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■春水(12)

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夕方前に桃香のアパートを出た。それで今回は千里とは、すれ違いになってしまった。まあ電話ではたくさん話しているからいいよねと青葉は思ったのだが、この日、千里が来るまでアパートにいたら、青葉は昨夜新幹線の中で電話で話した千里とは全く違った様子の千里を見ることになって、頭の中がパニックになっていたであろう。
 
新宿に出てから東京駅に移動しようとしていたら、ふと見たような顔の人と目が合う。
 
「金沢ドイルさん?」
「剣崎さん?」
 
それは先日、変な夢を見ると言って相談をしてきた剣崎矢恵さんだった。
 
「ご旅行ですか?」
と剣崎さん。
「仕事で出てきて今から帰る所だったんですよ。そちらは」
と青葉。
「私は東京で受けたいセミナーがあって、それでこちらに出てきた所で」
と剣崎さん。
 
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「お時間は?」
とどちらかともなく訊く。
 
「私は21:04の金沢行きに乗ればいいです」
と青葉。
「私は今日は都内で1拍して、明日用事をすませる予定で」
と剣崎さん。
 
「だったら2時間くらい、どこかで話しましょうか?」
「ええ」
 

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結局、東京駅から山手線に1駅乗って有楽町で降り、銀座のエヴォンに入った。ここは常に音楽が流れているので会話が他に漏れないからと思ったのだが、実際に行ってみると、チーフのリリー(如月乃愛)さんが
 
「青葉ちゃん、お久しぶり〜。もし打合せに使うなら2階の個室開けるよ」
と言うので、遠慮なく個室を借りることにした。
 
「ここはウェイトレスさんの制服が凄い可愛いですね」
と剣崎さんが言う。
 
「ここはメイドカフェなんですよ」
「え〜〜?」
「でも『お帰りなさいませ』とか『いってらっしゃいませ』という挨拶は廃止してしまったから、まるで普通の喫茶店ですよね。お値段もこのメニュー見るように良心的だし」
 
「すごーい。また東京に来た時は寄らせてもらおう」
 
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「今、神田・新宿・銀座と3店舗あって、来年は横浜店も作る予定なんですけどね」
「へー」
「同じオーナーが作った同じエヴォンというお店でも、この3つは微妙にシステムが違うんですよ。ご覧の通り、この銀座店は事実上ライブ喫茶」
「わあ」
「実はここがいちばんお値段が高い」
「高くてこの値段ですか!」
 
「神田店がいちばんオーソドックスなメイド喫茶。新宿店はタリーズなんかに近い感じで、エスプレッソの専門店になってますね。オムレツよりコーヒーで稼いでいる。フードが充実しているから食べ物もサンドイッチとかハンバーガーをオーダーするお客さんが多いんですよ」
 
「色々面白い」
 
それで若いメイドさんが、オムレツとカフェラテを持って来てくれた。
 
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「可愛い!」
と剣崎さんがラテアートの猫の絵に嬉しそうな声をあげる。剣崎さんの前に置いたのが猫で、青葉の前に置いたのはパンダである。
 
「お嬢様、オムレツの上に描く模様や文字にご希望はございますか?」
「そうね。。。もし描けたら桜の模様を」
と彼女が言うので、青葉はびっくりする。するとメイドさんは
「かしこまりました」
と言うと、オムレツの上にきれいに桜の花びらの絵を描いた。
 
「お嬢様は?」
と青葉にも訊くので、
「じゃ、私はバラで」
「かしこまりました」
 
こちらもきれいなバラの花を描く。
 

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「さすがマキコちゃん、上手いね」
「ありがとうございます」
 
「こちらには研修かヘルプ?」
「そうなんですよ。今クレールの方が落ち着いているから、また交代でこちらに研修に行ってこようということで、ヒトミと2人でこちらに来ています。前回は神田店だけだったから、今回は銀座店と新宿店を2週間ずつ」
 
