広告:彼が彼女になったわけ-角川文庫-デイヴィッド-トーマス
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■春水(24)

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翌日10月10日(火)。
 
この日、青葉の振袖をお渡しできますという連絡が入っていたので、大学からの帰りに寄って受け取った。
 
受け取るだけのつもりだったのだが、記念写真撮りましょうかと言われるので着付けをしてもらい記念写真も撮る。
 
「おお、きれいきれい」
と美由紀たちから声があがる。
 
「馬子にも衣装だね」
「振袖着てたら一応20歳なんだろうと思ってもらえる」
「ちゃんと女の子に見える」
「付き添いさんはこちらへと言われなくても済むな」
 
などと無茶苦茶言われる。
 
「なんかもう成人式が済んだみたい」
「まだこれからが本番だよ」
 

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11月3日(祝)大安。
 
この日の午後、北海道から千里の母・津気子が飛行機で東京に出てきた。
 
都内のホテルで川島信次と結納の交換をすることになっていたのである。津気子は夫の武矢に「千里の結納だから一緒に来てよ」と言ったのだが、「千里?誰それ?俺は知らん」などと言うし、せめて玲羅に来て欲しいと言ったものの「私はその結婚に賛成できない」と言って、同行拒否された。
 
仕方ないので、ひとりで来たのである。交通費は千里が事前に“3人分”振り込んでくれていた。
 
そういう訳で出席したのは、川島信次と母の康子、千里と母の津気子の4人である。ホテルの1室で、千里と信次が各々手配して準備していた結納品を交換した。
 
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また信次から千里に婚約指輪を贈り、千里は信次に腕時計を贈った。
 
婚約指輪は0.5カラットのダイヤが入ったジルコニウム製である。これは信次が金属アレルギーなので、アレルギーの起きにくい結婚指輪を選びたいということから、ジルコニウムを使うことにし、婚約指輪もそれに素材を合わせることにして選んだものである。
 
腕時計はオメガ製の40万円ほどのもので、指輪の価格とだいたい合わせている。
 

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その後、千里は婚約指輪を左手薬指に付け、信次も腕時計を左手に付けて、4人で会食をする。
 
津気子は、夫と玲羅を連れて来れなかったことを康子に謝った。
 
「性別を変更すると、色々軋轢もあるんでしょうね。でも私は千里さんが気に入っているから、ぜひこのまま進めましょう」
と康子は笑顔で言った。
 
康子の本心としては、女性の影なんて今まで全く無かった信次が結婚する気になっているのだから、千里ちゃんが元男性だったとしても、この際気にしないことにしよう。こんな機会は多分もう2度と無いから、気が変わらないうちにさっさと結婚させてしまおう、という所である。
 
体外受精とかで赤ちゃんも作れるという話だし。私は孫の顔を見たい、などとも思っている。
 
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会食はなごやかな雰囲気で進行していた。
 
なお、千里の周囲の人でこの日結納が行われたことを知っていたのは、各々の会社関係者以外では桃香と青葉くらいであった!
 
いつもJソフトで仕事をしている《せいちゃん》は
 
「今日は結納だ!1日仕事を休める!」
と言って、ホテルを取ってひたすら寝ていた。
 
津気子は「久々の東京だし」と言って都内のホテルに2泊して銀座や新宿を歩いた上で、5日夕方の便で北海道に戻った。
 

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11月4-5日、愛知県小牧市のパークアリーナ小牧で、全日本社会人バスケットボール選手権大会プレ大会が開かれた。
 
今年は組織改定の年で、今回の参加チームは女子ではクラブ連盟3、教員連盟2、実業団連盟3の8チームである。40 minutesはクラブ1位、Rocutesはクラブ2位で参加しているが、40 minutesのオーナーである千里は当日Wリーグの試合があって出席不能、Rocutesのオーナーであるケイはアルバム制作のため出席不能。ということで、この日の大会には川崎ゆりこと白鳥リズムが両チームの代表を代行して来場。結構な騒ぎが起きていた。
 
