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■娘たちの卵(13)

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(C)Eriko Kawaguchi 2018-12-15
 
龍虎は夏休み中はバレエのレッスンに行く回数を増やしたこともあり、8月中旬頃には完全にトウで立って演技ができるようになった。先生たちも龍虎の上達のスピードには驚いていた。
 
「年末で辞めるって惜しいわあ」
「でも芸能デビューって凄いね。龍ちゃんなら凄く可愛い少女アイドル歌手になれるよ」
と言ってから
「あれ?少年アイドルだっけ?」
と訊かれる。
「女の子アイドルになってもいいよと言われましたけど、男の子として活動したいですー」
と龍虎は答えた。
 
「ちんちん無いし、おっぱいあるんだから女の子に準じていいと思うけどなあ」
などと日出美は言っていた。
 

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夏休み中は例によって蓮花がオーストラリアの別荘に行っていて欠席なので、『白鳥の湖』冒頭の人間のオデットが魔法を掛けられて白鳥に変身するシーンは日出美と龍虎で練習していた。ベニヤ板で作った岩の書き割りの後ろに日出美が入り、その影に隠れていた龍虎がパ・ド・ブレ(細かく足を動かす動作)で躍り出る。
 
日出美がロマンティックチュチュで人間体のオデットを演じ、龍虎がクラシック・チュチュで白鳥体のオデットを演じるのである。
 
夏休みの段階ではまだ書き割りが作られていないので、カラーボックスを1個置き、それを岩に見立てて練習した。
 
「ドラゴンジュニアフェスティバルでは日出美ちゃん頑張ってね」
「龍ちゃん、1月までしてくれたらいいのに」
「ごめんねー。今年は台湾に行って公演というからボクも楽しみにしてたんだけど」
 
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結局年末の発表会では龍虎と蓮花のダブルキャストでやるが、ドラゴンジュニアバレエフェスティバルでは、日出美と蓮花のダブルキャストで演じることになる。オディールを蓮花、4幕のオデットは日出美が演じるが、1〜2幕のオデットをどちらが演じるかはまだ決めていない。
 
「でも蓮花ちゃん、まだ15回くらいしか回転できないって言ってた。オーストラリアに行ってる間にも練習するとは言ってたけど」
 
「まあ年末までに32回できるようになればいいんだけどね」
 

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ライブの途中で錯乱した様子を見せたヒバリは幕を下ろした後、数人の男性スタッフの手で控室に連れ戻された。水を飲ませたり、月原が手を握ってあげたりしている内に本人も少し落ち着いたものの、今度は「ごめんなさい、ごめんなさい」と言って泣き出す。しかしまだ表情は少しボーっとしている。
 
八雲が東京にいる紅川社長と電話で話してライブの中止を決めた。紅川自身もすぐこちらに向かうということだった。
 
「病院に連れて行きましょう」
と言った月原マネージャーに対して、腕を組んで考えていた★★レコードの八雲礼朗は言った。
 
「いや。病院に連れて行ってはいけない」
「え〜〜!?」
「ちょっと電話します」
と言って八雲はある所に電話して少し話していた。
 
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ちなみにここはヒバリが安心できるように“女性のみ”にしていて男性スタッフは遠慮しているのだが、概して八雲は女性だけの場に居ても全く違和感が無い。ヒバリは公演前には八雲の“鍋シャツの中に手を突っ込んで”「これDカップくらいありません?」などと言って無邪気に笑っていた。
 
しかし八雲はあの時点で既にテンションが高すぎたかも知れないと考えていた。シャツの中に手を突っ込んできたのは、ヒバリの他にはステラジオのホシくらいだ。
 
「月原さん、ヒバリちゃんのおしっこをふたのできる紙コップに取って欲しい」
「おしっこ!?」
 
八雲は更にテーブルの上にある飲みかけのコーヒーも見た。
「これはヒバリちゃんの飲みかけ?」
「はい」
「これもふたをして東京に持って行こう」
「へ!?」
 
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「これは明らかに薬物中毒の症状なんだよ。彼女、誰かに盛られたんだと思う。病院に連れて行けば、彼女を診察した医者は警察に通報する義務が出る。そうすれば彼女のタレント生命は終わってしまうし、下手すれば§§プロが潰れる」
 
と八雲は言った。
 

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その日、夜21時すぎに、日登美と鏡子は、横浜網美と新宿の居酒屋で会った。
 
横浜網美の説明はこうであった。
 
元々&&エージェンシーは歌手の麻生有魅子の個人事務所として設立され、当時のマネージャーだった悠木稀治が60%、麻生自身が40%出資して設立された。1995年に悠木稀治が亡くなった時、株式は娘の栄美が35%、弟の朝治が25%を受け継いだ。ふたりは自分たちは芸能界のことはよく分からないからと言って、斉藤邦明を社長として雇った。
 
