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■娘たちの卵(15)

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エレベータを降りてキョロキョロしながら歩いていると、何かテーブルを片付けようとしている人たちがいる。
 
「済みません。オーディション会場ってこちらですか?」
と尋ねた。
「そうですけど、もう受付締め切りましたよ」
とそこに居た女性は言った。
 
ああ!やはり自分が迷子になっている内に遅刻しちゃったのかと思い、絢香はがっかりして
 
「すみません。お騒がせしました」
と言って、帰ろうとした。
 
しかしその時、向こうから見覚えのある女性がこちらにやってきた。あれ、これはテレビによく出ている、えっとえっとえっと、秋風コスモスちゃんだ!と思った。すっごーい!こんな有名タレントさんが来ているなんて。ゲストか何かで呼ばれたのかな?と思った。
 
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絢香が感動してじっと彼女を見ていたら、コスモスは尋ねた。
 
「あなたは参加者?」
 
「え、えっと。オーディションに来たんですけど、私新宿駅で降りたあと、道に迷ってしまってなかなか辿り着けずに遅刻してしまいました。それで仕方ないので帰ろうと思っていたところなんです」
 
「あら、遅刻しちゃったの?」
と言って彼女は机を片付けていた人たちに声を掛ける。
 
「何分遅刻?」
「9:30締め切りだったんですが、その方が来られたのは9:33でした」
「あら、3分くらいならオーディション受けさせてあげられない?」
 
「はい。コスモスさんがおっしゃるのでしたら」
 
それで絢香は受付をしてもらい、写真を貼った履歴書と、芸能活動許可証を提出して、267番という番号札をもらったのであった。
 
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絢香はコスモスによくよく御礼を言った。
 

それで絢香は会場内に入り、空いている席に座った。
 
「それでは番号順に1分間のパフォーマンスをして頂きます」
と司会の女性が言った。
 
「こちらで番号をお呼びしますので、指定された部屋に入ってパフォーマンスをして下さい。パフォーマンスの内容は歌でもダンスでもスピーチでもマジックでも何でもいいですが、銃を乱射したり、爆弾を破裂させるなど危険なことはご遠慮下さい」
と言うと、思わず爆笑となった。
 
「1番さん、Aの部屋へ。2番さん、Bの部屋へ。3番さん、Cの部屋へ」
と言われる。どうも3つの部屋で分散して審査するようである。司会の人は更に
「4番さん、Aの部屋の前で待機して下さい。5番さん、Bの部屋の前で待機。6番さん、Cの部屋の前で待機」
と言った。
 
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どっちみち時間が掛かりそうなので、絢香は会場内に居たスタッフに許可を取ってトイレに行って来た。それで戻ってくる時にちょうど部屋のドアが開いてがっかりしたような顔をした女性が出てき、彼女はそのままエレベータの方に行った。
 
ああ。不合格ならそのままお帰りになる訳だ、と思う。
 

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どうも合格した人はこの部屋にまた戻ってきているようである。番号札にあかね色のリボンを付けている。これが一次審査合格の印なのだろう。
 
1時間半ほど掛けて自分より前の番号の参加者が全員呼ばれ、最後に絢香の番になる。Cの部屋の前で待機していたら、前の人が歌っているのが聞こえてくる。下手くそだ。ところがその人はあかね色のリボンを付けてもらって出てきて、嬉しそうな顔でさっきの部屋に戻っていく。
 
あの歌で合格するのか?
 
絢香は俄然自信が出てきた。呼ばれて中に入る。3人の審査員が座っている。
 
「267番、佐藤絢香です。西野カナさんの『Darling』を歌います」
 
と言って歌い始めた。すると審査員たちが顔を見合わせているので
何だろう?と思った。
 
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1分ほど経ったところで
 
「はい、そこまでで結構です」
と言われる。
 
「控室に戻って少しお待ち下さい」
と言われてあかね色のリボンを付けてもらった。
 

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この一次審査に残ったのは全部で30人ほどであった。
 
10分ほど待ったところで司会の人が入って来て
「次は水着審査をします。各自ご持参の水着に着替えて下さい」
と言われた。
 
どこか更衣室があるのかなとも思ったのだが、どうもここで着換えるようである。まいっか、女ばかりだしと思って服を脱ぎ、水着をつけた。絢香は服を脱ぐ時、周囲から視線を感じた。ところが絢香がパンティを脱いだ時、ほっとしたような空気を感じた。あ。もしかして私が男の子ではないかと疑ったのかな?ちんちん付いてないのを見てほっとしたのかと思い至った。
 
