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ただこの後、公世本人に席を外してもらい、学校側と岩永先生、公世の母とで話し合った結果、“面倒な問題を避けるため”学籍簿上は“くどう・きみよ・女”としておくことを決めた。彼が女子トイレなどを使用していて「君男子の部に出てたじゃん」などと言われて万一トラブった場合に、女子生徒の生徒手帳を持っていれば何とかなる。
「男性だが女子トイレの使用が認められている」
と言うより
「女性だが男子の部への出場が認められている」
と言った方が世間的には受け入れてもらいやすい。
それに本人には今は言えないが、本人がもし将来、やはり女子の部に移行したいと思うようになった場合の布石も兼ねる。彼が女子アスリートとしての基準にあることを確認するため毎月ホルモン量の検査を受けてもらい。その記録を医療機関で保管してもらう。
つまり公世はやはり女子高生になることが確定した!(但し男子として就学する)
その話し合いが行われている間に、千里と清香は正式の入学手続きをした。2人とも特待生として入学金は免除である。住所は2人とも橘丘新町の住所を書いた。
「あら、同じ住所なのね」
「私の親戚の人が姫路市内に居て、そこに私と木里さんが同居するんです。工藤さんも同じ所に下宿するかも」
「へー。北海道から来た女の子3人だと心強いよね」
岩永先生たちのほうは再度公世を入れて入学準備について話し合う。
公世は一応推薦入試の形を取るが、科目の試験は受けなくてよい。代わりに小論文を提出してもらいそれで評価するという形式を取る。これは千里・清香と同様である。
制服の制作は1月になってからでよい。特待生にするので授業料は7割免除で入学金は全免である。公世の髪は“女子の基準”で扱う。
話し合いは13時からおやつをはさんで16時くらいまで続いた。そのあと、吉坂先生と鐘丘先生に連れられて3人とも道場に行く。
「ここは1階が剣道場で2階が柔道場ね」
「すごいなあ。練習環境が素晴らしい」
「試合場が6つあるから男女3個ずつ使える」
「おお凄い」
「正確には男女2個ずつは確定であと2個は結構奪い合いだけどね」
「熾烈な争いだな」
やがて剣道部員が来る。先日言葉を交わした島根さんが手を振る。そして寄ってくる。
「工藤さんだよね?工藤さんも入ってくれるの?」
(笑顔だが、これだと自分がレギュラーから落とされるぞ、と思っている)
「男子の部ですけど」
「え〜〜!?」
と残念そうに言う。
(内心、だったらいいやと思っている)
「みんなが公世は高校では女子の部に行くと思ってるよね」
と千里は言う。
「少し手合わせしてみない?」
というので手合わせする。
竹刀や防具は前述のようにサハリンが持って来ていたので、3人とも武道場付属の女子更衣室で着替えた。公世は少し抵抗したが妥協した:だから公世は学生服で女子更衣室に入った(但し“応援部の女子ですか?”くらいにしか思われない)。
まず千里が1年生の武原さんと対戦する。千里がフットワークを使って常に動き回るので、やりにくいようである。向こうから攻撃してくるが、千里は鮮やかに交わしていく、強引な面打ちを千里がかわし、体勢を立て直したところで千里の面がきれいに決まる。
「これは私の相手だ」
と言って3年生(女子)の葉山さん(三段)が出て来る。千里は「かなり強い相手だ」と思った。かなりパワーを解放する。それで千里が時間内で勝った。
「すげー」
と声があがる。
「村山さん、相手のパワーに応じて自分のパワーを変えてる」
と葉山さんは言った。
「それは葉山さんもですね」
清香も葉山さんと手合わせしたが、やはり清香が勝った。
「2人とも凄い」
とみんな言っている。
公世と男子1年の山脇君が対戦する。さすが強豪校の高校生だなと思ったが2分で公世の勝ちである。
「君強いね」
と言って、やはり3年の男子・因幡君(三段)が出てくる。
「この人強ーい」
と公世は思った。実際1分で1本取られる。しかし2分で1本取り返し、更に相手面打ちの返し胴でもう1本取って勝った。向こうはその面打ちをまさかかわされるとは思ってもいなかったようである。
公世の勝ちになるが、今回は向こうが(こちらを女と見て?)本気ではなかったからだと公世は思った。
「3人とも強いね。これだと来年は男女ともインターハイ行けるかもね」
と女子顧問の鐘丘先生が笑顔で言っていた。
学校が終わった後、岩永先生も含めて、サハリンが運転する車で千里の新居に向かう。
「あの目立つ建物が道場か」
「住宅より道場のほうが広いから、住宅付き道場の状態ですね」
「なるほど」
「あら家自体も新しいね」
と公世の母は言う。
「姫路に移動することになったからこの夏に建てたんですよ」
「へー」
「夏から建築始めてもう使えるんだ?」
「ユニット工法だから早いんですよ」
「なるほどー」
半月前に建てて、昨日使用可能になったとは言えない!
