広告:まりあ†ほりっく 第5巻 [DVD]
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■娘たちの卵(14)

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青葉はこの日9月7日、コーラスの大会に行っていて、先日KARION金沢ライブでも会った魚重さんと再会した。魚重さんは、青葉が凄腕の霊能者であるというのを聞き、今うちで抱えている問題を見てくれないかと依頼した。
 
それは来年春の開業に向けて試運転を続けている北陸新幹線で困った問題が起きているというのである。富山県と石川県の県境にあるG峠を通るトンネルで多数の運転士が
 
「人をはねた」
「大型の動物のようなものをはねた」
 
と言って、緊急停止させているという。
 
ところが実際に車両を点検しても、人どころか動物をはねたような跡も無い。
 
それで最初は運転士が「酔っていたのでは?」とか「疲労運転では?」と言われて、ローカル線や閑職に飛ばされたりしたものの、あまりにも続くのでこれはおかしいということになったらしい。
 
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専門の技術者にトンネルを総点検させたものの、怪しい所は見つからなかった。そこでこれは「霊現象では?」ということになり、これまで数人の神主や僧に祈祷をさせたものの一向に改善が見られず、頻繁に人をはねたといって緊急停止する例が続いているらしい。
 
魚重さんは、それと先日青葉が割ってしまった素焼きの皿を持って来た巫女さんのような人と何か関わりがあるかもと言った。その人は地元ではわりと知る人がいる、G峠近くの神社の名物巫女さんらしい。ここは神社本庁にも登録の無い神社で、もう長いこと、神職も不在になっているのだが、いつの頃からかその人が神社の守りをしていたらしい。その神社はトンネル工事の都合で移転させる必要があり、この人に連絡を取ろうとしたが、どうしても所在が分からず、仕方ないので地元の他の神社の神職さんに頼んで、神社の移転作業はしたらしい。
 
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「取り敢えずその神社を見せて下さい」
 
と青葉は言い、魚重さんの案内で行ってみたが、新しい“移設先”の神社は“空っぽ”であった。
 
「もしかしてこれは引越が失敗しているとか?」
「あり得ますね。古い神社の跡地にも行ってみましょう」
 
それで行ってみると、何か小屋のようなものが建っている所がある。ここで魚重さんが車から降りようとしたのを青葉は止めた。
 
ここは夜間に降りるのは危険すぎる。何さ?あの小屋の裏手にあるものは!?
 
「ここは夜間は降りない方がいいです。私も今日は準備が足りません。いったん引き上げましょう。そしてまた明日の午後にでも来ませんか?」
 
「分かりました!」
 
それでその日、青葉たちはいったん引き上げたのである。
 
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「くそ〜負けた」
と呟いて、龍虎は可愛いシンデレラのようなドレスを着て熊谷市の太陽ホールの座席に座っていた。
 
2014年9月7日(日).
 
龍虎はピアノ教室の発表会に来ていた。この日をもって龍虎はピアノ教室をやめるので、これが最後の発表会である。
 
「でも、龍ちゃん、身長も伸びたし、指も長くなったね」
と先生が龍虎の手に触りながら言った。
 
「でもボク、やっと9度届くようになっと所なんですよ」
「あなたの身長で9度届くのは凄いと思う」
と先生。
「私の手と合わせてみようよ」
と龍虎の隣に座っている彩佳が言うので、合わせてみると、龍虎の方がぐっと大きい。
「あれ〜。似たような身長なのに」
 
「龍は身長が私よりずっと低い時も私と大差無い手の大きさだったもん」
「それと手自体のサイズに加えて、どのくらい広げられるかというのもあるよね」
と先生は言う。
「そうそう。龍の指は去年は私と同じくらいだったよ。でも去年の段階で龍は8度届いていたけど、私は届いてなかったもん」
「そういえばそんなこと言ってたね」
 
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「田代さんは手が柔らかいから広く届くんだと思う」
と先生の向こう側に座っている長崎君(小6)が言う。
 
「ちょっと手を合わせてみる?」
「うん」
 
それで合わせると彼の手の方が大きい。
「僕の方がたぶん1cm近く大きいと思うけど、僕は8度しか届かない」
と彼は言っている。
 
「長崎君は指の体操とかしてると9度届くようになると思うな」
と先生。
 
そんな話をしていた時、ふと彩佳は気付いた。
「長崎君の指って、人差指より薬指の方がずっと長いんですね?」
「ん?」
 
彩佳の手も龍虎の手も、人差指と薬指はほとんど同じ長さである。ところが長崎君の手は薬指が長くて人差指が短い。比率的に言うと人差指の長さ比率は彩佳や龍虎と同程度だが、薬指が長くて中指にかなり近いのである。
 
