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■娘たちの面談(19)

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それで途中のお店で買って持ち込んだサントリーローヤルで水割りを作り、雨宮先生は飲んでいる。千里は、さっきのお店で少し飲み過ぎたかなと思い、こちらはジャスミン・ティーである。
 
「あんたこそ戸籍上の性別はいつ変更するのよ?」
と先生が訊く。
 
「2012年中には変更するつもりです」
「だよね。大学卒業する前にやっておかないと面倒でしょ?」
「そうなんですよ。就職してから性別変更するのは大変だし」
 
すると雨宮先生は顔をしかめる。
 
「あんた、さすがに就職する必要はないでしょ?」
「三食昼寝付きの主婦を目指しているんですけどね〜。相手が本当に結婚してくれるものなのか。ここしばらく音沙汰無いし」
 
「あんたが忙しすぎるだけだと思う」
 
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「・・・・。珍しいですね。先生が私の恋路を後押ししてくださるって」
「まあたまにはそんな気分の時もあるさ。向こうから音沙汰無かったら、こちらから会いに行けばいい」
 
「そうですね」
と言って、千里は少し考えてから
 
「これ少し頂きます」
と言って、自分でも水割りを作って1杯飲んだ。
 

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「あ、そうそう。実は千里に謝らないといけないことあってさ」
と雨宮先生は、おもむろに言った。
 
「へ?何ですか?」
 
「いやあ、実は借りていたST250なんだけど」
「違反切符でも切られました?」
 
「それが壊しちゃって」
「壊すってどのくらい?」
 
「完全にバラバラになってしまった。修理は不可能」
 
「どうやったら、そうなるんです!?」
と千里は怒るより呆れて言った。
 
「うん。だからあのZZR-1400はその代わりにあげるから」
と雨宮先生は頭を掻きながら言った。
 

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「でもそんなバラバラになるほどの事故って、お怪我はありませんでした?」
と千里はマジで心配して訊いた。
 
「うん。大丈夫。私はバイクから降りて、“知り合い”と少し話をしていたんだけど、その“知り合い”と少しこじれてね。その子がバイクを蹴ったら動き出して、崖の下に落ちてしまって。下には誰もいなくて怪我人は出てない」
と雨宮先生は照れながら言っている。
 
それで今日の雨宮先生は妙にご機嫌がよかったのかと思い至った。
 
「“知り合い”ねぇ」
 
「結果的に向こうも『ごめんなさい』と言って、それで私も許してもらえたから、仲直り賃みたいなものかな。養育費の額でも妥結したし」
 
「また妊娠させたんですかぁ?今度も男の娘ですか?」
「いや、今度は天然女性。あんた、なんで私が男の娘を妊娠させたこと知ってるのよ」
「先生が自分でたくさん人に言いふらしてましたけど」
「うっ・・・」
 
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「どうやったら男の娘を妊娠させられるのか原理がよく分かりませんが」
「ちんちんはグイと押し込むとひっくり返って穴になるのよ」
「へー!」
「だからそこに入れてセックスできる。するとちゃんと妊娠するんだな」
「それどこから産むんです?」
「もちろん、ちんちんの先から産むに決まってる」
「かなり無理がある気がしますが」
 
「ブチハイエナ方式よ」
「何です?それ」
「ブチハイエナのメスにはちんちんもタマタマもある。ちゃんとそこからおしっこもできる。しかしメスは気に入ったオスの前では筋肉をグイっと収縮させて、ちんちんを体内に収納すると、そこがヴァギナになるんで、それでセックスして妊娠する。出産する時は胎児はちんちんの中を通って出てくる」
 
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「マジですか!?」
「実際には高確率でちんちんは裂けてしまう」
「痛そう!」
「裂けてしまうと産道が短くなって、結果的に2度目以降の出産は楽になる。ちんちんは使い物にならなくなってしまうけど」
 
