[*
前頁][0
目次][#
次頁]
13:35くらいになってから女性が入って来て、
「最終審査を始めます。こちらにおいで下さい」
と言われ、小さなホールに案内された。二次審査の時に見た審査員さんより数が少し増えている。ステージ上にはバンドもスタンバイしている。ギター、ベース、ドラムス、キーボードにフルートが加わっている。
「今から封筒を配りますが、まだ開けないで下さい」
と言われて封筒が配られる。
「1番の人封筒を開けて下さい」
と言われるのと同時にステージ脇から秋風コスモスが出てくる。そしてバンドの演奏に合わせて歌い始める。
ほんっとにこの人下手くそだなと思う。オーディション受けられるようにしてくれたから悪く言えないけど。
コスモスの歌が終わると
「2番の人、封筒を開けて下さい。1番の人はステージに上がって渡された譜面の歌を歌って下さい。譜面は持って行っていいです。なお、バンドの中でフルートの人は歌と同じ音で演奏しますので、メロディーが不確かな時は、フルートの音を頼りにして下さい」
と言われた。
1番の人がステージに上がり、バンドの演奏とともに歌い始める。この人はうまかった。初見演奏なのに音の高さもリズムもほとんどずれずに歌う。この人すごー!と思った。
「ありがとうございました。座席に戻って下さい」
と言われ、金色のリボンを付けてもらった。
「3番の人、封筒を開けて下さい。2番の人ステージに上がって下さい」
それで2番の人が上がるとバンドはさっきの曲とは別の曲を演奏し始める。要するに前の人が歌っている間に、新しい曲を覚えて歌わなければならないということのようである。最初にコスモスさんが歌ったのは、1番の人が静寂な環境で譜面を見たら他の子より有利になるから、条件を揃えるためだったんだ。
しかしkankanのモデルを選ぶのに、こういう音楽的な素養を見るって不思議、などと絢香は思っている。
2番の人は音程はかなり外していたものの、何とか頑張って歌い終えた。この人も金色のリボンを付けてもらった。3番の人は譜面が読めなかったようで、全然音の高さを合わせることができない。メチャクチャになって最後は泣き出してしまった。それで
「お疲れ様でした。ちょっとこれを飲んで落ち着いてから帰りなさい。寄り道せずにまっすぐおうちに帰ってね」
などと言われていた。泣き出したので、落ち着かせるために飲み物をくれたようであった。まっすぐ家に帰りなさいというのは、万が一早まったことをしたりしないためだろう。
4番の人も譜面が全く読めなかったようである。しかし彼女はフルートが演奏している音とは違う音程で堂々と笑顔で歌った。まるで彼女の歌っているメロディーが本当のメロディーであるかのように。この人凄っと思う。彼女は金色のリボンを付けてもらった。
それでこれは音楽のコンテストではないのだ、ということを絢香は認識した。これは対応能力を問うテストなんだ。
5番の人は最初は調子良く歌っていたものの、途中で分からなくなったようで歌を中断してしまった。彼女が歌を中断してもバンドは淡々と演奏を続ける。それで彼女は続きを歌おうとするものの、今度は今譜面のどこなのか分からないようである。少し歌ってみて「あ、違う」などと言って、結局歌えなかった。それでこの人は
「お疲れ様でした。寄り道せずに帰ってね」
と言われた。
プロのステージでいちばんやってはいけないことは途中で中断してしまうことである。間違ってもいいから最後まで続ければ何とか場を保つことができる。
6番の人、7番の人は何とか最後まで歌ったが、6番の人は金色のリボンをつけてもらったものの、7番の人は「帰っていいですよ」と言われた。ふたりの差は何だろうと考えたが分からなかった。
絢香の番になる。絢香は音楽は得意なのでむろんちゃんと譜面を読んでいた。それでしっかりとバンドの演奏に合わせて今見たばかりの曲を歌うことができた。1番の人が凄い顔でこちらを睨んでいる。なんでこんなに睨まれるの〜?と思いながら絢香は歌っていた。
終曲。絢香は「ありがとうございました」と観客席、バンドの人たちに挨拶した。
