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■春水(17)

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(C)Eriko Kawaguchi 2017-11-26
 
青葉は夕方前には引き上げたのだが、矢恵は他の親族とも会ってから翌日土曜日に金沢に戻るということであった。青葉も本当は他の親族の話を聞きたかったのだが、霊能者などというものを胡散臭く思う人もあるだろうしと考え、ナナさんのことを何か聞けたら聞いておいて欲しいと矢恵に頼んで、引き上げることにした。
 
青葉は土曜・日曜と都内のホテルに泊まり、日曜日に四谷の§§ミュージックに出て行った。
 
アクア主演の映画のラッシュを見る。
 
「現時点では単純につなぎ合わせた状態らしいんですよ。ですからつながりが不自然な所とかもあるし、アフレコをしないといけない所もあるのですが」
 
と今日は朝から出てきていた秋風コスモス社長が言う。
 
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ともかくも一同で見た。この日これを見たのは、秋風コスモス、川崎ゆりこ、KARIONの和泉、山村マネージャー、紅川会長、三田原課長、青葉、そしてなぜかそこに居た丸山アイの8人である。
 
「アクア元気だね」
と紅川さん。
「熱演してる」
と和泉。
 
「やはりアクアは演技力あるなあ。本人も歌手より俳優志向というのが分かります」
とゆりこ。
 
「男性の内海刑事を演じているのと、女性の愛を演じているのがまるで別人みたいに雰囲気が違う」
と三田原課長。
 
「女子高生の愛を演じられるのは分かるのですが、23歳の内海刑事もしっかり演じているのが凄いですね」
と和泉は言った。
 
「その点は監督も心配していたみたいですが、実際にはちゃんと23歳に見えるから監督も感心してましたよ。それにあの子、間の取り方がうまいんですよね。だから共演者が凄くやりやすい」
と自分も撮影に参加していた丸山アイが言う。
 
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「去年の映画の時は、ハードスケジュールだったせいで、疲れたような表情を隠せなかったんだけど、今年は全編元気なアクアが見られる」
とコスモスは言っている。
 
「やはり映画だけに専念したからだと思います。ライブやりつつ、音源制作やりつつ、映画の撮影もというのでは、どんなバイタリティのある人でも全部中途半端になっちゃいますよ」
と山村マネージャー。
 
「来年以降もアクアの映画を撮る場合、他の日程とダブらせないというのを絶対条件にしよう」
と紅川さんは言う。
 
「やはり今年のサイクルがいいですね。2月から6月までが夏のドラマ撮影、7月はライブツアー、8-10月が映画撮影で、11月と1月は冬ドラマの撮影、12月は年末年始の特別番組やミニツアー」
と青葉は発言した。
 
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「ええ、そのサイクルを堅持していきましょうよ」
とコスモスは言った。
 

お昼は新宿に出て、高級フレンチ店で会食をする。丸山アイは
「私もいいんだっけ?」
などと言いながら、遠慮する気配は無い。コスモスは
「どうぞどうぞ」
と言って微笑んでいた。
 
コスモスはこの場であらためて、7月に事故にあった醍醐春海と話し合い、当面醍醐春海は監修と編曲ということにして、アクアのCDのカップリング曲は琴沢幸穂に書いてもらうことにしたことを報告した。
 
「これまでもずっと醍醐先生に書いて頂いてはいたものの、最初の6作品は東郷誠一先生の名前で出していたんですよね。ですから、表面的には東郷先生から醍醐先生になり、琴沢さんとリレーしているように見えるんです」
 
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「だったら、あまり不自然ではないですね」
 
「既に2月か3月に発売する予定の次のアクアのCD(来月発売する映画主題歌の次のCD)にも曲を頂くことにしました。これがその作品です」
と言って楽譜を見せてくれた。
 
ここに集まっているメンツは全員、わりとすらすら楽譜が読める。
 
「格好いい曲だね〜」
という声があがる。青葉もこの人は凄く能力が高いと思った。
 
「何歳くらいの方なんですか?私負けそうなんですが」
と青葉は言う。
 
「見た感じは22-23歳くらいに見えました」
「ああ、お会いになられたんですね」
「ええ。なかなか楽しい人でしたよ」
とコスモスはなぜか笑いながら言っていた。
 

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話は盛り上がっていたが、青葉はトイレに行くのに席を立った。色々と入っているコーチのトートバッグは、さっき色々資料をもらって重たいのでそのまま席に残し、ハンカチとスマホだけ持って席を立つ。トイレを終えて手を洗っている時に、ちょうど別の個室から出てきた丸山アイと一緒になった。
 
