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■娘たちの卵(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2018-12-07

 
2014年7月14日(月).
 
西湖がその日学校に出てくると、教室内がざわっとした。
 
「天月さん、今日はスカート穿いてきたんだね」
「う、うん。お母さんがこれ穿いて行けというから」
「ああ、天月さんのお母さん、すごく理解あるみたい」
「これからはスカート穿いてくるの?」
「今週はずっとスカートになるかな」
「いいと思うよ」
「9月からはまたズボンにするから」
「9月からもスカートでいいのに」
 
「天月さん、今日“も”女子トイレ使っていいよ」
と女子の学級委員が言った。
 

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翌日は体育の授業があった。この学校では体育の時、女子は女子更衣室に行くが男子は教室で着換える。それで西湖がいつものように教室で着換えようと上着のボタンを外しかけたら、男子の学級委員・赤西が気付いて
 
「天月さん、ここで着換えたらダメ!」
と言う。
「え?」
 
「女子は更衣室に行かなきゃ」
 
と言って西湖の手を握ると(赤西君に手を握られて西湖はドキッとした)教室の外に連れ出す。そしておしゃべりしながら更衣室に向かおうとしていた女子たちに向かって声を掛ける。
 
「誰か!天月さんを連れて行ってあげて!」
 
すると気付いた天童さんが戻ってきた。彼女は元々西湖とわりと仲が良い。
 
「せいこちゃん、一緒に着換えに行こう」
と笑顔で西湖に言う。
「あ、うん」
「迷うことあったら、私に声掛けてよ」
「ありがとう」
 
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それで西湖は天童さんや石田さんなど、わりとよく話す女子クラスメイトたちと一緒に着換えて、その日の体育の授業を受けた。この日は男子対女子でソフトボールだったのだが、
「天月さんはこっち」
と言われて、西湖は女子チームに入った。
 
「天月さん、ピッチャーできる?」
「あ、うん。するよ」
 
それで西湖がウィンドミルでピッチャーをやると、西湖は腕力は無いもののかなりコントロールが良い。それで速度は無いもののキャッチャーのリードで丁寧にコーナーを突くピッチングをし、三振の山を築く。
 
実は西湖は父の劇団の芝居で“女子”ソフトボールのピッチャー役をしたことがあり、その時ウィンドミルを覚えたのである。
 
「くそう。天月を女子に取られたのはやばかった」
などと男子たちが言う。
 
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「あいつこんなにできたのか?」
「スポーツあまり得意そうにないのにな」
「ソフトボール部に欲しいな」
「それ女子ソフト部になるのでは?」
 
それでもやはり男子は底力が違う。試合は7−4で男子が勝った。
 
「でもいい試合だった」
「天月はこれからいつも女子のピッチャーでいいな」
 
などと男子たちは言っていた。
 
体育の先生は女子でウィンドミルできる子がいないので、西湖をハンディキャップ代わりに女子に回したと思ったようである。
 

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授業が終わってからまた女子更衣室に行って着換える。
 
その時西湖は多くの女子が自分を、正確には自分のお股を見ていることに気付かなかった。
 
だいたい着替え終わって教室に戻ろうという時に一部の女子から声が出た。
 
「天月さん、普通に女の子パンティと女の子シャツ着てた」
「これ着ていけってお母さんに言われて」
「いやそれより問題はさぁ」
「何か?」
「パンティに膨らみが無かった」
 
多くの子が頷いている。
 
「膨らみ?」
「天月さん、やはりおちんちん無いの?」
「え、えーっと・・・」
「やはり手術して取っちゃったんだ?」
 
「もしかして先月1週間休んだ時?」
「あれは、タイで『王様と私』のロケハンだったんだけど」
 
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「タイで手術したんだ?」
 
なぜそうなる!?
 
「タイって、そういう手術する病院が多いらしいよ」
「もう傷は痛まない?」
 
西湖はこの誤解をどうすれば解けるのだろう?と悩んだ。
 
むしろ誤解されたままの方がいい??
 