絢香も金色のリボンを付けてもらい、座席で待っていてと言われた。
「みなさんお疲れ様でした。しばらくお待ち下さい」
と司会の人が言って、審査員たちが別室に移動する。絢香たちは30分ほど待たされた。
バンドの人たちも下がってしまったので、ホールには司会の人の他は、1番・2番・4番・6番と8番の絢香、参加者5人が取り残されている。
「皆さん、オーディション何回くらい受けた?」
と4番の人がみんなに尋ねる。
「私は3度目」
と2番の人。
「私は5回目」
と6番の人。
「1番さんは場慣れしてるみたい」
「私はこの手のオーディションは3回目だけど以前2年ほどモデルしてたから」
と1番の人。
「なるほどー」
「でもみなさん、すごーい。私オーディションなんて初めてで、もう失敗ばかりで」
と絢香は言った。
「うん、初めてだというのは分かった」
と4番の人は言う。
「あなたは?」
と2番の人が4番の人に訊く。
「私は2度目。実は夏にあったここの『ロックギャルコンテスト』にも出たんだけど、最終選考の24人まで行って落ちた。これその時の番号札」
と言って彼女は《20》という数字の入った番号札を見せる。裏に、《§§Production Rock-Gal contest 2014 Final Stage》という文字が入っている。
「最終選考って凄い。あれ全国で予選やったから応募者が凄い数だったみたいなのに」
「その場では誰が優勝かって発表しなかったんだけど、この子が優勝間違い無いって子がいたよ。物凄い美少女で、それに歌も物凄く上手かった」
「へー!」
「あの子は売れると思うよ」
「凄いね」
「あんな凄い子が発掘できるなら、実質東京周辺の子しか参加出来ないこのフレッシュガールコンテストはもう来年以降実施しないんじゃないのかな」
と4番の人が言うので、絢香は「へ?」と思う。
「あのぉ、これkankanのモデルオーディションじゃなかったんでしたっけ?」
「はぁ!?」
「これは§§プロと誠英社が共催するフレッシュガールコンテストなんだけど」
「うっそー!?」
「間違えて違うオーディションに参加してしまったのか」
と4番の人が呆れたように言う。
2番の人がスマホで何か見ている。
「ああ。今日は近くでkankanのモデルオーディションもやってる。向こうは新宿文芸ホールだ」
「あれ?ここは?」
「新宿文化ホール」
「違う場所だったの〜〜!?」
「あんた方向音痴?」
「はい。初めての場所には友だちと一緒でないと、なかなか辿り着けません」
「いや、あんたの場合、kankanのモデルオーディションなら一次審査で落ちているかも」
「うん。モデルオーディションは専門学校に行っていて訓練受けているような子ばかりくるもん。私一度参加して場違い感を感じた」
「このフレッシュガールコンテストはアイドルのコンテストだから総合力の勝負」
「へー!」
「審査に時間が掛かっているでしょ。これ絶対揉めてると思う」
と4番さんは言う。
「やはり?」
と2番さん。
「これ、1番さんと私の勝負だよね?」
と4番さんが言うと
「いや、1番さんと私の勝負だよ」
と2番さんは言っていた。
ふたりとも本気ではなく冗談で言っているようなので、絢香は吹き出してしまった。6番さんも笑っている。やはり1番さんの優勝だよね!
4番さんは小鳥さんという名前らしかったが、結構話題が豊富で、彼女が中心になっておしゃべりが続き、待っている間も結構楽しかった。彼女はてっきり絢香より年上と思ったのだが、自分より1つ下の中学2年生と聞いて驚いた。
彼女は気配りが凄く、絢香や2番さん・6番さんを笑わせるし、孤高癖?のある1番の人もつられて笑ったりしていた。
やがて審査員さんたちが戻ってきた。難しい顔をしている。やはり相当な議論があったのだろう。
「それでは優勝者を発表します。優勝は8番の佐藤絢香さんです」
と40代くらいの男性が言った。
「うっそー!?」
と思わず絢香は叫んだ。
2番さん・4番さん・6番さんが笑顔で拍手をしてくれた。
2014年9月8日(月).
