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■女子中学生・冬のOOOグラス(9)

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盛大な拍手と歓声の中、その歌(そのか)は何度もお辞儀をして下がった。
 
楽屋に下がってから谷津マネージャーが
「ムタ子ちゃん、予定と違う曲歌うからびっくりした」
と言っていた。
 
「やはり違ってました?なんか突然分からなくなっちゃって」
と本人は言っている。
 
「でもピアニストさんの知ってる曲だったみたいでよかった」
と谷津。
 
「いえ、完璧な初見でした」
と千里。
「え〜〜〜!?」
 
でも冬子は笑って言った。
「なんかそんな気がした」
 
「やはり私の演奏変だった?」
「ピアノ譜ほとんど無視して、ギターコードだけを主として見ながら伴奏してたからね」
 
「え〜〜?そうだったの?気付かなかった」
と谷津。
「なんかいつもの伴奏と違うけど、凄く歌いやすい伴奏だと思った」
とその歌。
 
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「余計な装飾とかがなくて、しっかり和音を弾いてたから歌いやすかったと思う」
と冬子。
 
「歌いやすいのはいいことだ」
 
千里はマネージャーさんから「演奏してくれたお礼」と言って封筒をもらったがあとで中身を見たら10万円もあったのでびっくりした。
 

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この後、市長さんが駆けつけて来て、その歌と谷津マネージャーに謝っていたが、
 
「大したことなかったですし大丈夫ですよ」
と谷津さんもその歌も言っていた。
 
でも市長さんのポケットマネーから「お詫び代」として20万円渡したようである。谷津は一応預かるといって持ち帰ったものの後日、浦中部長(事実上の経営者)の指示で返金され、結局市長と浦中さんの直接電話会談で、この冬の大雪の被害に対する義援金として処理された。
 
なお千里は市長さんからも「君のお陰で助かった」と言って3万円もらった。
 
「報酬はマネージャーさんからもらいましたよー」
「それは演奏料でしょ。これは僕からのお礼」
「じゃいただいておきます」
 
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「でも村山さん、剣道だけじゃなくピアノもうまいんだね」
と言われたが、剣道って何だろうと“この”千里は思った。
 
“この”千里はお小遣いが乏しいので、このお金も、ありがたくもらっておき、高校生活スタートの準備資金の一部に使わせてもらった。
 

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12月12日(月).
 
先週期末テストが行われたばかりだが、今度は3年生最後の実力テストが行われた。なお12年生の実力テストは年明けに行われる。
 
この成績で3年生の最終的な進路指導が行われる。P神社勉強会のメンツの成績は下記である。(1年春→夏→冬→2年春→夏→冬→3年春→夏→今回)。
 
玖美子1-1-1/1-1-1/1-1-1
蓮菜2-3-2/3-2-2/3-2-2
田代3-2-3/2-3-3/2-3-3
美那22-14-12/10-9-8/7-6-5
穂花25-16-11/9-8-7/6-4-4
千里40-26-22/16-14-12/10-7-6
恵香43-32-28/22-18-16/12-10-9
沙苗65-41-36/32-31-30/28-22-17
留実子74-58-47/44-40-36/30-26-19
セナ78-81-68/69-60-64/72-74-80
 
勉強会メンツで1-6位を独占している。留実子も沙苗も追い込みでかなり成績を上げてげて来た、
 
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千里は今回受けたのは、英国社がR、数理がVであった。
 

菅原君はマナに尋ねた。
 
「ね、高校はどこ行くの?」
「お姉ちゃんが通ってる旭川R高校を受けるつもり。在校生やOBの子供・弟妹は推薦で受けられるんだよ」
 
(菅原君の前でだけ女の子みたいな声が出るのはなぜだろうと本人は思っている)
 
「偶然だね!僕も実は旭川R高校の野球部から誘われていて、推薦で受けるつもり」
 
「じゃ同じ学校になるのかな」
 
「一緒に行けたらいいね」
「うん」
とマナも笑顔で応じた。
 

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12月17日(土).
 
その事件は激しい破壊音とともに始まった。
 
P神社の表のほうで何かが壊れるような音がするので、宮司の留守を預かっていた菊子は驚いて表に飛び出していく。すると大型トラックが神社の鳥居から突っ込んできているので、菊子は最初、交通事故?と思った。鳥居の幅がトラックの幅ほど無いので、赤い鳥居は折れて倒れている。巻き添えで両隣のミズナラの木も曲がっている。
 
男が数人走り出してくる。菊子を捉まえる。
 
「おい、光辞はどこだ。言え」
「5番目の部屋の桐箪笥」
 
菊子は万一強盗のようなものが来て誰かに訊かれたらそう答えろと言われていた。
 
すると男たちは社務所の奥のほうに走りこんで行く。
 
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「あったぞ。光辞だ」
「この桐箪笥いっぱいに入ってるな」
「だったら好都合だ。この桐箪笥ごと持って行こう」
 

