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クリスマス・デイの夜、仮名Hは夢を見ていた。
「呼ばれなくても飛び出てジャジャジャジャーン。ぼくは“男の娘の味方”魔女っ子千里ちゃんだよ。1日女の子の身体を体験してどうだった?」
「こんなの嫌だよぉ」
「そう?女の子の身体気持ちいいのに。でも男の娘に戻してあげるね。これどうしても1日置かないといけないんだよ(←嘘つけ。君の趣味だろ?)。性別変えるのって身体に結構負担掛けてるから」
「あ、そうだよね」
「じゃ寝ててね。起きた時は残念だけど男の娘だよ」
「うん」
それで彼は深く心地良い眠りに落ちていっ。
12月26日の朝、仮名Hは不快な感覚で目覚めた。自分の身体をチェックする。
ちんちんもタマタマもある。割れ目ちゃんは無い。おっぱいも無い。
「はあ」
と溜息を付き、下着を交換する。
ショーツを穿くと変に盛り上がりができる。ブラジャーを着けるとカップが余る。でもやはりこの日もスカートを穿いて部屋を出た。トイレに行くと、おしっこはちんちんの先から出る。
「ちんちん邪魔だなあ。こんなの無ければいいのに」
と彼は思った。
でも今日もスカート姿のまま居間に出て行き朝御飯を食べた。
(君は女の子になりたいのか、なりたくないのか、どっちなのさ?)
「ひでちゃん、今日はお正月の買い物したいから付き合って」
「うん」
「スカート穿いてきてもいいよ」
「そう?それで行こうかな」
「スカートだと足が凄く冷えるから厚手のタイツ履いてね」
「うん」
12月26日(月).
天野道場の土地の補償金が入った。既に更地にされていたので単純に土地の値段のみで、210m
2で平米単価1万円で計算して消費税込み220万5千円が名義人である天野貴子の口座に入金された。
貴子は千里に連絡してきて
「ここの土地は私が名義人になったたけで、実際のお金はあんたが出してたから補償金はまるごとあんたに渡すね」
と言った。電話を(横取りして)受けた千里Gは、この所深川と姫路に家を買ってその改装までしていて、更に早川ラボの拡張までやり資金が枯渇しかけていたので
「助かったぁ」
と思った。
12月26日(月).
この日は佐藤小登愛の三回忌であった。
佐藤家ではお坊さんを呼んで仏檀の前でお経をあげてもらい、三回忌の供養をした。なお小登愛の妹・玲央美は来春から札幌のP高校にバスケ特待生で入ることが決まっている(既に合格通知をもらっている)。春からは寮生活だ。母はなんで札幌まで行くの?地元の小樽の高校でいいじゃんと言ったが、兄の理武が口添えしてくれて母も渋々了承した。玲央美は一刻も早くこの母とは離れたいと思っていた。
天野貴子(1番)は2番と交替で北海道に来て、義浜裕恵(ハイジの法的な夫・事実上の妻)と二人で小樽の佐藤家のお墓に、お参りした。ハイジは妊娠中なので移動を回避した。今回裕恵が来たのはハイジの名代という性格が強い。
「そうだ。貴子さん、ほんとに生理来ちゃったんですよ。どうなってんでしょうかね」
「まあ女なら生理がきて当然ね」
と貴子は言った。
12月27日(火).
この日は高岡猛獅と夕香の三回忌である。東京ではお寺に下記のメンバーが集まり、三回忌の供養をした。
上島雷太・雨宮三森・三宅行来・長野支香・海原重観・白河夜船・加藤銀河、およびユングツェダー唯一の社員である鮫島知加子。
「他のメンツは?」
「声は掛けたんだけどね」
ユングツェダーの事務所にはファンの人たちから数万通のお悔やみの手紙、また香典が届いていたので、上島の指示により、鮫島は香典を送って来てくれた人には、お礼状を郵送した。
その数があまりに多かったので、その中に、高岡龍虎、志水英世・照絵、左座浪源太郎、義浜ハイジ・裕恵、といった名前が混じっていたことを鮫島は認識しなかった。
志水夫妻と龍虎は、三回忌法要が行われているお寺の門前まで行き、合掌してから帰った。
12月28日(水).
