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(C) Eriko Kawaguchi 2022-09-09
女装カフェは昨年の1年1組同様、好評であった。たくさんお客さんが来るので(恐い物見たさかも)、
「みんな女装が好きみたいね〜」
と言っていた。
飛内君などは女装にかなりの無理があるのだが、開き直って頑張っていた。
「でもこの衣裳、結構ミニスカートっぽい」
「本当は普通の膝上丈なんだけど、男子が穿くとミニっぽくなるね」
「母ちゃんに頼んで足の毛を剃ってもらったけど、毛の無い足を見ると何か変な気分になる」
「ああ、女装にハマりかけだね」
「さすがに俺がこんな格好で外を歩いてたら、お巡りさんに捕まりそうだけど」
「大丈夫だよ。最近そういう人多いから」
転入生の児玉君は様子を見に来たお父さん(かなりガッチリした体格)にウェイトレス姿を見られて恥ずかしがっていたが、お父さんは面白がって
「お前、性転換手術受けて本当の女になって嫁に行くか?」
などと言う。
児玉君は
「どうしよう?」
と迷うように答えていた!
(お父さんは)ジョークとは思うが、これを機会に彼が道を誤らないことを祈る。
女子としてカウントされ、厨房に入った雅海はセーラー服姿を同級生たちに初公開となった。
「普通に女子中学生にしか見えない」
「どこにも不自然な所が無い」
「来週からこれで出て来なよ」
とみんな言っていたが、本人はかなり恥ずかしがっていた。
(雅海のセーラー服姿は、これまで5月のパーキングサービスのライブにダンサーとして参加した人しか見てないし、その人たちは、みんな雅海のことを普通の女子中学生と思っていた。ワンピース姿は、千里・沙苗・公世たちに見られている。でも雅海は今年の水泳の授業を女子用スクール水着で受けたので、今更である!)
「公世ちゃんのセーラー服姿も見たかったなあ」
「見せるようなものじゃないから」
「だって絶対可愛いよね」
「間違い無いと思う」
なお予想通り、公世は男子トイレに入ろうとして、来場している保護者の男性に「君ここ違う」と言われて追い出され、女子トイレを使っていた。
「きみよちゃん、いらっしゃーい」
「今後はずっとこちら使うといいね」
「火曜からは男子トイレに戻るから文化祭の間だけこちら使わせて」
「ずっと女子トイレでいいのに」
「だって、ちんちん無いのに男子トイレは不便でしょ?」
取り敢えずひとりででも女子トイレに入れるようになったので、公世もだいぶ女子トイレに慣れてきた?
雅海はふだんは男子制服で女子トイレを使っているのだが、今日はセーラー服なので、来場者が多数居る中でもノートラブルで女子トイレを使えた。結局、雅海は女子制服を着るしか無かったのである。
10時過ぎに沙苗と千里(厨房内の女子はみな基本的にセーラー服姿)は教室を抜け出し、音楽室に集まる。そして吹奏楽部の今日の演し物の練習をする。
「え?5曲も演奏するの?」
「コンクールに出た2曲以外は、みんな知ってる曲だから大丈夫だよ」
ということで、今日の演し物はコンクールで演奏した『吹奏楽のための「風之舞」』、『ポップホーン』に加えて、『ボギー大佐』『ルパン三世のテーマ』『ラデツキー行進曲』となっていた。コンクールでやった2曲は大丈夫でしょうからということで、『ボギー大佐』『ルパン三世のテーマ』『ラデツキー行進曲』を練習したが、千里は完璧な初見である。でも“だいたい”間違えずに演奏できた気がしたのでいいことにした!
すぐ体育館に移動する。体育館後方で体操部の華麗なパフォーマンスが行われている。千里たちは緞帳の下りたステージに椅子を持ち込んで並べ、全員配置に就く。進行係の生徒会副会長さんが「行きます」と声を掛ける。
緞帳が上がる。
近藤先生のタクトが振られ、『吹奏楽のための「風之舞」』を演奏する。約1ヶ月ぶりの演奏であったが、何とか(ほとんど)間違えずに吹けたと思う。続いて『ポップホーン』に行く。これもコンクール以来1ヶ月ぶりの演奏である。20年くらい前にポール・モーリアがヒットさせた曲で日本では自動車のCMとかに使われていたらしいが、千里はコンクール直前に譜面をもらうまで知らなかったし、聴いた記憶も無かった。しかし軽快で格好良い曲だと思った。主役は“ホーン”の名の通り、金管楽器なので、木管は裏方であるが、『風之舞』に比べると気楽に演奏できる曲だった。
続いて『ボギー大佐』である。吹奏楽や鼓笛隊ではおなじみの曲である。よく聴いている曲でもあるので、千里は「サル・ゴリラ・チンパンジー」と頭の中で歌いながら楽しく演奏した。『ルパン三世のテーマ』は冒頭に3年・山田さん(soprano /Clarinet) の 「Lupin the third」 という声が入った。これも金管主体の演奏である。しかしこの曲は色々な演奏の仕方がありそうだなと思う。こういうアコスティック楽器で演奏しても楽しいし、エレキギターを入れたロックバンドでの演奏も面白いし、またシンセサイザをバリバリ使ってテクノ風に演奏してもまた格好いい曲になりそうである。サンバにもなるかも!?