「いつもうちのソフトボール部をケイさんに助けてもらっているので、今日はその恩返しです」
とゆりこは言っていたが、ふたりにサインを求めるファンの列もできていた。
 
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4日に行われた1回戦は次のようになった。
 
セントール×−○山形D銀行
千女会×−○Joyful Gold
クレンズ×−○40 minutes
東女会×−○Rocutes
 
ローキューツは先日の全日本予選では千女会に勝って二次ラウンドに進出したのだが、今日は東女会に勝って準決勝進出である。その千女会はいきなり大本命のJoyful Goldと当たって涙を呑んだ。
 
そして5日午前中に準決勝が行われた。
 
山形D銀行×−○Joyful Gold
Rocutes×−○40 minutes
 
この4チームはお互いに頻繁に練習試合をしたり、部員を相互に留学させていて、手の内は知り尽くしている。どちらも熱戦になったものの、Joyful Goldと40 minutesが試合を制した。
 

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3位決定戦ではRocutesが山形D銀行に勝った。
 
決勝はJoyful Goldと40 minutesという、先日の全日本東京予選決勝の再現となった。
 
両者とも午前中の試合でかなり疲労しているものの、40 minutesは雪辱に燃えていたし、Joyful Goldはここで負けては全日本3次ラウンド進出の実績に傷がつくとして、どちらも必死の試合となった。
 
前半はJoyful Goldがリードしていたものの、後半中折渚紗が連続でスリーを決め、森下誠美が王子のシュートを何度もブロックするなど、根性で食いついていく。どちらが勝つか予断を許さないシーソーゲームとなったが、とうとう最後は残り1秒からキャプテン竹宮星乃の本人も
 
「まさかあれが入るとは」
 
と言ったロングスリーポイントシュートが入り、ローキューツが1点差で勝利をもぎ取った。
 
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コート上の5人が喜んで抱き合い、ラストシュートを決めた星乃がもみくちゃにされた。
 
一方のジョイフルゴールドはサクラやローザが座り込んでしまい、王子は放心状態だったが、玲央美は厳しい表情でコートを見つめていた。
 

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大会終了後は、Rocutes, 40 minutesの合同で打ち上げをした。
 
「Joyful Goldさんも誘ったんだけど、今日は悔しいから帰って練習すると言っていた」
とゆりこが言う。
 
「これから練習!?」
「よし、私たちも東京に戻ったら練習するぞ」
「うっそー!?」
 
「深川アリーナは24時間使えるし」
「コンサートをするため防音にしているから、結果的に夜間に練習しても音が響かないんだよな」
 
「実は千里が頻繁に真夜中に練習しているようだ」
と暢子が言う。
 
「嘘!?」
 
「一度遭遇した。集中して練習できていいからとか言ってた」
「やはり世界のスリーポイント女王はそれだけの努力してるんだなあ」
「よし、今夜は帰ってから練習だ」
 
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「それやると明日ダウンしている気がする」
 
「来年、東京予選でJoyful Goldに勝つためだよ」
「また全日本に行きたいよね」
「まあ頑張るか!」
 

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11月11日(土)の朝、青葉は剣崎矢恵からの電話を受けた。
 
「昨夜桜の夢を見なかったんです」
「良かったですね!じゃ終わったんですね」
 
これまでの周期で行くと、矢恵は11月10日に次の夢を見るはずだったのである。
 
「はい。6年間ずっと怖い思いしていたから。凄く嬉しくて」
「これからは、その不安が無くなった分、明るく生きていきましょう」
「はい、ありがとうございました!」
 

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11月16日(木)。青葉は館林のお寺で出来上がった身代わり人形を受け取るとNISMO Sに乗って北陸に戻り、そのまま津幡の剣崎家に行った。
 
