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■娘たちの面談(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2018-03-31
 
2011年8月30日(火).
 
千里が午前中、インプに乗って千城台の房総百貨店体育館に行き、基礎練習をしていたらバイクが停まる音がする。バイクに乗ってくるのは誰だろう?と思っていたら、体育館に入って来たのは雨宮先生である。この場所を教えたのは誰だろう?と訝る。蓮菜かな?
 
「いたいた。ちょっと頼みがある」
「何ですか?」
「今私が乗ってきたCBR400RRを貸すから、あんたのインプ貸して」
 
ああ、また女歌手か誰かと揉めて逃亡したいんだなと思った。きっと自宅に戻れないのだろう。
 
「CBRって何ですか?」
「バイクよ。400cc」
「私、バイクの免許持ってません」
「なんで持ってないのよ?」
「だって必要無いし」
「あんたファミレスのバイト行くのにバイク乗ってなかった?」
「あれは原付です。ホンダのディオチェスタですよ」
「CBR400RRもホンダなんだけど?ちょっと排気量が大きいだけ」
「普通免許では50ccを越えるバイクには乗れないので」
 
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「面倒くさいなあ。だったら、あんた二輪の免許取っておきなさい」
「いいですよ。夏休みだし、大会も終わったところだから、自動車学校に通います」
「自動車学校に行かずに、直接運転免許試験場に行けばその日に免許取れるのに」
「それは運転できる人ならいいけど、私、ふつうのバイクは乗ったことないですから」
 
「スクーターに乗ってるんなら似たようなものよ」
「さすがに違うと思いますけど」
「だったらいつまでに免許取る?」
「じゃ10月までに」
「9月中に取りなさい」
「分かりました。では9月中に」
「インプレッサは借りてっていい?」
「困ります。私、帰られなくなります」
「仕方ないなあ。しょうがないから、ケイのフィールダーをぶん取って来よう」
「ああ、可哀相に」
 
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それで雨宮先生は帰っていった。
 

そういう訳で千里はその日の内に千葉市近郊の自動車学校に行き、普通自動二輪のコースを申し込んだ。むろん性別は女と書いた!
 
四輪免許を持っている場合、第1段階は実技9時間、第2段階は実技8時間と学科1時間である。卒業試験まで入れて最速 9/2+8/3+1=5+3+1=9 と9日間で卒業して、そのあと試験場に行けば免許を取れる計算になる。
 
取り敢えず30,31日, 9月1日で合計6時間の教習を受けたが、やはりスクーターに乗っているので、全く問題無く教習は進んだ。
 
「あんた、小型二輪に乗っているんだっけ?」
「いえ。原付です」
「ああ、それで。あんたうまいもん」
と教官から言ってもらった。
 
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UTP社長の須藤美智子はその日★★レコードに行き、ローズクォーツの担当者・南頼高と打合せしていたのだが、帰ろうとした時、廊下で制作部の太荷次長から呼び止められた。
 
「須藤さん、久しぶり」
「ご無沙汰しております」
「今どこにいるんだっけ?○○プロ?」
「いえ。今は独立して宇都宮プロジェクトという会社をやってるんですよ」
「へー。何かいいアーティストいる?」
「ローズクォーツというバンドと、あと活動休止中なんですが、ローズ+リリーというデュオを抱えています」
 
「へー。でもごめん、それどちらも知らないや。それより有望なバンドがいてさ。近々デビューさせたいんだけど、プロダクションが決まってないんだよ。もしよかったら、引き受けてくれないかな」
と太荷次長は言った。
 
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「ぜひそのお話聞きたいです」
と須藤。
 
「じゃ取り敢えず音源聞かせるから、ちょっと来て」
「はい」
 
それで2人は会議室に入った。
 

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9月1日(木).
 
