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■春水(7)

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そういう訳で結局アクア用の水着を買うことにしたのだが、どうせならということで、船の売店でクイーン・セレネのロゴの入った水着を買うことにした。船のスタッフさんはメジャーを出してアクアの身体のサイズを測った上で
 
「あなたはMでいいね」
 
と言った。それでMを購入することにした。
 
「中国のサイズは、同じSとかMという表記でも、日本のより少し小さめのが多いんですよね。だから1つサイズがずれる感覚なんです」
 
などと売店の人は言っていた。むろん彼女は「日本の女性用衣服のサイズと中国の女性用衣服サイズが1つずれる」という意味で言っている。この時点で彼女はアクアのことを女優さんと思い込んでいる。
 
デザインは丸山アイが
 
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「私に選ばせて」
と言って、数種類ある内、いちばん可愛いのを選んでくれた。あまりにも可愛いので、アクアが
「これを着るんですか〜?」
と言って、さすがに尻込みしていた。
 
「Mに着せる?」
とアイが小声で言ったのでギクっとして、アクア(アクアF)は
 
「私が着ます」
と言って、更衣室で着換えて来た。
 

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更衣室で着換えてきてから、実際にアクアはプールの端から飛び込み泳ぎ始めた。飛び込む少し前あたりからカメラを回す。
 
「うまいじゃん」
と監督が言う。
 
「とても春まで全く泳げなかった人の泳ぎとは思えないですね」
「それとやはり女子高生ならではの未熟な色気があるね」
と監督は言っていたが、
 
「そういう発言は最近はやばいですよ」
と脚本家さんが注意していた。
 
「危ない危ない。ロリコンで逮捕されたら大変だ」
 

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「ところで男の子でもロリコンと言うんだっけ?」
と後から中村監督は訊いた。
 
さっきはみんなアクアが男の子であることを忘れていた。
 
「うーん。。。。アクアちゃんの場合はそれで良い気がします」
と高原助監督は答えた。
 
「いやアクアちゃんって女の子役する時は、天然の女の子としか思えないような演技をするんですよね。でも男の子役の時はちゃんと男の子の雰囲気を出している」
 
と永石役の新田金鯱(元プロ野球選手の俳優:マリの食べ仲間)が言う。
 
「女役のうまい俳優って昔からいたし、そもそも本人の女性志向が強い人もいるけど、男女どちらもきれいに演じ分けられる俳優さんは凄くレアだよね」
 
とベテラン俳優の藤原中臣(海野刑事役)も言った。
 
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「過去にそういう俳優さんおられました?」
「歌舞伎の中村扇雀は、立役・女形、どちらもこなしていた」
「へー」
 
と藤原さんは言うが、どうもこの名前を知らない人が多いようだ。
 
「扇雀飴本舗はこの人にあやかって会社名をつけたんだよ」
「おぉ!」
 
そちらはみんな知っているようだ。
 

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青葉は8月19日深夜の作業を終えた後は、22日、K大学と福井のF大学との合同記録会に参加した。
 
この記録会には1600m個人メドレーなどという、とんでもない種目があるのだが、青葉は女子ではぶっち切りの1位であった。バタフライの400mとかは本当に辛いのだが、それが先頭なのでそこで力を使い切ると、背泳・平泳ぎはいいとして、自由形で泳ぐスタミナが残らない。どっちみちくたくたになる種目なので、男子でも青葉のタイムに及ばない選手がかなりいた。
 
8月26-27日には富山県の水泳選手権が行われた。昨年この大会で争い再戦を約束していた宮内さん・竹下さんと400m,800m自由形と200m,400m個人メドレーで対戦したが、今年は200m個人メドレーでは宮内さんが勝ったものの、青葉は他の3つでは圧倒的な勝利を納めた。
 
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「負けたぁ〜〜!でも来年も再戦しようよ」
と宮内さんは言った上で
 
