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■娘たちの始まり(16)

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大阪で千里が武彦を迎え、精液の採取をしてもらった翌7月14日、千里は新幹線で東京に戻り、冬子と政子のマンションの引越作業を手伝った。そして15日は今度はゴールデンシックスのデビュー曲の製作に参加した。
 
ゴールデンシックスの音源製作は7月15-21日に青山の★★スタジオで行われた。この期間、出てきたメンバーは実は毎日違った!のだが、初日はこのようなメンツであった。
 
リード・ギター リノン(矢嶋梨乃)
リズム・ギター アンナ(前田鮎奈)
ベース タイモ(村山千里)
ドラムス キョウ(橋口京子)
ピアノ カノン(南国花野子)
ヴァイオリン マドンナ(水野麻里愛)
 
しかし“折角ケイさん出てきているし”と言って、冬子はグロッケンシュピールを弾くはめになった!それで『ロールオーバー・ローズ+リリー』に冬子が弾くグロッケンの音、そして『ローズ+リリーを掛けてくれ!』というコーラスにも冬子自身の声が残ることになる。
 
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「元々のDRKは進学校で補習とかの隙間を使って練習していたから来れるメンバーが少なかったんですよね。だから、楽器のやりくりが多くて、みんな複数の楽器を覚えたんです」
 
「だから来ているメンツによって楽器の担当がコロコロ変わる」
「誰か他の人に替わっても何とかなるように、編曲をする」
「そそ。だから私たち全員“良質の部品”であろうとする」
 
「そういうユニットも面白いね」
と冬子は言っていた。
 
「まあローズ+リリーとは真逆の存在だね」
「むしろマリンシスタとかパーキングサービスなどと似ている」
「なるほどぉ!」
 

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千里は翌16日もスタジオに出て行き、主としてベースを演奏していた。その最中に、加藤課長が顔を出した。
 
「あれ?ケイちゃんは来てない?」
「今日はいらっしゃってませんよ〜」
「携帯の電源を切っているようなんだよ。固定電話にもつながらないし。それで昨日はこちらに参加していたよなと思って来てみたんだけど」
 
「ケイさんは知人が入院しているののお見舞いに行くという話でしたよ」
と花野子が言う。
 
「ああ、あの人か」
と千里が言った。
 
「醍醐さん、場所分かります?」
「近くだし。書類とかなら私が持って行きましょうか?課長、お忙しいし」
「すみませーん。これを渡してもらえますか?」
 
と言って、加藤課長は大きな封筒を千里に渡した。それで千里はスタジオを出て新宿に行き、ある病院に入る。
 
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「照橋ヒナさんの病室は何号室ですか?」
「28号室です」
「ありがとうございます」
 
それで上のフロアにあがり、28号室に入った。
 

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千里はギョッとした。何か人数が多い。中に居た人たちも千里の来訪に驚いているようである。
 
この場に居たのは、“性転換手術を受けたばかり”の照橋ヒナ本人、冬子、KARIONの和泉、そしてRocutesの薫である。薫とは久しぶりだったのでハグする。
 
「これどういう関係?」
という声があがる。それで千里がまずは書類を冬子に渡した上で、各自の持つ情報を整理する。するとこのようなことが分かった。
 
照橋ヒナは下川工房のアレンジャーで『Rose Quarts Plays Sex change』のアレンジをした。アルバムが物凄いヒットになったため彼女は特別ボーナスをもらい、それで本人も性転換手術を受けることができた。彼女は中学の時にコーラス部に所属していて、その1学年下に和泉が居た。その縁で過去にKARIONのツアーで「蘭子のダミー演奏者」を務めたことがある。
 
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この時なぜ“ダミー演奏者”をしたかというと、当時彼女は指を怪我して、キーボードを弾けない状態だったからである。しかし弾けなくてもキーボードを元々弾く人がキーボードの前に立って弾くふりをしていると、本当に弾いているように見えてしまうのである。彼女はその後、冬子の紹介で、青葉のヒーリングを受け、指の機能が回復し、その後下川工房に入社した。
 
(なおKARIONの「暑い一日」の時、和泉は遠出しようとしていた所をヒナから自分のピアノ発表会を見て欲しいと言われて東京に留まっていたおかげで、ラムの突然の脱退の報を受けてすぐに事務所に戻ることができた。つまりヒナは実はあの事態を収拾できた、きっかけを作ってくれたのである)
 