千里が自動車学校の後、夕方千葉の桃香のアパートに寄ると桃香が
 
「今週末バイトは?」
と訊く。
 
「特に無いけど」
と千里が言うので《きーちゃん》と《てんちゃん》がギクッとしている。この千里の返事は、今週末のバイトはふたりで代行してね、という意味になる。
 
「だったら、ちょっと富山まで付き合ってくれ」
「いいけど」
「池袋24:30のバスに乗るから」
「ちょっと待った。バスで行くの?」
 
千里はてっきり新幹線と思ったのである。
 
「このバスは片道3000円なんだよ。凄いだろ?」
と桃香は得意そうに言う。
 
「3000円〜!?そのバス、トイレ付いてるよね?」
「そんな上等なものは付いてないけど、途中1ヶ所トイレ休憩するから問題無い」
「何列シート?」
「4列シート。でも私と千里で並んで座れば問題無い」
 
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「嫌だ。トイレも無い4列シートのバスに6時間とか7時間も揺られていくなんて絶対やだ」
と千里。
 
「このバスは実は10時間掛かる。それで少し安い」
「10時間なんて絶対嫌だ」
 
千里は実はおしっこが近い。これは血糖値が高めであることから来ている。
 
「でもこれがいちばん安いんだよ」
と桃香は言っている。
 
「だったら、私今ちょうど友だちから車借りてたから、それに乗ってかない?」
「借り賃は?」
「ただ」
「でもガソリン代とか高速代とか、かからない?」
「下道を走って行けばいいよ。ガソリン代は、千葉から高岡までだいたい420kmだから、あの車の燃費が13km/Lとして片道32L。ガソリン代が120円として3800円。1人分のバス代と大差無い」
 
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「おお、それは素晴らしい!それで行こう」
 
千里はインプレッサを雨宮先生に取られてなくて良かったと思った。
 

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そういう訳で今週末のバイトは《きーちゃん》が神社で、《てんちゃん》がファミレスですることになった。ほんとうは8月28日で千里の今年の日本代表の活動も終わったし、9月いっぱいは大学も夏休みなので、その間はバイトは自分でやるから2人は休んでいてよ、と千里は言っていたのである。実際30日の夜は千里自身がファミレスの夜勤に入っている。しかし結局《きーちゃん》と《てんちゃん》の夏休みは千里が富山から帰った後ということになった。
 
『ごめんね〜』
『まあいいよ。今週末は頑張るよ』
 
そして千里と桃香は千里のインプレッサで高岡まで往復することになったのである。もっとも先の計算はかなり誤魔化している。
 
だいたい千葉から伏木までの道のりは420kmではなく460kmくらいある。インプレッサスポーツワゴン(20S 2000cc)の燃費はカタログ値では13km/Lだが、実際には運転のうまい千里が走らせても10-11km/Lである。そもそも千里は燃費よりグリップ優先のタイヤ《ポテンザ》を履かせている。また下道で行けばカーブが多いし夜間走行でライトも使うと燃費は恐らく8km/L程度まで落ちる。この時期のガソリン代はレギュラーでも144円/Lである。130円くらいのGSはあるかも知れないが120円というのは厳しい。そしてこの車はハイオクなのでレギュラーより10円くらい高い。
 
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それで本当の所を計算すると、460÷8=57.5L 57.5×150=8625円という計算になる。つまり少しずつ誤魔化して実際に掛かる費用の半分以下を千里は言ったのである。
 

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千里はいつも駐めている立体駐車場からインプを持って来た。
 
「あれ?これMTか」
「そうだけど」
「悪い。私ゃMT運転する自信が無い」
「私がひとりで運転するから大丈夫だよ」
「ホント?じゃ休み休み行こう」
「うん」
 
それで千里は桃香を後部座席に乗せて「寝ててね〜」と言うと、国道17号で高崎まで北上し、18号に乗り換えて軽井沢方面に走る。桃香は最初寝ていたものの、高崎をすぎた深夜2時頃起きて、千里としばらくおしゃべりしていた。しかし碓氷峠(うすいとうげ)に掛かると「何ここ〜!?」と言って絶句する。
 
