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■娘たちの始まり(8)

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千里は∴∴ミュージックの畠山社長から連絡を受けた。
 
「醍醐先生、いつもお世話になっております。実はもしお時間が取れましたら、急ぎの曲を書いて頂けないかと思いまして」
 
「誰が歌う曲ですか?」
「KARIONなんですが」
「シングル用ですか?アルバム用ですか?」
「シングルです。7月23日発売予定なのですが」
 
それはかなりスケジュールが押している。恐らくは誰かが書けなくなって、その代替なのだろう。葵照子・醍醐春海のペアが「筆が速い」ことは知られているので、しばしばこの手の依頼はある。千里は念のため尋ねた。
 
「それをどのくらいの日数で」
「可能でしたら1週間ほどで」
 
これは厳しいと思った。普通の歌手の普通の曲なら1日あれば何とかなる。しかしKARIONは高品質を要求する。普通なら1ヶ月以上の余裕がないと辛い。それでも千里はこの時、何とかなる気がした。
 
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「分かりました。何とかします」
「恩に着ます!」
 

千里はタロットを1枚引いた。
 
カップの9である。花に囲まれて、男女が手を取り合って恋を語り合っている図である。千里はその絵柄からローズ+リリー『女神の丘』のテレビ版PVを連想した。佐世保の烏帽子岳で 葉祥明っぽい雰囲気に撮影したものである。同時に、その曲の別版PVのことも考えた。青葉が今年春に建立した玉依姫神社で、青葉自身が巫女衣裳で舞を舞う前で、ケイとマリが歌うものである。
 
千里はあの神社に行ってみようと思った。
 
それでミラに乗って神社まで行くと女神様が千里に話しかけてきた。
『済まぬが、神社の右手30mほどの所に段ボールに入れられた猫が捨てられているのだ。何とかしてくれんか?』
『えっと・・・助ければいいんですか?』
『ニャーニャーうるさくて気になって仕方ない。今晩のおかずにしてもいいが』
『猫を食べる趣味はないので猫の保護をしている団体に連絡しますね』
 
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それで千里はその段ボール箱の置かれた場所まで行く。ふたを開けて中の猫が生きているのを確認する。黒猫と白猫である。生まれて3ヶ月くらい。可愛いさかりだ。自分で飼いたいくらいに可愛いが、自分の生活ではペットを飼うのは不可能である。それでボランティア団体の人に連絡しようとしたのだが、そこに停まる車がある。
 

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「醍醐先生、お早うございまーす」
と明るく声を掛けてくるのは谷崎潤子である。例の関東不思議探訪だろう。
 
「おはよう、潤子ちゃん」
「どうかしたんですか?」
「猫が捨てられていたのよ」
「へー」
 
と言って降りてきて
「きゃー!可愛い!」
と言う。
 
「可愛いよね。自分で飼いたいくらいだけど、私、忙しくてまともに家に居ないからさぁ。とても飼えないなと思って」
 
「あ、だったら私が引き取ってもいいですか?」
「潤子ちゃん、飼えるの?」
「妹(谷崎聡子)がルパンって名前の三毛猫を飼っていたんですけど、1年くらい前に死んじゃったんですよ」
 
ルパンで犬なら分かるが三毛猫はホームズではなかったのか、と千里はチラッと思った。
 
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「すぐには新しい猫を飼う気にはなれなかったんですけど、一周忌も過ぎたし、飼ってもいいかなあと思っていたところで」
 
「飼育経験者なら安心かもね。じゃ潤子ちゃんに任せた」
「ありがとうございます」
「最初に病院に連れて行って、寄生虫検査とか予防接種とか受けさせて」
「はい。真っ先にします」
 

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それで潤子は段ボール箱ごとテレビ局のワゴン車に乗せる。
 
「ちょうどさっき買ったおにぎりがあったのよね〜」
と言って、具を外してごはんを2つに分けて与えると、凄い勢いで食べている。かなりお腹が空いていたのだろう。
 
それを見てから「ちょっと暗くて御免ねー」と言ってふたを閉め、仕事の方に入る。ふたりで歩いて神社の所まで行った。カメラはその歩きながら話す様子を映す。
 
「それで今日来たのは、この神社に何か台座のようなものが設置されていると聞いたからなんですが」
 
「情報が早いですね。3日くらい前に設置されたばかりなんですよ」
「何ができるんですか?」
「6月29日に設置しますから、もし取材可能ならその日にまた来て頂けると」
「おお、当日公開ですか!やはり狛犬ですか?」
「当日公開ということで」
 