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その日、千里は《こうちゃん》からの連絡で新幹線で大阪に向かい、大阪市内である人物と会った。
 
「こんにちは。確か紫微(しび)さんでしたっけ?」
と千里は笑顔で言った。
 
「懐かしい名前を。。。それは私があの変態ばあさんの弟子をしていた頃の名前なので、今は《ひまわり女子高2年A組16番白雪ユメ子》と名乗っているのですが」
 
と言って名刺を差し出す。
 
「・・・・・」
「どうかしました?」
「お名前が、あまりにも恥ずかしくて発音出来ないんですけど」
「困ったなあ」
 
「略してユメさんでもいいですか?」
「じゃそれでもいいですよ」
と見た感じ50歳くらいの“彼”は言った。
 
「そちらは駿馬(しゅんめ)さんでいい?」
「そんな名前を頂いたこともありましたね〜。でも使ってないので、普通に本名で村山、あるいはユメさんが女の子なら、女同士の名前呼びで千里でもいいですよ」
 
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「僕、まだ63cmのスカート穿けるよ」
「穿いて外出します?」
「娘からやめてくれと言われます」
「あははは。でもスカート穿くのなら女の子でもいいですよ」
「じゃ、千里ちゃんとユメちゃんで」
「まあいいですけど」
 

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「それで千里ちゃん、凄く強いバスケットチームを持っているという話を聞いたので」
「それって人間の?」
「龍の。兵庫県に拠点があるとか」
「ああ。そちらか」
「人間のチームも2つ持っているんでしょ?」
「ええ。成り行きで。片方は誰かに任せようかと思っているんですけどね」
「あれって維持費が掛かるから、お金持ちに託せばいいですよ。千里ちゃんの周囲の人物ならケイちゃんとか」
「ああ。それは今度提案してみよう」
 

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「まあそれで龍たちの方なんですけど、私も半ば成り行きで様々な精霊たちで構成したバスケットチームを抱えているんですよ」
「へー!」
「国籍は韓国、ロシア、エスキモー、チベットと色々なんですけどね」
「ロシアは強そうだなあ」
「元々は2つのチームで韓国国内に拠点があったんですが、オーナーが死んだり逮捕されたりして、拠点の体育館が使えなくなって。私の知人を頼って日本に移動してきた所を私が関わることになって、片方が4人、片方が5人だったので合体させて1チームにしたんですよ」
「なるほどー」
 
「それでぶっちゃけ、市川ドラゴンズとうちとで、定期的に練習試合しない?」
「いいですね。彼らも対戦相手を探していたんですよ」
「ええ。ある人物を通して、そんな話を聞いたので」
 
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「それって、長崎出身の女子東大生なのでは?」
「まあ“彼”のことはあまり話すと怖いので」
 
ふーん。この人でも“早紀”ちゃんが怖いのか。
 
「でも練習試合は歓迎です。やるよね?こうちゃん」
と千里は確認する。
 
「うん。そろそろ練習だけでは飽きて来たと言っていたから」
「じゃ、毎月1回、場所は双方の練習場所で交互にというのでどうです?」
「いいですね。ユメちゃんのチームの拠点はどこですか?」
「埼玉県の行田(ぎょうだ)市」
「面白い場所に」
「たまたま安い土地があったので衝動買いしちゃったんですよ」
「ああ。私も衝動買いです」
 
それで千里はユメ子と握手し、相互のホームを訪ねて練習試合をしていくことを決めたのであった。
 
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2014年7月20日(日).
 
武漢でのアジアカップを戦っていた男子日本代表(Aチーム)は成田空港到着の便で帰国した。記者会見などが終わって解散した所を千里はキャッチした。
 
「お疲れ様」
と言って軽くキスする。
 
「いつ大阪に帰るの?」
「明日(祝日)にしようかな?」
「じゃ今夜は泊まり?」
「泊まろうかな?」
 
なお、ゴールデンシックスの制作の方だが、千里は初日の15-16日には顔を出したものの、その後は「忙しいからよろしく〜」と言って離脱している。日本時間の深夜にスペインでチームの練習をしているので、深夜遅くまでになりやすい音源製作にはあまり関われないのである。
 

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貴司と千里はインプレッサに乗り、成田空港から1時間ほど走って常総ラボに行った。
 
「なんか居室が出来てる!」
「ここも貴司のおうちのひとつということで」
「あはは」
 
駐車場の一角を改造して宿泊室を作ってしまったのである。むろん使用しない時は、ここも休憩室として解放してもよい。ただ、冷蔵庫・電子レンジ・IH・洗濯機・乾燥機などもあって、幅広いベッドやワークテーブルなどもあり、けっこうな生活感がある。むしろ管理人室という感じである。
 