「そういえば、川上さんは国体は石川県の方で参加するの?」
と青葉に訊く。
 
「国体?それどうやって参加するんだっけ?」
「知らないの〜〜!?」
「知らない」
 
それで宮内さんは説明してくれた。青葉の場合は社会人ではないので、住所または卒業した高校の存在する都道府県から出ることになる。つまり富山県からしか出ることはできない(石川県内に職場がある場合は石川県からでも出場することができるが大学では不可)。
 
しかし、どっちみち今年は既に選考会は終了しているようである。
 
「来年は参加しなよ」
「うーん。忙しいから無理だと思う」
「そんなに忙しいんだ!」
 
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なお8月27日は、今年も金沢市の金石海岸でビーサン飛ばし世界選手権があり、美由紀から参加しようよと誘われたものの、この水泳の大会とぶつかることから「パス」と言っておいた。結局、美由紀・明日香・星衣良の3人で参加したようである。
 

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アクアが香港で豪華客船内のプールで泳いだ8日19日、香港の東700kmほどにある台湾では、ユニバーシアードの開会式が行われた。
 
(台湾島の南端と香港がほぼ同じ緯度:北緯22度)
 
今大会には幡山ジャネが水泳で、寺島奈々美がバスケットで参加する。
 
ジャネは400m, 800m, 1500mの自由形および400m個人メドレーの4種目に出場した。ジャネはこの4種目全てで決勝に進出し、400mでは6位、400m個人メドレーでは3位、800mでは2位、1500mでは優勝し、ひとりで金銀銅のメダルを集めた。
 
インタビューで
「3種類収集は凄いです」
と言われていたが、本人は
「できたら金メダル3つ欲しかったです」
と答えていた。
 

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一方奈々美が参加するバスケットの方は、16ヶ国参加で4ヶ国ずつ4グループに分かれて予選リーグを行い、各組の上位2チームが決勝トーナメントに進出する方式である。この予選リーグで監督は奈々美を1回も使わなかった。
 
要するに隠し球としたのである。
 
それでも日本は韓国、ポーランド、カナダに3連勝してグループB首位で決勝トーナメントに進出した。
 
準々決勝はA組2位のスウェーデンであったが、楽勝とみてここでもまだ使わない。そして準決勝ロシア戦で奈々美はスターターとして起用された。
 
序盤から奈々美は2ポイント・3ポイント取り混ぜてどんどんゴールを決める。ロシア側は未調査の選手のいきなりの活躍に混乱する。結局第1ピリオドは12-22の大差となった。その後ロシアも盛り返してきたものの、最初のリードが物を言い、結局63-84でこの重要な試合を制することとなった。84点の得点の内実に28点が奈々美の得点である。
 
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そして決勝のオーストラリア戦にもスターターで出て行く。奈々美はこの試合でも活躍したものの、オーストラリアは先の「U24 4ヶ国対抗」で実際に奈々美と対戦しており、最初から充分な注意を払ってきた。向こうのサブエースの人が奈々美に張り付き、なかなか得点を許さない。
 
勝負としては奈々美は彼女にかなり抑えられ、得点が16点に留まったものの、この凄まじく強い相手との対決は奈々美にとっては快絶であり、また奈々美はこの40分間で物凄く進化した。
 
結果的には85-78の僅差で敗れてしまい、日本は銀メダルに終わった。
 
しかし表彰式で銀メダルを掛けてもらった時、奈々美は次は絶対金メダルを取りたいという思いが込み上げてきた。
 
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キャプテンの駅田さんが言った。
 
「今回はナナは隠し球だったから2つの試合にスターターとして使ったけど、次からは本当のスターター枠の争いだよ」
 
「はい。次は1桁の背番号をもらえるように頑張ります」
と奈々美は答えた。
 
「よしよし」
 
それで奈々美は他の選手たちと握手を交わした。今回の奈々美の背番号は15(最後の番号)であった。
 

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8月11日深夜(8月12日0:10)に石川県ローカルで放送された「タクシーただ乗り幽霊を追う」は物凄い反響を呼び、見逃した人たちから強い再放送の要望が多数あった。そのためお盆を挟んで一週間後の8月18日深夜(8月19日0:10)にも再放送が行われた。
 
「この金沢ドイルさんって、若い霊能者さんだね」
「まだ40歳くらいかな?」
 
などというつぶやきがネットに流れていたのは、気にしないことにした!
 
