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12月24日の夜中、富山県内の急カーブの多い道で、1台のセダンがカーブを曲がりきれずに街路樹に激突。車は大破。乗っていた7人!?は車外に投げ出されるという事故があった。
偶然にも事故直後にパトカーが通り掛かり、すぐに119番通報した。
「お巡りさん」
と中でも特に酷い怪我をしている青年が警官に声を掛けた。
「俺助からないよね」
「そんなことない。すぐ救急車が来るから、それまで頑張ってなさい」
「さすがに俺ダメだと思うんだ。だから死ぬ前にお巡りさんに聴いて欲しいことがある」
「なんだね」
と言って、警官は録音機を作動させた。
「俺さ、1年前の12月26日の夜、友だち何人かと中央道を走っててさ」
「うん」
「駒ヶ岳SAで休んでたら、すっごいポルシェが停まってるのに気付いて」
「うん」
「これすげーなー、とか何人かで集まって見てたんですよ」
「うん」
「で、誰も乗ってないみたいだったから、誰からともなく運転してみない?という声があがって。それで俺が運転席に乗って、友だちの女の子が助手席に乗って、車を出しちゃったんですよ」
「勝手にか?」
「すぐ先の恵那峡SAまで運転して放置すればいいと思ったんですよ。それで2人で乗って運転して駒ヶ岳SAを出たんですよね。さっすがポルシェで凄い速度が出て、その内直線の長い下り坂があるから、調子に乗ってアクセル踏んでスピードは250kmを越えて。あれはほんとに別世界だった。でもふと後ろを見た助手席の女が『ちょっとこの車、後部座席に人が乗ってる』と言って」
「うん」
「俺、全然気付かなくて。空っぽの車だとばかり思ってたんですよね。だけど人が乗ってたら、これ誘拐罪になるんじゃない?とか女が言って」
「うん」
青年はかなり苦しそうだが、おそらく罪の意識がこの告白を頑張ってさせているのだろう。
「そんなこと言われて焦ってしまって。そんな時、突然目の前にカーブが現れて。なんかほんとに突然カーブが出現した感じだったんですよ」
「うん」
250km/hで走ってて、しかも深夜ならカーブはまさに突然出現するだろうなとは思ったが、警官は余計なコメントはしないほうがいいと思って何も言わなかった。
「それで俺曲がりきれなくて、ステアリング切ったけど、車がスピンして。俺も女も投げ出されたけど、偶然にも中央分離帯に乗って。俺と女は助かったんですよ。でも後部座席に乗ってた人は路面に叩き付けられたみたいで。身体揺すってみたけど反応無かったです」
「それでどうしたの?」
「人を殺してしまったという意識でもうパニックになってしまって。でもそこに後続の友だちの車が来たから手を振って停めて。それで友だちが、取り敢えず三角表示板立てて、遺体が車道にあったのを、みんなで路側帯に寄せて、それでそのまま逃げました」
「通報しなかったのか」
「通報したら捕まると思ったから」
「車は燃えてた?」
「いえ。特に燃えたりはしてなかったです」
警官は一緒に乗っていた女友だちや事故処理?を手伝った友人たちのことを聞こうとしたものの、いつも適当に集まって適当に遊んでるからお互いの名前や連絡先も知らないと言っていた。同乗した女とはその晩セックスしたけど、その前にも後にも会ったことがないと言っていた。
警官は東京の警視庁捜査一課、特捜係まで出張してきて、この内容を文章に起こした調書とその時の録音を担当刑事に提出した。ここは未解決事件のフォローをしている部署である。
「結局青年は救急車が到着する前に息を引き取りました」
と富山県警の巡査は、警視庁の刑事(警部補)に報告した。
「他の6人は軽傷だったのに、この青年だけがこの程度の事故ではあり得ないほどの酷い重傷でちょっと不思議だったんですけどね」
と巡査は付け加えた。
「この事件、事故処理をしている最中に、青年が告白したのは、例の高岡猛獅さんたちの事故なのではと気がついて」
「状況が一致してるよね。引き続きこの件は捜査を継続しているから、大いに事件の全容解明に寄与すると思うよ」
と刑事は言った。
「青年の最後の告白が役に立てば何よりです」
「うん。ありがとう。わざわざ富山からお疲れ様」
と刑事は巡査の労をねぎらった。
巡査が帰ってから、刑事は呟いた。
「結局誰かが、高岡・長野の車を運転して事故現場近くまで行った。ところがこの車が乗り逃げに遭った。そして乗り逃げした運転技術の未熟なドライバーが事故を起こして、2人は死亡した。これで事件は全て合理的に説明できる。魔法とか呪いとか考えなくてもいい」
取り敢えず小登愛死亡の件は置いておく!!
刑事は大きく手を上にやって伸びをすると付け加えた。
「ただ、困ったことは、この車を勝手に運転して事故りました、という告白がこれでもう3件目だということだよ(まだ増えたりして)。3件とも、事故死した青年(男2女1)の最後の告白で、追聴取が不可能というのがね〜」
似たような証言が3つある場合「どれかが真実です」などという主張は裁判では通らないので、何か傍証などが無い限り、結果的にどの証言も採用できないことになってしまう。つまり1は1だが、2や3は0に等しい。
告白した3人が全員「事故の規模からはあり得ないほどの重傷だった」という報告があったことも取り敢えず気にしないことにする!