「アイさんも、浅谷刑事とねずみ役、お疲れ様でした。とても男らしいねずみ、とても女らしい浅谷光子と演じ分けられていて凄いと思いました」
と青葉は言う。
 
「まあ私は端役だけどね。今回はアクアが主役、フェイが準主役だから」
とアイは言っている。
 
フェイは瞳と平野猛刑事を演じた。フェイは大型自動二輪の免許を持ち、個人的にもスズキの隼に乗っているということで、映画の中でもハーレーダビッドソン・Roadsterを駆っている(原作の平野が乗っているのは同じハーレーの1980年代のモデルFXB STURGIS)。彼は瞳役の方ではRX-7を運転するシーンが出てきていたが、これも本当にフェイが運転した。運転が好きで国内B級ライセンスも持っていると言っていた。
 
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「青葉ちゃんも年代的に近いから私たちのCBFに招待したい所だけど、女性はわざわざ女湯に入る会に誘わなくてもいいから」
とアイは言った。
 
「そうですね。女湯には普通に入りますし」
と青葉も笑って答える。
 
「でもアイさんが男湯にも入っちゃうというのは信じられないです」
「私がどちらも入れるというので、私のおっぱいもおちんちんもどちらもフェイクで実はどちらも付いてないのではと思っている子もいるみたい」
 
「それ私も思ったことあるんですけど、そのおっぱいは偽装には見えないです」
「まあそのあたりは企業秘密なんだけどね」
とアイは言う。
 
「アイさんの時は完璧に女性のチャクラなんですよね。でも竜さんの時は完璧に男性のチャクラだし」
 
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「そのチャクラというのは私はよく分からないけど、心のスイッチを切り替える感じなんだよ」
とアイは言った。
 
あらためてこの人見てみると、微かに霊感があるよなと青葉は思った。
 

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「そうだ。青葉ちゃん、岐阜県の**不動って知ってる?」
「聞いたことはあります」
 
「こないだ行ったんだけど、凄くいい所だったよ」
「へー」
 
「何か全てを還元してしまうような、不思議なパワーに満ちあふれていた。うちの母がお札をもらってきてというから行ってきたんだけど、青葉ちゃんも、一度行ってみると面白いと思うよ」
 
「じゃ今度近くに行った時に寄ってみます」
 

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そんなことを言っていた時、ドーンという物凄く大きな音がした。
 
びっくりして青葉もアイも出て行く。どうも青葉たちが食事をしていた部屋で何かあったようである。青葉たちがそちらに行こうとすると
 
「行かないで下さい」
とレストランのスタッフから停められる。
 
「今、私たちその部屋にいたんです。トイレに出ていたんです」
とアイが言うと、2人を通してくれた。
 
部屋に入ると、騒然とした雰囲気であった。全員席を立っている。テーブルはメチャクチャである。
 
大理石の大きな像、ミュロンの『円盤投げ』の石像が倒れていた。その倒れ込んでいる場所を見て、青葉はゾッとした。
 
「青葉ちゃん、青葉ちゃんが席を立っている時で良かった」
と言ってコスモスが青葉をハグした。
 
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自分がトイレに立っていなかったら・・・トイレでアイと話し込んでいなかったら、自分はこの石像の下敷きになっていたかも知れない。
 

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メートル(フロアの責任者)さんが写真を撮っている。この後の処理に必要なのだろう。支配人さんは全員に怪我が無いかと尋ねている。
 
写真を撮り終わった後、数人の従業員で石像を動かそうとしていたが、重すぎて動かないようである。
 
「これは機械を持って来ないと無理かも」
などと言っている。
 
「そのバッグだけでも取り出せませんか?」
と紅川さんが言っている。
 
「それだけなら何とか」
と言って、数人掛かりでコーチのトートを取り出してくれた。青葉に渡される。
 
「ありがとうございます」
 
中のものはもうぐちゃぐちゃである。バッグ自体破損している。
 
「そのバッグと中身の弁償は責任持って致します」
と支配人さんが言っている。
 
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「今この場で中身を確認した方がいい」
と紅川さんが言うので、出してみた。
 
