広告:オトコの娘コミックアンソロジー~天真爛漫編~ (おと★娘シリーズ8)
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■娘たちの面談(12)

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国香がわざとファウルして時計を停める。
 
国香・薫・桃子が下がり、千里・誠美に凪子を入れる!
 
身長もパワーもあるナミナタ・マールには、誠美でないと対抗できない。誠美は1−2ピリオドにずっと出ていたのでこのピリオドは休ませたかったのだが、そんなことは言ってられない。千里は体力があるので本当はこのピリオドも休む必要はなかったのだが、他の選手に出場機会を与えてジョイフルゴールドを体験させるために下がっていただけである。向こうがパワープレイで来るなら出ていく。
 
そして159cm凪子の投入は本人も「え〜〜〜!?」と言っていたし、向こうの藍川監督も腕を組んで考え込んでいた。
 
凪子を投入したのは足が速いからである。逆に桃子や薫を下げたのは、彼女たちが体格はあってもスピードでやや劣るからである。千里も足が速い。このピリオドのスターターで交代させなかった岬と翠花もわりと足が速い。
 
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つまりこの交代は「身長には速度で勝負する」という鉄則に従ったのである。
 

実際、このメンツはスピードで完全に相手を翻弄した。
 
足が速いポイントガードというと旭川N高校出身の森田雪子(現東京N大学)が100mを12.5秒で走る俊足の持ち主だが、凪子も13秒くらいで走る。ふたりがコート上で競争すると他の選手は全員振り切られていた。
 
向こうが《天井パス》でつないで得点を重ねるなら、こちらは《光速ドリブル》で対抗しようという作戦なのである。
 
それでこのピリオドは最初は立て続けに向こうが6点取ったものの、その後はこちらもどんどん得点し、千里のスリーも含めて12-9まで戻してしまった。
 
結局このピリオドを18-15で終える。しかしここまでの累計は36-31と5点差である。藍川さんの作戦は成功したとはいえないものの、じわじわと点差が開いている。
 
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第4ピリオド。ジョイフルゴールドはベストメンバーと思われる布陣できた。小細工無しに実力勝負ということであろう。こちらも同様だが、凪子がさっきのピリオドで消耗しているので、国香をポイントガードに使った。岬も疲労が激しいので薫を使う。岬と薫は実力的には僅差である。
 
J 月絵/治美/玲央美/ローザ/ナミナタ
R 国香/千里/薫/麻依子/誠美
 
リバウンドでは、母賀ローザとナミナタ・マールを擁するジョイフルゴールドが優勢ではあるものの、千里や麻依子はシュートの失敗率が少ない、正確なシュートをするので、あまり関係無い。
 
前半それで点差を詰めて2点差まで追い上げる。向こうは月絵を下げて小平京美を投入する。こちらも薫が山形治美に競り負けている感じなので風谷翠花を投入する。それで残り2分でとうとう同点に追いつく。
 
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会場に思わずどよめきが起きる。
 
しかしすぐに玲央美が2点入れて引き離しに掛かる。しかし千里がスリーを入れて逆転。この試合で初めてローキューツがリードを奪う。更にローザと麻依子が2点ずつ取って残り1分で52-53と、ローキューツが1点リードの状態である。
 
ジョイフルゴールドがたっぷり時間を使って攻め上がってくる。残り1分なら常識的に考えるとJ側が2回、R側が1回の攻撃チャンスがある。しかし速攻を繰り返すとR側も2回攻撃できる。だからJ側としてはここは時間を潰したい。
 
わざわざパス回しをしたりして最後はナミナタが確実にダンクでボールをゴールに沈める。しかし後で玲央美はあそこは昭子を出しておくべきだったと言っていた。
 
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R側は当然もう1回攻撃チャンスを得るために速攻である。しかしJ側は当然R側が速攻で来ると分かっているから急いで戻っている。ボールマンに過剰なまでの近接ディフェンスをして、時間を使わせる。ここで千里にスリーを撃たれては困るので千里には玲央美と京美の2人でディフェンスしている。結果的に放置されている国香を使う。シュートに行くが、ナミナタがブロック。
 
これがファウルを取られた。
 
フリースローになる。
 
1投目。入る。54-54の同点。
 
2投目。リングの端に当たって跳ね上がる。
 
走り寄った誠美がタップ。そのままゴールに入って2点。54-56!!
 