千里と貴司が乗る車は《こうちゃん》の運転で東名・名神をひた走り、明け方、桂川PAで休憩した。ふたりともトイレに行ってくる。ふたりで後部座席に乗る。ドアをロックする。車に目隠しをする。貴司がドキドキした顔をしている。
「ヘイ、マイダーリン、いいことしようか」
と千里は言って、貴司のズボンとトランクスを脱がせる。準備万端である。そして千里がそれに触ると、1往復もしない内に貴司は射精してしまった。
しっかり精液バッグに取る。
「今回も一瞬だったね」
「もう少し楽しみたかったのに!」
「終わっちゃったものは仕方ない。じゃ豊中まで行こうか」
「お楽しみとかは無いの〜?」
「また今度ね」
名残惜しそうにしている貴司を放置して千里は目隠しを外し、運転席に座ってインプレッサのエンジンを掛けた。
それで豊中市の産婦人科まで運転して行った。
貴司が精液のバッグを病院に預ける。それで千里は車を大阪市中心部に向け、朝6時頃、会社の前で降ろした。
「じゃ、また1ヶ月後に」
と言ってキスして別れた。
この日の朝、スクーリングに来た札幌市内のホテルで寝ていた村山武矢は夢魔に襲われる夢を見て、その夢から逃れようと自分を覚醒させた。
が・・・快感が継続している。
「千里!?」
下半身が顕わになっていて、そこで千里が自分のアレを握って動かしているのである。
「お父ちゃん、お早う。今逝かせてあげるね」
と“千里”は笑顔で武矢を見て言った。
「え、えっと・・・」
武矢は1ヶ月ほど前にもやはりスクーリングに来た時に、千里の手で逝かされたような夢?を見ていた。これも夢??
と思っている内に快感が上昇して臨界に達し、精液が射出される。“千里”はそれを何かビニール袋のようなもので受け止めた。
「じゃ、私行くね」
と言って、“千里”はスッと姿を消した。
「え!?」
武矢はしばらく考えてから
「これはきっと夢だ。寝よう」
と言って、目を瞑った。
「しかし不覚だ。2度もこんな変態的な夢見るなんて。俺、息子に欲情してるんだろうか?」
その人物は《きーちゃん》が泊まっている部屋に姿を現すと
「はい、これ」
と言って精液バッグを渡した。
「ありがとう。でもよく好きな男でもない人のちんちん触れるなあ」
「千里の精液を採取しただけだよ。私、千里のこと好きだもん」
「ああ。やはり好きなんだ?」
「私の命を助けてくれたんだもん。千里がもし男の子だったら、結婚したかったくらい」
「まあ千里は女の子だから仕方ないね」
「うん。だから私は別の人のものになりたい」
「小春ちゃん、その件で何かたくらんでない?」
「べ、別に」
と小春は焦って答えた。
「でもありがとう。すぐ大阪に運ぶよ」
「うん」
それで《きーちゃん》は飛行機で大阪に飛び、豊中市内の産婦人科に精液バッグを届けた。
新千歳9:30-11:25伊丹11:44-11:55千里中央
例によって理歌の振りをして届けたが、阿倍子はまだ来ていないということだった。
朝6時に貴司を会社前で降ろした千里は豊中市の病院に戻り、そのまま入院した。取り敢えず尿と血液を採取して検査に回される。体温・血圧・血糖値などを測定され、心電図も取られる。7時頃、医師の診断を受け、卵巣の状態もチェックされた。このような早朝の作業になったのは「他の患者にも見られたくない」というこちらの希望に合わせてもらったからである。
「排卵寸前の状態のようですね。採取やっていいですか?」
「お願いします」
それで千里は処置台に寝る。エコーで卵巣の位置を確認しながら局所麻酔を打ち針を差し込む。痛いなと思う。でも京平の身体を作るためだと思い我慢する。
「1個取れました。もう1個取っていいですか?」
「お願いします」
それでもう一度針を刺され卵子の採取が行われた。結局千里の卵子は3個採取されたが、針を刺しても卵子が取れないこともあり、結局針は6度刺している。この過程がマジで痛かった。
「痛くなかったですか?」
「凄く痛かったです」
「静脈麻酔でやる方法もあるのですが、次回やる場合はそちらにします?」
「いえ。局所麻酔でいいです。この方が元気な卵子が取れそうな気がするから」
「分かりました。ではもし再度やる場合も局所麻酔で」
1時間ほど病室で休んでから退院した。
「今日は激しい運動はしないようにして下さい」
「分かりました。ありがとうございます」
この日のタイムスケジュール
_5:30 千里と貴司が豊中市の産婦人科に到着。貴司が精液バッグ提出。
_6:00 貴司を大阪市内の会社前で降ろす。
_6:30 千里が豊中市の産婦人科に入院。
_7:30 千里の卵子採取(局所麻酔)。
_9:00 千里が退院。
12:10 きーちゃんが精液バッグを届ける
13:00 阿倍子がタクシーで病院に入る
14:00 阿倍子の卵子採取(静脈麻酔)。退院は翌日。
きーちゃんは病院を出ると新幹線で東京に戻った。