ピンポンを鳴らすと、コリンが出てくる。
「いらっしゃいませ。それとお嬢様方お帰りなさいませ」
と言って全員をあげて居間に案内する。
居間には貴子が座っていたが立ち上がって
「いらっしゃい。それと千里ちゃん、清香ちゃん、お帰り。きみちゃんも来たんだ?でもなぁに?きみちゃん男の子みたいな服着て」
などと言っている。
学校訪問だったので、千里と清香はセーラー服、公世は学生服である。
「こちらこの家の主(あるじ)の天野貴子さん。こちらうちの中学の剣道部顧問の岩永弘大先生、きみちゃんのお母さんの梓咲さん」
と千里はお互いを紹介した。
岩永先生は
「頭の切れそうな女性だなぁ。大きな会社のオーナー会長か何かだろうか。しっかりしてそうだし、これなら若い子たちが羽目を外しすぎることもないだろう」
と思った。
メイド服を着た小糸が全員に上等の紅茶を出す。小糸は20歳くらいの風貌に調整している。
貴子は今日はサンローランのカジュアルなワンピース。部屋の隅に立っているコリンはマリ・クレールのレディスビジネススーツを着ており、襟元にはかっこいいネクタイをしている。
千里が新千歳で買ってきていた“白い恋人”を出すと
「これ大好き」
と言って、貴子は喜んでいた。
「これ道外に居るほうが食べる機会多い気がする」
「地元の名物ってあまり食べないもんねー」
その場で開けてみんなでいただく、
「やはりこれ名作お菓子だと思うよ」
と貴子は言っている。
「それで貴子さん、公世もH高校に入ることになったから、彼も同居させてよ」
と千里は言った。
「きみちゃんなら、大歓迎」
と貴子。
「うちの公世は男の子なんですけど、大丈夫でしょうか」
と公世母が心配そうに訊く。
「ああ。建前はそうですよね。でも中身は女の子だし、他の女の子とトラブル起こすような子でないことはこの1年間の付き合いで分かってますから大丈夫ですよ」
と貴子は笑顔で言った。
「これまでもこの3人にあと、沙苗・玖美子・柔良ちゃんとで旭川の貴子さんちでひたすら合宿していたんだよ」
と千里は言う。
「へー」
「それで旭川で使ってた道場も丸ごとこちらに持ってきたんだよね」
「なるほどー」
岩永先生も公世母も、貴子が高そうな服を着ているのでお金持ちなのだろうと思ったようである。しかも使用人が(見かけただけで)3人もいるし。更にこの規模の道場を北海道から兵庫まで運んで移築するとか、それだけで数百万掛かる気がする。だいたい建てるだけで1億掛かった気がする。
まずその道場を見る。
10m×10mの試合場が3つあり周辺に2mの余裕がある。
(全体図:再掲)
「あれ?バストイレとかは持って来なかったの?」
「住居部分にバストイレを3つ造ったから、道場には付けなくてもいいだろうと思って」
「なるほどー。でもここ住居部分から道場に外を通らずにいけるから、お風呂上がりにそのまま道場に行けるね」
と清香。
やはりお風呂上がりに裸のまま道場に行くつもりのようだ。
住居部分もあらためて見る。
「部屋がたくさんあるのね」
「私の部屋、千里ちゃんの部屋、清香ちゃんの部屋、ブテユエの湖鈴の部屋で、あと2つ空いています」
と貴子は説明する、岩永先生と公世母は“ブテユエ”という単語が聞き取れなかったものの、コリンの服装から、メイドとか家政婦ではなく女執事のようなものかなと思った。岩永先生が想像したのは(アニメの)『ハイジ』のロッテンマイヤーさんであるが、まさにそういう位置づけである(*4).