着替え終わってからガーンと思う。
 
周囲の女の子たちはみんなすっごく可愛い水着を着けている。ビキニの子が全体の7割くらいである。それに対して、絢香が着ているのは学校の水泳の授業で使っているスクール水着である。
 
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きゃー。こんな可愛い水着着て来なきゃいけなかったのか!?ああ、私もう落ちた、と、この時絢香は思った。
 

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新しい番号札が渡される。水着に付けられるようシール方式になっている。絢香がもらった番号は31番であった。ビキニの子はたいていパンティの右か左にそのシールを貼り付けている。たまに胸の方に付けている子もいる。絢香はどうせ落ちるんだろうから少しでも目立った方がいいと思い、お股の真ん中に貼り付けた!
 
だいたい3分間隔くらいで次の人が呼ばれているようである。ということはまた1時間半掛かることになる。今が11時だから12時半くらいか。朝御飯も食べずに出てきてしまったので、お腹空いたなとは思うものの、さすがの絢香も水着審査の前に御飯を食べようとは思わない。
 
少しずつ水着で待機している女の子が減っていく。先頭で行った女の子は番号札の所に銀色のリボンを付けて戻ってきたが、その後はしばらく戻って来る子が出ない。30分後くらいに2人目が戻ってきた。やはり銀色のリボンを付けていて嬉しそうである。戻ってきた子は普通の服に着替えている。リボンの付いたシールは手に持っているようだ。結局絢香の前に戻ってきたのは7人だけだった。
 
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最後に絢香も呼ばれてAの部屋に入る。控室で配られた紙には
 
『部屋に入ったら端まで往復してきてから真ん中に立ち、審査員の質問に答えて下さい』
 
とあった。それで絢香は一往復すればいいのかと思い、部屋の中に入ると端まで歩き、それから入口の所まで戻ってから再度中央の所まで行き、審査員の方に向き直った。審査員は今回7人居る。
 
「お名前は?」
「佐藤絢香です」
「住所は?」
「神奈川県海老名市**2丁目・・・」
「あ、市まででいいですよ」
「はい、すみません」
「年齢と学年は?」
「15歳、中学3年生です」
「身長・体重とスリーサイズは?」
「176cm 65kg B100 W63 H88 少し上げ底するとCカップです」
「今回のオーディションに参加した動機は?」
「私、背の高さがコンプレックスなんですけど、背が高い人はモデルさんとかだと重宝されるよと聞いたので」
 
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「生年月日は?」
「1999年4月12日17:26海老名市です」
「星座は?」
「太陽は男らしい牡羊、月と水星は女らしい魚、金星は美人の牡牛、火星はセクシーな蠍座です」
「干支(えと)は?」
「年の干支は己卯(つちのと・う)、月の干支は戊辰(つちのえ・たつ)、日の干支は甲午(きのえ・うま)、時の干支は癸酉(みずのと・とり)です」
 
絢香が星座を火星まで、干支を年だけでなく時まで、しかも十二支だけでなく十干まで答えたので、審査員たちが顔を見合わせている。実際問題として、年齢を訊いた“少し後で”星座・干支を言わせるのは年齢詐称チェックのためである。
 
「占いが好きですか?」
と真ん中に座っている40代後半かな?という感じの男性が尋ねた。
 
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「亡くなった曾祖母が占い師をしていて、私のホロスコープとか四柱推命とか詳しく話してくれました。曾祖母によると、私はこれといった取り柄がない普通の女の子だが、赤ちゃんたくさん産めそうだから、早く結婚した方がいいということなんですが、困ったことに、私、背が高いのもあって、男の子に声を掛けられたりしたこと1度もありません」
 
審査員たちが顔を見合わせながら笑っているようだ。えーい、もうやけくそだ。開き直っちゃる!と思う。
 
「でも君、凄い所に番号札を貼り付けたね」
「はい。みんな可愛い水着着てきているのに、私、何にも考えてなくて学校で使っている水着を着てきてしまったので、少しでも目立つようにここに貼ってみました」
と絢香が答えると、また審査員たちが笑っている。
 
