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■娘たちの始まり(13)

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(C)Eriko Kawaguchi 2018-12-04
 
龍虎たちのバレエ教室の年末の発表会、および年明けのドラゴン・ジュニアバレエ・フェスティバルで上演する演目は今年は『白鳥の湖』と決まった。主な配役はこのようになっている。
 
オデット・オディール:蓮花(中2)・龍虎(中1)
ジークフリート:佐藤(中3)
ロットバルト・家庭教師:井村(中1)
ジークフリートの母:日出美(小6)
 
2羽の白鳥:妃呂(小6) 唯花(小6)
4羽の白鳥:愛香(小5)・恵南(小5)・友音(小4)・穂純(小5)
 
ナポリ 中野(小6) 妃呂(小6)
スペイン 山森(小5) 唯花(小6) 高原(小5) 詩織(小5)
ハンガリー 佐川(小4) 中井(小4) 恵南(小5)・茜音(小4)・遙鹿(小4) 睦姫(小4)
 
(ハンガリーは女子4人の内誰かは男役)
 
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この他、マズルカが男女4人ずつ必要だが、小学3〜4年の子が踊ることになる。誰を当てるかは秋くらいの段階で決める。ジークフリートの妃候補も秋くらいに決める。その他3年生以下のコール・ド(群舞)の子が多数入る。
 
湖での白鳥の踊りはステージいっぱいに白鳥がいる感じにしたいので30人は最低欲しい。それで役の付いていない女子は全員参加になる。幼稚園の子たちも後方に入る。男の子でもチュチュを付けていい子は入って、ということにしている。幼稚園〜小1くらいでは結構着たがる子がいるし、親もその年齢なら許容的である。このバレエ教室は衣装代が個人負担では無いので、結構柔軟な対応が出来る(その分月謝は高い)。この教室が衣裳を基本的に備品として管理しているのは子供は成長が早いので高価な衣裳を買ってもすぐ着られなくなるからである。個人で買うのはアンダーウェア類のみである。
 
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それで今回は女子はほぼ全員が白いクラシック・チュチュを着る。特別な衣裳はジークフリートの母役の日出美、冒頭のオデットのロマンティック・チュチュ、それにスペイン・ナポリ・ハンガリー・マズルカの衣裳、そしてオディールが着る黒いクラシック・チュチュである。
 
(白鳥の湖は物語上のヒロインはオデットだが、踊りの上での主役はむしろオディールの方である。 32回のグランフェッテはバレリーナとしての技術力の魅せどころだが、それを唯一の女子中学生である蓮花が踊る)
 
「32回のグランフェッテは来年は日出美ちゃんが踊ってね」
と蓮花は言ったが
「え〜?龍虎さんでしょ?私には無理〜」
などと日出美は言っていた。
「だってボクは男の子だもん。主役は女の子だよ」
と龍虎。
「龍虎さんは本当は女の子だという噂が」
「どこからそんな根も葉もない噂が」
「だってチュチュ着てたら、おちんちんが無いことは一目瞭然ですよ」
「ね!」
 
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冒頭のオデットは、魔法に掛けられる前のオデットを蓮花(ロマンティック・チュチュ)、魔法に掛けられた後のオデットを龍虎(クラシック・チュチュ)が踊る。ここは絶対に2人居ないと演技不能である。
 
そして第3幕のオディール(黒鳥)を蓮花、第4幕のオデット(白鳥)を龍虎が踊る。
 
事実上のダブルキャストである。話し合いの結果、結局2人ともに全ての踊りの練習をしておき、片方だけでも全てが演じられるようにすることにした。もし片方が出られない場合は、魔法に掛けられる前のオデットを日出美が踊ることにし、ロマンティック・チュチュでの踊りを日出美も練習する。
 

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7月10日の夜、日比谷駅で水沢歌月=ケイと会うことにした醍醐春海=千里はスペインのマンゴーのショップで買った上品なワンピースを着ると、ゆっくりとメイクをした。
 
『くうちゃん、私を日比谷駅に転送して』
『若いもんはちゃんと歩いた方がいいぞ』
と言いながらも《くうちゃん》は千里を転送してくれた。
 
10分ほど待つ内に冬子が到着した気配があるので、そちらに行く。
 

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「お初にお目に掛かります。醍醐春海です」
と千里は言って《作曲家・醍醐春海》の名刺を渡す。
 
冬子も《歌手・KARION・らんこ》の名刺を渡して
「お初にお目に掛かります。KARIONの蘭子です。いつも素敵な曲を書いてくださってありがとうございます」
と挨拶した。
 
