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■春水(4)

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アクアも千里もこの映画自体には関わっていないものの、映画の公開当日に代表取材に応じて、メッセージを発表した。アクアはちょうどツアーの初日で大阪に来ており、その楽屋で撮影し、千里は日本代表の合宿をしている東京北区のナショナル・トレーニング・センターの練習場で撮影をしている。
 
ついでにアクアはツアーに向けての意気込み、千里も目前に迫ったアジア選手権への意気込みを聞かれていた。
 
なお映画の主題歌は品川ありさ自身が歌う『マイナス1%の望み』であるが、この曲は葵照子・醍醐春海が書いて映画公開前の7月6日(水)に発売された。映画の予告編が6月下旬からテレビやネットに流れていたこともあり、かなりの話題を呼び、予約が30万枚も入って、品川ありさは「うっそー!」と叫んだという。
 
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品川ありさの曲で過去に最も売れた曲でも7万枚程度である。
 
なおこのCDのカップリング曲は、この映画で取り上げられたエピソードの中で実際に生まれた曲である『アクア・ウィタエ』で、インストゥルメンタル版と品川ありさが歌う歌詞入りの版とが収録されている。映画内では翌桧と三恵が龍に乗って飛行する時にインストゥルメンタル版が使用され、エンドロールの所に歌詞入りの版が使用されている。
 
インストゥルメンタル版は実はゴールデンシックスが演奏しているのだが、その中で龍笛を吹いているのは、千里本人である。ヨーロッパ遠征から帰った直後の6月16日に演奏に参加したと本人は言っていた。
 
(千里(千里1)は6月13日朝にヨーロッパから帰国し、18日からはまた合宿に入っている。但しこの龍笛を実際に吹いたのは千里2)
 
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7月15日(土)から8月6日(日)まで、アクア本人はドラマ『ときめき病院物語』の撮影が終わり、映画『キャッツ♥アイ』の撮影が始まる前の狭間を使って初の全国ツアーを行った。
 
これまではアクア本人のスケジュールが取れないことからドーム5ヶ所のようなツアーしかできなかったのだが、今回は12箇所(7月29日の苗場ロックフェスティバル出演を含む)のツアーとなった。
 
7.15大阪 16名古屋 (17休 18-19学校,20-21休) 22沖縄 23福岡 (24休) 25広島 26高松 (27-28休) 29(苗場) (30休) 31長岡 8.1小松 (2休) 3仙台 (4休) 5札幌 6東京
 
動員人数は20万6千人(+苗場の3万5千人)である。
 
ツアーの日程は2日歌ったら確実に1日以上休めるようになっているが、これはアクアの親代わりである上島先生が要求して実現したスケジュールである。
 
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なお、映画は実はアクアのツアーが始まった7月15日から撮影を開始しているのだが、新しくアクアのマネージャーに就任した山村勾美が、こちらのツアーが終わるまではアクアは映画の撮影には参加させないと言った。
 
制作側もツアーとぶつかっているのは承知だったので、ライブのある日まで撮影現場に来いとは言わないから、ライブの無い日には入ってもらえないか、またボディダブルの葉月だけでも通して参加できないかと言ったものの、山村は出演契約の際に「当事務所のタレントの健康と学業に配慮する」という条項(これも上島先生の強い要求により入れられた項目)があったのを盾にとって、アクアも葉月も参加させられないとして、要求を断固拒否した。
 
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上島先生という業界の大物の威を借り、アクアの売れっ子タレントという立場を最大利用して、結局葉月をも守ったので、コスモス社長が「頼もし〜い」と言ってくれた。
 
そういう訳で映画の撮影は8月6日までは主役抜きでの撮影を強いられたものの、アクア自身も、専属リハーサル歌手(身長がほぼ同じなので照明などを確認できる)としてツアーに帯同する葉月にしても、この期間はライブの方に集中することができるようになった。
 