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その時少女の声が響く。
 
「お前たち、何をしている!?」
高木紀美である。巫女服を着ている、
 
「天令様!」
 
みんなが跪く。
 
「ここは私が光辞を守っている。お前たちは帰れ」
「はい。申し訳ありませんでした」
 
それで男たちはトラックに戻る。
 
「待て。お前たち、鳥居を壊してそのまま帰るつもりか?」
と紀美。
 
男たちのリーダーっぽい男が降りてきて、紀美の前に跪く。
 
「たいへん申し訳ありませんでした。修理費を追ってこちらの神社にお送りします」
「ちゃんとしろよ。宮田」
「はい。確実に」
 
それで男たちのトラックは去って行った。
 

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巫女控室からおそるおそる出て来たセナが言った。
 
「紀美ちゃん水戸黄門みたい」
 
「そうかな?」
 
壊れた鳥居について黄色い腕時計を付けてやってきた千里Vが“女子用ブレザー”とスラックスの九重を召喚し、破壊された鳥居を撤去させ、新しい鳥居を作らせることにした。巻き添えで倒れたミズナラについては一応御神木なので千里が大神様に尋ねると
「抜いて良い」
ということだったので抜かせた、これは神社の隅に置いた。大神は
「ついでに新しい鳥居は入口を広く作りなさい」
と言っていた。実はこれまでも大きな車が通れない問題はあったのである。大きな車は鳥居を通らず、駐車場入口から出入りしていた。
 

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宮司が報せを聞いて急いで戻って来た時、九重は持ち込んた白木(しらき)に赤い塗料を塗っていた。
 
「宮司さん、あとで鳥居の形を教えてください。この木、塗料を2度塗りしたあと明日くらいに組み立てますから」
 
「徳都さん、ありがとう。壊れた鳥居では新年を迎えたくなかったから助かるよ」
と宮司は感謝した。
 
「これ2度塗りの間に6時間くらい置かないといけないんですよ」
「なるほどね。よろしくお願いします」
 
「宮司、大神様からお告げされて、どうせなら新しい鳥居は大型車が通れる幅で作りなさいと言われたのですが」
「ああ、大神様もそうおっしゃるならそうしようか」
と言って、宮司はすぐに鳥居のサイズを計算した。
 
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ただ、徳部さんはなぜ女子高生みたいな服を着てるんだろう?こないだもセーラー服来てたけど。忘年会の余興の最中だったのかな?などと思っている。
 

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「ところで千里ちゃん、これいくらくらいかかった?」
「鳥居に使う道南杉は神様にご奉仕する製材所が無償で提供してくれたものです。それを赤く塗る手間賃と塗料代だけいただければいいです。塗料代はいくらした?」
と九重に訊く。
 
「正確な額は前橋に訊いて。確か4万くらいだった」
「手間賃は?」
「日本酒2本くらいでいいよ」
「ということらしいです」
 
それで宮司さんが神居酒造(玖美子の祖母の酒蔵)の純米酒・大吟醸を3本あげたら喜んでいた。塗料代は前橋さんに確認して3万7800円(税込み)を支払った。
 
前橋も女子高生制服(下はスカート)を着ていた。みんなで仮装パーティーでもしてたのかな??
 
ちなみに今回杉を使ったのは塗りやすさを考えてである。檜のほうが耐久性は高いが、檜という木は白木(しらき)のまま使うにはいいが、朱色に塗ろうとすると、とても塗装が難しい木である。時間も掛かると思われたので、A大神とP大神の話し合いで道南杉の使用が決まった。旭川の製材所から清川に運ばせた。
 
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九重がひとりで塗っているのは手分けして塗ると九重が塗ったところと清川が塗ったところでどうしても差が出るからである。それで九重ひとりにやらせた。
 
後日、鳥居を壊したグループと思われるところから100万円の小切手が送られてきた。神社では通常の“喜捨金”として処理した。(お賽銭や初穂料と同じ処理)
 
でも高さ10mの鳥居を制作するには本来は2000-3000万かかると思う。多分彼らも相場が分からなかったのでは?
 

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「紀美ちゃん、恵雨さんの本当の味方みたいだからこれ見せてあげる」
と言って、千里(V)は高木姉妹を連れて、鈿女(うずめ)神社の地下倉庫に行った。
 
小春の家から入り、押し入れに隠された秘密のエレベータから地下に降りて、地下通路を数メートル歩くと鈿女神社の地下倉庫がある。この仕組みはP大神がわざわざ札幌の工務店に依頼して作らせたものである。秘密保持のため地元の工務店は使わなかった。
 
「ここにも光辞が1セットあったのか」
「光辞は分散して保管してほしいという恵雨さんからの指示なんだよ」
「へー」
「そしてここにあるのこそ、私が書き写した原本で、神社の桐箪笥にあるのはこれをPPCでコピーしたもの」
「そうだったのか!」
 