「じゃ2009年頃に先生の赤ちゃんを産んだ男の娘さんはもうおちんちん無いんですか?」
 
「うん。やはり出産の時にちんちんは裂けてしまって修復は困難という医師の診断だったから、使い物にならないちんちんは取っちゃえよと勧めて、きれいに手術して取ってもらった。最初はおちんちん無くなっちゃったと言って泣いてたけど、ママになったんだから頑張れと励まして、それで気を取り直して戸籍も女に直して、ちゃんと出産届も出して、その子を育てているよ。男が出産した例は珍しいと医者も言ってた」
 
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「確かにレアでしょうね」
と言いつつ、先生の話はどこまで真実でどこからジョークか分からないと千里は思った。
 
「メスにもちんちんがある動物としてはワオキツネザルとかフォッサもいる。フォッサのメスの場合はちょっと変わっていて性成熟する少し前の頃にちんちんができる。でも性成熟するとそのちんちんは無くなってしまうんだな」
 
「面白い生態ですね」
「たぶん未熟で妊娠するのは危険な時期にレイプされないようにちんちんを付けるんだと思う」
「なるほど」
「人間も女子中高生にはちんちん付けさせたらどうかね?」
「安いポルノ小説にありそうな話という気もします」
 

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「それで一応バラバラになった部品はだいたい回収してはいるけど」
「放置したら不法投棄になりますしね」
「バイク屋に持ち込んでみたけど、組み立てるより新しいの買った方が遙かに安いし一度破断した部品は危険だという話」
 
「でしょうね。でもZZR-1400は、かなり大きいんですが、以前乗っておられたCBR400RRはどうなさったんですか?」
「あれは今鮎川ゆまに貸してる。代わりにあの子のポルシェ・パナメーラを借りてる」
「あぁ・・・」
「どうせあんた年内は忙しいでしょと言って」
「確かに忙しいでしょうね」
 
「そうそう、ラッキーブロッサムの解散ライブのチケット、あんたたちの分を10枚確保しているらしい。どこに送ればいいかと言ってたけど」
 
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「でしたら蓮菜のアパートに送ってください。私だと危ないです」
「確かにあんたは抜けが多いもんな」
 
「先生の弟子ですから」
 

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「あ、それで忘れる所だった。書いて欲しい曲だけど、今度作るバイク乗りたちの群像劇のドラマの主題歌なのよ。4月放送開始。ドラマだから放送局が著作権持ちたいということで買い取り」
 
「なるほど〜」
 
「山田深夜の『千マイルブルース』とか『ひとたびバイクに』といったバイクと旅をテーマにした短編集をベースにしている。それでバイクに乗る人、特に大型バイクに乗っている人の視点から曲を書いてくれという依頼」
 
「それで大型バイクの免許を取ってくれということだったんですね」
「ところであんたニポポ人形って知ってる?」
「そりゃ知ってますよ。私は道産娘(どさんこ)ですから」
 
「じゃちょっとZZR-1400でそのニポポ人形売ってる所まで往復してきてくれない?横須賀から出発して。『千マイルブルース』はそういう話なのよ」
 
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「横須賀から網走(あばしり)ですか?津軽海峡はどうするんです?」
「バイクにフロートを付けて」
 
雨宮先生なら根性で海の上を走れと言われるかもと思ったが、そこまでは言われなかった。しかしそれでも無茶である。
 
「海水に浸けたら動かなくなると思いますが」
「まあフェリー使ってもいいよ」
「そうさせてもらいます」
「八戸(はちのへ)から苫小牧(とまこまい)に渡って」
「なるほど。そのルートですか」
 
「本当はこの作品に出てくるワルキューレで往復して欲しい所だけど、まあ忍者でまけとくわ」
 
「ワルキューレだと北欧版くノ一(くのいち)という感じかな」
「ああ、それに近いかも知れん。オーディン配下の、くノ一かもね」
 
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「まあそれで仮題・ワルキューレの騎行、ニポポの子守歌、といった感じの曲を書いて欲しい」
 
