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■女子中学生・秋の嵐(10)

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「千里〜、ありがとう」
と言って、映子がハグした。
 
「だいぶ間違ったけど、まあ破綻しなかったかな」
「間違った?全然気付かなかった」
と映子。
 
穂花や佐奈恵は分かったはずだが、映子は本当に分からないかも?と思ってから、「あ、たぶん佐奈恵は弾けたはず」と思い至った。
 
「いや初見であれだけ弾くのは、やはり千里にしかできない」
 
とその佐奈恵は言っている。弾けはするだろうけど、自信が無かったのかな。
 
(でも実は、おだてておいて、↓の要請の下準備をしている!)
 
そしてみんなから言われる。
「千里、よかったら練習にも出て来てよ」
「昼休みに練習してるんだっけ?」
「そうそう」
「ふーん。じゃ考えとく」
「よろしくー」
 
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合唱同好会の後は、体育館後方でバスケット部のパフォーマンスがある。
 
先日の大会で引退した3年生もパフォーマンスに加わっているようである。最初に男子が出て、一列に並び、一斉にドリブルして、そのドリブル中のボールを同時に隣の人に渡すなどというパフォーマンスもしていた。その後、ランニングシュートをするパフォーマンスをするが、時々外してしまう子がいる。
 
「あ、貴司だ」
と思って見ていたら、その貴司も外した!
 
「あいつ、わりと本番に弱いからなあ」
などと千里は呟いていた。
 

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男子のパフォーマンスが終わった後、女子が出たが、こちらも3年生まで出ている。メンバーは8人である。
 
「スリーポイントコンテストをします」
と数子がマイクを持って言う。
 
「90秒以内(*25)に、ゴール周囲5ヶ所に置かれたボールラックに5個ずつ置かれたボールをシュートし、入れた数が点数になります。ただし普通のオレンジボールは1点ですが、こちらのカラーボールは2点になるので、25個全てのボールを入れることができたら30点です」
と数子は説明した。
 
「へー。そういうゲームがあるのか」
と千里は思って見ていた。
 
(*25) 一般にプロ選手のイベントでは60秒で行なう。しかしここでは60秒ではとてもまともなゲームにならないため90秒にしたものと思われる。
 
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コンテストが始まる。ゲームクロックを1分30秒に設定し、これがカウントダウンする間に25本のシュートを撃たなければならない。
 
シュートが入ったかどうかは留実子が判定し、雪子が記録する。雪子の細い腕では、とてもスリーポイントラインからゴールまでボールが届かないだろうから、記録係に回ったのだろう。留実子は・・・なぜ参加しないのだろう?
 
(留実子は腕力はあるがコントロールが無いので6.75mの距離からゴールに正確に放り込むことができない。雪子はそもそ6.75m先までボールを放れない。それでこの2人は外れた。留実子はフリースローも苦手である。またゴールしたかどうかの判定をする係はシュートミスのボールがぶつかる可能性があり、丈夫な選手にしか務まらない。華奢な雪子では危険)
 
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1年生の他の3人から始める。雅代は4本入れて5点だったが、泰子は1本、伸代は2本しか入れきれなかった。2年生に行き、数子は2本で2点である。
 
その後、久子さんが2本で3点、友子さんが5本入れて6点であった。
 
ということで、1位友子6点、2位雅代5点かなと思った。
 
ところが数子は
「ここで真打ちに御登場頂きます」
と言う。誰だろうと思ったら
「村山千里さん、こちらにいらして下さい」
と数子がこちらを見て言う。
 

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「何で私が」
などと言いながら、結局剣道着のまま体育館後方に行く。
 
「では真打ちの名技の披露を」
などと数子が言うので
 
「ではちょっとお茶濁しに」
と言って、屈伸運動、足首・手首の運動をした上で位置に付く。
 
「始め」
という声で撃ち始める。他の人のパフォーマンスを見ていて、このゲームは「いかにして90秒以内に最後のラックまで辿り着くか」が鍵だということに千里は気付いていた。
 
