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■春水(21)
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(C)Eriko Kawaguchi 2017-11-27
10月3日に青葉は運転免許センターにアクアを運転して行ったのだが、新しい免許をもらうと、いったん新高岡駅まで戻り、新幹線に飛び乗って東京方面に出た。その日は彪志のアパートに泊まる。
翌10月4日、電車で都心に出て、お昼過ぎから§§ミュージックでコスモス、山村マネージャー、和泉と打ち合わせる。その後、TKRに移動して三田原さんとも打ち合わせた。
17時頃、高村友香に連れられてアクアが来る。今日のアクアは普通に右前袷のブレザーにズボンを穿いている。
「今日はスカートじゃないの?」
と和泉から言われて
「ボク、別にスカートは穿きませんよ」
などとアクアは言っている。
「そういう見え透いた嘘を言わないように」
とコスモスからまで言われていた。
しかし実際にはアクア(龍虎)はプライベートでかなりスカートを穿いている気がする。それでもそういう写真がネットにほとんど出回らないのは不思議だと青葉は以前から思っていた。レコード会社の方で監視していて即削除させているのだろうか?
夕方からテレビ局の中継も入って『真夜中のレッスン/恋を賭けようか』の発売記者会見が行われた。
いつものようにアクアがエレメントガードをバックに生歌でショートバージョンの2曲を歌い、その後コスモスから今回の楽曲について説明があった。
この記者会見に出席しているのは、アクア、コスモス、青葉、和泉、三田原課長、そして映画『キャッツアイ』の監督、中村さんである。今回は通常のPV以外に映画のトレーラーも流された。
質疑応答に入るが、質問はやはり映画のことに集中した。映画の出来上がり状況について主として中村監督が説明していた。
ルーレットについても質問があった。
「予告編の中で、ねずみが賭けたノワールの26の隣のルージュの30に瞳が賭けちゃおうと言っている場面があるんですが、26の隣って3じゃないんですか?」
「記者さんが見られたのはヨーロピアンスタイルのルーレットかと思います。アメリカンスタイルのルーレットの場合は、ノワール26の隣はルージュの9と30です」
「ああ、配置の異なるものがあるんですね」
「瞳が賭けた目にちゃんと玉が入っているようですが、撮影上はどうやっているんですか?電磁石か何かですか?」
「電磁石で強引に玉をそこに入れようとすると、玉の動きが不自然になります。実はルーレットの盤面は全てCGです。実際の撮影では数字が全く入っていないブルーのルーレットで撮影しています」
「なるほどー!」
「ちなみに玉を投げ入れるシーンは、マカオ等で実際にディーラーをなさっていた方3人の技を撮影しています。但し泪役のヒロシさんはそのディーラーさんの指導でかなり練習して撮影に挑んでいます」
「おぉ!」
「ヒロシさんは元々器用なので、かなり上手くなりまして指導した方から『あんた本場でディーラーやらない?』と勧誘されていました」
「おぉ!!!」
「この物語では、好きな目に玉を放り込めるディーラーというのが出てくるんですが、そういうディーラーさんって実際には居るものなんでしょうか?」
「いないと思いますよ。本当に居ても、カジノは絶対採用しません。だってそういう人は客と結託してイカサマをやる危険があるじゃないですか」
「あ、そうか!」
だいたい質疑応答が終わり、立ってホワイトボードに絵を描いたり図なども提示して説明していた中村監督が席に戻り座ろうとした時のことであった。
中村監督が座ると同時に大きな音を立てて椅子が壊れてしまい、中村監督は尻餅をついた。
記者たちが騒然とする。
「大丈夫ですか?」
とびっくりして隣に居た三田原さんが席を立って助ける。アクアや青葉たちも席を立つ。
「いや、大丈夫、大丈夫」
と言って、中村さんはすぐに自力で立ち上がった。
「すみません」
と言って★★レコードのスタッフが飛んでくる。
「多分長年の金属疲労が、僕の100kgの体重で限界を超えたんじゃないかね」
と中村監督は言って、記者たちの笑いを取っていた。
会見終了後、中村さんは念のため★★レコードの医務室で看護師さんに見てもらったものの大丈夫そうということであった。
「もし後で痛みなど出たらすぐ連絡して下さい。ちゃんと医療費を出しますので」
と三田原さんは言った。
「しかし、マジでアクアのCD発表の度に何かあるなあ」
と和泉が言う。
「え?何それ?」
と中村さんが訊くので、コスモスが最近のアクアのCD発売の度に関係者に何か起きているというのを説明する。
「先日打ち合わせの時には大宮万葉さんの椅子の所に大理石の像が倒れてきて」
「うっそー!?」
「今回はそれで終わったかと思っていたんですけどね」
「もう厄払いの旅行に行こうよなんて言っていたんです」
「僕もその旅行に参加していい?」
「現在予定しているものではもう定員いっぱいなので、映画関係者だけで別途行ってきた方がいいかも」
とコスモスが言う。
「そうする。君達はどこ廻るの?」
「住吉さんがいいということなので、東京の住吉神社と大阪の住吉大社に行ってその後、お伊勢さんにも行ってきます」
「じゃ映画関係者もそうするよ。そのスケジュール教えてくれない?同じルートで回るから」