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薫は高校2年の途中までヒナと同じ高校に通っていたが、親に黙って去勢手術を受けたのがバレて父親に殺されそうになり、逃げ出して北海道の祖母の所に転がり込んだ。それで北海道で薫が通ったのが千里の所属していた旭川N高校である。N高校は薫を女子生徒に準じて扱ってくれて、女子制服で通学できたものの肉体的には男子だからということで、最初は男子バスケット部に所属していた。しかし既に去勢していることを聞くと、宇田先生は、むしろ女子バスケット部に移籍することを勧めた。それで彼女は男子部員としての権利を放棄し、女子部員となる。そして去勢から1年経過して女子選手として道大会までは出られるようになった後は、国体予選などで活躍することになる。
 
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東京に出てきた後、偶然ローキューツの試合を見たことから誘われてローキューツに入り、女子選手としての試合出場が完全解禁になった後は中心選手のひとりとなる。そして千里や麻依子たちが抜けた後のキャプテンを務めている。
 

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しかしお互いの関係がどういう繋がりなのか確認している内に各々の過去がかなり暴露されていく。
 
「これで千里も冬も高校時代には既に性転換済みだったことが確定したな」
と和泉が言った。
 
「私が性転換したのは大学2年の時だって」と冬子。
「却下」と和泉。
「私が性転換したのは大学4年の時だけど」と千里。
「全くもって却下」と薫。
 
「ところでこの病室に今居る5人の内4人が性転換女性なんだね。これって何だか凄いね」
と薫が言った。
 
「和泉ちゃんも実は性転換者ということは?」
「性転換した記憶は無いなあ。生理もあるし」
「私も冬も性転換したけど生理があるから、生理は天然女性の証にはならない」
「2人とも生理あるって実は子供産めるのでは?」
 
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と和泉が言ったとき、千里の後ろで誰かが微笑んだ気がした。
 
「でも小学1年生の時、同じ『和泉』という名前の男の子がいたよ。よく間違われて、スカートの衣裳を彼が付けさせられてしまったこともあった」
 
「それが和泉ちゃん本人ということとは?」
「なんか自信無くなってきた」
 

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その日桃香がバイト先を出て、臨月に突入した季里子の家に行こうとしていたら千里のミラが目の前に停まっているのでギョッとする。
 
「季里子ちゃんちでしょ?送っていくよ」
「あ、えーっと」
「バス代節約」
「それはいいことだ」
と言って桃香は乗り込んできた。
 
千里は車を出す前に
「これ返しておこうと思って」
と言って、ジュエリーケースを渡した。
 
開けてみるとプラチナの結婚指輪である。MO to CH という刻印が入っている。
 
「ダイヤの方はファッションリングとして持っていてもいいかなと思うんだけど」
「うん。持ってて」
 
「でもこの“指貫”は実際問題としてあまり使ってないからさ。私も忙しくてなかなか裁縫とかできなくて」
 
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「何か忙しそうだよな!?」
 
「だから返した方がスッキリするかなと。これ返しても私たちお友だちのままだよね?」
と言って千里は桃香を見る。
 
「うん。そのつもり。私たちはお友だち」
と桃香も千里を見て言った。
 
「だったら無くてもいいかなと思って」
 
「千里、彼氏と何か進展あったの?」
「進展させようかと思っている」
「うん。頑張れ」
「桃香も頑張ってね」
 
「そうだな。ところでキスしていい?」
「キスくらい、いいよ」
 
それで桃香が千里にキスした。千里は微笑んで後方確認し、ミラを発進させた。
 

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2014年7月14日(月).
 