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青葉はアクアのプロジェクトのプロデューサーということになっているのだが、青葉自身がこの時期は期末試験、およびその直前に当たることからツアーには同行せず、そちらの管理はディレクターということになっているKARIONの和泉さんにお願いすることになった。和泉さんと、マネージャーの山村さん、そしてレコード会社の三田原さんの3人を中心に細かいことは決めていくことになるが微妙な問題については、和泉さんが青葉にメールや電話で確認して、青葉の意見を聞いてくれた。
 
このあたりは青葉と和泉さんの間に充分な信頼関係があるのでうまく行った。
 
なおツアーに同行する伴奏者はエレメントガードの4人と、追加のツアー演奏者4人の8人で構成している。年末のツアーで伴奏者にトラブルが発生したこともあり、今回のツアーでは急病などの場合も考え、予備の伴奏者を数人用意しており、万一の場合にはすぐ交替できる態勢も整えておいた。こういう態勢は充分な予算があるからできることである。
 
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青葉は7月前半はアクアのCDの発表記者会見やツアー打合せ、後半は期末試験の準備に追われる一方で《タクシーただ乗り幽霊》の調査を依頼されて、その件で予備調査などをしていた。
 
7月29-30日には、昨年・一昨年に続いて、苗場ロックフェスティバルに伴奏者として参加したが、28日の試験が終わってから越後湯沢に移動し、30日のステージが終わった後、新幹線でとんぼ返りして31日朝から試験を受けるという強行日程となった。
 
31日の夕方、友人との会話の中から《ただ乗り幽霊》に関する糸口をつかみその日の友人たちの協力による調査からやっと原因を掴むことができた。しかしこの問題を解決するには、極めて大がかりな仕掛けが必要であった。
 
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青葉、その幽霊に関連していたお寺、放送局、そして千里の協力で何とか収束させることができた。
 

その千里は7月4日に東京駅で“事故”に遭い、霊的な力を全喪失した。青葉の後ろに居候している《姫様》は、千里の力の喪失は不可逆だと言った。千里は霊的な力の喪失とともに、バスケットの能力も激しく低下しており、日本代表から外されてしまう。恐らく作曲能力や演奏能力なども落ちているのではないかと青葉は想像した。
 
ところがそのほんの10日後、千里は怪我したメンバーと入れ替わる形で日本代表に復帰してしまった。驚いて電話をしてみると、電話の向こうから伝わってくるパワーは、以前に比べると小さいものの、かなり回復していることが伺われ、そんな急速な回復自体があり得ない気がした。
 
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千里は7月23-29日にインドのベンガルールで開かれたアジア選手権で大活躍し、チームは優勝、千里はスリーポイント女王とベスト5を獲得した。
 

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千里がインドに行っていた時期、ジャネはハンガリーのブダペスト(Budapest)で世界水泳選手権に出場していた。
 
1500m, 800mの自由形と400m個人メドレーに出場したのだが、25日の女子1500m自由形で3位に入り銅メダルを獲得、29日の女子800m自由形でも6位、30日の400m個人メドレーでもメダルに僅かに届かない4位と、出場した全ての種目で決勝進出する快挙を果たした。
 
海外のメディアが"Footless swimmer gets medal"などといったタイトルで彼女のことを報道し、一躍幡山ジャネは時の人となった。1年間意識不明の状態にあった所から復活したことも"Sleeping beauty woke up"などと大いに話題にされたようである。日本のメディアからも取材の申し込みがあらためてあったものの、ジャネはユニバーシアードが終わるまでは練習に集中したいとして現時点では全てお断りした。
 
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7月27日(木)、都内の病院。
 
昨日の高松公演を終えて、この後苗場へ移動予定のアクアは山村マネージャー、運転手役の高村友香と一緒に4月に倒れたまま入院していた自分の前マネージャー鱒渕水帆のお見舞いをしにきた。この日はアクアが行くならというので、秋風コスモス社長と紅川会長も一緒に行った。
 
