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■女子中学生・秋の嵐(14)

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それで司は強飯監督に付き添われて指定された病院に行った。尿を取り、身長と体重、(着衣で)身体のサイズ:TB/UB/W/H,肩幅・足サイズを測られ、血液も取られて全体のレントゲンにMRIまで取られる。最後は泌尿器科医の前で下半身裸になって身体を見てもらった。
 
(上半身着衣で良かったぁと思った。上半身の服を脱ぐとブラ跡を見られる!)
 
「君、女子用のパンツ穿いてるの?」
「サポーター代わりですー」
「ああ、そういうことか!」
と、この点は納得していたようだ。これは実際男子選手で女子用ショーツをサポーター代わりにする人はいる。なんといっても安いし!
 
「身体の骨格は女性型だけど、男性器はあるんだね」
「ぼく男の子ですから」
「発毛はしてるね」
「小学5年生頃から生えて来ました」
 
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でも『発毛が女性型だなあ』と医師は内心思っている。
 
「身体のサイズも女性体型だけど、バストは無いんだね」
「男の子におっぱいはありません」
「MRIを見る限りは卵巣や子宮は無いようですね」
「女の子ではないので」
 
「でも君、雰囲気が凄く女の子っぽいね。女の子になりたい男の子?」
「別に女の子にはなりたくないですー」
「でもスカートくらいは穿くよね(誘導尋問)」
「スカートくらいは普通に穿きますよ(きれいに誘導に引っかかる)」
 
司はまずいこと言ったかなあと思ったが、医師は逆にそれで納得していた。やはり女性指向があるから男性化を意図的に停めているのだろうと判断したようであった。
 
「足にスネ毛とか無いけど、剃ってる?」
「ぼく男性ホルモン弱いみたいで、スネ毛は生えないです」
「確かに君は男性ホルモンの数値が低いね。ヒゲは生えてる?」
「ヒゲもまだ生えてません」
 
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(本当は6月以降、生えなくなった)
 
「君喉仏も無いよね。精通は来てる?あ、精通って分かる?」
「オナニーは時々するし、射精もしますよ」
「どのくらいの頻度でそれしてる」
「月に1〜2回かなあ」
 
医師は納得するように頷いていた。
 
(本当は6月以降一度も射精していないが、このくらいはしていることにしておいた)
 
ペニスと睾丸のサイズも計られたが、司の男性器は小学1-2年生くらいのサイズらしかった。つまり幼児サイズである。
 
勃起したサイズも測られたが、射精してみてとか言われたらどうしよう?と思ったもののそれは要求されなかったのでホッとした(M検じゃあるまいし目の前で射精させられることはあり得ない)。
 
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結局医師の診断は
「思春期の到来が遅れていて男性的な二次性徴がまだ明確に発現しておらず、ホルモン的にはまだ中性だが、男性生殖器は存在し、女性生殖器は存在しないので医学的には男性」
というものであった。
 
主催者側は「なるほど。まだホルモン的に中性なのか」ということで納得してくれたようであった。この件は翌日以降のS中の試合の審判に「個人情報なので部外秘」という断り書きを付けて伝達されたので、翌日の試合以降は、この手のトラブルは、(あまり)無かった。
 

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10日に行われた2回戦の相手はC中であった。審判には司の性別の件が伝達されていたものの、相手のC中から
「なんで女子が選手のユニフォーム着てるんですか?」
と言われる。しかし審判が
「彼女は医学的には男子に分類されるという診断結果がでていますので、参加が認められています」
と言い、C中も「まあいいか」と思ったようである(“彼女”と言われている)。
 
この試合では前半4回までを前川が投げた。前川君は荒れ玉なので四球と死球に振り逃げのランナーまで出したが、後続を断って0点に抑える。
 
荒れ玉のせいもあり、ファウル打球の跳ね返りが司の股間を直撃した事故もあったが、司が全く平気な様子なので
 
「女子がキャッチャーやると“玉衝突問題”には強いんだなあ」
などとC中の選手が言っていた!
 
