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1月4日(水).
沙苗は佐藤学に電話した。
「1,2年生の女子が新人戦に向けて頑張って練習してるんだけど、指導する人手が足りないんだよ。佐藤さん、少し手伝ってくれない?」
「どこで練習してるの?」
「早川ラボ。MR町のバス停から800mくらい。直前に電話したらバス停まで迎えに行くよ」
「分かった。じゃ行くね」
「着替えを何組か持って来たほうがいい。たくさん汗掻くから」
「着替え・・・・」
ぼくもう男子更衣室には入りたくない。でも今女子更衣室には入れない状態にある、と思う。
「バスルームがひとつとシャワールームが5つあるから、そこで汗を流して着替えればいいから。他の子に“裸や下着姿を見られる”心配は無いよ」
「それすごいね!」
それだけの施設があるのなら、今の自分でもいけるかなと思った。
それで竹刀と防具、道着・袴・手ぬぐい・下着の替え2セット、バスタオル2枚をスポーツバッグに詰め、やや性別曖昧な格好で家を出た。母が「帽子かぶったほうがいい。今日は寒いよ」というので、毛糸の帽子をかぶった。
バスに乗る前に沙苗に電話した。バス停まで迎えにきてくれたので、一緒にジョキングでラボに到達する。
「なんか大きな体育館があるね」
と言って中に入って驚く。
「凄い。練習場が3つもある」
「元々古い倉庫にフローリングを敷いて剣道の練習ができるようにしたものなんだよ。先月練習場をひとつ増設した」
「すごーい!」
「着替えはシャワールーム使って」
「うん」
「何かここ暖かいね」
「オンドルが入ってるからね」
「すごーい」
それでマナは特に、如月・由紀・田詩歌・大島晴枝などの上位陣と対戦した。
「潮尾(由紀)さん、凄く強くなってる」
「男子相手だとみんな向こうが本気になってくれないから、こちらも8割で戦ってました。女子相手なら本気です。マナ先輩も本当は仮面男子でしょ?ここでは本気でいいですよ」
「・・・・」
1時間半ほど練習したところでかなり汗を掻く。道場主の道田さんから
「ちょっとシャワー浴びて休憩入れようか」
と言われて、マナもシャワー室に行ってシャワーを浴び、下着と道着を交換する。シャワー室を出たところで、洗濯籠を持った12-13歳の女の子が
「洗濯物はここへ」
と言うので、ついそこに入れてしまい「あっ」と思う。
「ごめん。これ私が自分で洗う」
「ああ、大丈夫ですよ。ここオンドルが入ってるし、ガラス窓が温室みたいになってて数時間で乾きますから夕方には持ち帰れます」
と言いながら,女の子はマナの道着、アンダーシャツ、ブラジャー!、パンティ!にホッチキスで青いタグを留めてしまった
「青7のタグを留めました。あとで自分のが分からなくなった時参考にしてください」
「分かった。ありがとう」
知らない女の子だからR中の子かな?まあ知らない子ならいいかとマナは思った。
(この子は小鳩の姉妹で小鴨という)
1月4日(水).
千里・きーちゃんを含めて4人の霊能者が東海地方某所に集まっていた。
「もう正月早々から」
と貴子が文句を言っている。
「まあそう言わずに頼むよ」
と言っているのは県内の寺の住職・広瀬瞬角さんである。今回はこの人からの依頼だった。これに稚内の桃源、姫路から来た天野貴子、貴子が推薦した留萌の千里、の4人である。
「まあ現場へ来てくれ」
と言われて、“桃源さんの運転”で、小さな山間(やまあい)の村に行く。集合した場所から車で30分ほど走った。
(瞬角さんが運転する車には誰も乗りたがらない:一般道を200km/hで走ったりする)
その村に入ったとたん全員無言になる。全員車から降りようとしない。
「これをどうしろと?」
「パワーを解放して無害化する」
「それ死者が出ると思います」
「最悪の場合、数十人以内なら死者が出てもやむを得ない」
「え〜〜!?」
「再度封印するんじゃなくて解放するんですか?」
「ここでダムの工事が始まる。よりによってこの付近が堤になる。その工事によって現在の封印が壊れると、工事関係者がかなりやられるし、下流の村も巻き込んでかなり犠牲者が出る。もし工事の時に壊れなくてもダムができてから壊れたら**市まで被害が及んで未曾有の大災害になりかねない。だから再封印ではなく解放する必要がある」
「なんでこんな所にダムを作るんです?」
「お偉方が決めたから仕方無い。私はダム建設に中立派の代議士さんに頼まれた。工事が始まるまでにここを何とかしてくれと。だから報酬は1人2000万払う」