残りは23秒である。もうショットクロックは消える。
 
しかし点差が2点ある。
 
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昭子を入れてスリーを狙う手はある。しかし千里がオンコートしている以上、昭子がスリーを撃たせてもらえる訳が無い。そもそも選手交代をすればその間にR側が防御態勢を整えられるのである。
 
J側は速攻に賭けた。
 

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予め走り出していた山形治美に玲央美からロングパスが飛んでいく。治美はほぼフリーの状態である。翠花が何とか追いついたものの、千里が
 
「触っちゃダメ!」
と大きな声で言った。
 
それで翠花は治美にそのまま撃たせた。
 
治美のスリーがきれいに決まって57-56.
 
むろんここは翠花がファウルをしても治美はゴールを決めていたであろう。あわよくば4点プレイで一気に突き放そうという目論見であった。
 
57-56となって、残り18秒。ローキューツの攻撃。
 
ジョイフルゴールドが激しい全コートプレスを掛ける。ボールは8秒以内にフロントコートに進めなければバイオレーションとなり、ジョイフルゴールドのボールになってしまう。
 
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こちらも何とかカバーして8秒ギリギリでセンターラインを越える。
 
しかしまた玲央美と京美が千里に付いて、絶対に千里には撃たせまいという相手の態勢である。他の3人はゾーン気味に守っている。
 
誠美を使う。誠美が中に飛び込んで行ってシュート。
 
この時、ローザが伸ばした手と接触したが誠美は構わずボールを投じた。
 
その直後に試合終了のブザーが鳴った。
 

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ボールがバックボードに当たった上でリングをゴゴン、ゴゴン、と凄い音を立てて3周回る。
 
そしてボールは外に飛び出して落ちてきた。
 
誠美が頭を抱えて座り込む。
 
一瞬ジョイフルゴールドの選手が抱き合ったり万歳をしたりしている。
 
ところがここで審判が笛を吹いた。
 
手首を叩いている。イリーガル・ユース・オブ・ハンズである。
 
さっきのローザとの接触でファウルがあったと指摘する。
 
この場面はシュートに入ろうとしていたので、ファウルを取るより流した方がシュートする側に有利とみて、すぐには笛を吹かなかったのであろう。シュートが失敗したのであらためて笛を吹いたということだろう。
 
フリースローになる。
 
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点差は1点である。2つとも決めれば逆転でローキューツの優勝。2投とも失敗すればジョイフルゴールドの優勝。1投だけ入ると延長戦である。
 
しかし誠美はフリースローが苦手である!
 
「失敗しても責めないから気楽に撃って」
と麻依子が声を掛ける。
 
誠美が審判からボールを受け取り、慎重にセットする。
 
1投目。外れる!
 
観客席からため息が漏れる。
 
「何も考えないで!」
「負けても勝っても今夜は焼肉パーティー!」
と国香が言うと、誠美も思わず顔がほころぶ。
 
審判からボールを受け取る。
 
数回床に打ち付ける。
 
慎重にセットする。
 
撃つ。
 
外れる!
 

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誠美が再び頭を抱えて座り込んだ。
 
ジョイフルゴールドの選手達が歓声をあげて抱き合う。
 
千里と麻依子が誠美に駆け寄って
 
「気にしないで。それ以前に逆転してないといけなかったもん」
と言って、彼女を慰めた。
 
こうしてこの大会、ローキューツは準優勝に終わったのである。
 
むろんそれでもオールジャパンには進出する。
 

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同時に行われていた3位決定戦では秋田U銀行が勝った。
 
男子の決勝戦の後で表彰式・閉会式が行われる。
 
ジョイフルゴールドのキャプテン伊藤寿恵子が優勝の賞状、副キャプテンの門脇美花が楯をもらう。続いてローキューツのキャプテン石矢浩子が準優勝の賞状をもらい、副キャプテンの麻依子が楯をもらう。浩子と
寿恵子が握手してから照れるような感じで何か言葉を交わしていたのであとで訊いたら
 