「先日のお不動さんの池で解決したと思うので、こちらは不要になったとは思うのですが、この人形どうします?」
 
「可愛いお人形ですね!お代は払うのに少し時間が掛かると思いますけど、頂きたいです」
 
「じゃ置いて行きますね」
と青葉は笑顔で言った。
 
「これ陰膳とかあげないといけないですか?」
「いえ。魂が入っていないから、普通のお人形の扱いでいいですよ」
「分かりました」
 
「きちんと魂を入れないまま陰膳あげてたら、変なのが入り込む危険もありますので、あくまで普通のお人形の扱いで」
 
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「気をつけます!」
 

11月25日(土)大安。
 
青葉の中学・高校時代の友人たちで今度の1月に成人式用に振袖を買ったりもらったりした子が高岡市内のホテルに集まり、事前撮影会をすることにした。
 
集まったのは、青葉、美由紀、明日香、世梨奈、美津穂、奈々美、空帆、純美礼、杏梨、の9人である。
 
「こんなに買った人がいるのか。みんなお金持ちだな」
などと言っているのはこの撮影会のためにわざわざ東京から戻ってきた空帆である。
 
「私は買ってないけど、この撮影会のためにレンタルしてきた」
と美由紀が言っている。
 
「私はお母ちゃんが成人式の時に着た振袖を着ることにした」
と明日香は言っている。
 
「この振袖、本格的な友禅だもん。20年経っても褪せない美しさがある」
と奈々美。
 
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「昔はインクジェットなんて無かったし」
「でも振袖着る人も今ほど多くなかったかも」
 
「ヒロミは元々お母さんから譲ってもらった振袖でおとこの会とか出てたみたいだけど」
 
「男の会!?」
「ちがった!おこと(お琴)の会」
 
「一瞬、振袖着た男たちの集まりを想像した」
「それはちょっと怖い」
 
「でも恥ずかしいから今日は遠慮するって」
「残念。解剖してみようと思ってたのに」
「多分それを予想して逃げたんだと思う」
 
「まあ東京組も借り物だけどね」
 
と空帆は言っている。空帆と奈々美は相沢海香の所に同居しており、旅館のキャンペーンで使う和服もたくさん置いてあるので、これでよかったら成人式で着てもいいよと言われていたので、それを持って来たらしい。純美礼もその話を聞き「ついでに私にも貸して」と言って借りてきた。日香理も誘ったのだが、レポートがあるとかで欠席である。
 
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そういう訳で、結局買ったのは、青葉、世梨奈、美津穂、杏梨、の4人であった。
 

「それで私は着付け係な訳か」
と言って、朋子、明日香の母、と3人で手分けして振袖の着付けをしてあげている千里が言う。
 
「それで私は撮影係な訳か」
とLumixを持った桃香が言う。
 
ケイから借りたエルグランドに、桃香・早月・空帆・奈々美・純美礼を乗せて東京から走って来たのである。
 
着付けを待つ間、早月はみんなのかっこうのおもちゃと化し、かわりばんこにみんなに抱かれていた。早月もみんなに愛想を振りまいていた。
 

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10時に集まって、午前中に着付けをし、1時間ほど桃香の持って来たLumixや各自のスマホなどで撮影をしてもらった。
 
その後、振袖を脱いで普段着に着替え、このホテルのランチを食べる。
 
「私最近、桜の夢を見るんだあ」
などと純美礼が言うので、青葉はギョッとする。
 
「どんな夢なの?」
と世梨奈が訊く。
 
「私はどこかに入学することになって、振袖を着て、そこに行くの。でも私の前で門は閉じられて『残念ながらあなたは不合格です』と言われて、桜の花が散ってくるのよ」
などと純美礼は言っている。
 
青葉はつい吹き出してしまったが、みんな同様に笑っている。
 
「それは現実に何かの試験に失敗する予兆だな」
と美由紀が言う。
 
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「何に失敗するんだろう?」
「単位取れずに留年とか」
「いやだー!」
 
 
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