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■女子中学生・冬のOOOグラス(7)

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「そういえばさ」
と千里Gは今回の短期講座の講師をしてくれている千里A (Ae :chisato aurum elder)をW町の家に招いてお茶とお菓子を出して食べながら色々話した後で尋ねた。なおここで招き入れたのはここのDKの部分である。さすがに司令室には入れてない。(貴子もここまでしか入れてない)
 

 
「君たちがお互いを呼び合っているなんかヘブライ語みたいな呪文みたいなのは何だっけ?」
 
「ああ、ヘブライ語と分かるのはさすがグレースだね」
とAeは言う。
 

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「まず最初に“アイン”というのは何も無いということ。Nothing. スペルはアレフ・ヨッド・ヌン。Ayn。記号では "o" だけどゼロ(zero) 0 でもある」
 

(ヘブライ文字を表示させようとするとダウンする端末・ブラウザが存在するので画像化しました。ヘブライ文字は右から左へ書きます)
 
「次に“ゾフ”とは終わりということ。End. スペルはサメク・ヴァウ・ペー。svp. だからアイン・ゾフで“終わりが無い”、つまり無限ということ。記号では"oo" だけどいわゆる無限大記号∞、レムニスカート(lemniscate) と類似する」
 
「そうか。ゼロ(0)を2つ並べると無限(∞)になるのか」
と千里Vが感心している。
 
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一方千里Gは「わざとレムニスカートと言ったな」と思っていた。この記号lemniscate ∞は確かにレムニスカート(ドイツ語)とも言うが日本では英語式にレムニスケートと読む人が多い。
 
「どうでもいいが、レムニスカートと言ったら、デニムスカートと空耳した人いた」
「僕のキャミ可愛よと言うからこの人キャミソール着るの?と思ったら自動車だった」
 
「最後に“アウル”とは光ということ。light. スペルはアレフ・ヴゥウ・レシ。avr. だからアイン・ゾフ・アウルで“無限光”ということ。仏教をかじってる人は阿弥陀如来(あみだにょらい)の別名“無量光如来”と関わりがあるのではとも言う」
 
「ほほぉ」
 
「正信念仏偈の冒頭は『帰命無量寿如来、南無不可思議光』だよね」
「ああ、それは知ってる」
 
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(Vは“しょうしん・・・”って何だろう?と思っている)
 
「天文学をかじってる人はこれは宇宙の3K背景放射ではないかという」
「へー」
 
(宇宙全体から来る光で、絶対温度3K (正確には2.725K 摂氏で言えば -270.425℃)の黒体放射に似ている。ビッグバンの残光と考えられる)
 

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「集合論をやる人は最初の到達不能数ε(エプシロン)ではないかともいう」
「到達不能数って何だっけ?」
 
(↓以下30行ほど読み飛ばし推奨)
 
「0,1,2,3,...という数列の先に +1 という操作をどんなにしても到達できない数があり、普通の数学者はこれを∞無限大と言ってそこで思考停止してしまう。でもこれは『1,2,3,たくさん』なんてのと同じようなもん。集合論研究者はこれをω(オメガ)と書いてここから議論は始まる」
 
「ほほぉ」
「ωは∞と形も似てるし」
「ギリシア文字の最後じゃないの〜?」
「まあ色々掛けてるんだろうね」
「ああ」
 
「ここからω+1, ω+2, などとカウントアップしたり、冪集合(べきしゅうごう)という操作をしたりしても到達できない数のことを到達不能数という。その中で最初の到達不能数がε(エプシロン)だよ。ωが頑張って起き上がった形」
 
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「なるほどー」
「∞はよく“怠け者の8”lazy 8 というね」
「ああ」
「きっと数えるのに疲れて寝ちゃったんだな」
とVが茶々を入れる。
 
「何だかよく分からないけど、とんでもなく巨大な数なんだ?」
「整数論の無矛盾性はεまでの超限帰納法で証明された」
 
「うーん・・・まあいいや(さっぱり分からん)」
 
(↑ここまで読み飛ばし推奨)
 

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「でもアレイスター・クロウリー(*17) などに言わせるとここまで行っても、まだまだ生命の樹のいちばん下の“ケテル”より遙か下なんだよ」
 
「生命の樹ってのもいまいち良く分からない」
「しばしばオカルティストの中には自分は生命の樹のいちばん上のマルクトまで行ってきたとか自称する人いるけど、アイン・ゾフ・アウルまでだって人間には到達できない。だって人が辿り着けないのがアイン・ゾフなんだから」
 
「ああ、確かに辿り着けたらそれは無限ではない」
 
(*17) アレイスター・クロウリーは20世紀最大の魔術師と言われる。魔術結社“黄金の夜明け”の流れを汲み、20世紀の魔術研究の基礎を作った。彼が遺した“トートのタロット”は妖しくそしてあまりにウツクイシ(“美しい”を越えている)
 