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「こないだみたいな連中が来た時の用心で、コピーのほうを立派な桐箪笥に入れてる」
「なるほどー」
 
「だから小春とコリンはここのガードなんだよね。実は」
 
(真理さんが書写したもののありかは教えてない)
 

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「でも今日は小春ちゃんもコリンちゃんも留守だったね」
と紀美は言った。
 
「うん。実はコリンは姫路に引っ越したんだよ。小春も3月には旭川に行く予定で」
「じゃここ空っぽになるじゃん」
「それで困ってるんだけどね」
 
「だったら私がここに住む」
「え〜〜!?」
「ここの所有者は?」
「私だけど」
「じゃ売ってくれない??」
 
千里Vは瞬間的にGと脳間で会話した。
 
「いいよ!でも3月までは使うから、4月3日付けでいい?」
「いいけどなんで3日?」
「1日が土曜日で2日が日曜だから」
「よくそんなの覚えてるね」
と紀美は感心している。
 
「いくらくらい?」
「ここの土地は48万で買った。でも改装費に150万掛かった」
「何を改装したの?」
 
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「主なものはこのバスなんだよ」
と言ってバスルームを見せる。
「あ、新しいね」
「あとはボイラー付けて、トイレを洋式便器にして、襖の張り替え、畳の表替え。2軒続きの長屋だったのを台所の壁をぶちぬいて2軒共同のLDKにした。玄関も半間ずつだったのを1間(けん)の共通玄関にした」
「なるほどー」
 
といって紀美は腕を組んで考えていた。
 
「120万くらいで売ってくれない?」
「70万でいいよ」
「買った」
「じゃ4月になったら登記移転用の書類を渡すね」
「こちらは何が必要なんだっけ?」
「紀美ちゃんは未成年だから、お母さんの印鑑証明と実印、同意書。紀美ちゃんの収入または資産があることの証明。これはおとなが自分の子供の名義で不動産取引して資産偽装したりするのを防ぐため」
「資産は銀行に残高証明書を出してもらえばいいよね?」
「それ司法書士さん連れてかないと、普通の人には出してくれないと思う」
「じゃ登記の件も含めて司法書士さんに頼むか」
「それがいいかもね。あとはお母さんに連絡して印鑑証明送ってもらって」
 
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「バスとトイレはきれいだから、このまま使おうかな。あとは改築しちゃおうかな」
「ああ、いんじゃない?冬の間は工事不能だから5月か6月になってからだろうけど」
「それまでに設計を考えよう」
 
玄関を眺めていて紀美が言う。
 
「この玄関はかなり新しい気がする」
「ああ、この春にヒグマが来て壊したから門と玄関は交換した」
「ヒグマはどうしたの?」
「倒したけど。熊カレーの材料にさせてもらった」
 
「ヒグマ倒せるの?」
「ヒグマくらい倒せるでしょ。象なら自信無いけど」
「よし。ヒグマ倒せそうな人に一緒に住んでもらおう」
 

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それで紀美は千里を神社まで連れて行き、ちょうど出勤してきていた善美に声を掛けた。善美は鳥居が壊れているので驚いていた。
 
「ねえ、善美さん、私たちと一緒に住みませんか」
「ああ、紀美ちゃんたち神社近くの家に住んでるんだっけ?」
「ええ、そうですけど、家を建てようと思って。だからそこに一緒に住みません?実は未成年だけで住んでるといろいろうるさいんですよ」
「ああ、保護者代理くらいしてあげてもいいよ。でも私とても家を建てる資金とか無いけど」
 
(2代目子牙は資産家だったが、善美も善美の母も面倒な問題を避けるため相続放棄している)
 
「建築費は全部私が出します。私が建てる家に同居してもらえばいいんですよ」
「家賃を払えばいいの?」
「家賃も要りません」
「何があるの〜〜?」
「勘がいいですね」
 
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「ああ、お姉ちゃんはこの手の勘が悪いよね。簡単に欺される」
と妹の貞美は言っている。
 

「今度家を建てるところ、時々熊が出るらしいんですよ。でも善美さんなら熊くらい平気ですよね」
 
「熊対策かぁ!」
 
「だから熊が出た時にチョチョイと倒して熊カレーの材料にしてもらえば後は家賃はいりませんから」
 
善美は伊豆霧に打診してみる。OKOKと言っている。実は彼は九重たちから、春以降に旧早川ラボに出た熊の処理を頼まれていた。
 
「じゃやってあげるよ」
「それで家は私と貞美が住む部分、善美さんが住む部分を分けた“2世帯住宅”にしましょう」
 
「結局私も住むのか」
と貞美。
 
「2世代住宅?」
「2世帯住宅てすね。家の間取りとかは私が設計しますから」
 
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しかし貞美は思った。
 
お姉ちゃんのデザインした家って住めるのかなあ。2階に行く階段がなかったり部屋に出入口なかったりしかねないぞ、と。
 

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女子中学生・冬のOOOグラス(9)

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