そして最後の『ラデツキー行進曲』に行く。しばしば注意されるが“ラデッキー”ではなく“ラデツキー”である。これは原曲名スペル Radetzky-Marsch を見ると判る。
この曲↓
Radetzky_Marsch_WBI
この曲を格好よく演奏して、パフォーマンスを終えた。
吹奏楽部の演奏の後は昼休みになる。カフェのお客さんが増えるので千里も教室に戻り、調理の手伝いをした。お客さんがどんどん来て、とうとう給仕の手が足りなくなり
「あんたもしかしたら男に見えるかも」
と言われて、蓮菜・絵梨とセナ!がウェイトレスさんの格好をさせられて、給仕係に徴用された。セナは
「君、充分女の子に見えるよ。いっそ性転換して女の子にならない?」
などと言われ
「人生考え直してみようかな」
などと答えていた。
セナは久しぶりに男声を使った:セナは沙苗に比べて女性化がまだ浅いので男性的な機能がこの頃までは結構残存“していた”(過去形)。これが12月に急進するのだが、この件は後述。雅海はきっと修学旅行近くまで男女の境界をウロウロしていると思う。
蓮菜と絵梨は性別に全く疑問を持たれず、女装男子として通っていた!
「君、そういう服を着てたら結構女の子にも見えるよ」
「君は背が低いからわりと女装が似合うよ」
などとお客さんに言われていた!
背が低くても、逞しい体格の絵梨をまさか女の子とは思わないようだ。絵梨よりよほど背があるのに華奢な体格の公世が女の子に見えてしまうのとは対照的である(公世の腕はだいぶ太くなってきたが、まだ絵梨の方が太い)。
昼休みが終わると、体育館では有志による演奏が3グループ続いた。
最初のグループは3年男子6人によるバンド演奏(Gt/B/Dr/Vox3)であった。ORANGE RANGE のコピーをしていた。ORANGE RANGE と同様に高音・中音・低音の3人の男声ボーカルを揃えていて、結構聴き応えがあったらしい(千里はカフェが忙しくて聴いてない)
2番目のグループは2年女子4人でオカリナによる合奏だった。唱歌を4曲演奏したが「可愛い!」という声があがっていたという。
最後のグループは1年女子3人によるバンド演奏でGO!GO!7188のコピーだった。千里はこのグループだけ聴くことになった。
まずは『浮舟』で聴衆の心をツカみ、『こいのうた』でしっかり聴かせ、最後は『ジェットにんぢん』のラストで大爆笑を取って、大きな拍手に送られて退場した。
この有志演奏の1番目と3番目は後方のスペースを使用、2番目はステージ下のスペースを使用した。
有志演奏の後はチア部のパフォーマンスがステージで行われた。一糸乱れぬ美しいフォーメーション、そしてアクロバット的な動きに歓声が起きる。物凄く盛り上がったステージとなった。
そしてその後、体育館後方で剣道部のパフォーマンスが行われた。
最初に藁を束ねて立てたものが出てくる。日本刀を持った千里が出て来て、鞘から抜くと、1秒に1回くらいのペースで刀を振り、藁束を5箇所で斜めに試斬りした。これはテレビなどでは見たことがあるだろうが、リアルでは見たことのある人が少ないので凄い歓声があがった。千里は刀を鞘に収め、玖美子に託す(玖美子はすぐコリンに渡し、コリンが某所に持って行って厳重に格納した)。
そして今度は木刀を持ち、沙苗と2人で向き合って、様々な「木刀による型の演技」をした。美しいパフォーマンスではあるが、退屈でもあるので、これは2分ほどで切り上げる。
そして試合が行われる。最初は、竹田君と吉原君の試合を行う。審判役は岩永先生である。竹田君が2分ほどで2本勝ちした。続いて玖美子と沙苗の試合をする。これがかなりの熱戦になり、歓声があがる。どちらも1本ずつ取った上で、3分ギリギリに玖美子が2本目を取り、勝った。