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「そういえばそうだね。やはり遺伝的なものかな?」
と長崎君が言っていたが、先生がこう言った。
 
「それは遺伝もあるけど、男女差も関係していると思うよ」
「男女で指の長さに違いがあるんですか?」
「そうそう。人差指と薬指の長さの比を指比(しひ)というんだけど、これが男性では小さく女性では大きい。つまり男性の方が薬指が長い。
 
「へー!」
「彩佳ちゃんや龍虎ちゃんの指は人差指と薬指がほとんど同じ長さでしょ?これは女性の指なんだよ。長崎君の指は薬指が長い。これは男性の指」
 
「そんな所に男女差が出るんですか?」
 
「これはお母さんのお腹の中に居た時期に男性ホルモンをどのくらい浴びたかで変わるんだって。だから男女の双子の場合、女の子はその兄弟の男性ホルモンをどうしても少し浴びてしまうから、男性と同様に薬指が長くなりやすい」
 
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「へー!!」
 
「女の子になりたい男の子が最近増えているみたいだけど、そういう子の多くが薬指が短くて女性的な指をしている」
 
「なるほどー!!」
と彩佳は龍虎の指を見ながら、納得するように言った。
 

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それで今朝の“攻防”はこのようであった。
 
龍虎は教室の先生には
「中学生になったから制服で出ます」
と言っておいた。龍虎はそれで学生服で出るつもりだった。しかしそれを前夜部屋に掛けておいたら絶対に他の服に置換されている。そこで壁にはダミーの学生服(既製品)を掛けておいた。それは思った通り、朝にはセーラー服に変わっていた。それで龍虎はそのセーラー服を着て
 
「じゃ発表会行ってくるね」
と言って出かけるが、彩佳の家に行く。ここで龍虎の身体に合うオーダーメイドの学生服を預かってもらっていたのである。
 
ところが
「え?また来たの?」
と彩佳に言われたのである。
 
「へ!?」
「だってさっき龍やってきて『着換えさせてね』と言って、セーラー服を脱いで学生服を着ていったじゃん」
「うっそー!?」
 
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それで龍虎は
「やられた〜〜!?」
と叫んだのである。それでどうしよう?と言っていた時に、彩佳の家に川南がやってくる。
 
「あ、いたいた。たぶんアヤちゃんちに行ったと思いますよとお母さんが言ってたから来てみた」
と川南は言っている。
 
「いや、ここんところ私も忙しくてさ。龍の最後のピアノ発表会だから、ぜひとも可愛い服を着てもらおうと思ってオーダーしていた服をまだ取りにいってなくて。ほら可愛いだろ?」
 
と言って川南が見せたのがシンデレラみたいなプリンセス・ドレスだったのである。
 
「龍、セーラー服にする?お姫様ドレスにする?」
と彩佳が訊く。
 
「待って。30秒考えさせて」
 
それで結局、龍虎は川南がせっかく大金出してオーダーまでしてくれた服を着ることにしたのである。
 
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「龍ってやはり優しい性格だと思うよ。そういう龍って好きだなあ」
と彩佳は言ったが、さりげなく『好き』と言われたことに龍虎は気付いていない。
 
(龍虎の学生服は帰宅すると部屋に戻っていた)
 

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今回の発表会で龍虎が弾いたのはチャイコフスキー『くるみ割り人形』から『花のワルツ』である。昨年弾いたドビュッシー『夢想』同様、技巧的には決して難しい曲ではないが、龍虎の持つ情緒性・表現力を魅せることのできる曲でもあり、何と言っても楽しい曲である。
 
やはりこういう曲を美しく弾きこなすのが自分の方向性だよなあと思いながら龍虎は弾いていた。冒頭のハープ部分はピアノで弾くとなかなか大変なのだがここを難無く魅力的に弾き、ソドミ・ファーミ・ミーという主題に入ると、弾いている本人も気分良くなっていく。この曲は実はエレクトーンでも弾いてみて、豊かな音色で弾く練習もしている。ピアノでの演奏はそれをモノトーンの世界に投影したものだが、弾いている龍虎の頭の中では、エレクトーンで弾いた時の音が同時に鳴り響いていた。そして昨年・一昨年にバレエでこの曲を踊った時のことも思い出していた。あれは楽しかったなあと思い起こす。そういう全ての気持ちが龍虎の両手から表出して行った。
 