物凄い急カーブの連続だが、千里はシフトをこまめに切り替えながらごく普通の速度で走り抜けて行く。結果的に乗っている人には絶叫マシン並みの重力が掛かる。桃香は三半規管がおかしくなった。
 
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「千里、すまん。もっとスピード落としてくれ」
と悲鳴をあげて言う。しかし千里は
 
「無理。これ以上遅くしたら危険。追突される」
と言って楽しそうな顔で走って行く。
 
実際には千里の前にはフェアレディZ(3700cc 355ps)、後ろにはマジェスタ(4600cc 347ps)が居て、3台が高速に走り抜けていっていた。パワーのあるマシンに挟まれて2000cc 155psの車でしっかり走った千里も凄いのだが、そもそもこんな速度でここを走る車はめったに居ない。交通量の少ない深夜だからできるワザである(しかもわざわざカーブのよりきつい(=通る車の少ない)旧道側を走っている)。
 
「助けてくれ〜!重力の方向が分からない」
「男ならこのくらい耐えられなきゃ」
「今だけ女になりたい」
「じゃ寝てる?」
「そうしよう」
 
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それで桃香は軽井沢に到着するまで寝ていたようである(軽井沢は碓氷峠を登り切った所にある。軽井沢の先の下り坂はとってもまともな道である)。
 
今回の行程は大半を実際には《こうちゃん》が運転しているのだが、碓氷峠だけは『ここ運転したい』と言って千里自身が運転した。本人は「楽しかった!」と思っている。眷属たちもこういうのが大好きな《こうちゃん》以外は悲鳴をあげていた。《すーちゃん》などは『パス』と言って飛んで逃げ出して少し離れた空中から眺めていた。
 

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峠を登り切った所にあるローソンで休憩したのだが、桃香は「疲れたぁ」と言ってコーラを飲んだだけで夜食に買ったスパゲティにも手を付けないまま放心状態である。桃香は実は遊園地の絶叫マシンが大好きなのだが、碓氷峠は絶叫マシンよりも凄かったようである。
 
「この後はこういうの無いよね?」
と桃香は訊く。
 
「この後、安曇野方面に出る道が(有料の三才山トンネルを通らない場合)結構凄いんだよね。それから安曇野から糸魚川に行く道もなかなか楽しい」
 
わざわざ安曇野に回らずそのまま国道18号を北上すれば、この先の道はそれほどでもないのだが、そんな道を走るつもりは毛頭無い。
 
「まっすぐな道は無いの〜?」
「高速走る?」
「いくらするんだっけ?」
「えっとね・・・」
と言って千里は携帯で確認している。
 
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「佐久ICから小杉ICまで5990円の所が今すぐ乗れば深夜割引で3000円」
 
今3時すぎなので4時までにICを通過すると深夜割引が適用される。
 
「それなら乗ろう」
「OK」
 

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それで軽井沢から先は高速に乗って、上信越道→上越JCT→北陸道と走ったので桃香は重力の急激な変動にさらされることなく安眠できた。なお、実際には千里もこの先は眠って運転は《こうちゃん》に任せた。
 
高速を通ったおかげで予定より早く、9月2日(金)の朝8時頃、高岡の桃香の実家に到着する。
 
「あれ?もう着いた?」
「うん。桃香お疲れ様〜」
「いや、千里こそお疲れ様。少し寝た?」
「途中の道の駅で仮眠したよ」
「そうか。全然気付かなかった」
 
実際には呉羽での時間調整以外は、短いトイレ休憩だけで、ほぼノンストップ運転している。ガソリンは桃香のアパートに来る前に満タン(50L)にし、高崎付近でも一度満タンにしたが、高岡に入る頃はかなり少なくなり、市内の島石油で給油してまた満タンにしておいた。2度の給油の時、桃香は寝ていたので全然気付いていない。碓氷峠で無茶やったものの、その後は高速を走ったので結局ガソリン消費は58Lほどで平均燃費は7.9km/Lと、とても優秀な数値になった。
 
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娘たちの面談(1)

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