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「まあそういう難しい話は置いといて、私たちの名前はこれにちなんで付けられた。一番下の“魔女っ子千里ちゃん”(Ay :Aurum younger)がアイン、真ん中がアイン・ゾフ(Am :Aurum middle)、そして私がアイン・ゾフ・アウル(Am :Aurum elder) (*18)」
 
「ほほお。結局3人なの?」
「私にはこの3人しか認識できない。他にもいるかも」
「千里って結局何人いるのかよく分からないよね」
「全く全く」
 
「千里は本来1997年3月21日11:56:35に死亡する予定だった。でも千里がP神社に巣くっていた悪霊を退治してくれたご褒美にP大神が寿命を延ばしてくれた。その本来の死亡日に千里はいったん死んで3つに別れて再生した。これが千里α・千里β・千里γ。君たちはαの系列。私たちはγの系列。だからβ系列の千里がどこかに居てもいい」
 
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「それは私も疑問に思ってた」
と千里Gは言う。
 
(*18) 日本語での記述は多分“アイン・ゾフ・アウル”という書き方が広まっていると思われるが、英語では ayin soph aur, ein sof ohr など複数の書き方が見受けられる。元々のヘブライ語の直転写だと前述のように"ayn svp avr" となる。もう少し分かりやすく音写をすると ayn suf aur. (ペーの文字は実際にはfの音で読む)3文字の単語3つというのに意味があるのかも知れない。
 

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12月9日(金) 10:00.
 
先日建てられた?C町バス停近くの事務所に「留萌H新鮮産業」という看板が掛けられた。実は千里が(事実上の)オーナーとなる2番目の会社である。この会社の株は、天野産業と旭川のH新鮮産業が50:50の持ち株で合弁して設立した会社であり、会長が天野貴子、社長が杉村蜂郎、専務が香川満で、実は宮司から勝手に“課長さん”と思われていた人である。
 
実は課長ではなく専務だった!彼はH新鮮産業の札幌支店の課長だったが、いきなり子会社の専務に抜擢された。しかも会長と社長はほとんど名前だけだし常駐しないので、彼がこの会社の事実上の経営者ということになる。(やはりこれまでは課長だった)
 
むろんこれは“片道切符”ではなく実績をあげたら本社の部長クラス待遇で戻れること含みである。しかし彼は最終的に(積極的な意味で)留萌を永住の地に定めることとなる。この件は多分来年くらいに書く。
 
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(ついでに宮司が“秘書”?と思ったのが会長である!社長は当たり)
 

留萌H新鮮産業はその日、留萌のハローワークに事務所新設に伴う求人を出した。業務はきのこの菌床栽培の温度・湿度管理(24時間の管理が必要なので6時間ごとの4交代制になる)である。拘束時間中ほとんどが待機時間という凄い仕事であるが、ひとりのミスが椎茸の全滅につながるので結構神経を使う仕事である。
 
これに実は清香の父の船に乗っていて、仕事を探していた元乗組員さんがその日のうちに8人まとめて応募してきて、香川専務はその8人をまとめて採用した。元々一緒に仕事していた人たちなら団結力・協調性があるだろうと見込んだのである。しかも漁船員なら深夜業務にも慣れており、体力もあるだろう。ただ香川は彼らに禁酒を言い渡し、彼らもそれを守ると言った。
 
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「ビールとかもだめですか?」
「じゃ勤務に入る8時間前までならいい」
「じゃ仕事明けに1〜2本くらい」
「ああ、仕事明けの楽しみだね」
 
勤務地はもちろん、鳥山さんの畑だった場所である。
 
「待機時間は英会話とかのお勉強をしていてもいいし、音楽聴いててもいいからとにかく眠らないこと。だから勤務前に充分な仮眠を取っておくこと」
「分かりました」
「語学講座とか聴いてもいいかもね」
 
菌床は既に作られていた(旭川で準備し運んできた)。菌床栽培だと、季節によらず、だいたい4〜5ヶ月で椎茸が収穫できる。
 
北海道は実は生椎茸生産で全国3位である(*19).
 
なお彼らの監督者として、札幌と旭川から2名ずつ合計4名の社員を呼んであり、彼らが交替で管理棟で見守る。彼らはここでの生産が軌道に乗るまで、1年ほどの“出張”扱いである。彼らの住居は町中にアパートを確保している。そこからバスで出てくることができるが、深夜交替の場合のために地元のタクシー会社と契約し、対応してもらうことにした。
 
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(*19).2005年の生産統計で生椎茸の生産量は、1位徳島5600.0t, 2位岩手4700.6t, 3位北海道4038t.
 