貴司が遠征で使った着替えは洗濯機に入れて回す。事前に食料品などを買っていたので、それで御飯を作って一緒に食べる。紅茶を入れ、買って冷蔵庫に入れておいたケーキも出して食べる。
 
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そして食べ終わった所で2階のフロアに行ってふたりでたくさん練習をし、汗を流した。
 
「くやしい。6位なんて」
「貴司がスターターになれるくらいレベルアップすれば5位になれるかもね」
「それでも5位か!」
 

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遠征疲れもあるので、その日は21時で練習を終え、一緒に寝るが、例によって5cm開ける。
 
「このベッド横幅がある」
「5cm空けて寝られる幅のを選んでみました〜」
「それ寂しい」
「まあ今日はぐっすり寝なよ」
「そうしよう」
 
翌7月21日も朝御飯を食べながら貴司は言った。
 
「今回もやはり着床しなかったよ」
「これ卵子と子宮の双方に問題がある気がする」
「それを確信した。自分の精子が少し弱いかもという気もしていたけど、武彦君の精子でもダメなら、やはり阿倍子の側にかなりの問題がある」
 
「離婚する?」
「そうしたら、あの子はきっと自殺する」
「そう言われると、私も何とか彼女に京平を産んでもらおうという気がしてきたよ」
「何かアイデアがあるの?」
「誰かは詮索しないで欲しいんだけど、私の親族で精子の強そうな人がいるからさ。その人の精子を使ってみてくれない?」
 
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「千里の親族なら構わない。僕の別の従兄のものということにして持ち込むよ」
「うん」
 

この日も断続的に休憩を取りながら、夜遅くまで練習した。その日も常総ラボに泊まり、翌7月22日朝、貴司をインプレッサで羽田空港まで送っていった。
 
羽田6:15-7:20伊丹(8:34心斎橋)
 
なお千里は7月21日はスペインでは練習日なので、日本時間の7.21 21:00 - 7.22 4:00に練習していた。それで日本に戻ってきてから貴司を送っていくのでは間に合わない。それで朝羽田まで貴司を送っていたのは、実は《こうちゃん》である。千里はグラナダのアパートで1時間仮眠してから、羽田に転送してもらい、それで貴司を見送った。見送った後は、スペインのアパートに戻してもらい、5時間ほど寝た。
 
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翌7月23日、台湾で8月9-17日に開催される男子ウィリアム・ジョーンズ・カップの代表選手が発表され、貴司はメンバーに入っていた。千里は電話を掛けて「頑張ってね」と言った。
 

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第1回ロックギャルコンテストの二次審査(都道府県予選)をパスしたのは全国で120人くらい居たのだが、主宰者は三次審査(ブロック予選)に進む前に保護者が実印を押した芸能活動同意書の提出を求めた。彩佳はこれを母親からあっさり拒否されてしまった。
 
「あんたがアイドルとかになれる訳が無い」
「まあ自分でもちょっと無理かなという気がした」
 
一方龍虎の方は、長野支香があっさり承諾書を書いてくれた。
 
「あんたはその内やりたいと言うと思ったよ」
と支香は言った。
 
「友だちがオーディション受けてて、ボクはその付き添いみたいなもんなんだけど」
「わりとこの世界、付き添いで受けた子の方が大物になる」
「へー。そういうもん?」
 
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ところがその彩佳が親からNGが出たというので、龍虎は「うっそー!?」と叫んだのであった。
 

そういう訳で実際に三次審査に参加したのは70人ほどに留まった。その三次審査は次の日程で行われた。括弧内は各ブロックの合格予定者数である。
 
7.05(Sat) AM 沖縄(1) PM 九州(2)
7.06(Sun) AM 中国(1) PM 四国(1)
7.12(Sat) AM 北海道(1) PM 東北(2) 7.13(Sun) AM 北陸(1) PM 東海(3)
7.19(Sat) 9:00 大阪(3) 12:00 近畿(2) 7.20(Sun) 9:00 東京(4) 12:00 関東(3)
 
新潟は北陸に、長野と山梨は関東ブロックに組み込まれている。
 
なお、大阪予選と近畿予選、東京予選と関東予選は、各々、同じ会場で連続して行われる。なお、7月19日までの合格者は全員7月20日午後に東京に集め、最終的なエントリーの意思確認のための簡単な面接をすることにしている。
 
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娘たちの卵(1)

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