千里は「まあ御飯でも食べながら」と言って、日比谷公園に沿って歩き、帝国ホテルに入っていった。そしてホテル内のフランス料理店に入って行くと
 
「予約していた村山ですが」
と言った。
 
「予約してたんだ!」
「今日ゴールデンシックスのデビューに関する打ち合わせをするとカノンから聞いたからね。当然、醍醐春海が誰かというのに気付いて連絡があるだろうと思ったから、予約を入れておいた」
 
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「千里って時々思うけど、物凄い予定調和で行動してるよね」
「巫女だからね。今日は私のおごりで」
 
「そうだね。ここは作曲家先生と楽曲を頂いている歌手の関係だからおごられておこうかな。おごちそうさまです」
「はいはい」
 

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室温に保たれた赤ワインをグラスに注いでもらい乾杯する。
 
「ゴールデンシックスの前途を祝って」
「ローズ+リリーとKARIONの前途を祈って」
 
「このワイン美味しい!」
と冬子は声をあげる。
 
「2005年もののボルドー。ボルドーワインの当たり年だよ。この年は特に赤が良かったんだ。100年に1度の出来と言われた」
と千里は解説する。
「そんな凄いんだ! でもワインは年によって出来・不出来が大きいよね」
と冬子。
 
「歌手も当たり年があるよね。08年組はやはり豊作だった年だと思う。古くは小泉今日子さんや松本伊代さん・中森明菜さん・早見優さんとかのデビューした82年組なんてのもあったよね」
と千里は言う。
 
「アーティストのアルバムでも当たり外れはあるかな」
と冬子が言ったが、千里は否定した。
 
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「当たり外れのある人もいるけど、むしろピークの時期とそうでない時期があると思う。ほとんどのアーティストはデビューして数年以内にピークを迎えて、その後はどんどん落ちていく」
 
「・・・」
 
「その後は売れている人でも固定ファンが半ば義理で買っているだけで品質は見るべくもないケースが多い」
「なかなかそういう鋭い指摘は業界の中では聞けないよ」
「まあ、私は一般人だから」
 
「そうか。一般人という建前だったんだ」
「ふふふ」
 
千里は先日の『Rose Quarts Plays Sex change』では《一般人仮名C子》などと名乗っていた。
 

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ふたりはお互いの高校生以前の頃について突っ込む。千里は自分が中学生の頃から巫女をしていたことをバラしたし、また冬子がリハーサル歌手をしていた頃、ドリームボーイズのバックで歌った頃の話を出して、当時の冬子の写真まで携帯を開いて見せるので「なんでこんな写真持ってるの〜?」と冬子は驚いていた。
 
「今気付いたけど、この料理すっごく美味しい」
「帝国ホテルだからね」
「おごられている人が値段を聞いちゃいけないだろうけど、今日のお料理いくら?」
「料理は1人4万円。ワインは16万円だよ」
 
「16万!?」
 
「美味しかったでしょ?」
「美味しい! もっと飲もう」
と言って冬子はワインをグラスに注ぎ、千里のグラスにも注いだ。あらためて乾杯する。
 
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「だけどこのワインは16万円払ってもいい気がするでしょ?」
 
「する。ここまで美味しかったら払ってもいい」
「料理も満足度高いよね」
「うん。凄く丁寧に作られてるもん」
 
「満足度って値段と反比例するからね。値段を高くすればそれだけ評価は厳しくなる。入場料8000円のライブは入場料2000円のライブの5倍楽しめなかったらつまらないコンサートだったと言われる」
「それは肝に銘じておくよ」
 

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料理も食べ終わり、コーヒーを飲んでいた時、冬子の携帯が鳴る。メールが着信したようである。冬子はそれを見て吹き出した。
 
「うちのペットちゃん(政子のこと)がお腹を空かせているようだ」
「あはは」
「どうしようかな。動けないなんて言ってるから、こちらから大阪まで行くか」
「大阪に行ってるんだ?」
「個人的な用事でね」
 
「じゃ私も一緒に行っていい?」
「うん。醍醐春海・葵照子に一度会いたいなんて言ってたし」
 
それでふたりで帝国ホテルを出て東京駅に移動し、新大阪行きに乗った。切符は冬子が2人分買って千里に渡してくれた。
 
「帰りはどうしようかな」
「もしかして明日お仕事入ってるの?」
「そうなんだよ。麹町で朝9時半の放送開始。朝一番の新幹線で何とか間に合うかな」
 
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「ちょっと危ないね。食事が終わった後、私が車で東京まで送ってあげるよ。その頃はもうアルコールも抜けてるはず」
 