友子さんも雅代も4番目のラックまで到達していた。低い本数に留まった人は2番目か3番目の所でブザーが鳴っている。これはいちいちゴールを狙っている時間は無く、どんどん撃つ必要がある。だいたいラックからラックへの移動を5秒×4=20秒とすると、残りは90-20=70秒。25×3=75だから、3秒弱に1本シュートしないと間に合わない(←計算よくできました☆花絵さんのドリルやってたお陰だね)。まともに狙ってる時間は無い。単純なシュート動作だけで3秒使うはずだ。
 
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それで千里は「始め」の合図で、先頭のラックのボールを取り次から次へと撃った。撃つ時はチラッとゴールを見るだけである。しっかり狙う時間は無い。そして5本撃つとすぐに走って2番目のラックに向かう。ここでもどんどん撃つ。ゴールはチラッと見るだけだし、入ったかどうかも確認せずに次のボールを撃つ。
 
5本撃ったら、また走って3番目のラックに行く。5本撃って4番目のラックへ。5本撃って最後のラックへ。ここで5本目を撃った次の瞬間ブザー!!
 
ぎりぎりじゃん!!!
 
(袴と足袋なのでハーフパンツとバッシュに比べて走りにくかったのもあると思う。また60秒でやるプロのイベントを見ていると、みな“撃つ”のではなく“投げ”てる。いちいち撃っていたら間に合わないのだと思う。千里が90秒で25本撃てるのは下半身が剣道で鍛えてガッチリしているからである。筋力の無い友子には絶対無理)
 
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会場はシーンとしていた。
 
千里はどうしたんだろう?と思った。
 
そして割れるような拍手があった。
 
何?何?どうしたの?
 
数子がマイクに向かって語る。
「凄いですね!パーフェクト。25本全シュートがゴール。30点満点が出ました」
 
嘘!?全部入ったの?適当に撃ったのに。
 
「そういう訳で優勝は村山千里選手です」
と数子は言ったが千里はそのマイクの所に行き
 
「私はゲストなのでノーカンです。優勝は松村友子選手です」
と訂正した。
 
そして観衆に手を振って体育館を去った。しかし退場する千里に凄い拍手が送られた。
 

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体育館ではこの後、英語部の爆笑?英語劇『かぐや姫』が上演された。
 
そもそもかぐや姫が3年男子で5人の貴公子は全員女子という配役!だったが、男子部員が少ないための窮余の一策だったらしい。3年男子は「最後の年だから主役をやってもらおう」と言われて、かぐや姫を演じることになったそうだ。
 
その後、先生たちの楽器演奏、PTAの合唱があり、最後に、体育館にいる全員の合唱(伴奏:セナ!)で『川の流れのように』を歌って、演目は終了する。
 
(この選曲は親世代も祖父母世代も分かる曲という選曲だと思う。秋元康の作品で美空ひばり最後のヒット曲(平成元年)である。この日のプログラムの裏表紙に歌詞が印刷されていた。セナはこういう曲の伴奏はわりと上手い)
 
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そして生徒会副会長による閉会の辞で文化祭の体育館でのパフォーマンスは全て終了した。
 
千里はスリーポイントコンテストの後、セーラー服に着替えてから教室に戻ったが、既にカフェは売り切れで終了していた。
 
「コーヒーも無くなった」
「たくさん売上金ができた」
「素晴らしい」
 
「この売上金はどう処理するんだっけ?」
「仕入れ代金の支払いとか、他にも調理器具なんかを貸してくれた人へのお礼とか、した上で、去年の1組は余った分はクラスのクリスマス会で使ったよ」
「なるほどー」
 
ということで、全員に何か個人で負担したものは無いか聞いて調査した上で、余った金額はクリスマス会で使うことにした。
 

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文化祭の片づけをしていた最中、昨日千里と囲碁の対戦をした峰山さんのお師匠さんという、桜田・元碁聖が来たので囲碁部員たちが仰天した。顧問の先生が校長を呼んできて、校長室で付き添いの平川四段・峰山アマもあわせて応対し、その後、被服室(畳が敷ける)で千里と対局した。
 
