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■娘たちの卵(7)

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2014年8月10日(日).
 
第1回ロックギャルコンテストの本選が新宿文化ホールの小ホールで行われた。2次予選の後、本人辞退と、保護者の芸能活動同意取り下げ(実際には勝手に親の印鑑を押していたケースと思われる)が数人あったものの、その分は辞退のあった地区で追加合格を点数次点だった人に連絡して補充。結局定員の24人で争うことになった。
 
この24人は、優勝しなかった場合でも、§§プロの練習生あるいは研究生になって、全国各地の提携芸能学校で優待料金あるいは無料で歌やダンスのレッスンを受けることができる。また優秀な子は§§プロの歌手のライブでバックダンサーやコーラスに登用されたりドラマや映画の端役に採用される場合もある。
 
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一般公開はされていないが、各出場者に6人まで付き添いできる(東京駅または羽田空港までの交通費および前泊・後泊のホテルクーポンも支給)。この6人の中に必ず親権者を入れることという条件が入っていた。その他に審査員と、シックスティーンおよび誠英社の他の雑誌等の記者が会場に入る。
 
つまり基本的に《内輪》のイベントとなった。
 
龍虎はこの本選に彩佳・宏恵・桐絵の親友3人および“両親”の田代夫妻、“親権者”である長野支香と一緒に出かけた。
 

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開始30分前に控室に出場者が集められる。1名の付き添い(女性限定)が認められるので、彩佳が付いていった。
 
彩佳は面白いなと思った。ここに集まっているのは、全員“アイドル”っぽくないのである。多分このオーディションはそういうアイドルっぽくない実力派を求めているんだ。これなら龍虎はかなり上位を狙える気がした。
 
誰か入ってくるので見たら、川崎ゆりこである。
 
ざわめきが起きる。
 
「みなさん緊張してませんか?」
と言ったら、ひとりの子が
 
「アースしてます」
と答えた。《緊張=金鳥⇔アース》という連想だが、笑ったのは半分くらいである。龍虎も笑っているので「ああ、大丈夫だな」と思った。ここで笑えないのは、マジで緊張しているということである。それに芸能人の魂として、誰かがジョークを言ったら、多少詰まらなくても“ノリ”で笑ってあげるものである。
 
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彼女は更に「これがアースです」と言って、紐のようなものを腰から垂らしている。これには苦笑があちこちから漏れている。
 
ゆりこはその子に
「君は合格確率が0.1%上がったな」
などと言っている。
 
「100%くらい上げてもらえません?」
「私に100億円くらい賄賂持って来たら考えていい」
「100円にまけてください」
「君、ほんと面白いね。名前教えて」
「北海道から来ました柴田邦江です」
「よしよし。覚えておこう。君にはマイナス20点投票しておく」
「え〜〜〜!?」
 
今回はほぼ全員が笑った。
 

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ゆりこが今日のオーディションの流れを説明する。
 
10:00からまず自己アピール。審査員室に1人ずつ入って、挨拶をしてから壁際まで歩き、戻ってきて中央の位置に立ち、笑顔で自分をアピールする。時間は1分以内で三次審査の時と同様である。歩いてもらうのは、歩く姿勢を見たいからで、モデルのオーディションではないので歩き方自体は採点対象ではない、とゆりこは説明した。
 
10:40くらいからダンス。全員水着を着てフロアに入り、音楽に合わせてダンスする。ダンスの振付はその場で振付師の人が指導する。10分間の練習時間を経て、本番は5分。振付師の人も見やすい位置に立って一緒に踊るのでどうしても覚えきれなかったら、振付師の踊りを見ながら踊ってもよい。
 
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水着になってもらうのは手足の動きを正確に見るためなので、スタイルは採点対象ではないから、お腹のサイズや胸のサイズに自信の無い人も気にしなくてよいと川崎ゆりこは言った。これには結構笑いが起きていた。
 
11:20くらいからステージに出て歌唱審査。採点の70%はこの歌唱審査なのでダンスなどで失敗した人も諦めずに全力でやって欲しいとゆりこは言った。
 

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ゆりこはその後、全員に声を掛けて回っていたが、龍虎の所に来てあれ?といった顔をして言った。
 
