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■女子中学生・秋の嵐(17)

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(C) Eriko Kawaguchi 2022-09-16
 
10月23日(土).
 
司は朝から眉毛を整え、ハート模様のショーツにライトピンクのブラジャーを着け、黒いタイツを履いてから、可愛いブラウスとタータンチェックの膝丈スカート(8月にパーキング・サービスのライブで札幌に行った時買った)を穿き、パステルカラーのフリースを着た。そして母に留萌駅前まで車で送ってもらい、旭川行きのバスに乗った。
 
留萌駅前8:16-10:10旭川駅前
 
留萌市内ではあまり女装で出歩く勇気が無いのだが、他所の町でなら女の子の格好してもいいよね?というので、今日はお出かけなのである。
 

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部活は土日は無いものの、金曜日まで毎日練習しているので、練習疲れでバスの中ではぐっすり眠る。バスなので乗り換えを考えなくていいのが良い所である。司は到着してやっと目が覚めた。
 
取り敢えず降りてから、トイレ(もちろん女子トイレ)に入り、おしっこした後で、個室内で顔を化粧水で拭いた。これで結構顔が引き締まる。
 
手を洗ってトイレを出た後、平和通りを歩き、本屋さんとCDショップを覗き、お洋服屋さんを見てから、スポーツ用品店に行く。そしてピッチャー用のグラブを選んだ。いいお値段するけど、パーキング・サービスのライブのギャラをもらったのがあるので、充分買える。
 
それでレジの所に持っていったのだが、お店の人から言われる。
「これソフトボール用ではなく、硬式野球用のグローブなんですけど」
「はい、私、硬式野球をしてるので」
「あ、そうでしたか。失礼しました!」
 
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なんで女子がソフト、男子が野球なんてことになってるのかなあ。女子だって野球やっていいと思うのに、と司は思った。
 
司が今日ピッチャー用のグラブを買いに来たのは、実は「北北海道大会ではピッチャーもしてくれ」と言われたためである。
 

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それは3日前の水曜日のことだった。
 
「左打者対策ですか!」
と選手たちは監督の説明に驚いた。
 
「基本的に野球では、右打者は左投手より右投手の球が打ちにくく、左打者は右投手より左投手の球が打ちにくい。プロ野球には左打ちの強打者が多いから、ピンチの時など、相手の左打者に1ポイントリリーフで左ピッチャーを起用したりすることもある」
 
「あ、それプロ野球中継で見たことある」
という声が多数あがる。
 
「それで今大会の組み合わせなのだけど」
と監督は説明する。
 
「初戦は根室のM中だけど、ここのエース左藤君は右腕で変化球主体のピッチャーなんだよ。前川君よりはスピードがあるけど、これは前川君のボールに慣れている君たちなら打てると思う。だからこれに勝つ前提で行く」
と監督は言う。
 
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「M中に勝った場合、準決勝で旭川のT中学と当たる確率が大だ」
と監督。
 
T中は高校野球の強豪T高校の中等部である。才能豊かな選手が揃っている。千里の元ボーイフレンド・青沼晋治が居た学校であるが、彼は今はT高校の1年生になっている。むろん司を含めてこのメンバーは晋治のことは知らない。
 
「ひじょうに厳しい戦いだけど、ここに勝てば優勝できる可能性も出てくる」
「優勝!?」
 
そんなことは考えてもいなかった部員たちが武者震いをする。
 

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「それでこのT中のレギュラー陣は、あちこちから集まって来た優秀な選手が多いだけに、左打者の強打者が多い」
 
「ああ」
 
「だから、T中との戦いに、左打者に強い左腕の山園君を温存したい」
「なるほどー」
「だから1回戦は、福川君、君が投げてよ」
 
司は唐突に指名されて焦った。
 
「待って下さい。ぼくが投げなくても前川君がいるじゃないですか」
と司は言うが
 
「M中のエース・左藤君は前川君と同じタイプのピッチャーだから、向こうの選手たちは変化球には慣れている。だから前川君では打たれるのが確実」
と監督。
 
「僕もビデオ見たけど、左藤君は僕と同様に、カーブ・スライダー・シュート・フォークと投げてくるけど、僕より球速があるんだよ。あのボールに慣れてたら僕の球は簡単に打てると思う」
と前川君も言っている。
 
