広告:ここはグリーン・ウッド (第1巻) (白泉社文庫)
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■娘たちの卵(3)

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7月25-27日には苗場ロックフェスティバルが開かれた。これに千里も演奏参加することになった。もっとも最初は参加する予定など全く無く、蓮菜に誘われて観客としてチケットを買って行ったのである。
 
演奏者の多くが24日に苗場最寄りの町、越後湯沢に入っている。千里は蓮菜と一緒に26日に苗場に入り、普通の入場者として中に入り、KARIONの楽屋に陣中見舞いに行った。
 
この時、千里は七星さんから
「醍醐さんの龍笛をぜひ聴きたい」
と言われ、七星さんから言われては仕方無いかと吹いてみせる。
 
七星さんは驚いた様子で
 
「私は龍笛という笛の音を勘違いしていたよ」
と言った。
 
「まあ篠笛みたいな吹き方をなさる方が多いですね」
と千里も笑顔で言った。
 
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千里の演奏を聴いた和泉は『雪のフーガ』に含まれるフルート三重奏を吹いてくれないかと言い、これを七星さんと千里に風花の3人で吹くことになった。
 

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そういう訳で千里はチケットを買って観客として入って来たにもかかわらず、苗場のステージに立つことになった。パフォーマー用のタグは加藤課長に頼んで発行してもらった。
 
更に美空は千里に『夕映えの街』の背景で舞を舞ってくれないかと言い、なぜか持って来ている巫女衣装(用意が良すぎると言われる)で舞った。
 
その後でその巫女衣裳を脱いで、普段着のままフルートを吹く。これは急に言われたので、日常作業用に持っていた Yamaha YFL-221 を使用した。
 
その演奏を終えた所にバスケットのゴールが持ち込まれ、なぜか来ている薫が千里にボールをパスする。千里はフルートを SHIN の所に投げるとそのボールを受け取りドリブルを始める。そのドリブルに合わせてトラベリングベルズが伴奏を始め『恋のブザービーター』をKARIONは演奏した。この時、フルートを受け止めてしまったSHINは、そのまま千里のフルートでこの曲を演奏した。
 
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そして曲の最後には運び込まれているゴールめがけて千里がシュートをし、これが美事にゴールするので、会場では大きなどよめきが起きた。
 
美空は
「バスケットボールU18元日本代表シューターの村山さんでした。拍手!」
と千里を紹介した。
 
なお薫が居たのは、この年、ローキューツがローズ+リリーの『苗場行進曲』でユニフォームで行進するパフォーマンスをしたためである。ヒナさんの性転換手術後のお見舞いの場で冬子と薫が遭遇した縁で引き受けたらしい。
 

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ステージが終わった後で、“フルートをパス”した件についてSHINが言っていた。
 
「フルートが飛んできてびっくりしたけど、俺の手の中にフルートの側から飛び込んで来たんでキャッチした」
 
「SHINさん、それ、twitterに書いといてください。あれ楽器を粗末に扱ったと誤解する人がいたらいけないから」
と美空が言う。
 
「それでも万一落としたら大変なのに」
と冬子が言うが
「まあ白銅製フルートだからね。総銀フルートならさすがに投げない」
と千里は言っている。
 
「千里は世界一のシューターだもん。あの距離ならストライクで渡せるよ」
と便乗して控え室に付いてきている薫が言う。
 
「そういえば、元日本代表とか言ってたね」
と冬子が訊く。
 
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「千里は2008年からU18,U19,U20,U21と毎年日本代表になっているし、2011年にはU21とフル代表も兼任した」
と薫が言う。
 
ああ、薫も私が昨年日本代表やったの知らないなと思う。それで千里は
 
「古い話だよ。過去の栄光だよ。2012年は途中で代表から落とされたし、その後は代表候補にも呼ばれてないし」
 
と笑顔で言っておく。
 
「それって女子の代表だよね?」
と冬子が確認するが
「千里が男子の代表になる訳無いです」
と薫は言う。
 
「でも2008年から日本代表してたって、大会はどこであったの?」
と冬子は訊く。
 
「U18はインドネシア、U19はタイ、U20はインド、U21はアメリカ。2011年のフル代表アジア選手権は日本の長崎県だよ」
「じゃ海外渡航する時はパスポート使っているよね」
「そりゃパスポートも無しに出入国したら密入出国だ」
と言いながら、最近はそれが日常茶飯事だな、と千里は思う。
 
