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■娘たちの卵(12)

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青葉たちが行った時は、L神社・巫女長の辛島さんが社務所に詰めていた。青葉が来ると聞いて、自ら出てきたらしい。真知はちょうどお昼を買いに行っているということだった。
 
「千里ちゃん、なんで巫女服を着てないのよ?」
と辛島さんは言っている。
 
「非番ですから」
と千里。
 
「私が転出した後は、千里ちゃんに巫女長やってもらおうかと思っていたのに」
「すみませーん。大学院出るから、普通の企業に就職予定なので」
 
辛島さんの夫が来年春から越谷市の神社の宮司として赴任するこになっているので、辛島さんもそれに合わせてL神社を辞め、そちらの神社の巫女長になる予定である。
 

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境内には記念写真を撮っているカップルや、裏手の玉砂利を敷いた場所に置かれたベンチに座っておしゃべりしているカップルもいる。ここは見晴らしがいいので、どうも格好のデートスポットにもなっているようである。
 
社務所では飲み物(缶・ペットボトル・紙コップのコーヒー)と3個入り100円の大福も販売している。コーヒーはコンビニなどで使用されているポーションを使用するタイプなので時間による劣化が無く、結構美味しい。大福は千葉市内の和菓子屋さんのものだが、夕方までには売り切れてしまうことが多いという。
 

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「でもなんか縁起物が増えましたね」
と彪志は社務所の奥に並べてある縁起物を見ている。
 
「そのだるまですけど、味のあるだるまが1体並んでますね」
「これでしょ?これは手作りだから。値段も高いのよね」
 
他のが数百円なのに、それだけ3000円なのである。
 
「それが売れることもあります?」
「売り切れちゃう」
「あら」
 
「手作りは生産量に限度があるから、それを無理言って月に20体だけ分けてもらうことにしたんだけど、7月も売り切れたし、8月分もここに置いているのでおしまい。これが売れたら9月上旬までは入って来ない」
「すごーい」
 
「招き猫のストラップも飛ぶように売れている」
「凄いですね」
 

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千里が提案して製作されたパワーストーンの御守りを見る。
 
「きれいだな」
と桃香が見ている。
 
「うちの巫女さんが石の仕入れ先を厳選してくれたので」
「原価が高くなってしまいましたけどね。でも直輸入だから、中間コスト不要で、何とかこのお値段に抑えられたんですよ」
 
「そうだ。そのパワーストーンの御守り、8個セットでください」
と言って青葉が1万円札を出すと
 
「神社の設立者さんにはタダで」
と辛島さんは言ったのだが
 
「辛島さん。代金を受け取ってください。多分これ購入しておかないといけないみたいだから」
と千里が言う。
 
「ちー姉、私に何をさせる気〜?」
などと言いながら青葉は代金を払ったが、受け取ると驚いたように
 
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「これほんとにパワーが入ってる!?」
と言う。
 
「え?どれどれ?」
と言って辛島さんがそのパワーストーンを見る。
 
「あら、ほんとだ。きっと当たりなのよ」
などと言っている。
 
千里はチラッと祠の中で頬杖を突いてこちらを見ている《姫様》を見た。可愛くウィンクしている。
 
むろん青葉が受け取る直前に姫様がパワーを注入してしまったのである。
 

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真知がお弁当を“7つ”買ってきたので、社務所の中で一緒に食べた。真知がその内のひとつを祠の方に向かって高く掲げるとすーっと消えるので、桃香が目をゴシゴシしていた。食べている内にお客さんの団体が来たので、青葉と千里も巫女服を着て対応した。
 
「今日はまだ曇っているからいいけど、ふだんの日は日中暑くないですか?」
と青葉が心配して真知に訊く。
 
「お客さんが途絶えている時は倉庫の方に行って休むこともありますよ。向こうは狭いし閉鎖空間になるから結構エアコンが効くんですよ」
「ああ。裏手に倉庫がありましたね」
「あそこは縁起物とかの保管庫兼、休憩所ということで。布団も置いてるし」
「なるほどなるほど」
 
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「こちらの社務所も、ここの販売窓を閉めてエアコン掛ければ結構涼しいです」
「でも窓を開けていたらエアコンはほとんど無意味」
「なるほどー」
「窓を開けている間は扇風機の出番」
「なるほどー!」
 

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適当な所で神社を出た。弁当のからなどゴミはインプレッサに積んで持ち帰った。弁当のからはちゃんと7つあった!
 