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そういう訳でこの日のロケ隊は、祠の前方左右に作られたコンクリート製の台座だけを映していた。
 

潤子たちが帰った後で、姫神様が言った。
 
『ああ、ご苦労であった。これで静かになった』
『谷崎姉妹のおかげですけどね』
『あの子たちにも褒美をやろう』
『お姉さんはもう歌は諦めてしまってますから、妹さんにヒット曲でも』
『あの姉妹は姉の方が歌はうまい気がするが』
『うまい方が売れるとは限らないって原則ですね。秋風メロディー・秋風コスモスの姉妹も歌の上手いメロディは売れずに音痴のコスモスが売れている』
『世の中嘆かわしい』
 
『そうだ。千里、そなたにも御礼に何か授けるぞ』
『私は何もしてませんし、特に要りませんよ』
 
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『欲が無いなあ。だったらこういう剣を鋳造せんか?』
と言って女神様は千里の視覚に金色の古い形の剣を提示した。千里が手持ちのスケッチブックに絵を描くと
『そうそう。そんな形』
と言った。
 
『こんなものを作ってどうするんです?』
『青葉の仕事に必要になる』
『青葉に直接教えてあげればいいのに』
『私は青葉の眷属ではないから、基本的に青葉の手助けはせん』
『まあいいですけどね。真鍮(=黄銅)でいいですか?』
『青銅がいいな。表面は金メッキで。長さは30cmくらい』
 
(黄銅=銅+亜鉛:五円玉、青銅=銅+錫:十円玉、白銅=銅+ニッケル:百円玉、洋銀=銅+亜鉛+ニッケル:五百円玉)
 
『結構製作費がかかりそうだ』
 
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その大きさなら、たぶん30万円くらいかなぁ〜。刀身が長いが、確か銅剣は銃刀法にはひっかからないはず、と考える。
 
『製造費の100倍くらいは稼がせてやるぞ』
『私はここに作曲しにきたのですが』
『良い発想が得られるようにしてやろう』
『その印税で製造しろと?』
『赤字は出ないと思うぞ』
 

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それで千里が神社の裏手の崖の所で、千葉市街地を見ていると、やがて日が沈んで夕焼けになるのだが、それを見ていて素敵な感じの詩とメロディーが浮かんできた。
 
急いで書き留める。
 
日が暮れると少し涼しくなるので、千里はその曲をミラの車内できちんとした形にまとめあげた。『夕映えの街』というタイトルをつける。あとは葛西に持って行って、調整しようと考え、女神様に御礼を言ってから引き上げた。
 
葛西のマンションで千里は一通り書き上げた上で、仮歌を自分で歌って録音し、その録音と譜面・歌詞をまとめて蓮菜に送った。これで彼女が添削してくれるはずである。それで千里はスペインに戻ってレオパルダの練習に参加した。
 
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日本時間の明け方、スペインから戻ると蓮菜からFAXが送られて来ていた。
「でも眠い。たいちゃん、悪いけどCubaseに入れておいてくれない?」
「いいよ」
 
それで千里は取り敢えず寝た。
 
お昼頃起き出すと《たいちゃん》は既に入力を終えていた。
「ありがとう」
と言ってから、調整を始める。何度か試唱しては録音して聞き、それをまた調整していく。
 
結局その日の夜になってほぼ完成。レオパルダでの練習を経て、翌朝日本に戻ってきてから、再度歌ってみて調整。それで∴∴ミュージックに送信した。
 
それから千里はL神社の辛島さんに電話し、神棚などに置くような銅剣を制作している会社を教えて欲しいと言い、それでその会社を訪れ、青銅の剣の制作を依頼した。
 
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「青銅にもいくつかの種類があるのですが」
「燐とかを混ぜない、純粋な錫青銅で作って欲しいんですが」
「古式に従うんですね」
「そうなんですよ」
 
千里が代金を現金で前払いすると、向こうはびっくりしてガラスケースをプレゼントすると言った。しかし千里は断った。
 
「この剣は御守りとしてある場所に埋めるんですよ。ですからケースは不要です。その代わり腐食防止で金メッキが必要なんです」
「なるほど、そういう用途でしたか」
 

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龍虎は6月中旬くらいから、かなり安定してポワントで立てるようになって来た。先生からも、生徒で唯一トウシューズで踊れる蓮花からも「早ーい」と言われた。
 