最後は千里と公世でやる。これがまたスピーディーで、竹刀の動きを普通の人はもはや追い切れないほどの試合になり、ざわめきまで起きる。試合は1分で千里が1本取り、3分になる直前にもう1本取って2本勝ちである。
これで剣道部のパフォーマンスは終了した。
観客の声。
「全国大会に行ってきた2人の試合は見応えあったね」
「でもやはりメダル取った村山さんが少し手加減してた気がしたよ」
「やはりBEST4とBEST8の違いなんだろうね」
「だけど、木刀の演技も女子だったし、試合も女子の試合が2つで男子の試合は1つだけだったし、今剣道部は女子の方が充実してるのかな」
「やはり鐘ヶ江さんが卒業した後、なかなかそれに匹敵する男子選手が出て来ないみたいね」
剣道部の後は、合唱同好会の演奏がステージで行われる。千里は
「そういえば、自分は合唱同好会に入っているはずとか映子ちゃんに言われたな」
と思い出す。その同好会のメンバーがステージ下のスペースからステージに上がる。あれ?セナがピアニストなんだ?などと思って見ていたら、そのセナがステージ上に多数這っているケーブルに躓いて転んだ!(セナらしい)
「あぁ、あの子、よく物を見てないからなあ」
と思う。
本人はすぐ起き上がったものの、手を押さえている!?
ありゃあ、手を痛めた?と思って見ていたら、その傍に立っている映子と目が合ってしまった。
「千里〜!ちょっと来て」
と映子が叫ぶ。
やれやれ。
千里は小走りにステージに向かった。
「怪我したの?」
「指をぶつけたみたい」
「ごめーん。アンメルツでも塗って30分もおけば治ると思うんだけど」
と本人。
「つまり今弾けないのか」
「千里弾いてよ」
と映子。
「私、譜面も見てないんだけど」
「初見でも弾けるのは千里だけだよ」
「サブピアニストを作っておくべきだなあ」
と言いながら、セナから譜面を受け取り、結局、道着・袴姿のまま、千里はピアノの前に座った。
ささっと譜面をめくる。演奏する曲は4曲だ。
B.B.クィーンズ『おどるポンポコリン』、平井堅『瞳をとじて』、千里が知らない曲で谷川俊太郎作詞・松下耕作曲の『信じる』という曲、そしてポルノグラフィティの『メリッサ』。『信じる』以外は知ってる曲だ。『信じる』の譜面を瞬間読みしたが、何とかなる気がした。
「OK。たぶん何とかなる」
「じゃよろしく」
セナが譜めくり係として隣に座る。
部長の映子が指揮棒を振り、千里は最初の曲『おどるポンポコリン』をピアノ伴奏した。
ダンス曲なので、踊るようなリズムで演奏する。しばしば指を鍵盤に叩き付けるように弾く。それで非常にノリのいい演奏になった。セナが感心して隣で見ている。たぶんこんな感じの演奏はあまり見たことがないのだろう。
観客もよく知っている楽しい曲から始まったので、みんな聴いてくれているし、手拍子まで起きていた。
続いて『瞳をとじて』。じっくり聴かせる曲なのでピアノも静かに弾く。腕の動きも一転してあまり上下させず、横に流れるように動かしていく。しかしこれも最近の話題曲なので、おとなしいナンバーにしては、わりとみんな聴いてくれているようである。
『信じる』に行く。聴いたことの無い曲だが、後から話を聞くと、合唱コンクールの課題曲で先月の大会で歌った曲らしかった。千里は完全な初見演奏になったが、持ち前の度胸で何とかした!!(例によってドミソの和音をソドミで弾いたり、などの誤魔化しがある:自分の弾きやすい音に勝手に直しているだけで、歌唱にはあまり大きな影響は無いハズ?)
そして最後は『メリッサ』。アニメ『鋼の錬金術師』の主題歌になっているので知名度がとても高い。しかし結構難しい曲である!千里はとにかく和音(の構成音)を間違わないように気をつけながら何とか弾ききった。
大きな拍手がある。全員観客に向かって礼をする。千里もピアノの椅子から立ち上がって一緒に礼をした。