刑事は再度椅子に座るとしばらく考えていた。
「恐らくは、八王子から事故現場近くの駒ヶ岳SAあるいは座光寺PAまでは、誰か高岡さんか長野さんの知人で信頼できる人が運転したんじゃないのかなあ。事務所関係者にはひととおり事情聴取してるし、音楽外の友人か親戚かもしれん」
刑事の頭には、夕香の妹の支香、元バンド仲間の崎守英二、また高岡猛獅の親戚の高岡亀浩(白河夜船)などの顔が思い浮かぶ。
「ところが休憩している内に車を乗り逃げされた。そこまで運転してきた人物は自分が事故を起こしたと疑われることを恐れて黙っているのではなかろうか」
現場から公共交通機関を使って大阪に行くと昼頃の到着になる。だから乗り逃げされた人物は翌朝までに大阪には到達できなかったはずだ。つまり翌朝大阪に居た事務所関係者・レコード会社関係者、また東京に残っていた関係者も除外される。それを考えると、マニュアル車の運転ができて当日の行動が不明(本人は昼まで寝ていたと言っている)の亀浩は結構怪しい気がする。
でも決め手が無い。
コーヒーを入れて一杯飲む。
「結局、憶測では報告書にならん」
と、ひとこと言う
「事件からとうとう今日で一年か」
と刑事は呟いた。
12月24日(金)夕方。
クリスマスなので、真広と“桂花”(けいか)は待ち合わせしてデートをした。札幌駅前で待ち合わせ、“女2人”で楽しくクリスマス・ディナーを味わい、レンタカーで借りたカローラでドライブを楽しんだ。
車は初めてのデートではBMW E46 Cabriolet を使ったのだが
「レンタカー代にお金掛けるより他に使おうよ」
という真広の提案で、2度目のデート以降、安く借りられるし運転もしやすいカローラとかスターレットとかを使っている。
21時頃、海の見えるレストランで軽いお夜食?を食べた後、小樽郊外の予約していたホテルの駐車場に車を駐める。チェックインしてお部屋に入る。今日は女2人の名義で予約していたのでツインの部屋だが、ふたりで協力してベッドをくっつけた。
「これダブルベッドより広い。お得だね」
「ダブルベッドって狭いからいいんじゃないの?」
「あ、そういうことか!」
交替でお風呂に入ってから、ベッドに入る。
「今日はどちらが女の子になる?じゃんけん?」
「じゃんけんだと、まぁちゃんが必ず勝つじゃん!」
実はこれまで真広の5勝0敗なのである!
つまり真広のヴァギナを使って2人がセックスしたのは最初のデートの時だけ!!
「まあそうだけどね」
「携帯のストップウォッチを作動させて、好きな所で停める。偶数だったら、まあちゃんが女の子、奇数だったら、ぼくが女の子というのではどう?」
「いいよ」
それで“桂花”がストップウォッチを作動させる。
真広がストップ!と言い、“桂花”が停める。
12.5秒である。
「けいちゃんが女の子と決定」
“桂花”は溜息をついている。
「女の子の役がしたい癖に」
と真広は言って、
「さあ、お嬢ちゃん、ぼくにお股を開きなさい」
と“桂花”に命じた。
「優しくしてね」
「大丈夫だよ。いつものように気持ち良く逝かせてあげるから」
と言い、真広はバッグから取り出した器具に楽しそうに避妊具を取り付けた。
「いい声で鳴けたら、ご褒美のクリスマスプレゼントで女性ホルモン注射もしてあげるね」
「待って、それは。まだ男を辞めたくない」
「女の子になりたい癖に」
なお、念のため桂助は11月下旬以降、毎週金曜日に精液の冷凍を作ったので現在、冷凍精液が4本できている。4本目の冷凍精液ができた時、真広は彼に「これでいつでも性転換できるね」と言い、彼もドキドキした顔をしていた。
12月26日(日)は佐藤小登愛の一周忌であった。
小樽の佐藤家では、お坊さんを呼んでお経をあげてもらった。法事はほぼ家族だけでおこなった。夏の初盆には従姉で帯広に住む音香が来てくれたのだが、彼女は妊娠中ということで、移動を避け、お花代だけ送って来てくれた。
「音香ちゃんは赤ちゃんできるのか。うちの小登愛もあのまま結婚していてくれたら、今頃は孫の話ができてたかも知れないのに」
などと、最近ようやく普通の生活ができるようになった母親が悔やんでいた。
「あれはお姑さんが酷かったみたいだからね」
と長男の理武は言う。
「我慢が足りないのよ」
などと母はまだ文句を言っていた。母の考えでは、女は嫁いだ家の習慣を覚えるため、何を言われてもそれに従うべきだということらしい。(でも父の両親は日高町に住んでいるから、母は“姑との同居”を経験していない)
玲央美(中2)はそんな母の言葉を聞いていて、私は高校は絶対札幌に出ようと思っていた。
この母の傍に居たくない!