「君、ズボン穿いて来たんだね。スカートにしてと書いていたと思うんだけど。ウォーキングの時の足の動きを見るのに、ズボンでは分かりにくいんだよね」
 
「え?それ女の子だけかと思いました」
と龍虎が答える。
「君、女の子じゃない訳?」
と川崎ゆりこが言う。それに龍虎が答えようとしたのを彩佳が遮って言った。
「すみません。この子時々自分の性別が分からなくなるんです。今着換えさせますので」
「うん。よろしく。自分の性別が分からない人は胸に触ってみよう」
と言って川崎ゆりこは龍虎の胸に触り
「君は間違い無く女の子だよ」
と言った。
 
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「私も何度か一緒に温泉とかに入って女の子なのは確認していますから」
「だったら問題無いね」
 
それでゆりこは、次の子の所に行ってしまう。
 
「龍、これに着換えて」
と言って、彩佳はスカイブルーの膝丈チュールスカートを出す。
「やはりスカートなの〜?」
 
「いいじゃん。スカートの方が可愛いし、さっきゆりこさんが言ったように、スカートの方が足の動きがよく見えるんだよ。モデルオーディションとかでもスカートで参加するのが常識」
 
「まあいいけど」
 
龍虎もスカートを穿くのは嫌いではないので、その場でスカートを穿き、ズボンは脱いだ。脱いだズボンは紙袋に入れる。
 
「そういえば水着審査もあるんだね?」
「ちゃんと水着は持って来てるよ」
「ありがとう。それ不確かだった」
「でも振付を10分で覚えられるかなあ」
「龍は覚えるの速いもん。大丈夫だと思うけど」
 
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「でも水着になったら、おっぱいが少しあること変に思われないかな」
 
おっぱいが無い方が何か言われると思うけど、と彩佳は思った。
 
「そのくらい問題無いと思うけど。さっきも、ゆりこさんに触られたけど何も言われなかったでしょ?」
「あれ、ドキッとした」
 

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まず自己アピールだが、これは要項にも書かれていたので、例によって彩佳たち3人が龍虎と一緒に考えて1分以内で言えるように調整している。龍虎はそれを暗記してすらすら言えるように練習しておいた。これは渡された番号札とは無関係にランダムに呼び出された。龍虎は3番目に呼ばれて案内の人(沢村という名札を付けていた)と一緒に審査員室に行く。
 
龍虎は「失礼します」と言って部屋に入り、ちょっとドキドキしながらゆっくりとファッションショーに出るモデルさんみたいな感じで腰でバランスを取った歩き方で壁まで行き、くるりと180度回ると戻って来る。このあたりが中央かなぁ?と思うあたりで立ち止まり、審査員たちのテーブルの方向を見る。真ん中に三次審査の時にも見た紅川社長が座っている。龍虎は一礼すると笑顔で「おはようございます。関東代表の田代龍虎、中学1年生です」と自己紹介した上で1分間の口上を述べた。
 
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審査員さんたちが全員無表情なのでこれはかなり緊張した。終わった所で沢村さんが「では控室に戻って下さい」と言うので、龍虎は一礼後「よろしくお願いします」と言ってからドアの方を向き、やはりモデルさんみたいな感じでウォーキングして、ドアの傍まで行く。部屋の中を振り返り一礼して「失礼します」と言って外に出てドアを閉めた。そして沢村さんと一緒に控室に戻り、小さい声で「ありがとうございました」と彼女に言う。龍虎がそう言うと沢村さんは笑顔で会釈した。それで部屋の中に入り、彩佳の傍に戻った。
 

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「緊張したぁ」
「龍もアースしておく?」
「他の人と同じ事してもダメだよ」
「まあそうだね。この世界は猿真似は嫌われる」
 
自己アピールの最後の人が戻ってきた所で
「それではダンステストに行きますので、皆さん水着に着替えて下さい」
と言われた。
 
「じゃこれ水着ね」
と言って彩佳は袋の中から水着を出す。
「これどこで着換えるんだろう?」
「みんなここで着換えてるよ」
「え?でも他は女の子なのに」
「龍は別に女子と一緒に着換えても問題無いはず」
「ま、いっか」
 
と言って龍虎は服を脱ぐ。上着を脱ぎ、スカートを脱ぎ、ブラウスを脱ぐ。そしてブラジャーを外し、パンティを脱ぐ。そして水着を着けようとして
「あれ?これワンピース型?」
と言う。
 
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「龍はおっぱい少しあるから、トランクス型は無理だよ。これを着なよ」
「あ、それどうしようと思ってた。まるで女の子みたいだけど、いいかなあ」
「問題無いって」
 