農林水産省のサイト
 
椎茸は大分というイメージがあるが、大分は乾燥椎茸が主流で生椎茸はあまり生産していない。乾燥椎茸は1970-80年代にはよく売れてお歳暮にもよく使われたが(大分の平松守彦知事の力が大きい)、平成に入った頃から消費者の生活スタイルの変化(*20)で生椎茸が好まれるようになり、最近では乾燥椎茸の調理法を知らない人もかなり増えているらしい。
 
元々、椎茸は春と秋にだけ出る季節性作物だったので、それ以外の季節は乾燥椎茸しかなかった。だから逆に椎茸といえば乾燥させて売られているものだった。
 
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ところが菌床栽培の開発により年中出荷できる商品になった。それでいつでも生椎茸が手に入るようになり、結果的に乾燥椎茸が忘れられてしまったのである。(この件また後で取り上げる)
 
↑の統計でみると、2005年には乾燥椎茸と生椎茸の生産量の比は約2:3であるが、2022年には約2:7になっていて“干し椎茸離れ”が進んでいることが分かる。
 
(干し椎茸は生椎茸の1/10の重さなので統計表の左側数字を10倍したものを右側と比較すればよい)
 

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(*20) まず時間的な問題。みんな夕方仕事帰りに夕飯の買い物をするようになった。乾燥椎茸は昼間家にいる専業主婦にしか使いにくいし、昼頃には夕飯のメニューを決めてないと戻す時間が取れない。
 
もうひとつは煮物をあまり作らなくなったこと。乾燥椎茸は煮物向きであるが、最近の人たちはむしろ焼いたり炒めたりして調理して、あまり煮物をしない。戻した乾燥椎茸は水分がとても多いので、こういう料理に使いにくい。
 

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12月9日(金).
 
剣道連盟からS中の岩永先生に連絡があった。
 
「そちらの潮尾由紀(うしお・ゆき)選手ですけど、これまで男子の部に出ておられましたよね」
「あ、はい」
 
「複数の学校から男子の部に女子選手が出てるとやりにくいという話があがってきているのですが、潮尾さんは半陰陽か何かですか?見た目は女子にしか見えないようなのですが」
 
「いえ。普通の女子だと思います。学校にもセーラー服で登校してきているようですし、身体測定なども女子と一緒に受けているようですし。ただ本人が男子の部に出たいというもので」
 
「やはり強い対戦者を求めてですが」
「そうかも知れません。あの子全国2位になった工藤公世(きみよ)の練習パートナーとして伊勢にも行って来たんでよ」
 
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「ああ、工藤さんの練習パートナーならかなり強いんでしょうね」
「そうですね。これまでは男子のトーナメントでBest8くらいまでしか行けてませんが」
「女子なのに男子のBest8に入るって凄いですね。でも工藤さんみたいに半陰陽とかいう事情が無いのであれば今度の新人戦からはちゃんと女子のほうに出てもらえませんか」
「分かりました。本人と一応話し合ってそちらにご報告します」
 

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それで岩永先生が由紀と話合ったところ、自分は男子だから女子の部に出るわけにはいかないと主張する。ここで如月が言った。
 
「由紀君、君は男だというけど、君にはおっぱいがあるよね」
「ありますけど、小っちゃいですよー」
「いや少なくとも私よりは大きい」
「うーん・・・」
「おっぱいが大きいのは男かな女かな?」
「・・・女だと思います」
 
「君は生理があるよね」
「ありますけど」
「生理があるということは生理が出てくる穴があるということだよね」
「まあそうですね」
「生理があって、生理の出てくる穴があるのは男かな女かな?」
「・・・女だと思います」
 
「君は女子トイレに入るよね」
「入りますけど」
「女子トイレに入るのは男かな女かな」
「・・・女だと思います」
 
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「君は女湯に入るよね」
「入りますけど」
「女湯に入るのは男かな女かな」
「・・・女だと思います」
 
「以上をもちまして潮尾由紀(うしお・ゆき)は女性であるのは確かです」
と如月は言った。
 
パチパチパチと、由紀と同じクラスの清水好花が拍手していた。
 

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それで由紀は新人戦からは女子の部に出場することになった。由紀の場合、性別検査とかも受けさせられなかった(優勝したら受けさせられるかも)。由紀の場合、性別に疑いようがないので、誰も由紀が男性である可能性を全く考えなかったのてある。
 
(睾丸はもう無いんだし、少なくとも4年程度以上女性ホルモン優位で“男性思春期”を経験していないなんだから、女子の部に出てもいいと思う)
 
なお由紀は女子の部に出場することになったことから、正式に女子剣道部に移籍となった。
 
「やはり女子に移籍したね。男子剣道部は吉原君が部長で良かったようだ」
 
でも吉原君は由紀に勝てない!
 
剣道部の女高男低は来年度も続くようである。
 
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女子剣道部の如月にとっては自分より強い部員の正式加入は大歓迎だった。
 
「ゆきちゃん、新人戦の大将よろしくね」
「え〜〜〜!?」
 

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