姉の亜梨恵が高校を出たら札幌に出てしまったのも同じ理由だろう。母は地元・小樽で就職させたかったようだが。
12月27日(月)は高岡猛獅・長野夕香の一周忌であった。
関係者がみんなミュージシャンで日曜より平日の方が動きやすいため、そのまま月曜日に都内の斎場で、合同の一周忌法要をおこなった。
これに出席したのは下記である。
ワンティス関係
上島雷太・雨宮三森・海原重観・三宅行来・下川圭次・水上信次・山根次郎・長野支香・本坂伸輔
事務所関係
左座浪源太郎・鮫島知加子
親族関係
高岡亀浩・槇子、高岡越春・尚子
長野松枝
亀浩の妻・槇子はライブハウス“ムー”のオーナーの娘で、彼女は父の名代も兼ねて出席した。この時期、ムーにはまだ浜梨紘子(恵真の母)も務めているが(恵真の)妊娠で産休中である。恵真は2005,2.25の生まれ。
レコード会社からは誰も来なかった。加藤銀河は出席したかったが、担当者(太荷馬武)を差し置いて出る訳にもいかないので遠慮した。
志水夫妻は龍虎を連れて斎場の前まで行き、外で合掌してから帰った。その姿には左座浪だけが気付いた。英世は志水英世・照絵名義と、高岡龍虎名義でお布施を事務所宛に送ってきていたので、お返しだけしておいた。
前日の12月26日に、◇◇テレビがワンティスの特集をして、ワンティスのシングル曲のPVをまとめて一挙放送したら、かなりの視聴率となった。
上島・雨宮・海原をスタジオに呼び(3人とも喪服)、保坂早穂(やはり喪服)がインタビューをしていた。
その保坂早穂がワンティスと一緒に演奏した『空っぽのバレンタイン』の映像も流れたが、この反響も大きかった。
千里Vは旭川に出て天子・瑞江と一緒に年末の買物をし、鏡餅を飾って、1日がかりでおせちを作った。(昨年はGが作った)
村山家の鏡餅は、同じ28日に千里Yが小春に頼み、買ってきた。ついでに、数の子、かまぼこ・伊達巻き、お餅、またお正月っぽい料理なども買ってきてもらった。
29日の朝、武矢はみんなに「みんなで一緒に温泉に泊まりがけで行かないか」と言ったが、母は「私は明日まで仕事」、千里と玲羅は「神社が忙しいから出てる」と言って、全員に振られた。
結局、福居さんを誘って、市内の温泉に行ったようである。
母は12月30日のお昼過ぎまで仕事をして、仕事納めをして14時頃に解放された。それで町でケーキを4個買って来たが、家には誰も居ない。
千里が16時半頃帰ってきて「あ、ケーキ食べる」というので、母と千里の2人で1個ずつ食べた。その後千里は「疲れたから寝る」と言って眠ってしまった。武矢は温泉から17時頃に帰ってきたが「ケーキは要らん」と言って、いつもの寝場所で眠ってしまった。
↓村山家の各自の寝場所(再掲)
18時半頃、“千里”と玲羅が神社から帰ってきた。津気子は「え?」と思って奥の部屋を見ると、寝ていたはずの千里が居ない。
「あ、ケーキがあるの?」
と言って、2人はケーキを食べている、
津気子は少し悩んだものの、
「まっいっか」
と呟いた。
「来年はいいことあるといいね」
と千里は言っていた。
31日は、朝7時すぎに、千里が起きてきて、ひとりで朝御飯を食べ
「練習に行ってくるね」
と言って、出掛けていった(実は今日は天野道場に行った)。津気子はまだ寝ている。
8時半頃、“千里”と玲羅が起きてくる。
津気子はもう気にしないことにした!
2人は津気子と一緒に朝御飯を食べ、8時半頃
「神社に行って来ます」
と言って出かける。
出がけに千里が
「お母ちゃん、これ早めのお年玉」
と言って、ポチ袋をくれたので、津気子も10時には寝ている武矢を放置して、ジャスコまで車で行き、ショッピングを楽しんだ。
千里は13時頃“ひとりで”帰ってきて。
「今日はお昼までで切り上げた」
と言っていたが、津気子が買ってきた唐揚げを摘まむと
「美味しいね」
と言って食べていた。そのあと
「少し寝てる」
と言って、奥の部屋に行くが、寝る前に、津気子に
「これお年玉」
と言って、ポチ袋をくれた。
うーん・・・・・。
もらっとこ!
そして18時半頃、“千里”と玲羅が神社から戻って来て、岸本さんの所に出ていて戻って来た武矢と4人で年越しそばを食べた。
千里は「明日もあるから寝る〜」と言って、御飯が終わると寝てしまった。玲羅も父と話したくないので「私も寝る」と言って、奥の部屋に行ったが、どうも先日千里に買ってもらったDSでずっと遊んでいたようである。
結局、津気子と武矢の2人で紅白を見た後、年越しとなった。武矢は
「今日はいいよな?」
と言って、ずっとサッポロビールを飲んでいた。
2005年が明ける。