それで龍虎はそのままワンピース水着を着てしまった。
 
「出番まではこれ着ておくといい」
と言って彩佳がラッシュガードを渡すので、
「ありがとう」
と言ってそれも着た。
 

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みんな素早く水着に着替えたようである。龍虎は自分の脱いだ服をきちんと畳むので、それを彩佳は紙袋の中に入れた。見ると、ちゃんと自分で畳む子と付き添い(多くはお母さん)が畳んであげている子と半々くらいの感じだ。
 
10分ほどした所で沢村さんが来て
「みなさん、水着は着られましたか?それではダンスチェックの会場に案内しますので、出場者のみ来てください。付き添いの方はここでお待ち下さい」
と言う。
 
「じゃ行ってくる」
「頑張ってね」
 
それで龍虎はラッシュガードを脱いで畳んだ上で彩佳に渡し、他の出場者と一緒に審査会場に向かった。
 

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案内された場所はリハーサル室と書かれていた。結構広いフロアである。
 
そこに台があってレオタードを着た人が立っている。この人が振付師さんかな?
 
「適当に並んで下さい」
と言われたが、フロア全体の真ん中付近に立とうとする子が多い。龍虎は前の方が空いてるなあと思って、振付師さんのそば、前方中央付近に立った。その近くに来たのが1番の番号札を付けた“アース女子”柴田さんと、8番の子、24番の子であった。24番の子が中央に立ちたがっているようなので龍虎は譲る。それで、前方中央付近に24番、その左側に龍虎、その左側に1番、24番の子の右側に8番、その右側に20番の子が立った。
 
「では音楽を流しながら1回踊ってみます」
と振付師さんは言った。
 
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それで音楽が流れる。振付師さんが身体を動かす。龍虎はそれを見ながら実際に身体を動かしてみた。そして24番の人を含めて前に並んでいる5人だけが最初からこれをやったのである。他の子は最初はただ見ているだけだったが前方の5人が身体を動かしているのを見て「はっ」としたように、同様に身体を動かし始めた。
 
見ているだけで振付を覚えるのは至難の技である。実際に身体を動かしてみなければ、身体の動きは覚えられない。
 
5分間の音楽が終わり、振付師さんのダンスも終わる。
「もう1回だけやってみますので、これで覚えて下さい」
と言う。それでもう一度音楽とともに振付師さんがダンスをし、今度は全員が最初から振付師さんと一緒に踊った。
 
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「今から10分間練習タイムです。その後、本番行きます」
と言って振付師さんは座ってしまう。
 
フロアはざわめいている。
 
大半の子が全然覚え切れてないのである。隣の柴田さんが龍虎に訊いた。
「覚えました?」
「だいたい。ちょっとやってみましょうよ」
「ええ」
 
それで柴田さんと龍虎の2人で踊り出す。24番の人もだいたい覚えたみたいで自分で踊ってみている。8番の人はかなり不確かな感じだが、それでも24番さんや龍虎を見ながら踊っている。20番さんはもっと不確かっぽいが、横の4人を見ながら踊っている。
 
「ここって、こうでしたっけ?」
「こうじゃなかったかな?」
「あ、そうか。こうでしたね」
などと柴田さんと龍虎はお互いの不確かな所を確認しながら踊っていった。
 
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24番さんはひとりだけで動きを記憶の中から掘り出しながら練習していた。20番さんと8番さんは結局不確かなまま。そして他の参加者は全くお手上げに近いようだった。
 
10分後、タイマーが鳴る。そして審査員の人たちがフロアに入ってくる、
 
「では本番行きます」
と振付師さんが言って音楽がスタートする。
 
思いっきり踊り出したのは、柴田さん、龍虎、24番さん、8番さんの4人である。20番さんは不安げに踊っている。しかし・・・8番さんは振付師さんの動きと違う!違うのに堂々と踊っている。この人凄いなと龍虎は思った。覚えきれなかったのでもうオリジナルの動きにしてしまったのだ。これをどう評価するかは審査員次第かもという気がした。そしてフロアの大半の子は覚えきれてないので、結局振付師さんの動きを見ながら踊り、結果的にタイミングが合わなかったり、きちんと手足が伸びておらず、小さくまとまったダンスになってしまっていた。
 
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審査員の中で何人か。紅川さん、堂本さん、秋風さん、の3人はフロアの中に進み、ダンスしている参加者の間を縫って個々の参加者の踊りを間近で見ている。龍虎は最前面で踊っているが、それでも秋風コスモスさんが近くまで来てじっと見ているのでややドキドキした。おっぱいあるの変に思われないかなあと、まだ思っている。しかしダンス自体は堂々と踊った。
 
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娘たちの卵(7)

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