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「だから今大会では前川君にはバッターとして頑張ってもらいたい」
と監督は言った。
 

ここ数日は前川君の古いグラブを借りて投球練習をしていたのだが、やはり自分のグラブを買っておこうと思い、この日、司は旭川まで出て来たのであった。
 
月曜日、司がこの日買ったグラブで出て行くと、みんなから言われる。
 
「おお、新しいグローブだ。気合入ってるね」
「やれるだけのことをやっておかないと、悔いが残りますから」
「凄い凄い」
 
この後、司は約1週間、この新しいグラブでピッチャーとして投球練習したり、紅白戦に登板したりした。
 
司がマウンドに登った時、キャッチャーは1年生の宇川君が務めるが、予備のキャッチャーが必要になるので、1年生の田中君にキャッチャーの練習をしてもらい、紅白戦でも座ってもらった。彼に司は
 
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「古いのでよければ」
と言って、6月まで使っていた古いミットをあげた。
 
思えば6月5日に新しいミットを買いに旭川に出た時、貴子さんと出会って、自分の運命が変わったんだよなあ、と司は回想した。
 

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10月30日(土).
 
中学硬式野球北北海道大会が旭川市で開かれた。
 
これは、北北海道8地区の代表を集めて3日間で大会を行うものである。S中野球部はこの大会に留萌支庁代表として参加する。
 
試合には、応援団のほか、チアリーダー部、吹奏楽部も動員され、バス2台で会場となる旭川に向かった。
 
そして司はこの大会初戦のマウンドを任された。前川はライトに入り、マスクは1年の宇川君がかぶる。
 
応援団の応援が入る中での試合はこれまでも多数経験しているが、チア部・吹奏楽部まで入る応援は初体験だった。でも気持ち良く投げることができた。
 

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試合は4回までは0−0で進行した。司のボールは結構なスピードがあるので、向こうも簡単には打てない。2回に向こうの5番さん(左打者!)が内安打で出塁したが、司の牽制球にタッチアウトで後続を断つ。
 
こちらも変化球に慣れているとはいえ左藤君のボールは前川君のボールより速いので、どうしても振り遅れてしまい、なかなかヒットが出ない。
 
それでどちらも3人ずつで攻撃を終えるのが続く。
 
試合は5回に動いた。やっと相手の球速に慣れてきた4番・阪井がレフト前のヒットを放つと5番に入っている前川がヒット&ランを成功させ、1アウト13塁とする。6番小林はデッドボールで1アウト満塁。相手投手・左藤も前川同様にコントロールが今一のようで、キャッチャーが捕球できないのもここまで数回起きていた。
 
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7番加藤が三振に倒れたものの、8番宇川は粘りに粘ってフォアボールを選ぶ。これで押し出しでS中は1点を獲得した。そして9番の司である。司は監督から何も考えずに無心で打てと言われていた。
 
初球、信じがたいほどの絶好球がど真ん中に来る(多分フォークのすっぽ抜け)。司はほんとに何も考えずに思いっきりバットを振った。
 
ボールは高く上がり・・・
 
スタンドに入った!!
 

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司はもちろんこれまで何度もホームランは打っているが、満塁ホームランというのは全く記憶が無かった。生涯で初めての満塁ホームランかもと思った。
 
大喜びで(ベースを踏み忘れないように)しっかりとダイヤモンドを一周し、ホームイン。
 
チームメイトにもみくちゃにされた。
 
相手投手は呆然としていた。
 
ホームランのショックからか左藤は次のバッターにストレートのフォアボールを出したので、ピッチャー交替が告げられる。1年生で10番を付けたピッチャーが出て来て、何とかセカンドゴロでフォースアウトを取り、5回裏を終わらせた。
 

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その後、6回表はホームランに気を良くした司が相手をキッチリ3人で押さえる。6回裏は3番・菅原がヒットで出て、4番阪井がまたヒットでノーアウト13塁となる。ここで5番前川が犠牲フライで1点追加する。M中は3人目のピッチャーが出てくる。この人が6番7番をセカンドゴロとレフトフライに打ち取って6回終了である。
 
7回表は相手が代打作戦でどんどん代打を送り出してきた。司は1人に打たれたものの、すぐに牽制球でアウトにする。そして次のバッターを三振に取り試合終了。
 
S中は北北海道大会の初戦に6−0で勝利して準決勝に進出した。
 

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なお今回は留萌から近い旭川が会場なので、野球部員も、応援してくれる応援団・チアリーダー部・吹奏楽部も、みんな留萌から毎日バスで往復である。
 
(つまり司の“宿泊問題”が起きない!!)
 
