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11月4日(金).
昨日姫路から戻ったばかりの千里Gは星子を連れて深川市に行き、2DKのボロ家付き40坪ほどの土地を買った。新たな深川・司令室のための土地である。
今日の(留萌)司令室は昨日に引き続きRが見ている。
「自分使いが荒い」
とRは文句を言っていた。
Gは登記移転が終わると、A大神の男性眷属・参吾さんと三郎さん(*1)に頼んで少し改造を掛けてもらった。先日留萌W町の病院跡の残っていた医療器具などの処分をしてくれた2人である。
・1階の天井・2階の床板を外し、1階の天井を6mほどにする。
・地下室を作り2階への階段があった所に地下への階段を造る。
・お風呂とトイレを新しいものに交換する。
・ボイラーを更新する。
地下室を造るためにいったん1階の床板を剥がしたが状況を見て2人が言う、
「この床板かなり痛んでますよ」
「根太(ねだ:床板を支える格子状に組んだ材木)も傷んでますよ。交換したほうがいいです」
「じゃその交換もお願い」
と言いながらお金の残りが少ないぞと少し悩む。
A大神から「費用は貸しとくよ」という直信がある。ありがたく借りておくことにした。それに根太に使うヒバ材、床板に使う白樺材は、大神が管理している森から切り出すとタダらしい。
「乾燥や製材の費用は?」
「貸しとく」
「借ります」
これらの製材をしてくれたのはミンタラ木材さんといって、当時はA大神の“神の声”が聴ける北条さんという老人が経営していた。人間の手では切り出せない深山の木材を眷属さんたちに切り出してもらう代わりに、製材した材木を、A大神の指定する人たちに安価に提供していた。
お風呂は古い埋め込み型のタイル貼り浴槽・外釜式だったが、ボイラー給湯式でシャワー付き、浴槽はFRPの設置型にしてもらった。FRPのメリットは安い!ことである。
「何十年も使うものではないから安いのでいいよ」
と千里は言い、安さでこの選択となった。
洗い場の鏡が小さいし欠けているので、これをもっと広いものに交換してもらった。
「でも鏡ってどうしても曇るよね。曇らないようにできないもんなのかな」
「ほとんど曇らないガラスというのもありますよ」
「あるんだ!」
「アンティフォグ・グラスというんですけどね。メーカーは“くもりにくい”ガラスと言ってますが実際にはほとんど曇りませんね。お風呂の鏡に使っている家もありますよ」
「でもお高いんでしょう?」
「まあそれが欠点ですね」
「まあ今回は予算が無いから安いのでいいや」
「安さは全ての美徳に勝ちますね」
「なんか格言っぽい」
(*1) 例によって参吾はA大神の35番の眷属。三郎は36番目の眷属。この手の名前は例えば007 みたいなコードネームである。ミミ子やカノ子も同様。
11月3日(木祝)午後に2tトラックを運転して姫路を出たサハリンは、播但連絡道→中国道→舞鶴若狭道と走り、18時頃舞鶴港に到着した。ここから深夜発のフェリーに乗って小樽港まで行く。このルートは行程の大半を寝て行けるのが利点である。
11月4日(金)の21時頃小樽港に到着。ぐっすりと寝て元気一杯の身体で運転して、その日の24時前には留萌に到着した。車を(新)早川ラボに駐めて建物の中で仮眠する。
11月5日(土)朝、千里から千里・清香・公世の道着と竹刀・防具を1セットずつ受け取り(*2)(*3)、荷室に積んでからコリンの家に行く。ここで千里Gによりサハリンとコリンを位置交換する。それでコリン自身の手でコリンの部屋の自分の荷物、千里の着替えや賞状・トロフィーの類い(例の木刀を含む)、などをトラックに積み込む。一部は源次に手伝わせて衣裳ケースごと積んだりした。
小糸とコリンを位置交換して、小糸自身の手で自分の部屋の荷物を運びこませた。これも源次が手伝った。それから小糸とコリンを再交換する。
「源ちゃん、ありがとね。これお土産〜」
と言って、ケーキを置いていったが源次は
「これは小町が帰ってきてからだな」
と思った。小町は(土曜なので)P神社にご奉仕に行っている。
そのあと、コリンがトラックを運転して旧天野道場の場所に行き、ユニットハウスに入っている荷物の大半(辞書や参考書の類い・寝具1セットを含む)も積み込んだ。それからW町の司令室に行き、一部の衣類や書籍なども積み込むと結構一杯になった。それから早川ラボに移動して、清香の賞状やメダルの類いを積み込んだ。2人の荷物は紛れたりしないように、千里のを佐川急便の箱、清香のをヤマト運輸の箱に入れている。それからサハリンと位置交換する。