今年2月に麻生有魅子が、6月に悠木朝治が亡くなった。麻生有魅子が所有していた株は20%を娘の麻生杏華が、10%ずつを弟の麻生二郎と甥の麻生道徳が引き継いだ。悠木朝治が持っていた株は息子の悠木朝道が引き継いだが、実は悠木朝道は悠木栄美と結婚している。栄美が35%, 道徳が25%持っているので夫婦で60%の株を持っていることになり、重要事項以外の多くの事案をふたりだけで決定できる。
 
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┌麻生一郎──道徳(10)
├麻生有魅子─杏華(20)
└麻生二郎(10)
 
┌悠木稀治─栄美(35)
│      ‖
└悠木朝治─朝道(25)
 
そしてその悠木朝道氏が8月18日に突然来社して斉藤社長を解任し、自らが社長に座ったのである。
 
「私、凄く不安。新しい社長さん、どうも経営についても音楽についても業界の習慣についても素人っぽいんですよ。白浜さんがいれば何か相談できるんですけど」
「白浜さん、結婚退職しちゃったもんね!」
 
長らく&&エージェンシーのデスクをしていた白浜藍子は6月に退職し、7月に郷里の四国で結婚したのである。
 
現在、新社長が雇った原田さんという人がデスクに座ったものの、彼女は地方のイベンターで仕事をしていた人で、中央のプロダクションの仕事は全く経験が無く、作業漏れが大量に発生して、その度に横浜がフォローに走り回っている現状らしい。
 
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「それは大変だけど、網美ちゃんが頑張るしか、この状況を乗り切る方法は無いよ。新しい社長さんとデスクさんが慣れるまで辛いだろうけど頑張って。何かあったら、私たちもできるだけのことはするから。人脈は結構あるし」
 
「済みません、お願いします」
 

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その日、XANFUSの楽器担当4人(通称"Purple Cats")mike, kiji, noir, yuki(太田美紀子・若村貴子・升山黒美・黒井由妃)は事務所に呼び出されて出てきたが、いきなり新社長の悠木朝道から
 
「君たちとの契約を解除する」
と言われた。
 
「以降XANFUSの伴奏は打ち込みで行くから」
と悠木は言った。
 
「それはXANFUSの音楽ではありません」
とリーダーのmikeが言う。すると悠木氏はカチンと来たようである。
 
「うちの事務所のアーティストがどういう路線で行くかは事務所が決める。バックバンド演奏者ごときが口答えするな。すぐ退出しなさい」
 
それで4人は無言で挨拶もせずに社長室を出た。
 
社長室を出た4人に若い社員、原田が声を掛けた。
 
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「お疲れ様です。何か急な話で申し訳ありません。契約解除の違約金を払うよう言われております。現金で用意しておきました。金額を確認して受領書に印鑑を頂けますか?」
「OKOK」
 
それで4人は各々計算書を見て金額を確認の上、印鑑を押した。
 
「私も6人で生バンドで演奏するXANFUSが好きなのに。社長さんの考え方は私もよく分かりません。唐突に思いがけないこと言われるので、横浜さんと2人で右往左往している状態で」
 
などと言っている。本来そういう内輪な話を人にすべきではないはずだか、よほど混乱しているのだろう。
 
「あんたも大変みたいね!」
「いえ。私がドジなもので横浜さんにご迷惑ばかりかけていて」
「まあ頑張ってね」
とkijiが笑顔で言った。
 
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貴司は8月18日に台湾から帰国した後は、一週間市川ラボと大阪の会社を往復する日々を続けていた。24日にアジア大会の選手が発表され、貴司はこれに入っていた。それで翌日25日から29日まで東京のNTCで合宿。その後8月30日から9月6日までオーストラリア遠征に参加した(*3)。遠征が終わると9月9日からまた国内合宿が始まる。
 
(25日の合宿に入る時、東京駅から合宿所まで、千里のインプで送ってもらった)
 
貴司たちが成田から出発する8月30日は、千里は福岡でKARIONライブをやっていたので見送ることはできなかったが、電話して「頑張ってきてね」と言った。
 

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(*3)本当は代表発表は8月26日、合宿が27-31日でオーストラリア遠征は9月1-8日、国内合宿は9月11日からだったのですが、物語の都合で日時を2日ずらしています。
 

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9月2日(火).
 