千里Rは練習を休んで星子に車(ライフ)を運転してもらい、旭川に出た。ポスフールで“サトウの鏡餅”(*23) やおせち材料を買う。天子のアパートに持ち込んで、鏡餅を飾り、1日掛けてたくさんのおせちを作った。Rとしては春から姫路に行ってしまうので最後のご奉公になるかもと思い、おせち作りをした。
天子は
「千里ちゃん毎年ありがとうね」
と言った。
「え?私こんなのしたのは今年が初めてだけど」
「いや千里さんは毎年おせちを作りに来てましたよ」
と言う。
「あれ〜〜〜!?」
ちなみに昨年作ったのは千里V、一昨年作ったのは千里Gである。
(*23)“サトウの鏡餅”は 1993年11月に発売された。
一方美輪子の家には、高速バスで旭川に出た千里Uが訪問していた。
「美輪子お姉さん、春から下宿させてくれるってありがとう」
「それはいいけど、なんでそんな男の子みたいな格好してるのよ。ちゃんと女の子らしい格好しなさい」
「私、女の子の服着ていいのかなあ」
「いつも女の子の服じゃん、何言ってんのさ」
それで普通のセーターにロングスカート、厚手のタイツという格好になり、一緒にお正月の買物に出た。
買物に行く途中の車の中で美輪子は言った。
「不動産屋さんのCF、ごめんねー。今回からは千里は卒業ということになって若い子たちに引き継がれたのよ」
と美輪子は謝った。
「不動産屋さんって何だっけ?」
「ずっとCMやってたじゃん」
「あれ?そういえば小学生の時に出たね」
「それ以来、毎年2回くらい出てたじゃん。あんたがフルート吹いて」
「私そんなに出てた?」
と千里が訊き直すので、美輪子は、千里ってよく自分のしたこと覚えてないよなと思った。
「でも私、男子高校生にならなきゃいけないから、入学式前に髪を切らなきゃ」
「そんな馬鹿なことはありえない。千里は女子高校生になるはず」
「そうかなあ。私女子高校生になれるかなあ」
「男子高校生になれるとは思えないけど。るみちゃんなら男子高校生になるかもしれないけど」
「あの子、男子制服着そうだね!」
千里は夕方の高速バスで留萌に戻ったが、途中、東橋(あずまばし)のバス停でおりて、ジャスコ留萌店で自分ちの鏡餅、伊達巻き、かまぼこセット、数の子、などを買う。東橋で降りたのが16:50頃で買い物したあと、ミッキーに車(カローラ)で迎えに来てもらって帰宅した。帰宅したのが18時半頃である
「お父ちゃん、鏡餅飾って」
「おお」
と言って父は神棚に鏡餅を飾ってくれた。
「正月の買物してきたのか?酒は無いのか?」
「お父ちゃん、中学生にお酒は売ってくれないよ」
「面倒くさい世の中だ」
父は新しい仕事先を探そうと、職安に行ったり、漁業関係者に当たったりしているようだが、漁業関係は全く求人が無い。職安でも40歳をすぎて運転免許も無く、海技士(機関)以外何の資格も無い中卒男性の仕事は無いようである。飲食店の雑用係みたいなのはあるが、人と笑顔で接することができない武矢にサービス業は無理と思われた。
札幌に行った岸本さんの場合は高卒だし運転免許を持っている。そしてまだスマイルが使えるので、運送会社の市内配達員の仕事にありついたようである。当面は普通免許で運転できる範囲の車を運転するが、早めに大型免許も取ると言っていた。
武矢も運転免許取ろうかなと言ったものの費用があまりに高すぎて保留にしているようである。
千里Gは“赤い腕時計”をして、18時頃、仕事納めで工場を出た津気子をキャッチした。
「お母ちゃん、この所なかなか自宅に帰れなくてごめん」
えっと・・・千里あんた毎日帰宅してるじゃん。
「この所何度も留萌と姫路の往復で疲れちゃって」
姫路??その話は消えたんじゃ無かったんだっけ?
