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■娘たちの卵(21)

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(C)Eriko Kawaguchi 2018-12-21
 
龍虎は8月10日にロックギャルコンテストで優勝した後、通学している中学校にも芸能活動と学校生活の兼ね合いについて、担任と学年主任、生徒指導担当、校長と教頭、そしてこちらは田代夫妻も交えて相談し、活動予定表の一週間前までの提出(変更は可能)、送迎する車と運転手の事前届け出など、また校内でのサイン・写真撮影の禁止、携帯電話は授業中切っておくことなどを決めた。また髪型については非常識でない範囲で学校規定を適用しないことにしてくれた。
 

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「でもアイドルデビューですか。田代さん可愛いから、そういう生き方もいいと思いますよ」
などと教頭は言っている。
 
「いや、オーディション受けると聞いた時は、そういうの受けたりするのもひとつの経験と思ったのですが、まさか優勝するとは思っていなかったので驚きました」
と田代父。
 
「それでは、学籍簿の方はすみやかに変更しますので、2学期からはセーラー服での通学でOKです。ただ、できたら性別が変更された保険証か何かを今度でいいですから、持って来てもらえますか?」
と校長が言う。
 
「は?」
 
「でも性転換手術はいつなさるんですか?あるいは夏休み中に済ませられたんでしょうか?」
と担任。
 
「ボク性転換とかしません」
と龍虎。
 
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「え?アイドルするというから、女の子になるんでしょう?」
と教頭。
 
「いえ。男の子アイドルですよ」
と田代母。
 
「え?そうだったんですか!?」
「てっきり女の子アイドルとして売り出すのかと」
「すみません。勘違いしてました」
と担任も校長・教頭も言った。
 
「でも何度か田代さんがセーラー服を着ているのを見たのですが」
と担任がおそるおそる言う。
「ああ。友だちにうまく乗せられて、着ちゃったりしてるみたいですね」
と田代母は苦笑しながら言った。
 
「いじめではないですよね?」
と校長。
 
「本人はセーラー服着て喜んでいるから問題無いです」
と母が言うと、龍虎は恥ずかしそうに俯いた。
 

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9月7日(日)にフレッシュガールコンテストに“間違って参加”し、優勝してしまった佐藤絢香だが、それを聞いた両親は驚愕するものの、両親とも元々ミーハーな性格で、お父さんはE-girlsはじめFlower, DreamなどのファンでDream5もClariSも、ももクロも大好き、お母さんはジャニーズフリークで、特にSexy Zoneの熱烈なファンという人だったので、ふたりとも喜んで娘のアイドル活動に同意してくれた。お陰で契約の話はとんとん拍子に進むことになった。
 
契約書は、法律に明るい伯父にチェックしてもらいたいと母親が言ったので、その人に確認してもらって9月下旬くらいに契約書にサインする予定である。§§プロ側でも常識的な範囲の条文調整には応じるつもりなので、10月以降、絢香がアイドルとして活動することがほぼ確実になった。学校は現在公立中学に通っているので芸能活動は校則で禁じられていない。ただサッカー部は退部させてもらう。また高校は芸能活動に理解のある私立高校に行く方向で考えることにした。
 
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「芸名なのですが《品川ありさ》というのを考えたのですが、どうでしょう?」
と紅川社長は提案した。
 
「ああ。地名シリーズなんですね」
と§§プロの過去のタレントの名前に通じている父が言う。
 
「はい。うちは新宿信濃子、上野陸奥子から始まったプロダクションで過去に立川ピアノ、大宮どれみ、日野ソナタ、川崎ゆりこ、といった歌手が売れています。今回のフレッシュガールコンテストの少し前に7〜8月にはロックギャルコンテストというのも実施したのですが、そちらの初代ロックギャルに選ばれた子は、高崎ひろかの名前でデビュー予定です」
 
「なるほどー」
「地名じゃない人もいますよね」
「そうですね。春風アルト、冬風オペラ、秋風コスモス、桜野みちるもよく売れました」
 
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「訊いちゃいけないのかも知れませんけど、明智ヒバリちゃん、どうなったんですか?」
とお父さんが尋ねる。
 
「ご心配なさるのも無理無いと思います。実は病気になって現在入院中なんですよ。たぶん年末くらいまでには退院できて、自宅療養して春くらいには復帰できると思うんですが。ただ、プライベートなことなので、できたら人には言って欲しくないのですが」
 
「分かりました。それは誰にも言いません。死亡説も出ていましたが、生きているんですね?」
「はい。間違い無く生きています」
 
そして紅川はおそるおそる両親に意向を尋ねた。
 
「実をいうと、その明智ヒバリでアサインしていたドラマで来月撮影して、年末に放映する予定のものがあったのですが」
「はい?」
 
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「もし可能だったら、契約してすぐになりますが、佐藤さんに代わって出ていただく訳にはいかないかと思って。ヒバリちゃんが急に病気になったので、かなりの仕事を、桜野みちる、川崎ゆりこ、神田ひとみ、などに代行させたのですが、手が回らないのが現状で」
 
「それって元々は千葉りいなちゃんにアサインされていた仕事もあったりは?」
とアイドル事情に詳しいお父さんが突っ込む。
 
「面目ない。実はそうなんですよ」
 
千葉りいなはこの夏に引退してしまった。彼女の引退も急だった。彼女は病弱で、実際問題として活動期間の半分くらい、病院のベッドの上に居た。
 
「千葉りいなちゃんは身体が凄い細かったですもん。この子にアイドルとか務まるのかなあと思っていたし、明智ヒバリちゃんは精神的に弱そうだった。入院って、精神病院でしょ?」
とお父さんが言う。
 