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「今までモデルをしたり、テレビに出演したりしたことは?」
「幼稚園の時、餅搗きをしている所をテレビ局が取材に来ました。それくらいです」
「どこかの芸能スクールとかに通った経験は?」
「ありません。幼稚園の時にピアノ教室に通っていましたが、小学校に入る時にやめてしまいました」
「クラブ活動とかしてますか?」
「はい、サッカー部をしています」
 
これには審査員たちは大きく頷いていたようである。
 
「好きな歌手とか居ますか?」
「西野カナさん、可愛くて大好きです」
「そういえば一次審査でも西野カナさんの歌を歌ったね?」
「はい。西野カナさんが出てくる番組はできるだけ見てます」
 
「学校の教科で好きなのは?」
「音楽と体育です。私、数学も理科も社会も苦手で、家庭科は料理の才能無いと友だちから言われましたけど、歌うのと身体を動かすのは大好きです」
 
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「英語はどのくらいできますか?」
「英検の3級はとりましたけど、外人さんとリアルで話したことがないので、どのくらい使えるかは分かりません」
 
「好きな漫画は?」
「『ちはやふる』とか好きです。百人一首に私も挑戦してみたんですけど、全然覚えきれなくて、ダメでした。坊主めくりばかりやってました」
 
「最近見た映画は?」
「幕末高校生見ました」
 
「学校の授業ではよく質問とかする方ですか?あまり発言しない方ですか?」
「しばしば眠っていて、先生によってはチョーク投げつけられます」
 
審査員さんたちが笑っている。
 
「生活リズムは朝型ですか?夜型ですか?」
「夜型です。朝に弱いです」
「遅刻は多い方ですか?」
「今日は遅くなって済みません。あまり遅刻はしないんですが、方向音痴なもので」
 
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また審査員さんたちが笑っている。どうせ落ちるだろうけど、せっかくだからkankanのオーディション二次審査まで行ったと人に言えるように堂々とやろう、と思う。
 
「レストランに入った時、みんなと同じ物を頼むタイプですが、違う物を頼むタイプですか?」
「同じか違うとか関係無しに、自分の好きな物を頼みます」
 
この答えに審査員たちが顔を見合わせて頷いていた。
 
更に色々質問される。他の人は3〜4分くらいだったみたいなのに、なんか時間が掛かってる気がするな。それとも面接受けてると時間の経ち方が早く感じられるのかな?、などと思いながらも笑顔で答えている。最後の質問を終えてから、審査員たちが何だか頷きあっている。それで
 
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「では控室に戻って普通の服に着替えてください」
と言われた。
 
え?嘘?二次審査合格?
 
銀色のリボンを30歳くらいの女性が付けてくれようとしたが・・・
 
「これあなた自分で付けて」
と言われた。
 
あはは、やはりこの場所はまずかったか。でも二次審査通過って凄っ!
 
それで絢香はリボンを自分で番号札の上に付けると
 
「ありがとうございました」
と審査員たちに礼をして部屋を出て、控室に戻った。もう全員普通の服に着替えている。自分も水着を脱いで着てきた服に着替えた。
 

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お弁当とお茶が配られる。
「次の審査は13時半から始めます」
と言われた。また新しい番号札1〜8が配られた。
 
絢香はお弁当を開けて食べたが、美味しかった。まだ暖かい。この時間に合わせて調理したのだろうか。食べ終わってからこの弁当のからはどうすればいいんだろう?と思っていたら4番の番号札を付けた人が
 
「これ隅のテーブルにまとめておきましょうか?」
と言って、からを集め始めた。隣の3番さんと5番さんのからをもらう。絢香も席を立ち、隣の7番さんのからをもらい、1番さんのをもらおうとしたら彼女は全然手をつけてない。
「ごめんなさい。これから食べられるんですね?」
「いえ。食べません。片付けていいです」
と1番さんは言っている。
 
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「あ、だったら私もらってもいい?」
と2番の人が言うので
「いいですけど」
と1番の人もいい、2番さんはそのお弁当を自分のバッグに入れてしまった。
 
それで4番さんが3つ、絢香が2つ、2番さんも2つ弁当のからを持ち、隅に置かれたテーブルの上にまとめて置いた。ペットボトルのからもこの3人で集めて弁当のからの隣に置いた。
 

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この様子が実は室内に置かれたカメラで全部審査員がいる部屋で見られていることを、参加者たちは全く知らなかった。
 
「2番・8番に+10点、4番に+20点かな」
などと立川ピアノが言っていた。
 

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