この日の映像では、青葉はインタビューするシーンにはそもそも映っておらず声だけ出ていたし、大学生グループと調査についての再現劇を撮影した所ではプライバシーに配慮して、全員の顔を映していない(せっかく女子全員きれいにメイクしたのに!と美由紀が文句を言っていた)。そして唯一金沢ドイルの顔が映ったのが《霊回収車》の中で観音様と先代次郎杉の横に乗って合掌している姿で、暗い車内での撮影で顔自体よく見えない上に法衣を着ていた。それで性別を誤解した人もあったようである。
 
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「金沢ドイルって若いお坊さんだね」
「え?尼さんじゃないの?」
「嘘!?」
「あれ?男だった?女だった?」
というので録画したビデオを再度見て、前半のタクシー運転手さんにインタビューする時の声から
 
「あ、女だった!」
ということになった人もあったようである。
 

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しかし中にはその暗い画面の中にだけ映った映像から顔を認識した人もあったようである。
 
8月23日(水)の夕方、遅くまで水泳部の練習をした後、杏梨・吉田君と3人で近くのイオンに行き、値引きシールの貼ってあるパンを買って食べていたら声を掛ける女性が居る。
 
「あの、すみません」
「はい?」
「ひょっとして、金沢ドイルさんですか?」
「えっと・・・」
と青葉は言い及んだのだが
 
「はい、そうですよ。霊界探偵・金沢ドイルです」
と杏梨が言ってしまう。
 
「あのぉ、先生はやはりご相談料とか高いですよね?」
と彼女は少し不安そうに尋ねる。
 
「この子は、お金持ちからたくさんとって、貧乏な人からは少ししかとらないから、あまり心配しなくていいですよ」
などと杏梨は言っている。
 
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「ええ。私はその方針です。ただ何でもお引き受けできる訳ではありません。私の手に余ると思ったものは申し訳無いですが、お断りさせて頂きます」
 
「分かりました。それでは取り敢えず、お話だけでも聞いて頂けないでしょうか?」
 
そんなことを話している内に、青葉は「あれ?この人どこかで会わなかったっけ?」と考えた。必死に思い出す。
 
「6月に**庵で会いました?」
「やはりあの時、あそこにおられた方ですよね?」
 
青葉は、現時点のこちらの状況として、テレビで放送された案件自体を実はまだ処理中の上に色々他にも案件を抱えており、また自身が今インカレに向けて日々練習をしている所なので、取り敢えず話を聞くのはインカレの後でもよいか?と言い、了承を得た。とりあえず連絡先を交換した。
 
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青葉は杏梨と吉田君に席を外して欲しいと頼み、彼女と少しだけ話すことにした。
 
彼女は剣崎矢恵と名乗った。K大の学生さんで今度の1月に成人式を迎えるものの、浪人したのでまだ1年生だということであった。
 
「学類はどちらですか?」
「学校教育学類なんですよ」
「わあ、学校の先生とか目指すコースですか!」
 
「ちなみに相談の概要だけでも聞いておいていいですか?」
と青葉は尋ねた。
 
「実は変な夢を見るんです」
「夢ですか。もしかして桜に関わるものですか?」
「よく分かりましたね!」
 
振袖の模様を選ぶのに桜を嫌がっていたからもしかしたらと思ったら当たりだった。
 
「それはいつ頃からですか?」
「5年くらい前からなんです」
「その頃、引越などはなさいましたか?」
「いえ、今の家には私は生まれた時から住んでいるし、お祖父さんの代からだから40-50年住んでいると思うんです」
「夢を見ているのはあなただけ?」
「2年前に亡くなった父が見ていたらしいんです」
と彼女が言った時、青葉は背中がぞぞっとする感覚があった。
 
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