千里はワイン2杯しか飲んでない。元々お酒に強いので2時間もあれば運転可能状態になる。新幹線で大阪に着く前に醒めてしまうのである。
 
「お願いしようかな。じゃ向こうのニチレンあたりででレンタカーを借りればいいかな」
 
この頃はまだニチレンは24時間営業の店舗がかなりあった。
 
「私、日曜日に自分の車を大阪に置いて来たから、それを使うよ」
 
「へー!それって偶然?」
「偶然もあるけど、すぐに大阪で車を使うことになりそうだと思ったから、取りに行かずに放置しておいたんだよ」
 
「嘘!?そんなの分かるの?」
「私、巫女だから」
 
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と千里は微笑んで言った。冬子は腕を組んで考え込んだ。
 
「でも千里の車ってミラだったっけ?」
「あれは街乗り専用だからね、遠乗りの時はインプだよ」
「去年出雲まで往復に使ったね」
「まああれで年間3万km走っているからね」
「凄いね!」
 

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政子と新大阪駅で落ち合う。
 
「あれ、千里だ」
と政子が意外そうに言うので
 
「こちら作曲家の醍醐春海さん」
と私が紹介すると
「えーーーー!?」
と絶句していた。
 
「おはようございます。お初にお目に掛かります。醍醐春海です」
と言って千里が《作曲家・醍醐春海》の名刺を出すと、「おぉぉぉ!」と嬉そうにしていた。
 
「おはようございます。お初にお目に掛かります。マリです」
と言って政子も《ソングライター・マリ》の名刺を出した。
 
「ローズ+リリーのマリの名刺は人が持っているの見たことあるけど、ソングライター名義のは初めて見た」
「あまり配ってないから。多分作ってから20枚も渡してない」
 
「渡したのって、森之和泉とか神崎美恩とかだよね」
「うん、そのあたり」
 
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まだ閉店時間に余裕のある店を検索し、ロイヤルホストに入った。
 
「私、ロイヤルホスト好き〜」
と政子は言う。
「ファミレスの中では美味しい方だよね」
と千里も言う。
 
政子がリブロースステーキ310gのセット2人前などと注文したので、冬子もつられてリブロースステーキ115gを注文した。千里はステーキ丼にしておいた。
 
千里は政子に《醍醐春海》のことを説明した。
 
「高校時代にDRKというバンドをしてたんだよ。同じ高校の女子生徒10人ちょっとで各々用意できる楽器を持ち寄って。それで偶然∞∞プロの谷津さんと会って、私たちがバンドやってるというと見たいと言うんだよね。スタジオに行って演奏したら凄く気に入られて」
 
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「そこにLucky Blossomが関わってくるんでしょ?」
 
「そうそう。こちらは勉強が忙しいから勧誘されたくないと思ったんで、私たちなんかよりずっといいアーティストに巡り会える所を教えてあげますと言って占ったら、私が占った日時と場所でLucky Blossomを見つけたんだよ。それで鮎川さんたちがデビューすることになった」
 
「おお!」
 
「それでその関わりで、鮎川さんの先生にあたる雨宮先生と私も知り合って、その雨宮先生の仲介で、私と相棒の葵照子がいろんなアーティストに楽曲を提供することになったんだよね」
「結局雨宮さんなんだ!」
 

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「そうだ。千里、もし作曲能力に余力があったら、ローズ+リリーの制作中のアルバムに1曲書いてもらえないかな?」
と私は言った。
 
「いいよ。葵の詩にストックが充分あるから、書けると思う。2〜3日中に書いて送るよ」
 
DRKの活動のことや、千里の大学院卒業後のことなどを話している内に冬子は「だめだ。入らない」と言って、ナイフとフォークを置いた。
 
「どうしたの?このステーキ美味しいのに」
と政子が言う。
 
「うん、いつもならこれ凄く美味しいと思うと思うんだけど」
 
千里が微笑んでいる。
 
「いや、実はここに来る前にお呼ばれして帝国ホテルでディナー食べてきたんだよ」
と冬子。
 
「えーー!? 帝国ホテル? なんで私も連れてってくれないのよ?」
と政子。
「じゃ、今度連れてってあげるよ」
と冬子は答える。
 
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「千里、葵照子さんの時間の取れる日を教えてくれない? こちらも時間調整して一度一緒にお話したい」
「いいよ」
「じゃ、葵照子さんと一緒に帝国ホテルでディナーね」
 

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