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やがて終曲。
 
物凄い拍手が来た。
 
龍虎は立ち上がると、観客に向かって、お姫様っぽい挨拶をしてからステージを降りた。
 

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先生が「お勉強が忙しくなるから辞めるというのがもったいない。この曲でコンテストにも出ればいいのに」と言っていたが、多分自分がこれから入って行く世界は「順番」をつけられる世界ではなく「個性」を評価される世界だと、龍虎は思っていた。
 
先生には6年弱の指導の御礼をよくよく言って別れた。
 
発表会が終わって自宅まで帰ると、
「上島さんから明日の夜、ちょっと来てという連絡が来ていたよ」
と父が言った。
 
「契約関係で色々話し合いたいんだって」
「分かった。じゃ明日学校が終わった後、そちらに向かおうかな」
 

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2014年9月7日(日).
 
中学3年生の佐藤絢香は、その日新宿に出てきていた。
 
絢香は身長が176cmもあり、その長身を見込まれてサッカー部のゴールキーパーをしている。中体連で一度は県大会まで行ったこともある。
 
サッカー部では重宝がられているものの、実際には絢香は自分の身長にかなりのコンプレックスを持っていた。
 
「男の子だったら良かったのにね」
などと言われたことは随分ある。実際彼女はクラスの全男子より背が高い。フォークダンスをしていて、男子の腕の下をくぐれずにぶつかってしまったことも何度もあるし
 
「佐藤さんは男子の方で踊って」
などと言われることも多々であった。
 
「手の形が男だ」
と言われたこともある。それでクラスの他の男子や女子と手を見比べてみたのだが、多くの女子は人差指と薬指の長さが揃っていたり、人差指の方が長かったりするのだが、全ての男子が人差指より薬指の方が長かった。実は絢香の指も、人差指より薬指の方がずっと長いのである。
 
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「一度精密検査受けてみたら?」
「実はお前男かも知れんぞ」
と男子たちから言われたのは結構ショックだった。
 
そんな精密検査なんて受けて、
「あなたは男です」
と言われたらどうしよう?
 
などと悩んでしまう。
 
そんな時、ひとりの女子が言った。
「女の子でもモデルさんとかは、身長高い人多いよ。170cm代のモデルさんとかザラにいるし」
「そうそう。身体が大きい方が華やかになるから、背の高いモデルさんは喜ばれるんだよ」
と別の女子も言う。
 
「絢香ちゃん、モデルさんになったら?」
 
「モデルかぁ」
 
「一度オーディション受けてみない?ほら。今度の日曜日に新宿で、kankanのモデルオーディションがあるよ」
「へー」
「絢香ちゃん、顔は可愛いもん。モデルさんになれるかもよ」
 
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そんなことを言われて、絢香はこの日新宿に出てきたのである。モデルのオーディションなら水着審査もあるらしいということで水着も持っている。参加するのに必要だからと言って、母に「芸能活動許可証」を書いてもらった。
 
「あんたがモデルねぇ」
「背が高いからモデルにはいいよと友だちから言われたんだよ」
「ああ。それはあるかもね」
 
ところが絢香にはひとつ困った性質がある。
 
それは方向音痴だということである!
 
遠足の途中ではぐれて先生たちが手分けして探してくれたこともある。電車の乗り換えも苦手で、東京に出るのに茅ヶ崎で熱海方面に乗ってしまったこともある。
 
「絢香ちゃん、タクシーの運転手にだけはなれないね」
などとよく言われる。
 
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それで新宿駅で降りた後、会場の《新宿文芸ホール》というのに辿り着けないのである。方向音痴の彼女のために友だちが地図をプリントしてくれていたのだが、地図を見てもまず自分がどこにいるのかがよく分からず、目的地に行くのにどちらに向かって歩けばいいのかも分からない。
 
そういう訳で既に30分以上、新宿でうろうろしているのである。
 
「困ったなあ。これじゃ遅刻しちゃう」
と思っていた時、目の前に《新宿文化ホール》という看板を見た。
 
「あ!ここだっけ?」
と思い、絢香は中に入った。行事予定を見ると7階会議室で『フレッシュガールコンテスト・オーディション会場』と書かれている。
 
「オーディション会場と書かれているからここかな?」
と思い、絢香は7階に上がった。
 
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