青葉は夏休みが終わるまで彪志の所に滞在するということだったので2人を彪志のアパートで下ろし、青葉にはお小遣いと称して1万円あげた。桃香は大学に行くということだったので、大学北門前で下ろし、自分は「用事があるから数日留守にするね」と言っておいた。
 
それで千里は東京に出ると東京駅で貴司を迎えた。インプレッサに乗って、一緒に北区の合宿所まで行く。30分ほどの束の間のデートであった。
 
「じゃまた頑張ってる」
「うん。ありがとう」
 
それでキスをして別れた。
 

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千里はその日は葛西のマンションに泊まり、翌日8月26日には新幹線で大阪に行き、豊中市の産婦人科に行った。
 
「細川貴司から卵子の提供を頼まれた者です」
と名乗り、まずは健康診断を受けた。血液検査なども受ける。
 
「なるほど。細川さんの奥さんと同じRH+AB型なんですね」
「そうなんですよ。それで頼むと言われて」
「ちなみにご結婚は?」
「独身です」
「妊娠などの経験は?」
「ありません」
「性体験は?」
「たくさんあります。以前恋人がいたので。非処女ですので安心して膣の中に機械とか突っ込んで下さい」
 
「分かりました。卵子を採取するのに針を卵巣に刺しますが、この場合、極めて低い確率で卵巣が傷付いて、将来の妊娠に影響が出る可能性もあるのですが、卵子の提供をなさいますか?」
 
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「はい。そのリスクは承知の上で卵子の提供をすることにしました」
 
「ちなみに、細川さんとのご関係は?」
「バスケットボールの後輩なんですよ。実は先輩に命を助けて頂いたことがあるので、何かの機会に恩返しがしたかったんです」
 
「そういうことでしたか」
 
生理周期について質問されたので、千里は2日前に生理が来たばかりであると答えた。
 
「凄い。それだとちょうど細川さんの奥さんと同じタイミングですよ」
「それは良かった」
「だったら、サイクルの操作などしなくても、ちゃんと体外受精ができますね」
 
医師は「これは答えたくなければ答えなくてもいい」と言ってこの質問をした。
 
「細川さんのご主人が、卵子提供者について、細川さんの奥さんだけでなく、細川さんのご主人本人にさえも、卵子提供者が誰なのか報せないで欲しいという要望を出しておられるのですが、その理由をご存知ですか」
 
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「それは奥さんに私と細川さんとの関係を邪推されないためです。私は細川さんのご主人のバスケ部の後輩ですが、細川さんには純粋に尊敬の気持ちをもっていて恋愛感情はありません。しかし古い知り合いで男女と知られると恋愛関係を疑われる可能性もあります。私は細川さんの同輩の既婚女性から今回の話を頂いたのですが、実際細川さん本人とも2年ほど会っていませんし、肉体関係も存在しないので、そのあたりでよけいな思惑を生じさせないためにも、卵子提供者が誰かは誰も知らない状態にして欲しいと言いました。ですから、ボランティアの卵子提供者、くらいに思っておいてもらった方がいいんです」
 
「なるほど。そういうことでしたか。分かりました。もちろん私も病院のスタッフも守秘義務を守りますので」
 
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「よろしくお願いします」
 

病院を出た後で、千里は《いんちゃん》たちから訊かれた。
 
「千里、卵子を提供するといっても卵巣自体が無いのでは?」
「今回の件に付いては、大神様から言われたんだよ」
「ああ。そうだったんだ?」
「本当の卵子提供者を病院の先生に見せたくないんだって。だから私は実はダミーなんだよ」
「ああ」
「だから卵子を提供する日に、私は病院のベッドに寝るけど、実際に卵巣に針を入れられるのは、別の女性。そのあたりは大神様がうまく処理してくれるって」
 
「大神様の操作なら、心配しなくてもいいか」
と《いんちゃん》は言った。
 
千里はこの日、新幹線で岡山まで行き、明日のKARION岡山公演のために用意してもらっていたホテルに入ってぐっすりと眠った。この日は生理と称してスペインでの練習は休ませてもらった。
 