「なるほどねー」
「そうだ。こないだ、千里さんの偽物さん、見ちゃいましたよ」
「偽物?」
 
「千里さん本人が言っていたんですよ。千里さんの本物と偽物の見分け方って」
「へー!」
 
「本物はまだ授乳しているからおっぱいの香りがする。偽物はしない」
「あ、そういえばそうだった」
 
「本物はガラケーを使っている。偽物はスマホを使う」
「あ、それは・・・」
 
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と青葉は千里姉が4月の落雷事故でガラケーを焼損してしまい、iPhoneに変えたことを教えてあげようと思った。ところがマキコは青葉がそれを言う前にこう言った。
 
「私がこちらに来た日に千里さんが来て、その人はお乳の臭いがしなくて、アクオスを使っていたんですよ」
「へー」
 
と反応しながら青葉は思う。アクオスということは、それはきっと千里の眷属が千里に擬態していたのではないかと。
 
「でも昨日また千里さんが来て、その人は確かにお乳の臭いがしてガラケーを持っていたんですよね。それで先週来た人の話をしたら『そうそう。私の偽物には、確認できただけでも、アクオス持ってる子とアイフォン持ってる子とアローズ持ってる子がいるんだよ』と言って笑っておられました」
 
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へ? ガラケー持った千里姉??アイフォン持った偽物???
 
マキコは長時間話していたら叱られるからなどと言って
「ごゆっくり」
と言って出て行ったが、青葉は考え込んでしまった。
 
 

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「すみません。知り合いのメイドさんだったのでつい話し込んでしまいました。それでお話をお伺いできますか」
と青葉は気を取り直して言った。
 
「はい。それで夢の内容なのですが」
と言って、剣崎さんは桜の模様が描かれたオムレツを食べながら話し始めた。
 
矢恵さん自身がその夢を見始めたのは5年くらい前、まだ中学生の時だったという。しかし亡くなったお父さんはもっと以前から見ていたので、もしかしたら12-13年前からかも知れないということだった。
 
「失礼ですが、お父さんが亡くなられたのは?」
「6年前なんです」
 
青葉は厳しい顔になった。
 
「ということは、お父さんが亡くなった後で、その夢は始まったことになりますか?」
 
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「実はそうなんですよ。父が亡くなったのは2010年なのですが、この夢はその翌年の2011年から始まったんです」
と矢恵は言った。
 
「お父さんの死因を訊いていいですか?」
「一応交通事故として処理されました」
「事故ですか・・・」
 
「北陸自動車道を走行中に、カーブで壁面に激突して亡くなったんです。幸いにも、他の車は巻き込んだりせずに、単独事故で」
「せめてもの、ですね」
 
「一応警察や保険屋さんのレベルでは居眠り運転として処理されました。保険金も出たし、勤めていた会社からは退職金に加えて慰労金まで頂きました。おかげで私は高校・大学と進学できたのですが」
 
「それは不幸中の幸いでしたね」
 
「でも私も母もあれは自殺だと思っています」
 
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青葉はこの言葉には反応しなかった。反応できないと思った。
 

「自殺したくなる要因に心当たりがあったんですか?」
 
「実はですね。父は身体が女性化していたんです」
「それは・・・」
 
「母の記憶とも合わせて考えてみると、私が小学校の2年の頃からだったのではないかと思います。最初おちんちんが立たなくなっちゃったらしいんですよ」
「ああ」
 
「まだ30代半ばだったから、結構なショックでEDの治療とかにも通っていたものの全然回復が見られなくて、バイアグラも効かなかったらしいです」
 
「うーん・・・」
 
「でもそのEDの治療に通っている時に、お医者さんから睾丸の異変を指摘されて。それで結局睾丸に腫瘍ができていることが分かって、摘出したんです」
 
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「あらぁ」
 
「多分腫瘍ができていたからEDになったのではと言われて、それで睾丸を取ってしまうと、もうどうにもならないので、男性能力の方は諦めたようです」
 
「まだ30代でそれは辛いでしょうね」
「父もかなり落ち込んでいたらしいですよ。母は別にセックスできなくても愛さえあれば大丈夫と言って、それで父も気を取り直して仕事に頑張るようになったようです」
 