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「すみません。それはノーコメントで」
「分かりました。それは詮索しません。でもうちの娘は身体も心も丈夫だから、平気ですよ。な?」
 
「うん。私は元気で丈夫なのが取り柄。男の子と喧嘩して負けた記憶無いからお前男だろ?とか言われるし、小学校は皆勤賞だったし、悪口言われても3秒で忘れる」
などと本人も言っている。
 
「だったら今月中に契約が頂けたら、10月からのお仕事に投入してもいいですか?」
「はい。ぜひやらせて下さい」
と佐藤絢香(品川ありさ)は元気よく言った。CDデビューも11月くらいの線で調整することになった。
 
ありさのデビューが早まったのは、龍虎と一緒にロックギャルとしてデビューすることになった柴田邦江(高崎ひろか)は、アクアと相前後してデビューさせたいので、結果的に年末くらいまで使えず、それでオーディション時期としては逆転するものの、こちらを先にデビューさせたいということになったためである。
 
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実をいうと以前はフレッシュガールコンテストからの登用者は1年程度の訓練期間を経てデビューさせていたのだが、相次ぐ主力アイドルのリタイアで、§§プロはこの時期、綱渡りの運営になっていたのである。そして品川ありさはその救世主になってくれた。
 

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桃香がその日千里のミラを勝手に使って季里子の家に行き、ベビー用品を含めて色々お使いを頼まれたので、イオンまで往復して来た。
 
「桃香さん、すみませんね」
と言うお母さんもニコニコである。すっかり季里子の“夫”並みに扱ってもらっている感じだ。
 
それで一緒にお昼を食べていた時、桃香に電話が掛かってくる。銀行からで、残高不足で自動引き落としのが落とせないということである。
 
「すみませーん。すぐ入金に行きます」
と答えて、どこかに残高の残っている口座は無かったかなと思い、バッグから通帳を取り出そうとした。その時バッグがひっくり返ってしまったのだが、そこに青い宝石ケースがあった。しかも宝石ケースは落ちた拍子に開いてしまう。
 
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「あら、それは?」
「えーっと」
「これ、2年前にもらった結婚指輪だ」
と季里子が言う。
 
それは実は季里子に贈った結婚指輪が返却された後、改鋳して千里の指サイズに合わせて千里に贈ったものの、そちらも破談になって千里から返却されたものである。
 
「そ、そうだね。ちょっとサイズ変更したけど」
と桃香が焦りながら言うと
「でもMO to CHの刻印はそのままだ」
と言われる。
 
「そうだね」
 
「填めてみていい?」
「えーと。まあいいかな」
 
それで季里子が填めてみると、ピッタリである。
 
「すごーい。私の今の指サイズに合わせて調整してくれたのね?」
 
季里子は自分のためにサイズ直しをしてくれたものと思い込んでいる。
 
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「そう?ピッタリだった?」
「ありがとう。だったらこれ私、もらってていい?」
「うん。まあいいかな」
 
それでこの指輪は季里子が持つことになってしまったのである。季里子のお母さんもニコニコしていた。
 
なお残高不足の件だが、結局季里子のお母さんが1万円貸してくれたので、それを持って銀行の支店まで行って来た。お母さんには今月中に返しますと言っておいた。
 

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2014年9月13日。千里はインプレッサに乗って東京北区のナショナル・トレーニング・センターのアスリート・ヴィレッジに行った。玄関から出てきた貴司を乗せて、平塚市に向かう。
 
貴司は現在日本代表合宿の最中なのだが、大会があるので抜け出していくのである。行程約70km, 1時間半の短いデートで、平塚市のサンライフアリーナに行く。ここで9月13-15日の日程で「全日本実業団バスケットボール競技大会」が開かれる。先週は全日本クラブバスケットボール選抜大会が行われた会場である。
 
貴司たちのチームMM化学は昨年秋の近畿実業団バスケットボール選手権大会で2位になり、この大会に出る資格を得た。この大会で6位以内に入ると11月に山形で開かれる全日本社会人選手権に出場することができる。
 
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千里は控室まで付いていき、チームに差し入れなどもした。
 
初日は関東のチームと当たったが、接戦の末3点差で勝利する。2日目の準々決勝は九州のチームと当たったのだが、これを大差で落としてしまう。3日目の5-8位決定戦では北陸のチームと当たって、これもかなりの接戦だったのだが、最後は貴司のブザービーターで1点差逆転勝ちした。
 
これで貴司たちのチームは5-6位となり、チーム創成以来初めて全日本社会人選手権の切符を掴んだ。なお、準々決勝で貴司たちのチームに勝った九州のチームが優勝したので大会規定でMM化学は5位の扱いになった。
 
打ち上げには千里は出席は遠慮して先に帰ったものの、ビールを1箱差し入れておいた。チームは平塚市内で打ち上げをして、最終新幹線(平塚20:08-20:56品川21:27-23:45新大阪)で大阪に戻った。そして貴司は16日朝一番のピーチ便で韓国の仁川(インチョン)に渡った。
 
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KIX 7:50 (MM1) 9:35 ICN
 
なお、男子日本代表の他のメンバーは昨日15日に成田から仁川に渡航している。
 
また女子代表の方はこの時期、合宿の合間になっていたので、この実業団競技大会にジョイフルゴールドは、玲央美と、この大会のために帰国した王子も参加して出場。圧勝で優勝した。むろん11月の全日本社会人選手権に出てくる。
 

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