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5回からは慣らす意味も兼ねてS中1年生ピッチャーの左腕・山園君が投げた。C中は前半は前川の変化球にやられ、後半は一転して山園君の速球にバットが合わず、2人でC中打線をノーヒットに抑えた。
 
この試合では6回にこちらの阪井君が今日もタイムリーを打って2−0で勝った(勝ち投手は山園君になる)。
 

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そして11日は決勝戦となる。夏大会の決勝と同じR中とである。R中は司を夏の大会でも見ているので、彼の性別については特に何も言わなかった。もっともR中のベンチ内では
 
「なんでS中は女子が入ってるんですか」
と1年生が尋ね
「女子とはいえあなどれない選手だよ、男と同じと思った方がいい」
と2年生が答えていたとか!?
 
この試合で先発した前川は夏大会の時はR中打線を完璧に押さえ、R中は前川が投げている間、ひとりのランナーも出せなかった。しかし、R中は何度もは、やられないということで、変化球打ちをかなり練習してきたようである。
 
それで変化球に慣れていると前川のボールは基本遅いので、全部打たれてしまう。
 
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それに後から先輩の横井さんに指摘されたのだが、前川君は変化球を投げる時のモーションが各々明確なので、彼のモーションを見て、かなり球種が予想できるというのである。
「恐らくR中は夏の大会のビデオを見て、前川をかなり分析していたのだと思う」
 

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初回から2者連続ヒットの後、3番にデッドボールを与えてノーアウト満塁である。ここで4番の当たりは大きなライトフライとなって犠牲フライでまず1点。更に1アウト13塁から5番のレフト前タイムリーヒットで2点目。1アウト12塁。ここで6番にフォアボールを与えて1アウトフルベースとなった所でピッチャーを交替させる。
 
念のため前川をライトに入れ、1年生ピッチャーの山園を出す。そしてここは山園が二者連続三振でピンチを切り抜け、初回のR中の得点は2点に留まった。
 

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この後、R中のエース・岡田、S中の1年生左腕・山園の投げ合いで試合は進む。どちらも好投して、ランナーは出るものの得点は取れない。途中R中が出したランナーを司が物凄い牽制球でアウトにしたのが2度あった。
 
そしてとうとう最終回7回の表。R中の先頭打者が打った球はピッチャー・ライナーとなったが、山園は反射的にこの球を(利き腕の)左手で捕っちゃった。
 
バッターはアウトなのだが、山園が手を押さえている。
 
内野陣が集まる。
「山園君大丈夫?」
「骨折とかはしてないと思うんだけど・・・」
 
とにかく投げられない状況なので交替させる。すぐ治療した方が良さそうなので山園は下げてすぐ病院に連れて行き、ライトに入っていた前川をマウンドに上げる。ライトには1年生の田中が入った。
 
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しかし前川は1回と同様、R中に打たれる。2連打の後、続けてタイムリーヒットでとうとう3点目を失う。更にランナー12塁である。
 
監督は審判に伝令を走らせてピッチャーの交替を告げた。
 
「福川さん、福川さんがピッチャーをやってって。監督が」
と伝令の1年生が言う。
 
「え〜〜!?」
「いや、福川さんは小学校の時はピッチャーだった。できるはず」
と前川君が言う。
 
「実際俺たちだと、そもそもセットポジションとかも分からないから、簡単にボーク取られそう。ここは経験者の福川さんしか居ないよ」
 
それで司は前川君のグラブを借り、小学5年生の時以来、3年ぶりにピッチャーズマウンドに立ったのである。1年生キャッチャーの宇川君がマスクをかぶり、前川はライトに戻る(彼の打順が裏にあるため)。
 
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投球練習で軽く5球投げたが、懐かしい感触だなあと思った。あまり自信無いけど、他に出来る人がいないから自分がするしかない。
 
それでR中の4番打者と対決する。
 
まずは速球を全力で投げ込む。相手が振り遅れていた。
 
「すげー!女の投げる球とは思えん。気合入れなきゃ」
などとバッターは呟いていた!
 
(1年生キャッチャーの宇川君は「福川さん牽制球も速いもんなあ。やはり女子のソフトボールでは強い選手が居なくて面白くないから男子の野球部に入ってるのかなあ」などと思っている!)
 
司が再度全力投球。今度は相手は微かに当てた。ファウルで0−2.
 