「私、高校の入学金に要るかなと思ってお金貯めてたんだけど、特待生は入学金も免除らしいから、これお父ちゃんが運転免許取るのにでも使って」
と言って、封筒を渡した。
実は天野道場の土地で補償金をもらったのの一部である。A大神のほうは返済は充分な余裕ができた時でいいと言ってくださっている。
「ありがとう。助かるかも」
「そうそう。姫路での住所決まったからメモ渡しとくね」
「あ、うん」
「じゃまた。稽古があるから私行くね」
と言って千里は向こうへ走っていった。
津気子は「うーん」と考えたものの、自分の車に乗ってから封筒の中身を確認。どうも40万円くらいあるようだと思い、びっくりした。確かにこのくらいあればあの人でも運転免許取れるんじゃないかなあという気がした。
千里からもらった住所のメモは・・・悩んだものの取り敢えず手帳にはさんだ。
12月29日(木).
北海道某所。
「年末でお寺は無茶苦茶忙しいんだけど」
と順恭が言う。
「まあ年納めに1発やろうよ」
と桃源。
「また危ない仕事なの〜?」
と天野貴子。
(出て来たのは1番。小登愛の三回忌が済んだ後ここに来た)
「私勉強していたい」
と千里(千里G)。
「まあそういう訳で今から行くところの封印をお願いしたい」
と言って、桃源は他の3人を自分の車ランドクルーザーに乗せて連れていく。ランクルはトレーラーに小型のクレーンも積んでいた。
「何これ〜〜!?」
と3人は声を挙げる。
「まあ見ての通り。このメンツにしか封印できないと思う」
「私帰ろうかな」
「そう言わずに頼む」
「これは**明王の第3だと思うけど各自にある程度の法力が必要だ」
と順恭が言う。
「だからこのメンツでしかできない」
「私死にたくなーい」
「同じく」
「報酬はひとり500万円で」
「最低そのくらいはもらわないと、とてもやる気になれない」
4人は桃源が用意した“櫟(いちい)”を池の周囲に植えていった。苗木は昨日の内に運んだらしい。桃源の弟子?眷属?2人と順恭がシャベルで穴を掘り、貴子がクレーンを操作して櫟(いちい)の苗木を植えていく。彼らが作業できるように、桃源と千里が“それ”を抑えておく。
普通の霊能者なら10人がかりで抑えられるかどうかだが桃源も千里もパワーが物凄いので何とかなる。(羽衣の一番弟子と子牙の一番弟子だったりして)
植樹作業は3時間掛かった。
が誰も死ななかった!
「じゃ封印を作動させるよ」
桃源の部下2人は下がっている。桃源・順恭・貴子・千里の4人が池の東西南北に立ち、封印の真言を同時に唱えた。
掛かった!
と思った瞬間背後で物凄い爆発音がするのでみんな思わず伏せた。
桃源のランクルが爆発していた。
「誰も怪我は無い?」
「怪我は無いけどびっくりした」
「お弟子さんたちも大丈夫ですか?」
「大丈夫です!」
と2人は手を振っている。
「僅かに漏れたね」
「でも封印は掛かった」
「でもどうやって帰る?」
ここはかなりの山奥である。普通なら除雪などしないところをこの先に電力会社の施設があるため除雪されている。それでも来る時ランドクルーザーはチェーンを着け新雪を踏みながら走って来た。そんな場所なのだが、早く封印しないと大規模な雪崩などを起こす危険があった。
「誰か呼ぶよ」
と言って桃源が電話していた。
みんなに渡す報酬が入っていたカバンは10mくらい飛んで岩に叩き付けられたものの、ジュラルミン製だったので無事だった。でも鍵が開かなかったので貴子がM36で鍵を撃って開けた。
「なんか違法っぽいものを見た」
「内緒にして」
それで桃源は3人に日本銀行の帯封のある札束を5つずつ配った。
「でもマリモちゃん、報酬が車代で無くなるのでは」
「まあこんな時もある」
「マリモちゃんに車代で100万寄付するよ」
「私も100万」
「僕も100万」
「みんなありがとう!」
そういう訳でこの仕事では千里は400万だけ受け取ったのである。
このあと千里たちは自衛隊!さんのジープ2台に救出?された。
「車が爆発したんですか?」
「ええ。不発弾か何かを踏んだみたいで」
「それは大変でしたね。お怪我は?」
「全員車から離れていたので無事です」
「良かった」
桃源は後日「車の保険が下りた」と言って全員に50万円ずつ振り込んできてくれた。保険会社は現地には行けなかったものの自衛隊さんの証言で全損とみなしたらしい。
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女子中学生・冬のOOOグラス(14)