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■春水(2)

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アクアの今年のスケジュールは、年末年始のツアーの後、1月いっぱいまでドラマ『時のどこかで』の撮影があり、その後2月はCD制作の後『ときめき病院物語』の撮影に入る。その合間に4月にはタイに行って写真集の撮影をし、ゴールデンウィークにまたツアーを行った。そしてドラマ撮影の合間を縫って6月にはCDの制作をする。『ときめき病院物語』は6月いっぱいでクランクアップした。7月の前半は小休止となったものの、7月中旬から8月頭に掛けて初の全国ツアーで12ヶ所を回ることになる。アクアは最初からドームのような巨大な会場でライブをしていたので、5000人〜1万人クラスの会場はデビュー前にローズ+リリーのライブに「玉割り役」で参加した時以来で、かえって新鮮な感じがした。観客がより近くに感じられるので、こういう会場もいいなと思った。
 
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中学生時代はやはり仕事があまりに忙しすぎて、ほとんど学校の勉強をすることができなかった。しかし4月になぜかアクアが3人に分裂!?してしまったので、それから自主的に進研ゼミの中学講座を取ってしっかり勉強するようになった。それで4月に高校に入った頃は、授業が実際問題としてよく分からなかったのが7月頃になると、特に英語で進展があり、動詞の変化形なども何とか頑張って覚えたので
 
「忙しいのに最近よく勉強してるみたいね」
と先生から褒められた。
 
実は3人のアクア(龍虎)は(長期)記憶を共有しているので誰か1人が覚えたことは他の子も覚えている。実はそれでお芝居の台本も分担して覚えることができるし、試験前の勉強も科目を分担して3人で勉強していたりする。また結果的にお互いが今どこに居るのかもほぼリアルタイムに近い形で把握することができる。
 
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もっとも記憶の共有はしばしば混乱も引き起こしていたのだが(まだ降りる駅ではないのに他の子が降りるのに釣られて降りてしまったり)、7月8日に《こうちゃん》がアクアのマネージャーになって、3人居ることを彼にだけ打ち明けた後は、《こうちゃん》が記憶の伝達をブロックする練習をさせてくれて、そのお陰で、共有したい情報と自分だけ覚えていればいい情報を分別することができるようになった。このお陰で、かなり楽になった。
 

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「ところで龍ちゃんって、たいていズボン穿いてきているけど、何度かスカート穿いて来たね」
とクラスメイトから言われた。
 
「うーん。まあその日はそんな気分だったからかな」
 
実はスカートを穿いてきたのは(ほとんどが)アクアFである。
 
「上着も2種類持っているのね。右前袷の日と左前袷の日がある」
「うん。あれもその日の気分で」
 

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龍虎の学校は6月から夏服に変わった。龍虎は冬服同様に夏服も3セット作ったが、その内の2つは洋服屋さんに頼んで最初から右前袷で制作してもらった。洋服屋さんからは
 
「全部右前袷でなくていいんですか?」
と尋ねられたが、
「他の子と合わせたい時もあるので」
と言い、1つだけ左前袷にした。
 
制服が切り替わってから龍虎たち4年生のクラスではこんなことを言っていた。
 
「うちの学校って夏服だけスカートがチェックなんだよね〜」
「冬もチェックでいいと思うんだけど、どうしてだろうね」
「どちらもチェックなら、洗い替えに流用できるのにね」
 
「ところで今日の龍ちゃんはそのチェックのスカートなんだ?」
「うん。チェックのズボンを見つけきれなかったから」
「じゃこのままスカート?」
「いや、冬服のズボンを流用しようかと思ってる」
「なるほどー」
 
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この初日に出てきていたのはアクアNであった。
 
Nは女装好きの男の子である。
 
ちなみに他の“男子”2人は、成美は当然ふつうの女子制服の夏服を着ているし、昭徳はワイシャツに黒ズボンという普通の男子学生のスタイルになっている。
 

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龍虎たちの学校の特別教室棟は、地上4階・地下2階建て(但し出入口は2階にあるので、地下3階・地上3階に近い)で、サイズは72m x 24m である。
 


 
大雑把に言うと、音楽関係の教室が4Fに、理科系教室と視聴覚室(小ホール)が3Fに、食堂・調理実習室・図書室などが2Fにある。図書室に隣接して積層書庫(*1)があり、ここは3階分の高さに4フロアの書庫が積層されている。
 
(*1)本棚の支柱と建物の支柱が兼用されたもの。本棚の支柱が天井を支える形になるので、重たい本をたくさん入れる割に意外に強い。
 
教室の天井は2.7mであるが、積層書庫の天井は2.1mしかない。これは一般的な女子の身長を想定した設計であり、長身の男性教師は気をつけて歩かないと天井に頭をぶつけそうだと言う。
 
