千里が触ると触った瞬間射精した。
 
しっかり射精バッグに取る。
 
「じゃ、これ大阪に持って行くね」
「すまん。頼む」
 
「NTCまで送っていくから座席で寝てるといいよ」
「そうする」
 
千里が精液バッグを保冷バッグに入れる。ふたりとも服を着る。貴司がなごり惜しそうだが、少しだけ揉んであげて「また今度ね」と言ってキスをする。貴司をインプレッサの後部座席に乗せ、千里はNTCまで走った。実際貴司はずっと寝ていた。
 
彼を選手村の玄関に置き、東京駅で保冷バッグを持った《げんちゃん》を降ろしてから、千城台に戻って旭川N高校の合宿に合流した。《げんちゃん》は新幹線で大阪に行き、貴司の同僚を装って病院に精液を届けてくれる。
 
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娘たちの卵(4)

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