「私なんて10月頃やっとできるようになったのに」
「うん。それが普通。龍ちゃん、凄く上達が早い」
「体重が軽いからかもー」
「ああ、それはあるかもね」
 

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ある日、龍虎が部屋の中でボーっとしていたら母が入って来た。
 
「あんたさ、多分、しばしば彩佳ちゃんと一緒に寝てるよね?避妊はしてる?」
 
何か誤解されている気がする。確かにお互いの部屋に泊まったりはするけど性的なことは何もしていない。布団も別で相手の布団へは侵入禁止である。
 
「避妊も何も、ボクのは小さいからセックスは不能だよ」
「立つ?」
「少し大きくなる。小さい時は身体の表面から5mmくらいだけど、大きくすると1cmくらいにはなる」
「精液は?」
「何も出ないよ」
 
「それを彩佳ちゃんのあそこに当てたりしない?」
「断固拒否してる」
「・・・やはり避妊具持っていた方が良いよ。これあげるから」
 
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と言って母は避妊具の箱を渡した。
 
龍虎は尋ねた。
 
「ボクの小さいけど、つけられる?」
「ちょっと見せてみて」
「うん」
 
それで龍虎はパンティを下げスカートをめくって母に性器を見せたが、母は
 
「取り付けは不可能な気がする」
と言った。
 
「でしょ?」
 
「いっそ睾丸取っちゃう?そしたら彩佳ちゃんを妊娠させる可能性は無くなるけど」
「やだ」
 

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「そうだ。夏休みに尿路変更手術受けない?」
「何それ?」
「今おちんちんからおしっこ出てるから前に飛んで不便でしょ?この辺から」
と言って母は龍虎の身体に触る。
「この辺からおしっこが出るようにすれば、おしっこ楽になるよ」
「そんな後ろから?」
 
「ここが女の子のおしっこが出る位置。あんたどうせ立っておしっこしないし。それなら、ここから出るようにした方が便利。もっと女の子に近づけるし」
 
女の子と同じ場所からおしっこが出るようになれば“偽おちんちん”も取り付けやすくなる?と一瞬考えた。でも・・・
 
「お母ちゃん。ボク別に女の子に近づきたくないんだけど!?」
「そう?尿路変更しないなら睾丸だけ除去する?聞いてみたけど睾丸取るのはいつでもできるって。終業式の日7月18日の午後にでも予約入れようか?」
 
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「睾丸は取りたくない」
「早く取らないと、あんた男性化しちゃうよ」
「男性化はしたくないけど」
「やはりそうだよね?じゃ思い切って取っちゃおう。手術は30分くらいで終わるし」
「・・・せめてあと1年考えさせて」
 
「じゃもうしばらくは女性ホルモンで男性化を抑えておくか」
「うん」
 
だったらやはり女性ホルモンもっと飲んだ方がいいのかなぁ。
 
「それと夏服作らなくていいの?」
「夏服って、男子はワイシャツになるだけだし。もっともボクはワイシャツは入らないからブラウスだけど」
「男子はそうかも知れないけど、女子は夏服セーラーになるんでしょ?」
「女子制服は着ないよ〜」
 
「着なくても作るだけ作らない?」
「必要無いよぉ!」
 
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と言った所で目が覚めた。勉強している内にうとうとしていたようだ。
 
嘘!? 今の夢!??
 
と思って、龍虎はトイレに行った。おしっこしながら考える。
 
うちのお母ちゃんも結構暴走してる時あるけど、さすがに睾丸取れとは言わない気がする。まあボクが自分で取りたいと言ったら止めずにむしろ即病院に連れていきそうだけどね〜。
 
睾丸は・・・死んでるのかな?それでもできれば取りたくない気がする。
 
でもセーラー服の夏服・・・。欲しいなあ。川南さんとかでも買ってくれないかなあ。でも欲しいなんて言い出せないし。
 
基本的には川南が
「龍虎、セーラー服買ってやるぞ」
「要らないって」
とやりとりするのが常である。
 
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それでトイレを出て台所で冷蔵庫からR-1を1本出して飲む。それから部屋に戻って、布団を片付けようとした時、ふと枕元に何かあることに気付く。
 
龍虎はその箱を手に取ってじっと見た。裏返してみる。何これ?と思ってしばらく見ていて、その正体に気付く。
 
ちょっと待って。今見たの夢じゃないんだっけ???
 
 
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