青葉の高校の“合唱軽音部”では、コンクールで歌う自由曲を何にするか討論していた。遠上笑美子の『魔法のマーマレード』が良いという意見が出たのだが、その場合、編曲が必要だという話になる。編曲する場合は作曲者本人と連絡を取り、書面で編曲許可証を書いてもらわなければならない。
 
「青葉、芸能界にたくさんコネあるみたいだし、連絡取れない?」
「それ、誰の作品だっけ?」
 
「葵照子作詞・醍醐春海作曲だって」
「知らないなあ」
 
「あ、その曲、元々はKARIONが歌ってて、それを遠上笑美子ちゃんがカバーしたんだよ」
 
「KARIONなら、青葉、水沢歌月さんと知り合いだよね?」
「うん、まあ」
「だったらコネがつながらない?」
「うーん。ちょっと連絡してみようかな」
 
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青葉は冬子(ケイ=水沢歌月)と連絡を取ろうとしたのだが、実は14日冬子は引越をしていたし、15日はゴールデンシックスの音源製作に立ち会い、16日はローズ+リリーの新しいシングルが発売されて、放送局などに出て行ったし、照橋ヒナの見舞いにも行った。それで冬子が青葉に連絡を取ったのは、もう17日の20時すぎになってからであった。
 
「ごめん、ごめん。引越しとかやってたもんだからメールとかの返事溜めちゃって」
と冬子は青葉に謝った。
 
「済みません!お忙しいときに」
 
「それで何だったんだっけ?」
「実はうちの合唱部でのコンクールの自由曲なんですけど」
「あ、私の曲を使いたいの?」
「すみません。実はそうではなくて」
 
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と青葉は冷や汗である。
 
「実は遠上笑美子ちゃんの『魔法のマーマレード』という曲を使いたいという話になったのですが、これって元々KARIONが昨年のアルバム『三角錐』の中で歌った曲でしたよね?」
 
青葉も一応そこまでは調べたのである。
 
「そうそう。でも私の曲じゃないよ」
「ええ。それでその作曲者の醍醐春海さんに、連絡を取って編曲のご許可を頂けないかと思って、でも連絡先が全然分からなかったので、冬子さん連絡先の分かる方をご存じないかと思いまして」
 
「なーんだ。そういうこと」
「済みません。お忙しいのに、雑用で連絡して」
 
「醍醐春海との連絡なら、私を通さなくても直接彼女と話せば良い」
「すみません。その連絡先を・・・」
「その連絡先は、青葉が携帯から無料通話で掛けられる所だよ」
「は?」
 
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「青葉ならそのヒントで分かるはず。じゃねー」
 
と言って電話は切れてしまった。
 

無料通話で掛けられる相手!?
 
うっそー。
 
青葉はたっぷり10分ほど考えてみた。そして驚くべき結論に達した。
電話を掛ける。
 
電話は呼び出し音が1回も鳴らないままつながった。
 
「はい」
という千里の声がする。
 
こちらが電話するのをちー姉、予測していたな、と思う。
 
これはある程度霊感のある人にはできる人が結構いる。青葉も電話が掛かってくる数分前から気配を感じる。親しい人ほど早くから分かる。
 
「おはようございます、醍醐春海さん。ちょっとお願いがあるんですか」
と青葉は言った。
 
「おはようございます、大宮万葉さん。何かしら?」
と千里は極めて平静な声で答えた。
 
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むむむ。負けないぞ。
 
「うちの合唱部で大会に出るのに葵照子さん作詞・醍醐春海さん作曲の『魔法のマーマレード』を歌いたいんだけど、こちらでソプラノ、メゾ1、メゾ2、アルトの女声四部に編曲して使わせてもらえないかと思って」
 
元々のKARION版も女声四部だが、ソプラノ、メゾ、アルト1、アルト2で構成が違い、調整が必要なのである。更にKARION版はソプラノとメゾの音域が広すぎる。
 
「それはOKだけど、今からわざわざ編曲しなくても、こちらでその構成の女声四部で音域も普通の女子高校生が出せる範囲に調整した合唱版、4分30秒に編曲したピアノ伴奏譜付きスコアがあるから、Cubaseのデータごとそちらにメールするね」
 
「そんなスコアがあるの〜〜!?」
 
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「昨日編曲しておいた。はい。今送信したよ。必要なら更に微調整してもいい。書面の編曲承諾書は今から書いて投函しておくね。宛名は高岡T高校合唱軽音部様でいいかな」
 
「それでいいけど、ちー姉、予定調和が凄すぎるよ!」
「青葉には負けるよ。じゃ、バスケの練習に出かけるから、またね〜」
ということで千里は電話を切ってしまったが、青葉は
 
やっぱり負けた〜〜〜〜!!!!
 
と思った。
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