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今年入った男子生徒3人の内、龍虎は156cmで全く問題ない。成美は169cmで、彼もあまり問題は無い。しかし昭徳は176cmで、歩いていて結構恐怖を感じるらしい。
 
特別教室棟の地下北側はB2,B1,1Fを吹抜で貫いて第2体育館《乳香》があり、バスケットやバレーの練習・試合で使用されている。そして南側はB1,1Fを貫いて室内プールが作られている。25m x 8コースの本格的なものである。中高生の大会で会場として使われることもある。
 
プールは建設費用の問題で屋外・地上に作る学校が多いが、C学園のプールがこんな地下に作られたのは、1つは都心に近い学校で土地のやりくりが厳しかったことと、もう一つは《のぞき》対策である。
 
大会が行われるような時以外は、基本的に生徒カード・職員カードを持っていないと地下に入ることができないようになっている。
 
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「監視カメラも設置されているけど、あれ顔認証機能があって、男が歩いていたら警報がなるらしいね」
「警報が鳴るだけ?射殺されるって聞いたけど」
「さすがにそんなぶっそうな仕掛けは日本には無い」
「だいたい男の先生はどうするのよ?」
「予め顔をデータベースに登録しておくんじゃない?」
「あきちゃん(昭徳)がそれ用に写真撮られたって聞いたけど」
「まじ?」
 
「でもボクは写真撮られなかったよ」
と龍虎が言うと
「龍ちゃんは女の子にしか見えないもん」
と言われる。
 
「試しにやってみよう。これ男顔か女顔かを判定するアプリなんだよ」
と言って、香代がスマホを取り出す。そして龍虎を撮影する。
 
するとアプリの判定は「女顔100%」だった。
 
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「やはり」
「香代は?」
「自分の写真でやってみたら女80%だった」
「写真と実物は違うかもよ。ちょっと貸してみてよ」
と言って、香代のスマホで彩佳が彼女を撮影する。
 
「おぉ!」
「男顔70%じゃん」
「うっそー!?射殺されたらどうしよう?」
「やはり顔をデータベースに登録してもらおう」
 

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しかし室内プールであるので、気温や天候を気にせず水泳をすることができる。実際運動部の子たちが基礎トレーニングに使うので、冬季でも事故防止のため誰か教師が付いているという条件で利用することができるようになっている。ともかくも今年の龍虎たちの水泳の授業は、6月中旬から始まった。その日は雨だったが、室内プールは関係無い。
 
「龍ちゃん、今日はどんな水着持って来たの?」
とクラスメイトの香代が訊く。
 
「どんなって、ごく普通の水着だけど」
と龍虎は答える。
 
「ごく普通の女子用スクール水着?」
「まさかぁ。普通の男子用スクール水着だよ。学校指定のじゃないけど」
 
「あ、それはいけない」
「ちゃんと学校指定のスクール水着を着なくては」
「だって男子用のスクール水着は無いから、高校生らしいものであれば何でもいいと先生に言われたし」
などと龍虎は言うのだが
 
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「でも、龍は女子用スクール水着を買ったよね?」
などと龍虎の内幕に熟知している親友の桐絵が言う。
 
「買ったけど、使わないよぉ。女子用水着なんて着られないし」
と龍虎は言ったのだが
 
「龍ちゃんは、女子用スクール水着どころか、ビキニだって着られる」
などと飛鳥(松梨詩恩)が言い出す。
 
「嘘!?」
 
「ほらほら、この写真」
などと言って、飛鳥が出した《衝撃のビキニ・ショット》にみんなが騒然とする。
 
「凄い!」
「こんなビキニが着られるなんて!」
「ウェスト細〜い」
「というか、おっぱいがあるじゃん!」
 
とみんな大騒ぎである。
 
「これ7月1日発売のアクアの写真集の中の1枚。情報源は秘匿しておくけど」
などと飛鳥は言っている。情報源を秘匿も何も、それって、飛鳥のお姉ちゃんからくすねて来たのでは?と龍虎は思った。
 
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「こんな写真集作ってたんだ?」
「それは予約しなければ」
 
などとみんな言っている。
 

「でも、龍ちゃん、こんなにおっぱいがあるのなら、男子水着なんて着られるわけないじゃん」
「そうそう。おっぱいあるのに男子水着なんか着たら、警察に逮捕されるよ」
「その前に水泳の授業に出してもらえない」
 