金額が恐ろしい。つまり術者に死者が出る可能性もあるということだろう。今回順恭さんを呼ばなかったのは彼の力では真っ先に殉職しかねないからとここに来る前、きーちゃんは言っていた。
ここの問題を議員さんに訴えた地元の霊能者さんにも遠慮してもらった。参加すればまず確実に殉職する。実はこの代議士さんのお姉さんが“見える人”で、その霊能者さんに連れて来られて姉弟でこの村を見て「これは早急になんとかしなければヤバい」と思い、その筋では法力が凄まじいことで有名な瞬角さんに依頼があったらしい。
「聞かなかったことにして帰りたい」
「やりたくない人はもちろん帰ってもいい。何とか4人以上集めて再挑戦する」
「でもこの4人よりレベルの高いメンツはたぶん集まらない」
「瞬法はインフルエンザで寝てるんだよ」
と瞬角が申し訳無さそうに言う。
「たぶん守護霊の働きですね」
つまり瞬法の守護霊が危険な作業をさせないためにわざと病気にしたのだろう。
「瞬高は戦闘向きではないし、歓喜や紫微は他人との共同作業を嫌うし」
瞬高さんは鎮魂のようなものは得意だが、戦うのは苦手らしい。
「歓喜や紫微は他人を信用しないからね」
「子牙さんに頼めないかと思ったが連絡が付かなかった」
と瞬角。
「2代目・子牙はこの夏に亡くなったんですよ」
と貴子が言う。
「知らなかった」
「お孫さんが継いだけどパワーは未知数です」
「ああ」
「虚空はまだ小学生ですしね」
「虚空さんも代替わりしたのか!」
「まあそもそも虚空もあまり群れたがらない」
「羽衣さんは海外逃亡中だし」
「さすがにあんな婆さんは役に立たない」
などと瞬角は言っている。
「歓喜や紫微にしても虚空にしても他人の失敗のせいで自分が危機に曝されるのは御免だと思ってるよね」
と桃源。
「自分と並ぶようなパワーの持ち主に出会わずに育ってきたからね」
と瞬角。
「じゃやはりこの4人しかあり得ないな」
「大災害を防ぐためにはやるしかないか」
※この物語はフィションです。このような場所は実際には存在していません。
4人は覚悟を決めて車からおりた。
「簡単に状況と方針を説明する。現在この村に住んでいるのは最後まで立ち退きを拒否している住民20人くらいと支援者30人くらい。まあ強制執行は時間の問題。彼らが立ち退いてから処理すれば一般人には犠牲者を出さずに済むが、それでは我々がこの村に入れなくなるからその人たちには申しわけないが今やる。無事を祈るしかない」
「この禍々しい気は2つの集団から来ている。ひとつは古い***の集団があり、100年か150年くらい前に誰か強い行者か何かが封印してそこに祠を建てた。ここは後に神社として祭られ結構参拝客を集めた」
「でもその神社が放置されてるね。多分もう20年以上」
「戦後ここの神社は廃止になって宮司もいなくなったんだよ。それでも1980年頃までは近くのお婆さんが毎日線香を供えてなんまいだぶ、なんまいだぶ、とやってたらしい」
「神式に祭られている物の前で念仏を唱えるのか」
「でも要は供養する人の気持ち」
「信心深い人のお祈りなら何でも利くよ」
「でもお婆さんが亡くなってからは放置されているようだ」
「むしろゴミ捨て場と化している」
「うん。色々な物が不法投棄されて悪臭で人が寄り付かなくなっている」
「だから処理方針としてはその封印を壊す」
「壊しちゃうんですか?」
「霊集団が飛び出してきてこの神社の神様たちと戦いになる。それでめでたく相打ちになってくれたら万歳。実際にはとちらかが少し残るだろう。たぶん霊集団が残るからその残った霊集団を潰していく」
「それ私たちも危なくない?」
「もはや白兵戦だな」
「まあ4人全員が死ぬことはあるまい」
「やはり逃げようかな」
たぶん瞬角さんは自分が楯になって他の3人を守る覚悟のようだ。しかしこれは弱い霊能者なら即刻やられてしまう。
千里は言った。
「そんな危険なことしなくても、神様たちを昇天させて、霊集団は一気にではなく少しずつ解放してやればいいと思います。東京のマンションを処理した時みたいに。多分4-5日掛ければこのメンツで処理できる速度で解放できます」
「神様たちをどうやって昇天させるの?社(やしろ)の近くまでもいけないんだよ。凄まじい結界があって」
「多分60mくらいまでは近づけると思います」
「ほんとに?」
「古い参道を通れば行けますよ」
「自信があるようだね。やってみせてよ」
「きーちゃん、ちょっと私が運転していい?」
「状況が状況だから任せた」
千里は運転席に就くと運転席の窓を開けた。他の窓は閉めている。瞬角・桃源・貴子が車に乗る。全員かなり強い霊鎧をまとっている。そして千里は車をスタートさせる。