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8月下旬。
 
夏休みのツアーを行っていた明智ヒバリはこの日がラスト公演であった。今年の春デビューして最初のCDは8000枚という、まあまあの売れ行きであった。§§プロでは海浜ひまわり・千葉りいなが相次いで引退。それで本来は秋くらいにデビューする予定だったヒバリが早めにデビューすることになった。ライブは全国6ヶ所の600-900人程度のキャパの会場を回り、だいたい9割くらいの入りである。大成功とは言えないものの、ほどほどの“スタート”となり、紅川社長もホッと胸を撫で下ろしていた。
 
ところが、この日の幕間でゲストの中堅歌手・鉄金ウラン(作曲家のガラクン・アルヒデトの内縁の妻)が歌った後、後半のステージに出てきたヒバリは最初の歌を演奏している途中に唐突に歌うのを中断し、そのあと、まるで錯乱したかのような動きをした。
 
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慌ててステージサイドに立っていたマネージャーの月原が駆け寄るが、ヒバリは彼女を振り払い、不気味な笑い声をあげるだけで、正気では無い様子だった。伴奏も中断。幕が下ろされ、結局ライブは中止になってしまう。払い戻し扱いになったが、実際には返金を申し出た人はほとんど居なかった。
 
そしてヒバリの動向はこの後、全く不明となった。事務所はマスコミの取材に対してもノーコメントを貫き、ヒバリの死亡説までネットでは流れていた。
 

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KARIONのツアーは続いていた。
 
2014.08.27(水) 岡山桃太郎メッセ
2014.08.30(土) 福岡マリンアリーナ
2014.08.31(日) 沖縄なんくるエリア
2014.09.06(土) 愛知スポーツセンター
2014.09.07(日) 横浜エリーナ
 
8月31日には実は大宮でローズ+リリーのライブも行われたのだが、冬子はこういうルートで那覇から大宮までわずか2時間44分で移動した。
 
12:00 KARIONライブ開始
14:23 KARIONライブ終了
14:24 会場を出て染宮のバイクで那覇空港へ
14:27 那覇空港到着。走って保安検査場まで行く。荷物を持っていないのですんなり通過。バスに乗って江藤社長所有のGulfstream G650に乗り込む。14:50 G650が那覇空港を離陸。
16:45 G650が調布飛行場に着陸(*2)
16:50 ヘリコプターに乗り込む
17:00 ヘリコプターが大宮市内のヘリポートに到着
17:05 加藤課長が運転する車に乗り込む
17:08 大宮アリーナ到着
18:00 Rose+Lily開場
19:00 Rose+Lily開演
20:00 幕間(AYA)
20:15 後半開始。ここに千里も参戦
 
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(*2)本当は調布飛行場は滑走路が短すぎてG650は離着陸できません。しかしこの物語では離着陸できることにしています。これはこの後出てくる札幌への飛行も同様です。
 
Gulfstream G650の離陸距離は5858ft(=1786m) (標準大気・標高ゼロ・最大離陸重量の場合)だが、調布飛行場の滑走路は800mしかなく、全く足りない。
 

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ところでこのKARIONの那覇公演には千里もゴールデンシックスのタイモとして参加しているほかKARION自体の伴奏にも参加している。一方で千里はローズ+リリーの大宮公演にも若宮萌鴎として参加した。それでは千里はどうやって移動したかというと、こういうルートであった。
 
13:10 ゴールデンシックスの幕間パフォーマンス終了
13:15 染宮のバイクで那覇空港に到着
14:00 JL914羽田行き離陸
16:25 羽田到着
羽田空港16:55-17:13浜松町17:20-17:27東京18:00(やまびこ153)18:26大宮
18:30 ★★レコード鶴見係長のバイクで会場へ
18:35 会場到着
19:00 Rose+Lily開演
 
要するに那覇公演では千里がどうしても必要な『雪のフーガ』を前半に演奏し、後半のフルートや篠笛は風花に吹いてもらうことにし、千里は幕間のゴールデンシックスのパフォーマンスが終わった所で、★★レコード・染宮さんのバイクに乗って那覇空港に移動した。これは実は、ライブ終了後にケイを移送する時のシミュレーションも兼ねていたのである。
 
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千里も荷物は財布や笛類を入れたバッグのみなので手荷物を預ける必要もなく素早く保安検査場を通過して羽田行きのJALに乗り込む。そして羽田からはモノレールと山手線で東京駅に移動し、新幹線!で大宮まで行くのである。会場に到着したのは18:35で、千里は5時間20分で到着出来たことになる。この日の千里の移動に関しては、★★レコードの実験の色彩が強かった。
 
 
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娘たちの卵(12)

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