そしてサハリンがトラックを運転して小樽港に向かった。
(11/5)深夜のフェリーに乗り、11月6日夜、舞鶴港に到着する。それでその日の深夜には姫路に戻った。小糸とサハリンの手で荷物を運び込んだ。貴子の眷属のロデムさんや“ナツユリ”“アキユリ”姉妹も手伝ってくれた。サハリンはその日はコリンの部屋で一緒に寝た。
(*2) むろん普段練習に使っている竹刀・防具ではなく予備の竹刀・防具。これらはしばらく姫路に置きっ放なしにする。3月以降はこちらがメインで留萌で今使っているのが予備になるかも。
(*3) 竹刀については、3人とも全国大会の後で、高校生仕様のものを買い直し、それで普段の練習をしている。中学生仕様のもので残っていたのは後輩たちにあげている。
※竹刀の規格
長さ 中学生114cm以下 高校生117cm以下
重さ
男 中学生440g以上 高校生480g以上
女 中学生400g以上 高校生420g以上
姫路の新居の方は、11/2朝 に道場が“置かれて”形の上では完成したが、そのあと11月4日に九重たちの手で、道場内に入れて一緒に持って来た太陽光パネルを再度屋根に載せ、また配線・配管などの工事も行った。
また不動産屋さんを通して地元の業者に依頼し、水道管・下水道管をつないでもらった。これが11月6日になり、6日の夕方にはここで生活できるようになった。
なおここではガスは使用しない。また電気は太陽光パネルだけで充分なので、関西電力とも契約しない・・・つもりだったが、後で電力会社の営業マンが来て、結局連携契約をすることになった。そのため毎月電力会社から電気の買い取り代金が入るようになった。
しかし太陽光パネルが作り出す電気が旭川の時より大きかったので、貴子は姫路と旭川の“緯度差”を感じた。
11月7日(月).
千里(R)と清香、それに公世と母、岩永先生の5人は次の連絡で姫路に向かった。
5:00(岩永先生の車)7:40新千歳空港8:40 (JAL2000)10:30伊丹空港(昼食)12:00(サハリンの運転するエスティマ)13:00H高校
千里と清香は正式の入学手続きをするのが目的である。
公世については、彼の性別に理解のある千里の行くH高校に行ってはどうかという案を実は竹田君がしてくれた。竹田君は言った。
「性別を変える場合、彼女を知っている人のいない環境の方がきっとやりやすいです」
性別問題は置いといて岩永先生が公世に打診したら、本人も「村山さんと一緒なら心強い」と言ったのでその話し合いに行くのである。
ちなみにいちばんの理解者である沙苗はこの時点で旭川のE女子高への進学を考えていた。
「こうせい君、私と一緒にE女子高に行ったりはしないよね?」
「女子高生になるのは嫌だぁ!」
などというやりとりをした所なのでH高校が共学校と聞いてそれなら行ってもいいかなあと思ったのである。(共学校の女子生徒になったりして)
一応岩永先生が向こうと電話で話し合ったのでは向こうは大歓迎ということだった。性別問題に関しても少し話した範囲では「女子剣道部でも男子剣道部でも受け入れていい」と言われた。向こうは性同一性障害の生徒も数人在籍しており、性別の曖昧な生徒にも慣れているようである。MTFの生徒には女子制服での通学、FTMの生徒には男子制服での通学を認め、女子として“パス”している上に、女性ホルモンの服用などにより男性機能喪失済みの子については女子トイレの使用も認めているらしい。
行く途中で、入学できた場合の住居のことが話題になる。H高校には男子寮・女子寮がある。千里と清香は女子寮に入ることが可能である。しかし公世は多分男子寮では入寮を拒否される。でも公世は女子寮には入りたくない。
千里は言った。
「私の知人の女性で今まで旭川に住んでいた人がちょうど姫路に引っ越すので家を建てたんですよ。そこに清香と2人で同居予定です」
「そうなんだ」
「実は旭川に住んでた天野さんなんだよ」
と公世に言う。
「天野さん姫路に引っ越したんだ!?」
と公世は驚く。
「これまで私たちをたくさんサポートしてくれた人で、旭川で使っていた剣道場も、まるごと姫路に解体移築したんですよ」
と岩永先生たちに言う。