翌日10月31日(日).
 
準決勝の相手は予想通り、旭川のT中となった。
 
試合前に相手の選手たちを見たが
「ほんとにこいつら中学生かよ?」
と思うようなガッチリした体格の選手揃いである。
 
一方T中側。
 
「なんで向こうは女が入ってるの?」
「男の人数が足りないから女も入れたんじゃないの?」
「だけどあの女子、プロテクターとレガース着けてますよ」
「じゃキャッチャーなのかね」
「あの女子選手がホームに立ちはだかってたら、そこに突っ込まないといけないんですか?」
「そりゃ女には突っ込むのが当然」
「そっかー!」
 
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などと卑猥な軽口を叩いていたが、彼らの顔が試合が始まるとがらりと変わることになる。
 
S中の強飯監督が予想した通り、T中のクリーンナップを構成する左打者たちがS中左腕・山園の速球を打てないのである。
 
山園は基本的にストレートとカーブしか無いのだが、彼のストレートはしばしばシュートに近い回転になる。すると左打者にとっては手元で突然速度が上がるように見えて、物凄く打ちにくい。
 
むろん右打者にとっては、それほど大変な相手ではないはずだが、やはりそもそも優秀な左ピッチャーとの対戦経験が少ないというのもあり、結局凡打を積み上げていく。4回になってやっと内安打でランナーを出したが、またもや司の牽制球でアウトになる。
 
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「あのキャッチャー、女とは思えん速い玉を投げるな」
などと言っていた。
 
それで結局6回までどちらも3人ずつで攻撃を終えるという凄い試合になった。(この試合は大会終了後「事実上の決勝戦だった」と言われた:結果的に翌年春の北北海道大会で“実質的な”シードをされることになる)
 

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7回表。
 
S中の攻撃は1番がレフトフライ、2番がショートゴロに倒れた後、3番主将の菅原は最初のボールを強振。この玉がぐいぐい伸びていき、レフトスタンドに飛び込んだ!
 
大喜びで菅原はダイヤモンドを一周。勝ち越しのホームインをする。
 
相手投手が顔面蒼白であった。
 
T中はピッチャーを交替させ、1番を付けたエースが出てくる。T中は彼を決勝戦のために温存していたのである。彼が物凄い剛速球で4番阪井を三振に取り、S中7回の攻撃を終える。(彼が最初から登板してたら、きっと完全試合をくらっていたと思った)
 
そして7回裏。T中最後の攻撃となる。
 
T中は代打攻勢を掛けて来た。右打者の代打を送り出して来たのである。
 
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山園は先頭バッターは何とかライトフライに打ち取ったが、2番バッターには粘りに粘られた上でフォアボールを与えてしまった。
 
内野陣が集まる。ベンチから伝令も来るが。
「打たれてもみんなで守るから思い切っていけ」
と言われ、山園も
「頑張ります」
と答える。
 
そして迎える3番バッター。これも代打で出て来た右打者である。
 
司は内角低めのボールを要求した。しかし山園は後で「手が滑ってしまって」と言った。ボールはシュート回転をしながら、ど真ん中に入ってきた。
 
相手バッターが思いっきりバットを振る。
 
このボールが伸びていき・・・・
 
入っちゃった。
 

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さよならホームランとなる。
 
打ったバッターが大喜びでダイヤモンドを一周する。球審がホームでセーフのジェスチャーをした所で、司は頭を抱えてうずくまっている山園の所に行き、彼をハグした。
 
「ドンマイ。君はこの強豪相手によく投げたよ。また頑張ろうよ」
 
山園は司にハグされて泣いていた。
 
整列する。
「2対1でT中学校の勝ち」
「ありがとうございました」
 
双方、握手をしてお互いの健闘を称えた。
 
S中応援団・チア部・吹奏楽部はこの2日間旭川まで来て応援してくれたのだが、最後の最後での逆転負けに涙しながらも、選手たちにエールを送ってくれた。
 

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