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「パスポートの性別は?」
「内緒」
「うむむ」
 
美空はクスクスと笑っている。
「千里も冬も多分本当は生まれた時から女の子だったんだよ。男の子の振りしてただけ」
 
「いや、それは違う」
と冬子も千里も言った。
 

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27日には昨日のKARIONと同様、午後1番にローズ+リリーのステージがあったが、このライブを千里は美空に誘われて楽屋で聴いていた。その後は撤収作業になるので、どさくさに紛れて会場を出て、千里は東京に戻った。
 
越後湯沢16:08-17:20東京
 
そのまま東海道新幹線のホームに移動し、大阪から来た貴司を迎える。
 
新大阪16:10-18:43東京
 
キスして迎える。
「これお夜食に買っておいた」
と言ってパンの包みを渡す。
「ありがとう」
 
改札を出て駅前からタクシーに乗り、一緒に北区のNTCまで移動する。明日から男子の代表合宿が始まるのである。
 
そしてNTCの選手村前で
「合宿頑張ってね」
と言って送り出した。千里はそのままタクシーで赤羽駅まで行き、葛西に帰還した。
 
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なお女子代表の方は7月25-30日の日程で、秋田・山形県上山市・仙台で壮行試合をやっている最中である。
 

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2014年8月1日(金).
 
今年のインターハイ・バスケットボール競技の開会式が行われた。競技は2日から7日まで行われるが、男子は船橋市、女子は八千代市の男女分離開催である。
 
旭川N高校は3年ぶりのインターハイであるが、3年前までと同様に、女子部員全員28名を連れて千葉に出てきた。2011年までは2007年から5年連続出場したので部員数も増えていたのだが、2012-2013年にインターハイ・ウィンターカップの出場を逃すと、やはりインターハイに出た旭川L女子校の方に実力のある新入生が流れてしまい、結果的に部員数も減少して3学年で28名しか居ない。
 
今回千里はこの28名の部員の宿泊費・食費・交通費相当として300万円を寄付しているので、それで学校も全員を連れてくることができた。またインターハイの期間中、千城台体育館を自由に使ってもらっていいことにしたので、早朝から深夜まで、美月や英美などが熱心に練習していた。
 
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部員の他に、宇田先生、南野コーチ、白石コーチ、保健室の大島先生、それに朝日校長が来ているが、先生たちの費用は学校から出ている。実は選手12人分の交通費と宿泊費も学校から出ているのだが、千里の寄付があったので、それは諸経費用に転用させてもらうと言っていた。
 
ちなみに校長の朝日先生は、千里が在学していた当時は教頭だったが、今年校長に昇格。健康不安を抱えていた元校長は現在副理事長になっている(でも若い奥さんとの間に子供も産まれたばかりである)。
 
N高校遠征組では、関東周辺にいるOGに声を掛けて、練習相手になってもらうことになり、これに川南・夏恋・暢子・雪子、蘭・司紗、松崎由実、原口揚羽・紫の姉妹、ソフィア、越路永子、夏嶺夜梨子などが応じた。
 
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「千里は来られない?」
「ごめーん。忙しい。でもどこかで顔を出すね」
「宇田先生が『こんな凄い先輩が居たんだぞ』というので、もらったメダルとか賞状とか後輩に見せてやってくれてと言ってたぞ」
「じゃ、そういうの持って行くよ」
 

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8月2日(土)の日本時間で午前4時頃までグラナダで練習をしていたので、その後、グラナダのアパートで6時間ほど寝てから、葛西で待機していた《すーちゃん》と位置交換してもらう。それでのんびりと朝御飯?を食べてから、メダルや賞状、記念品などを適当にセレクトしてカバンに入れる。そして千里は葛西の駐車場に駐めているインプレッサに乗り、八千代市に向かった。この日の試合スケジュールはこのようになっている。
 