(まるごと抱えていって置いたとは言えないもんね)
「道場も持って行ったと聞いて私も同居することにした」
と清香は言っている。
「千里と同じ所に住んでいれば、思う存分対戦できる」
「それ凄いね」
と岩永先生が言う。
「ぼくはどうしよう?」
と公世は悩んでいる。
千里は言った。
「特にあてが無いんだったら、きみちゃんも私たちと同じ所に下宿しない?」
「3人も下宿して大丈夫?」
と公世の母が心配する。
「大丈夫ですよ。天野さんお金持ちだし、それに家は広いし女の子同士だし」
「え〜〜!?」
と公世。
「うむ。確かに女の子ばかりなら問題無い」
と清香。
「考えてみれば同居者として千里ちゃんは最高かも」
と公世のお母さん。
「じゃとにかく学校が終わった後でみんなでそこに行こう」
公世は「ぼく男なんだけど」とは思ったものの話が面倒になりそうなので何も言わなかった。
伊丹空港にはサハリンがエスティマで迎えに来ていてくれた。千里は天野さんの家のコンドュクター(ドライバー)で夏川さん、と紹介した。彼女は運転手の制服っぽい服を着ている。彼女が3人の道着と竹刀・防具を持って来てくれていた。
サハリンの運転で学校に着くと、まずは生徒たちを待たせておき、岩永先生がひとりで男子剣道部の顧問・吉坂先生、女子剣道部の鐘丘先生、そして教頭、に説明した。この内容は一応事前にも説明していた。
・工藤公世は医学的には一種の半陰陽らしい。睾丸はなく卵巣があるため見た目は女性で声変わりもしていないが、クリトリスが肥大化していて、股間だけを見たら男性と見紛う。また乳房はあまり発達していない。生理もまだ無い。ただし普通の男性よりは胸が厚く、また乳首が大きいのでブラジャーが必要で運動をする時はスポーツブラが必要である、
・医師は本来は女性なのだから手術して股間を女性状に変更し戸籍も変更して女性として暮らすことを勧めたが、本人は拒否した。
・本人としては「自分は男である」という明確な意識を持っており、男性として暮らしたいと思っている。ただ体型上の問題で女子用スラックスを穿いている。だから実はFTMに近い。
・恋愛対象についてはほぼアセクシュアルである(この言葉を先方が理解してくれたようなので「さすが」と岩永先生は思った)。友人は男女同数くらい。
・現在は全国大会の男子の部で準優勝したにもかかわらず、高校からは女子の部に移行するのだろうと勝手に思われて女子高から多数の勧誘が来ている。
・しかし本人としては男子高校生になりたいと思っているし、男子の部で剣道を続けたいと思っている。
・それで次のような形態で就学する条件で入学させてもらえないだろうか。
(1) 学籍簿上の性別はこだわらないが、男子の出席番号で登録し、男子制服で通学する。
(2) 男子トイレの個室を使用し、個別の更衣室を使用。身体測定も個別。
(3) 男子剣道部に加入し、男子の部に出場する。
「要するに普通のFTMさんですよね」
と教頭は言った。
「それに近いんですよ。実は」
と岩永先生も答えた。
「出席番号については、うちは混合名簿なので男子でも女子でも番号は変わりませんから」
「それは気楽でいいですね」
「身体測定の個別測定や更衣室の個室使用も、そういう生徒が何人かいるのでOKです」
「助かります」
そのあと、本人(男子制服を着ている)とお母さんに入ってもらい、色々話し合う。30分くらい話して
「君、見た目は女の子だけど、実は男の子だね!」
と教頭先生が言った。
「ぼくはそのつもりなんですけどねー。自分が女の子かもと思ったことは一度もありません」
「トイレだけど、実はうちの学校は性別の曖昧な生徒さんのために各フロアに“みんなのトイレ”というのが設定してあるんだけど、そこを使ってもらうというのでもいい?君女の子にしか見えないから、男子トイレを使うと、君自身の身が危険な気がする」
「まあ女子トイレでなければいいですよ」
「でも大会の時とかは女子トイレ使ってるみたいですけどね」
と公世の母。
「男子トイレに入れてもらえないので」
と本人。
「まあ医学的には女子なのだから、女子トイレを使うことは違法ではないと思うよ」
と岩永先生は言った。
しかしこの場で、公世について男子生徒としてH高校に入学することが決定したのである。
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女子中学生・冬のOOOグラス(1)