「いいお母さんですね」
 
「ところがその内、今度は胸が膨らみ始めて」
「うーん・・・」
 
「肝機能障害ではないかということで、調べてみてもらったものの、肝臓には特に異常は無いということで。でも血液中の女性ホルモンが増加していたらしいです。男性ホルモンを投与してもらっていたのですが、胸はどんどん膨らんでいって、父もとうとう諦めてしまったみたいで」
 
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「うーん・・・」
「手術して乳房を除去する手もあるとは言われたものの、病変とかでなければわざわざ身体にメスを入れるのもということで、結局放置することにしたようです。でもおちんちんの方は、睾丸も取ってしまったし、女性ホルモンの濃度が高いので、どんどん縮んでいって、とうとう立っておしっこできなくなってしまったようです」
 
「ああ、男性には辛いなあ」
 
「母によると最終的には皮膚に埋もれてしまって、突起が無い状態になってしまったようです。おっぱいもあるし『俺、女湯に入れるかも』と開き直って言っていたらしいですが」
 
「開き直れるのは強いです」
「そんな気もします」
 

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「亡くなる1年くらい前からは声のトーンが高くなってしまって」
「声変わりですか?」
「そうなんです。喉仏も目立たなくなって、完全に女の人のような声になってしまいました。仕事してても、女性と思われることが多くて『女じゃ話にならん。上司を出せ』とか言われて困っていたそうです」
 
「社会生活に支障が出てますね」
 
「ずっと掛かっていた病院に母が不信感を持って別の病院に連れて行って、セカンドオピニオンを求めたんですよ。それで全身徹底的に検査されたら、そもそも染色体がXXだと言われて」
 
「じゃ半陰陽だったんですか?」
「でもそれなら子供作れる訳無いし、その医者の診断も信用できないと母は言っていました」
 
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染色体がXXの男性は稀にいるが、普通は不妊だと言われる。
 
「失礼ですが、DNA鑑定とかは」
「父も母も鑑定する必要は無い。お前たちは自分たちの子供だからと言っていました」
 
「あ、弟さんか妹さんおられます?」
「はい。弟が居ます。今、中学3年なんですが」
「間が少し空いたんですね」
「途中、生きていれば高2だった妹がいたんですが、幼稚園の時に海で溺れて亡くなったんですよ」
「あらあ、それはお気の毒に」
 
青葉は頭の中で計算していた。矢恵さんの夢が5年くらい前から始まり、それがお父さんが亡くなった翌年である。お父さんの異変は矢恵さんが小学2年の時に始まったという。ということは、弟さんができて間もない頃から、お父さんの女性化は始まった計算になる。
 
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「父が亡くなった後で、社長さんが母に謝っていたんですよ。父の女性化があまりにも凄くて、もう当時は女性が男装しているようにしか見えなかったので、いっそのこと、どこかの支店に女性社員として転勤しないか、と打診していたらしいんです。役職は部長にするからって。それで父は少し考えさせてくれと言ったらしいです。父の死はその社長の打診があってから1ヶ月後だったんですよ」
 
「精神的に追い詰められてしまったんですね」
と青葉は静かに言った。
 
「私も母も、社長さんは悪くないと言いました。性の問題って本当にデリケートだから、社長さんは多分、父に配慮してくれたんだと思うんです。でも父はそれで逆に自分の精神的な行き先を見失ってしまった。母にでも私にでも相談してくれたら良かったんですけどね」
と矢恵はしんみりと言う。
 
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「普通の人にはそのあたりの微妙な所はなかなか分かりませんよ」
と青葉は静かに言った。
 
しかしそれで退職金だけではなく慰労金とかまで加算してくれたのかも知れない。
 
 
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