千里が銅剣の制作を頼んでいた工房から、完成したという報せが週末に来ていたので、千里はこの日、それを取りに行った。これを受け取るために千里は大宮でローズ+リリーの打ち上げが終わった後、9月1日の朝からずっと絶食している。(ミネラルウォーターだけ飲んでいる)
 
そして受け取った日の深夜。千里はその銅剣を持って玉依姫神社に行った。社務所内のシャワールームで水を浴びて潔斎すると、裸の上に白い衣裳を着た。
 
ここは社務所自体は20時で閉めてしまうが、その後も0時近くまではデートするカップルが絶えない。暗くすると危険なので(犯罪などの他、崖からの転落も考えられる)街灯は朝まで点けたままであるが、ここに更に防犯のため監視カメラも設置している。
 
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実はデートレイプされそうになった女の子を、神社の招き猫が飛び出してきて助けてくれたという投稿が『関東不思議探訪』のサイトにあり、それで谷崎潤子が《招き猫さんにインタビュー》なんてのもやっていた。それで『招き猫が守ってくれる神社』などという噂まで立っていた。
 
それを聞いた千里は、助けてあげたのはきっと“ルパン”だなと思った。聡子ちゃんも一度ここに来ればいいのに。
 
千里は社務所内の、千里だけが鍵を持っている特殊操作卓を開け、大元の電源ブレーカーを切った。
 
監視カメラは停止するし、街灯も駐車場まで含めて消える。トイレの灯りも消える。周囲は真っ暗になる。この日の千葉地方の月入は22:37なので、辺りは星明かりのみになる。
 
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千里はいったん鳥居の所まで行き、深く礼をしてから参道を進む。そして祠の前で2拝2拍1拝して、銅剣を祠の前2mの場所に置いた。
 
特殊な祝詞を唱える。
 
その上で目を瞑ってじっと待つと、雷のような光が銅剣に落ちたのを感じる。
 
「もう良いぞ」
と《姫様》が言ったので、千里はそれをこの為に用意した麻のバッグに格納し、更にこの為に用意したアルミ製の箱の中に格納した。
 
その後千里は箱をインプレッサの荷室に納め、その周囲に特殊な結界を張る。その上で社務所に行き、ブレーカーを戻して街灯や監視カメラを復活させた。その上で普通の服に着替え、奉納されたまま放置されていたのを真知が回収してくれていたお菓子の箱をひとつ開けると、コーヒーも入れて食べた。コーヒー代100円は料金箱に入れておく。
 
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「お腹空いた〜!」
と千里は声を挙げたが
「まあ、絶食潔斎していないと、あれはお主が危険だからな」
と《姫様》は言った。
 
「このお菓子行けますよ。姫様も、いかがです?」
と言って差し出すとお菓子がすーっと消える。
 
「あ、美味しい美味しい」
と《姫様》も気に入ったようであった。
 
この日千葉市内では落雷を見たという人が多数いたが、気象台では雷雲の発生は観測していなかった。
 

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2014年9月6-7日(土日).
 
神奈川県平塚市のひらつかサンライフアリーナで、第3回全日本クラブバスケットボール選抜大会で行われた。ローキューツは決勝戦で長崎カステラズと激戦を演じたものの、最後は“ラッキーガール”水嶋ソフィアのスリーで逆転。1点差で勝利して優勝した。
 
ローキューツ、長崎カステラズ、札幌スノーフェアリーズの3チームが全日本社会人選手権に進出する。スノーフェアリーズには留実子が所属している。
 
なおこの大会は2月に行われた関東クラブ選手権の上位チームが出場しているので、4月に登録した 40 minutes は今年はまだ参加できない。
 

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さて、9月7日から9日まで、千里は物凄い大移動をしたのだが、それはこのように始まった。
 
9月7日(日)はKARIONツアーの最終日で12:00から14:20頃まで横浜エリーナでライブが行われた(前日は名古屋でライブをしている)。終了後は会場近くのホテルで打ち上げをした。それが終わると千里は、新幹線で東京駅に出て、インプレッサを持って来てもらった《こうちゃん》に拾ってもらう。
 
「じゃ成田までよろしく〜」
「へいへい」
 
貴司たちは9月6日のタウンズビルでオーストラリア遠征を終え、次の便で帰国した。
 
TSV 9/7 915-1010 CNS 1320-2000 NRT
 
成田空港で解散式があり、それが終わった所で千里が貴司をキャッチする。龍良さんと前山さんを見掛けたので会釈をしておく。
 
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「お疲れ様。帰ろ」
「うん。どうやって帰る?もう新幹線は無いし」
「インプレッサ持って来たから、それでドライブデート」
「千里体調は?」
「夕方から少し寝てたから大丈夫だよ」
「だったらいいか」
「貴司は寝てて」
「そうする」
 
それで貴司に後部座席に座ってもらい、千里が運転席に就いてしばらくおしゃべりしていたものの、貴司は
「ごめん。寝る」
と言って東京を過ぎたあたりで眠ってしまったので、千里も運転を《こうちゃん》に任せて意識を眠らせた。
 
一方《きーちゃん》はこの日夕方の便で北海道に飛び、札幌市内のホテルで一泊した。
 

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娘たちの卵(13)

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