凄いギャラリーになった。
 
五子置いての対局であるが、むろん五子程度では全くハンディにはならない。まともな対局ではなく、桜田九段は千里の力量を測るような手を打ってきて、千里はそれに応じていった。100手くらい打ったところで九段は「このくらいで、いいかな」と言い、千里が「ありがとうございました」と言って対局終了である。その後、かなり“検討”をやった。
 
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上段者なら普通にやることだが、局面を戻して「ここの所は」とか九段と千里が検討しているのを見て「よく途中の局面を再現できるね」という声が出ていた。囲碁の素人はまずそこで驚く。でもある程度囲碁の分かる人にはこの検討でのやり取りがかなり参考になっていたようである。
 

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「しかし君は凄く強い上に、勘が鋭いね」
「そうですね。わりと勘だけで打ってる部分があります」
「僕のここの仕掛けに気付いたのは“うっ”と思ったよ」
「ここはハネるのが普通なのにツケられたので、ひょっとしたら何かあるかもと思って考えたら、それに気付きました」
 
恐らく千里が気付くかどうか試してみたのだろう。
 
「凄い勘だね。ネット碁とかしてる?」
「いえ」
「こういう地方都市ではなかなか強い人とリアルでは対局できないだろうし、ネット碁で鍛えるといいよ」
と九段は言った。
「やってみます」
「段位は三段を申請しなさい」
「はい!」
 
それで元碁聖が推薦状を書いてくれたので、それを添えて申請することにした。
 
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「あのぉ、推薦状のお代とかは」
「要らない、要らない、ただ日本棋院への申請料は掛かるけどね」
「ありがとうございます!」
 
(でも後で免状申請料が6万円と知って、一瞬「ぎゃっ」と思った)
 

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このあと、サービスで桜田元碁聖と平川四段の記念対局までしてくれて、これも凄いギャラリーとなった。
 
お車代とか渡さなくていいのかなぁ?と思って峰山さんにこっそり訊いてみたものの「要らないよ。留萌に凄く強い女子中学生がいると聞いて、それを見に来ただけだから」と笑って言っていた。
 
でも校長先生がポケットマネーで、神居酒造の純米大吟醸酒“コタンピル”と、黄金屋の洋菓子“かもめのしらせ”を急遽用意していてくれて、桜田・元碁聖と平川四段、峰山さんに渡していた。また帰りは車の運転がうまい山口桃枝教頭が自分の車で3人を
「お泊まりになる町までお送りしますよ」
と言った。3人は教頭とは知らずに、校長の奧さんか何かと思って
 
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「じゃ、良かったら札幌まで」
と言い、名刺をもらってから教頭と知り、かえって恐縮していた。実は、平川四段、峰山さんと女性2人が入っているので、「私の方がいいでしょう」と教頭が校長に言って、そうなったようである。(このため山口教頭は千里の対局中仮眠を取っていた)
 

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「なんか昔の大歌手と似た名前ですね」
「よく言われます。ちなみにこちらが、私の愛車“真っ赤なポルシェ”でございます」
と言って、ポルシェカイエン(4511cc V8-engine) を見せると、3人とも驚いていた。
 
「ポルシェでも後部座席にゆとりがあるんですね」
と感心して元碁聖たちは乗り込んでいた。
「そうなんです。有名な911は2+2シートだから後部座席が狭いんですが、これは元々5人乗りのSUVなんですよ」
と教頭は説明した。
 
助手席に峰山さんが乗り、元碁聖と平川四段が後部座席に並んで座ったが、教頭も囲碁初段を20年前!に取ったということで囲碁界の情報はフォローしていたし、『ヒカルの碁』も愛読していたということで、札幌までの2時間では結構楽しい囲碁談義が続いたようである。
 
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札幌では、夕食を教頭が「資金は校長から頂いてますから」と言って、予約していたレストランで3人にごちそうして、解散となった。
 
山口教頭はお疲れ様だが、本人としては札幌までドライブができて、美味しい料理も食べられて満足だったようである!
 