化粧品入れがぐちゃぐちゃになっている。中の瓶とかスティックも粉々である。中身は普及品の化粧品なので、全部買い直しても2〜3万だと思うと青葉は言った。
 
パソコンも破損している。8万円くらいの品だが、新しいのを買ってソフトをインストールしたりデータを移行したりする作業代で20万請求していいと思うと紅川さんは言った。支配人さんも同意していた。
 
イオンで買ったバッグ。これ自体は1万円くらいである。その中から大量の現金が出てくるので、支配人さんが息を呑んでいる。
 
「現金は使えそうだね」
と紅川さん。
「これは大丈夫のようです」
 
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その後もひとつずつ取り出していくが、クレカや電子マネーの類いも無事だった。タロットは入れ物は破損していたが、中身は無事であった。筮竹がケースごと折れている。
 
「それは高価なものですか?」
「これは普及品で3000円くらいのものです」
 
そして・・・先日千里姉からもらった身代わり人形が完全に潰れていた。
 
「それ館林の**寺の身代わり人形だね」
とアイが言った。
「私の身代わりになったみたい」
と青葉は言った。
 

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全部確認した所、被害額はコーチのバッグ本体を含めて40万円程度と推定された。支配人は迷惑料も入れて100万円払いたいと言ったので、青葉は了承した。
 
その他、細かい迷惑料その他については後日話し合おうということにし、この日は全員に「洋服のクリーニング代」で1万円を渡してくれた。むろん今日の食事のお代はタダにしてもらう。
 
紅川さんの提案で馴染みのスナックに河岸を移して、軽く1杯水割りを飲む。
 
「ちょっと落ち着いた」
 
「未成年は居なかったよね?」
「はい、未成年です!」
とアイが手を挙げるので、
 
「冗談は10年前に言ってね」
と山村さんから言われていた。
 
青葉は山村さんって、そういえばアイのサブマネージャーの人から推薦されたんだったなと思い起こしていた。気易い感じなので、きっと旧知なのだろう。
 
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「あの身代わり人形ですが、実は今月頭に姉の醍醐春海から言われて、もらっていたんですよ」
と青葉は言った。
 
「昨年7月には『エメラルドの太陽』発売前に、アクアがステージ上で倒れたでしょ?12月には『モエレ山の一夜』発売の記者会見でコスモスさんが人質に取られて、3月の『星の向こうに』が発売された後、少し時間は経過していますけど鱒渕さんが倒れて、7月の『憧れのビキニ』の発売前日に醍醐が事故に遭いましたし。この所毎回、アクアの周囲の誰かにトラブルが発生している。次は私の番だよと言われたんです」
 
と青葉は説明する。
 
「それ今気付いたけど、何か怖いね」
と丸山アイが言う。
 
「ちょっと待って。そういうラインナップなら、その次の2月発売のCDでは私かも知れないじゃん」
と三田原さんが言う。
 
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確かにアクアに直接関わっている人では、三田原さんは有力人物のひとりだ。
 
「そもそも小学1年の時にアクアが手術を受ける前日にその身代わり人形をもらったんだよね?映画ではその話はやらなかったけど」
と紅川さんが言っている。
 
「そうなんですよ」
 
「その身代わり人形って、どこで売ってるの?」
「群馬県館林市の**寺というところだそうです」
 
「私、ちょっと行ってくる」
と三田原さんは言っている。
 

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「これって何かの呪い?」
とゆりこが訊く。
 
「偶然という気がします」
と青葉は言う。
 
「私もその偶然というのに一票」
と丸山アイ。
 
青葉はどちらかというと、みんなの不安を取り除くのに「偶然」と言ったのだが、アイも「偶然」と言ったことで、青葉はこれは本当にただの偶然なのかも知れないと思った。
 
「そういう偶然よくないことが起きている時、厄払いみたいなことする方法って無いんだっけ?」
と紅川さんが尋ねる。
 
「やはりお寺か神社にお参りですか?」
と、ゆりこ。
 
「どこに行くのがいいんだろう?」
と紅川さん。
 
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