さすがR中の4番である。物凄い対応能力だ。この人とは2度対戦したら次は確実に打たれるなと司は思った。
 
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次のボールは先の2回と同じフォーム・腕の振りで投げる。
 
相手のバットが空を切り、三振!
 
実は、これはチェンジアップであった。速球と同じモーションで投げるが、球の握り方が違うので球速が遅い。それで速球のつもりでバットを振るとタイミングが合わず、当てることができなかったのである。
 

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これで2アウト12塁となる。バッターは5番である。
 
まずは速球を投げるが、これはわざと高めに外して投げた。相手は空振りでまず1ストライク。次の玉は普通のカーブで外角ぎりぎりに投げたがボールの判定。バッターもよく見てカウントは1−1。次もまた同じようなコースに投げる。バッターは見送ったが、これはストライク!それでカウントは1−2となる。バッターが「入ってたかぁ!」という感じで首を振った。
 
セットポジションを取る。その時、目の端で2塁ランナーの離塁が大きいことに気付く。
 
矢のような牽制球を投げる。
 
セカンドが取ってタッチアウト!
 
これでスリーアウトとなり、R中の7回表の得点は1点に留まった。
 
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しかし点数は3−0である。
 
S中が最後の攻撃に入る。打順は6番の前川からである。
 
彼はこの試合、投球でみんなに迷惑掛けたから、ここは何とか塁に出るぞという気持ちで無茶苦茶気合が入っていた。
 
岡田君の外し気味のカーブを思いっきり引っ張る。ボールがショートの奥深い所に転がる。前川は必死で走って、最後は滑り込んで1塁に生きた。
 
7番だが、代打の2年生・東野君が出ていく。
 
彼がバントをする。R中はこれだけ点差がある所でしかも代打がバントというのは全く想定外で無防備だった(無防備なのを見てバントした)。それで対応が遅れた。東野君が転がしたボールをキャッチャーが取って・・・2塁に投げた!
 
しかし前川君はまた滑り込んでセーフ!
 
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結局キャッチャーの野選(フィルダーズチョイス)でノーアウト12塁になってしまう。
 
8番の司が出ていく。「8番ピッチャー福川さん」と場内アナウンスで言われて、司はなんだか面はゆい気分だった。ピッチャーとコールされたのも3年ぶりだ。
 
気分良く座席に立つ。相手ピッチャーの最初のボールが外角低めにきたのを思いっきり振った。
 
ボールは右中間に転がる。2塁ランナーの前川君が笑顔でホームイン。1塁走者で俊足の東野君が全力疾走し、ホームでクロスプレイになったもののセーフの判定。あっという間に3−2と1点差に迫った。打った司も2塁に到達した。
 
司のタイムリー2塁打であった。
 

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9番の所に代打の1年生・梶屋君を出す。彼はバッティングはいいのだが、実は送球が下手糞なのである。それで守備に使えない。だから逆に代打の切り札であった。彼は1球空振りした後、R中エース岡田の2球目をジャストミート。
 
ボールは切れながらも伸びていった。
 
そして
 
レフトポール際、ぎりぎりのスタンドに入った。
 
三塁塁審がぐるぐる腕を回す。
 
劇的なさよならホームランであった。
 
打たれた岡田君がショックでマウンドに座り込んでしまった。
 
司は大喜びで三塁を回り、同点のホームを踏む。
 
そして梶屋君がダイヤモンドを一周して、逆転のホームイン。チームメイトにもみくちゃにされた。
 
整列する。
「4-3でS中学校の勝ち」
「ありがとうございました」
と双方挨拶した後、握手を交わした。
 
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この試合の勝ち投手は司になったので、S中はこの大会、1回戦・準決勝・決勝を全部違う勝ち投手で勝ったという珍現象が起きていた。S中応援団は毎試合、応援を行い、団長の河合君の声が枯れていたが勝利に全員歓喜していた。留実子はずっと応援団旗を掲げ続けた。
 
しかしこれでS中は8年ぶり(だったらしい)に留萌地区大会で優勝し、下旬に行われる北北海道大会に進出した。
 
なお、病院に連れて行かれた山園君だが、骨には異常はなく、一週間くらい湿布していれば治るだろうということだった。つまり北北海道大会には間に合うので、彼がエースということになるかも知れない。
 

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