「では後でメールしますね」
結局映画関係者はコスモスたちの翌週土日に大型バス!で行ってきたようである。
10月4日、青葉は記者会見が終わった後、東京駅まで染宮さんにバイクで送ってもらい、最終新幹線で高岡に帰った。
2017年10月6日(金)。青葉は大学の授業が終わると、帰りのアクアの運転は明日香にお願いして自分は新幹線に乗り、またまた東京に出た(ずっと東京に居ればいいのにと言われたのだが、どうしても講義を欠席しがちなので、出席できる時はできるだけ出席したいのである)。
そして翌7日朝からアクアの厄払い旅行第1日程に同行する。
今日の参加者は以下の12名である。
アクア、秋風コスモス、川崎ゆりこ、山村勾美、鱒渕水帆、今井葉月、絹川和泉、大宮万葉、マリ、ケイ、丸山アイ、佐良しのぶ(運転)
月島駅に7時・現地集合だったので、青葉は大宮からJRで有楽町まで行き、地下鉄有楽町線でそこまで辿り着いた。既に絹川和泉と丸山アイが来ていたので挨拶する。6:45頃、秋風コスモス・川崎ゆりこ・今井葉月がゆりこの運転するポンガDXに乗って来る。少し遅れてアクアが山村勾美、鱒渕水帆と一緒に事務所の白いアクアでやって来る。7時ジャストにマリとケイが佐良さんの運転するエルグランドで来た。
「ごめーん。寝坊した」
とマリが謝っていた。
しかしこれで全員揃った。
「鱒渕さん、だいぶ元気になったみたい」
「ご迷惑お掛けしました。みなさんのお陰で回復しました。取り敢えず日常生活には戻ったという感じです。昨日はゼロダのライブに行って来ました」
「おお、かなり元気になってる!」
駅から7分ほど歩いて住吉神社に行き、拝殿前でお参りした。
青葉は鱒渕さんをずっと観察していて、本当に普通の状態に戻っているのを確認し、マジで何があったんだろうと思った。まさに奇跡的な回復だ。
駅まで戻り、青葉と和泉・アイもエルグランドに同乗させてもらい東京駅に向かう。青葉はむしろケイが焦燥しているのに驚いた。
「ケイさん、大丈夫ですか?」
「うん・・・」
と力の無い返事をするケイが全然らしくないと思った。アルバムの制作があまりうまく行ってないのだろうか?
東京駅近くの駐車場に3台の車を駐め、新幹線で大阪に移動する。
東京8:30-12:03新大阪
新幹線は目立たないように複数の車両に分散してグリーン席に乗った。新大阪駅近くのレンタカー屋さんで、予約していたマイクロバスを借りる。
「すごーい。これ豪華!」
座席の幅が新幹線のグリーン席並みに広い。全席独立シートで肘掛けとヘッドレストも付いているし、革張りである。
しかしこの車を見て青葉は焦った。
「ワゴン車じゃなくて、マイクロバスだったんですか!」
と青葉。
「どうかした?」
「だったら先月の段階では、私、運転できなかったな、と思って」
「ん?」
「万葉さん、大型免許持ってないんだっけ?」
「先月の段階では準中型しか持ってなかったんです。でも3日に中型を取りましたから今は運転できます」
「青葉ちゃんに大型トレーラー運転してもらったことあると雨宮先生から聞いたことある」
などと山村さんが言っている。
「あれ、緊急避難だったんです。機材をライブに間に合わせないといけないのに、他の人みんなお酒飲んでたんだもん」
と青葉。
「それ私もやらされたことある」
とケイが言っている。
「雨宮先生絡みではその手の話が多い」
とコスモス。
「まあつまり万葉さんは大型トレーラーも運転はできるんだ?」
「えっと・・・」
「どっちみち今はマイクロバス運転できる免許持っているのね?」
「はい、そうですが」
「では全く問題無い」
佐良さんの運転で住吉大社まで行った。到着したのは13時前である。全員で昇殿して開運厄除の祈祷を受けた。
近くの和食の店に座敷を予約しており、ここでお昼を食べる。その後、少し休憩してから、また出発する。
佐良さんの運転で、マイクロバスは阪神高速/第二京阪/名神を走って彦根ICまで行き、いったん降りてから下り線に乗り直して多賀SAに入る。到着したのが16時頃である。
このSAに車を駐めたまま多賀大社まで歩いて行って、みんなでお参りした。アクアに気付いてサインを求めてきたファンが居たが
「お参りの後、境内の外で待っていてくれるなら」
という条件でサインに応じた。結局10人の女性にサインをして握手をした。
その後SAに戻り、お茶を飲んで休憩した後、マイクロバスに戻る。
「佐良さん、私が運転しましょうか?」
と青葉は言った。彼女は結構疲労しているはずである。青葉は住吉さんからここまで車内で仮眠しておいた。
「うん、じゃよろしく」
それで青葉の運転でマイクロバスは走り続ける。
今日のメンツの中でマイクロバスを運転できる免許を持っているのは、佐良さんの他、青葉・山村・和泉の3人である。しかし山村は今日の旅行の幹事・出納係で忙しくしているし、和泉は《ペーパー・フルビッター》なので『人が乗っている車を運転する自信が無い』などといつも言っている。そういう訳で交代できるのは実際には青葉しかいなかった。
名神を戻り草津JCTから新名神へ。亀山JCTから東名阪/伊勢自動車道と走る。途中少し渋滞したので、土山SAで佐良さんと運転交代した。ついでにトイレ休憩をする。結局3時間近く掛けて伊勢ICまで行った。
この日はマイクロバスをホテルの駐車場に駐めて投宿する。
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