「きみちゃん、きみちゃんが女の子であれば玄関よりの部屋、男の子であれば中央の部屋が風水的に良いんだけど、どちらにする?」
と千里が訊く。
「真ん中の部屋が良い!」
と公世は答えた。
それで部屋割はこのように確定した。
(*4) ロッテンマイヤーは、原作では単に“フロイライン・ロッテンマイヤー”とだけ言及されているが、描かれている内容から執事セバスチャンの下の家政婦長ではと考えられる。しかしアニメではセバスチャンとの地位が逆転していて、ロッテンマイヤーが女執事で、セバスチャンはその配下の男性使用人のまとめ役のように描かれている。
そもそもロッテンマイヤーは“フロイライン”と他の人から呼ばれること自体、ゼーゼマン家の“使用人”ではなく、別格の地位にあることを思わせる。あの家でロッテンマイヤーとハイジだけが“使用人ではない”独立した地位にあるのである。(ハイジも“フロイライン”と呼ばれている)
古い日本語訳ではよく“ロッテンマイヤー女史”と書かれていたが、もはや“フロイライン”も“女史”も死語。
「しかし千里と同じ所に住んでいれば毎日気が済むまで稽古ができる」
と清香は言っている。
「公世ちゃんとも手合わせしよう」
「うん」
「毎朝の対決で私が勝ったら公世ちゃんは女子制服を着て学校に行くということで」
「え〜〜!?」
公世母が笑っている。
「それ毎日そうなったりして」
とお母さん。きっとそうだ!
「公世ちゃんが勝ったら?」
と千里が突っ込む。
「私が男子制服で学校に行く」
「ああ、清香は男子制服似合うと思うよ」
「立っておしっこする練習しなければ」
いや絶対この子、練習してる、と千里は思った。
(ところで清香が裸で素振りする時、おっぱいの揺れ具合は誰にチェックさせるつもりなのでせうか?)
「この道場との間にあるエレベータは?」
「ひとつの目的は道場のベランダに行くため」
「ああ、物干しね」
「濡れた洗濯物の籠(かご)を持って階段昇るのが辛いという一部の声があって」
「軟弱な」
「もうひとつは地下に行くため」
「地下があるんだ!」
それで降りてみる。
(地下部分;再掲)
「広い部屋がある」
「ピアノ練習室だよ。ピアノを鳴らすには音響的にこの広さが要る。そしてピアノルームは特に都会では地下に作らないと騒音問題が起きる」
「なるほどー」
ここでピアノ、フルート、龍笛、ヴァイオリンを練習するつもりである。ここはGも貸してと言っている。たぶんRが学校に行っている間に練習するのだろう。
「天井が高い」
「音響的に最低7mの天井高が必要だからね」
「ここでも竹刀が振れるな」
「振ってもいいけどピアノ壊さないでね」
「ビアノは無いんだ」
「来年の春までには入れるよ」
その他には予備の洋室があるので、人が来た時にはここに泊めることもできる。
生活費であるが、家賃は要らないということで食費を公世が毎月3万円払うことにした。清香は家庭の事情があるので無料ということにする。
天野さんはお金持ちそうだし、ポンと道場を建てるくらいだから公世についても本当はお金は要らないのだろうが、公世の母が申し訳無く思うので3万ということにしたのだろうと岩永先生は思った。
一行はその日、この家に泊まった。お風呂は次のように使った。
お風呂の割り当て
1:公世→公世母
2:清香専用!
3;貴子→千里
地下:岩永先生
春になってもこの割り当ててで使うのではという感じである、ちなみに清香は2番のバスの入口に「サヤカ」と名前をマジックで書いていた。
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女子中学生・冬のOOOグラス(2)