1 9:30 GHIJK
2 11:00 GHIJK
3 12:30 GHIJK
4 14:00 GHIJK
5 15:30 GHIJK
6 17:00 GH
 
G,H:八千代市市民体育館 I:八千代松陰高校 J:秀明八千代高校 K:東京成徳大学
 
旭川N高校の試合は第5時間帯、15:30-17:00 八千代松陰高校である。それで千里は途中で《こうちゃん》と運転を代わり、会場前でおろしてもらった。どこか適当な場所に駐めておき、終了した頃に迎えに来てもらう。
 
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会場に着いたのは14:00頃であった。
 
会場に入っていき、旭川N高校の選手たちの居る場所を見つけて寄って行く。
 
「こんにちは〜」
と千里が声を掛けると、暢子が
「重役出勤だな」
と言った。
 
「村山君久しぶり」
と宇田先生も笑顔である。
 
それで千里が持って来たカバンを開けて、中の賞状やメダルなどを見せると
 
「すごーい」
という声があがる。
 
「インターハイの銅メダル2枚、ウィンターカップの銀メダル、国体優勝の賞状、U18アジア選手権の金メダル、U19世界選手権7位の賞状、U20アジア選手権の金メダル、U21世界選手権の銅メダル、2013年アジア選手権の金メダル」
 
「スリーポイント女王の賞状がたくさん・・・」
「ああ。たくさんあるね」
と千里も笑顔である。
 
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「みんなも頑張れば取れるよ。取り敢えずこの大会優勝しようよ」
「優勝!?」
 
どうも誰もインターハイで優勝などということを考えもしていなかったようである。
 
「よし頑張って暢子先輩たちも取れなかった金メダルを取って帰りましょう」
と調子の良い2年生の美月が言う。
 
すると暢子が
「なぜ貴様はそこでわざわざ私の名前を出す?」
といって、また美月にヘッドロックを掛けている。
 
「痛い、痛い、試合前にやめて下さーい」
 

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しばらくバスケの理論的な話などしていた時、OGたちの現在の所属の話になる。
 
「私は関東実業団のBC運輸。今日は来てないけど胡蝶ちゃんもチームメイト。関東の実業団ではMS銀行に行った不二子ちゃん、KL銀行に行った昭子ちゃんと永子ちゃんもいるけど今日は来てない」
と夏恋が言った。
 
「私も関東実業団のJP運輸だけど2部だから1部のチームに行った夏恋たちの方が凄い。同じチームに田崎舞さんもいる」
と川南。
 
「あと私たちは関東のクラブチームだな。千葉のローキューツに所属している子と東京の40 minutesに所属している子がいる。40 minutesは今年登録したばかりの新しいチームでまだ実績がないけど、ローキューツは全日本クラブ選手権を三連覇しているしオールジャパンにも2012年に出ている」
と暢子が言う。
 
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「誰かWリーグに行った人は居ないんですか?」
という質問がある。
「Wリーグに行ったのは蒔田優花さんだけかな。私たちより9年上。オールジャパンでMVPも取っている」
「すごーい!」
 
「それ以降はWリーガーは出ていないかも」
と川南が言うと、またまた美月が
「なーんだ」
と言うので、暢子に「貴様なぁ」と言われてヘッドロックを掛けられ、みんな呆れて見ている。
 
福井英美が少し寂しそうな顔をしていた。
 

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あと10分くらいで試合が始まるという時、千里がロビーで電話をしていたらその福井英美がトイレに行くのかこちらに出てきた。少し緊張したような顔をしている。やばいなと思う。
 
千里は電話を「また後で」と言って切ると、英美の所に歩み寄った。
 
「英美ちゃん、初戦は緊張しやすいけど、今日の相手は負けるような相手じゃないからさ。普段通りの気持ちで頑張ろう」
「はい。深呼吸したりして自分を落ち着かせています」
 
ああ、やはりかなり緊張しているなと思う。
 
「そうだ。さっきの場では言わなかったけどさ。これが私の現在の所属チーム」
と言って、千里はレオパルダ・デ・グラナダの選手証を見せた。
 
「これは・・・スペイン?」
「そそ。スペインLFBの1部に所属するチーム」
「え?でもなんかクラブチームに入っていると言いませんでした?」
 
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娘たちの卵(3)

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