「いや。そのおっぱいは偽装だから。僕はおっぱいは無いよ」
 
「でも私、こないだ龍ちゃんにうっかりぶつかった時に、確かにおっぱいあったよ」
と由美が言う。
 
「ドラマの撮影とかで、偽おっぱいを付けたままにしている時あるから」
と龍虎は言うが、それって多分Fが学校に出てきていた時だろうな、と思う。
 
「今日はおっぱい無いの?」
「水着着ないといけないと思ったから、外して来てるよ」
「取り外しが出来るおっぱいは便利だ」
 
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「だけど、龍っていつもブラジャー着けてるから、たまに外してもブラ跡が消えないよね」
などと桐絵は言っている。
 
「ブラ跡がついているのに、男子水着になったら、よくないよね」
「うん。そういうのは人に見せるもんじゃないよ」
「せいぜい温泉とかに入る時だけ」
 
「やはり龍ちゃんは女子水着を着るべき」
などとみんなから言われる。
 
それで龍虎はつい
「でも今日は女子用スクール水着なんて持って来てないし」
と言ってしまった。
 

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するとこれまで発言していなかった彩佳がおもむろに自分のバッグから水着を取り出した。
 
「ジャジャーン」
などと言っている。
 
「どうしたの?」
「これ龍のC学園指定スクール水着。ほら、ここに田代って名前書いてある」
 
「おぉ!」
 
「ちょっとぉ、なんで彩佳がそれ持ってる訳?」
と龍虎は抗議する。
 
「きっと龍は女子用水着を着るのを嫌がるだろうからと思ってこないだ龍の所に行った時、キープしておいた」
と彩佳は言っている。
 
「すごーい!」
「彩佳って、龍のおうちによく行くの?」
「鍵持ってるよ」
 
「鍵!?」
「どういう関係?」
 
「こないだ忘れ物を届けた時に預かったまま、返し忘れてた」
「なぁんだ」
 
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「でもちゃんと学校指定スクール水着があるんなら、それを着よう」
 
「待って。おっぱいも無いのに、そんなの着られないって」
「平気平気。**だって、全然胸無いし」
「なぜ私を引き合いに出す?」
 
「だいたいこの水着に名前書いてたってのは、着る気満々じゃん」
と飛鳥にまで指摘される。
 
「龍の男子用水着は回収しておこう」
などと言って、いつの間にか彩佳は龍虎のバッグを勝手に開けて、水着セットの中からトランクス型の水着を取りだしている。
 
「待って、それ取らないで」
「龍ちゃんは女子用水着を着ればいいんだから、問題無いじゃん」
「龍ちゃん、みんなと一緒にプールの更衣室に来ていいからね」
 
この学校のプールには男子更衣室が無い!ので男子はB2Fの体育館の第2更衣室で着換えてきてくださいという指示だった。
 
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「それはまずいよぉ」
「だって龍ちゃん先週の体育の時も、みんなと一緒に着換えたじゃん」
 
「うーんと・・・」
 
それも多分Fだと龍虎は考える。
 

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「そういう訳で話はまとまったから、一緒に着換えに行こうね」
「ちょっと待って〜!」
 
という訳で、今日の龍虎はみんなに強引に連行されて普通にプール付属の更衣室で他の女子と一緒に女子用スクール水着に着替えた。
 
なお、Fから交代しようか?と脳内直伝があったものの、着換えの時におっぱいがあると話がややこしくなるので、今日はNが平らな胸を曝して着換えることにした。
 
「なんだ。女の子下着つけてるじゃん」
「それだと他の男子とは着換えられなかったよ」
「だって男の子下着が見つからなくて」
 
犯人はむろん龍虎Fである、
 
「お股には何も付いてないように見える」
「ボクの小さいから」
 
と龍虎Nは答えておいた。Nは常時タックしているので、水着などを着ても股間は女子のようにしか見えない。アンダーショーツを穿いているからいいが、それを穿いていなかったら、縦筋まで見えてしまうところである。
 
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「でもブラ跡はかなり強くついてるね」
などと言って肩に触られる!
 
龍虎は小学生の頃から少なくとも「男子」とは思われていない傾向がある。
 
「水着写真撮った時は一週間前からブラを着けないようにして跡を消したんだよ」
「ちなみにいちばん最近ブラジャーをつけたのは?」
「ドラマの撮影で昨日つけた」
「それなら消える訳ないね」
 

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ちなみに3人の男子の中で成美は平然と他の女子と一緒にプールの更衣室で着換えたので(成美が女子更衣室で着換えていても誰も気にしない)、結局、第2体育館の更衣室で着換えたのは昭徳だけであった。
 
また龍虎が女子用スクール水着をつけていても体育の先生は何も言わなかった。ただ一人男子用水着をつけている昭徳が心細そうな顔をしていた。
 

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