「君運転うまいね。かなり運転してるな」
「あまり深く追求しないでくださーい」
それで千里は実に難しいルートを辿って“その場所”に辿り着いた。
「ヒヤヒヤした」
「凄い。多分これ以外の進入路は無い」
「古い参道の跡をたどっただけですよ」
ともかくも車は社(やしろ)の鳥居前に来た。ただ鳥居と言っても島木や貫(ぬき)が脱落して柱のみが残る。ここは社殿まで30mくらいである。でもみんな降りない。千里も運転席の窓を閉める。
しかしここは酷い。誰もここを見て神社とは思わないだろう。ゴミ集積場か?くらいにしか思わない。
「**菩薩の**大悲法を使っていい?」
と千里は貴子に訊いた。
「なんか恐ろしい名前を聞いた」
「このお社(やしろ)を処理するにはそれしかないと思う」
「あんたそんな凄い秘法使えるの?」
「使えますけど、多分私は2〜3時間稼働できなくなると思います。きーちゃん、私がその秘法を使った後、封印を6分の1くらい開けて。そしたら霊集団は少しずつ出てくるから、他の3人で処分できると思う」
「4分の1開けていい。私が処理する」
と瞬角。
「じゃそのくらい」
千里は鳥居を通り拝殿前まで歩み寄った。神殿まで5mほどである。
「なんであの子はあんな近くまで寄れるんだ?すさまじい霊圧なのに」
と瞬角が呟いている。
千里は拝殿前の狛犬さんのラインまで寄っている。実は狛犬さんが千里を助けてくれたのである。千里はその場であぐらを組み、靴下を脱いで手の指と足の指を接触させた。
社(やしろ)の神様たちは怒り狂っている。
突然、巨大な存在が姿を表す。怒り狂っていた神様たちが天を見上げる。甘露の雨が降る。神様たちの怒りが収まっていく。甘露の雨に当たり気持ち良さそうにしている。そして心がやわらいでいく。そして神様たちは自主的に天にお還りになっていった。ついでに狛犬さんたちも上に上がった。
清浄な空間が残り、巨大な存在はニコッと笑って去って行った。
瞬角は思った。
「違う。これは**菩薩の**大悲法ではなく、それをアレンジした**女神の**大慈法だ。これは初代子牙さんのオリジナル。まさかこの娘が三代目・子牙なのか?だから帰蝶が連れてきたのか。二代目より遙かにパワーがあるじゃないか?」
でも彼はこのことを誰にも言わなかったので、その想像も墓場に持っていくことになる。
千里が立ち上がってこちらに戻って来るが、その背後で半分崩れかけていた拝殿が潰れるように完全に崩れた。封印の上に乗っている本殿だけが残る。
「誰がやったの〜?」
「細かいことは追求しない」
「桃源さん、その子を連れて町まで行って焼き肉でも食べさせてやって。かなり消耗したはず」
「分かった。でも私に結界を通れるかなあ」
「神様達が居なくなったことで結界も消えたはず」
「あっそうか」
「君たちが戻ってきてから封印を開ける。これは常時3人付いてないと危ない」
「了解」
しかし千里は言った。
「私の眷属を呼びます。そしたらすぐ封印を開けられる。でも私は多分回復に3時間くらい掛かると思うのでその間は封印は細めに開けて」
「分かった」
それで千里はコリンを召喚する。と同時に手薄になる姫路のフォローのため、ミッキーに姫路に移動するよう指示した。
貴子が封印を23%くらい壊した。大きく壊しすぎるよりマシと考えたのだろう。しかし神社の本殿は半分くらい崩れている。
そこから霊集団が出てくる。瞬角はそこに##明王の第7をぶつけた。飛び出してきた霊集団が一瞬にして蒸発する。続いて出て来た霊の塊は貴子が消滅させた。その次に出て来たのは桃源が消滅させた。
「これを多分三日三晩くらい続ければ片付く。でもこれ交替で休みながらやらないとダメだ」
やがてコリンがレンタカーでやってくるので、千里は離脱して休憩させてもらう。いちばん近いファミレスまで行き、5人前のランチを食べてから車の中で30分寝た。そして現場に戻る。
千里が戻ると、貴子が離脱する。彼女もロデムを召喚しており、ロデムが運転するレンタカーで休憩に行った。貴子が戻ると桃源が休憩に行くが、コリンに運転させた。車係は結局コリンとロデムが交替で務めることになった。術者は消耗しているので運転は避けたほうがいいと貴子が提言し、瞬角も了承した。
(スピード狂の瞬角に運転させないためもある。今瞬角が交通事故死したり、警察に逮捕されると物凄くヤバい)
しかし凄まじい現場にいつも冷静なコリンの顔がこわばっていた。ロデムもかなり緊張していた。
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女子中学生・冬のOOOグラス(17)