そこにちょうど偶然だったのだが、水帆のお父さんとお兄さんまで田舎から出てきたので、水帆本人は「なんか私のお葬式みたい」などと笑いながら言う。本人はサービス・ジョークのつもりだったのだろうが、その発言が全然笑えないので、一同の間で素早い視線の交換があった。その緊張感で水帆はやっぱり、私死ぬのかな、と思った。
 
見舞客は高村友香を残して全員いったん病室の外に出た。
 
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コスモスと紅川、それにアクアも、水帆のご両親の前で
 
「ここまで重症になるまで気付かなかったこと、本当に申し訳ありません」
と深く頭を下げて謝った。
 
「いや、あいつは自分で何でも抱え込んでしまうタイプなんですよ。高校生の頃とかもそれで注意したこと何度かあったんですが」
とお兄さんが言った。
 
お父さんはむしろ
「あいつの不養生のせいです。かえってご迷惑をお掛けして申し訳無い」
と向こうが謝った。
 

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お兄さんが、実際問題として妹の病状はどういう状況なのか詳しく知りたいと言った。それでナースステーションに行って相談すると、先生が説明して下さることになった。
 
そこでアクアと山村マネージャーも外れて、ご両親とお兄さん、コスモス社長と紅川会長が医師の説明を聞くことになった。
 
病室に戻ると山村は
 
「友香ちゃん、申し訳ないけど、車にこないだ出したアクアの新しいCDが載っていたと思う。あれ1枚持って来てよ」
と言った。
 
「ああ、お渡ししてませんでしたかね。すみません!取ってきます」
と言って彼女が病室の外に出る。
 
更に山村は
「龍虎、あのさ・・・」
と言いかけたが、アクアは
 
「何かするんでしょ?僕外に出てるよ」
と言った。
 
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「5分で終わるから」
「うん」
 

それでアクアが部屋から出て行く。どうも自販機コーナーに行ったようである。
 
「あの、何か?」
と鱒渕は戸惑っている。
 
「水帆ちゃん、あんた生きたい?」
と山村は唐突に聞いた。
 
水帆は少し考えた。
「生きていたい」
 
「だったら自分が生き延びていくというイメージを強く持って」
「はい」
「それでこの注射打っていい?」
 
水帆は5秒ほど考えてから答えた。
「お願いします」
 
それで山村は水帆の腕をゴムで絞って血管を浮かび上がらせると、アルコール綿で消毒する。注射器とアンプルを取り出し、液を吸い上げて、水帆に注射した。
 
「この薬は本人が強く生きたいという希望を持っていれば症状を劇的に改善する。しかし絶望している人はすぐ死ぬ」
と山村は説明した。
 
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「私は生きたい」
「よしよし。頑張れよ」
 
「・・・・」
「どうかした?」
「山村さんの性別は?」
「ああ、私はご覧の通り、女装男だけど」
「気付かなかった!」
 
「今強く生きたいと思ったことで、生命エネルギーの水位があがった。それで注意力が少し復活したんだろうね。アクアをあれだけ見ているあんたが私の女装に気付かない訳無いと思っていたし」
 
「まあアクアは女装が好きですね。まあ好きというより女装させられることに快感を覚えている」
と水帆も笑って答えた。
 
「ああ、そうそう。だから積極的に女装することは少ない」
と山村。
「どうもそういう感じみたいです」
と水帆。
 
「ところがアクアの回りにはあいつを女装させたい奴がたくさんいる」
 
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「そうなんですよ!」
と鱒渕は楽しそうに言った。
 
「さて注射はした。後は水帆ちゃん、あんたの生きる意志次第。取り敢えず、即死んだりはしなかったから、回復する可能性が高いと思う。頑張れよ」
「はい」
 
それで鱒渕水帆は《こうちゃん》と強く握手した。
 
「そうだ。言い忘れたけど、この注射、たまに性別が変わっちゃうこともあるらしい」
「その場合は男の娘を目指しますから問題ありません」
「よしよし」
 
 
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