「分かりました。それでは書き上げたものがこちらにございます」
と言って、千里はコムデギャルソンのキャンパスバッグの中から楽譜を2つ取り出すと雨宮先生に渡した。
 
先生は目を丸くしている。
 
「すみません。タイトルが『金のウィングで飛んで』、『こけしの子守歌』になっていますが、そのタイトルと歌詞の該当部分だけ直しましょう。こんな感じで」
 
と言って千里は譜面の該当部分にボールペンで修正を入れてしまった。
 
「データも直してしまいましょう」
と言ってノートパソコンを取り出すと、今ボールペンで直した所をデータ上も修正してしまう。
 
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「サビを輪唱に改造します。ウポポと言うんですよ。音階もこういう感じで、ラドレミソの5音階を使うとアイヌっぽくなるんです。実際にはトンコリはラレソドファと完全四度つまり周波数比3:4で調律するから5音に限定されるわけではないみたいなんですけどね」
 
「ほほお」
 
「先生のご指示で参加したツーリングの行き先が、こけしで有名な遠刈田温泉で、ツーリングのリーダーのバイクはホンダのゴールドウィングだったので、そういうタイトルになってたんですよね〜」
 
などと千里はデータを修正しながら言った。
 
ニポポ人形は網走界隈で作られている木彫りのアイヌ人形である。男女ペアで彫られることが多い。特に網走刑務所の受刑者たちが作っているものは有名だ。木彫り人形という意味ではこけしの親戚かも知れない。ホンダのワルキューレはゴールドウィングの姉妹機のようなものである。
 
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「呆れた。今の修正で歌詞にもメロディーにも北海道情緒が出てしまった」
「地元ですから」
「この水平対向六気筒って所はいいの?」
「元々ワルキューレはゴールドウィングのエンジンを流用して作られたものなので、どちらも水平対向六気筒です」
「へー、そのあたりは知らなかった」
「ポルシェ911が水平対向六気筒ですよね」
「うん。それは知ってる。実は高岡絡みのポルシェ996があってさ。ワンティスのメンバーで共有していてたまに乗るんだよ」
 
(966は911シリーズのモデル名。911のモデルは順に901/930/964/993/996/997/991となっている。ワンティスのリーダー高岡猛獅は996 40th anniversay editionで婚約者の長野夕香と一緒に中央自動車道を走っていて事故死した)
 
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「へー。あの車は修復できないくらいに壊れたんじゃないんですか?」
「うん。その付近は話せば長くなるんだけどね」
と言ったが、雨宮先生はその件についてはそれ以上語らなかった。
 
「はい、これでできあがりです」
と言って、千里はデータをUSBメモリーにコピーして先生にお渡しした。先生とおしゃべりしながら、ほんの20分程度で改造してしまった。
 
「参った。さすが仕事の速い醍醐だ」
 
と言いながら先生は再度譜面を見ている。
 
「いつも無茶言われてますから」
「あんたの作業って何度か見たけど試行錯誤をしない。最初からゴールを目指して直球で作ってしまう」
「何かおかしいですか?」
 
「いや、きっとそれが醍醐としてはやりやすいんだろうね。あんた初見も得意だし」
と雨宮先生は、楽しそうに言う。
 
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「私は最初の勢いだけですから。ジェットコースターみたいなものなんですよ」
「ああ、確かに飽きっぽいのが欠点だ」
「よく言われます」
 
「しかしホントにいい曲を書くなあ」
「オリジナリティがゼロでしょ?」
「そうそう。どこかで聞いたような気がするメロディーが随所に出てくる。でもそれがいい。覚えやすいし歌いやすいんだよ。だいたいオクターブくらいで作られているから、歌唱力のない歌手にも歌わせられる。素人のカラオケでも楽に歌える」
 
「きっとその内、人工知能が作曲するようになったら、こんな感じの曲を沢山書きますよ」
 
「そうかも知れんよね〜」
と雨宮先生も同意していた。
 
「ケイにはこういう曲は書けないんだよ」
と雨宮先生は言う。
 
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「彼女はたぶんこの手の曲が出来てもボツにしてるんだと思います。声域についても、彼女は広い声域を持っているからそれを活かしたいだろうし」
と千里は言う。
 
「そう。だから面白い」
 
「そういう書き方はいづれ行き詰まると思うんですけどね〜。音の組合せって有限なんだから。それで最近はオリジナリティを求めて難しい和音の世界にはまり込んでいる」
と千里は言う。
 
「まあどこかで妥協点を見い出すと思うよ」
と雨宮先生は言っていた。
 

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