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その教頭から後で話を聞くと、峰山さんは、今日も一緒に来た、直接の師匠である平川四段が元々この日北海道に来る予定だったので、それを連れてくるつもりだった。ところが、連絡した時、たまたま桜田九段が平川四段と会っていて
 
「僕が見てあげよう」
と言って一緒に飛行機に飛び乗って、来て下さったらしかった。
 
なお、峰山さんは札幌在住で昨日はたまたま留萌の親戚の家に来ていて、S中文化祭は全くの通りがかりだったらしい。
 

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文化祭の代休だが、9月8日に台風で臨時休校していたので、その分を引いて1日だけ代休が設定されることになる。9月27日(月)は休みだが、28日(火)から授業が行われることになる。
 
「火曜日間違って休まないように」
とみんな言い合った。
 

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9月27日(月).
 
学校は文化祭の代休だが、世間的には平日なので、沙苗は母と一緒に札幌に出てS医大を受診した。
 
MRIも取って内部の状態も確認したが、それを見て主治医は
 
「女性化が更に進行してますね」
と言った。
 
尿道口は先月より更に後方に移動している。小陰唇が形成され始めている。元は陰茎亀頭だった部分は既に完全な陰核亀頭の形になっている。触った感じを尋ねられたが、沙苗は
「触ると物凄く気持ちいいです」
と答えた。自慰についても尋ねられたが
「7−8月はずっと剣道の合宿やってたので、毎日くたくたになって自慰もしてなかったのですが、今月に入ってからは週に1〜2回してます」
 
「逝った感覚はある?」
「逝ってると思います」
「男の子だった時の自慰の感覚に近い?」
「私男の子時代は自慰をしてなかったのでよく分かりませんが、頭がぼーっとして凄く気持ちいい感じが数分続きます。濡れるし」
「ああ。ちゃんと濡れるのね。本当に女性的な性機構が働いているみたいね」
 
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医師が要点をカルテに記録していた。母は恥ずかしがっていたが、これはわりと重要な問題である。
 
次の診察は10月下旬にすることにした。
 

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9月29日(水).
 
この日の昼休み、千里Rはふらりと、学校の校門を出た所にあるQ神社御旅所に姿を見せた。
 
「千里!」
「来てくれたんだ!」
と合唱同好会のメンバーから声が掛かる。
 
「へー。こんなところで練習やってたのか」
「特別教室棟には空きがないのよね〜」
「うち、そんなにたくさん部活あったっけ?」
 
この日は文化祭でも歌った『瞳をとじて』『メリッサ』の他、ポルノの曲で『アポロ』『サウダージ』『アゲハ蝶』などを歌った。
 
でも千里はピアニストのセナに
「乗りが悪い」
と文句を言い、ちょっと自分で弾いてみせる。
 
「全然雰囲気違う」
という声があがる。
 
「セナ、元の曲のCDとか聴いてないでしょ」
「うん」
「ポルノは恵香が全部持ってると思うから、聞かせてもらいなよ。こういう曲って、音楽の時間に習うような曲とは弾き方が全然違うから」
 
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「確かに違うね」
 
この日は結局ほとんどの曲を千里が弾いたが「歌いやすーい」という声が多かった。そしてセナも、こういうロック系の曲のピアノ演奏法を勉強し直すことになり、これは年末頃までにはかなり改善されることになる。
 
この日の練習、最後の会話。
 
「千里、良かったら時々でもいいから来てよ」
「じゃ時々ね」
 
ということで、千里Rはこの後、週に1度くらい、合唱同好会の練習に顔を見せるようになった。
 

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女子中学生・秋の嵐(10)

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