「お互い、決勝には出番が無いキャプテンだったね」
と言い合ったということだった。
 
実際ジョイフルゴールドのキャプテンマークは玲央美やローザがだいたい付けていたし、ローキューツも千里や国香が付けていた。
 
「あ、麻依子がオンコートしている時は麻依子にキャプテンマークつけてもらえばよかった」
 
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と千里も国香も言ったが
 
「私は透明な副キャプテンなのさ」
と麻依子は言っていた。
 
3位の秋田U銀行まで表彰された後、個人成績も発表される。
 
得点女王は母賀ローザ、3P女王は千里、アシスト女王は玲央美、リバウンド女王は誠美が取った。各々賞状をもらった。
 

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表彰式が終わったのが17時くらいだった。臨時バスで高岡駅まで移動し、駅近くの焼肉店で打ち上げをする。その後、下記の連絡で千葉に戻った。
 
高岡19:22-21:42長岡21:56-23:40東京0:01-0:43千葉
 
通常の越後湯沢を使う連絡では高岡18:47発の《はくたか25号》が最終連絡なのだが、新潟行きの特急《北越9号》で長岡まで行くと、東京行きの最終新幹線《Maxとき352号》に間に合うのである(運賃は少し高くなる)。
 
あらかじめこの連絡でチケットを確保しておいたので、全員まとめて座ることができて、結果的にこの列車内でも「打ち上げ」の続きでおやつやジュースを飲みながらの歓談が続いたが、他のお客さんに迷惑にならないよう、大きな声は出さないように言っておいた。
 
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千葉到着が深夜になるので、千葉駅から先、帰宅手段の無い選手がいる。それで車が出せる数人で送り届けることにしていた。
 
西原監督と谷地コーチは千葉駅近くの駐車場に駐めている。千里は《こうちゃん》に千葉駅までインプを回送させた!他に夢香のお父さんが迎えに来てくれて、数人乗せてくれる。それで間に合うと思っていたのだが、帰る方角の問題であと1台欲しい感じである。要するに事前の計画が甘かった。タクシー使おうかと言っていたら、麻依子が「待って」と言って、どこかに電話している。
 
「お友だち?」
「うん。まあ友だちかな」
と麻依子が言うので、勘の良い玉緒が言った。
「彼氏ですか?」
「えーっと、まあそれに近いかな」
などと言って麻依子は照れている。
 
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「へー!!」
 

それでこの5台の車で全員帰ることができた。千里は車を出してくれた人に「取り敢えずガソリン代」と言って2000円配っておいた。
 
麻依子の彼氏は千里も知っている人物だったのでびっくりした。
 
「村山君、久しぶり!」
「お久しぶりです。河合さん」
と千里も笑顔になる。
 
それは札幌Y高校に居た河合大彦さんであった。
 
「あれ?千里も知っている人?」
と薫が訊く。
 
「私がまだ男子だった頃に2度対戦したんだよ」
と千里は言う。
 
「あの時は勝てたけど、もう勝てないだろうなあ」
と河合さん。
 
高校1年生のウィンターカップ予選で、旭川N高校男子チームは札幌Y高校と決勝で戦い、あと少しの所で負けて東京体育館に行けなかった。その最後のY高校の決勝ゴールを決めたのが河合君である。
 
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千里はその試合を最後に男子チームから外れて、女子チームに移籍された。男子バスケット部員としての最後の試合である。
 

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「男子だった頃って?」
と浩子が訊く。
 
「うん。私は当時男子バスケ部に入っていたんだよ」
「ああ、女子は男子チームに入ってもいい規定の所わりとあるよね」
 
「そうだね。男子が女子チームに入ってはいけないけどね」
と言って麻依子は苦しそうにしている。
 
「河合さん、今どこにおられるんですか?」
「高校卒業した後、東京の実業団、島浦電機に入ったんだけどね」
「わっ、大企業だ」
「一応レギュラーだね」
と麻依子。
「凄いじゃないですか!」
 
「まあ問題はチームがなかなか浮上しないことで」
「うーん・・・」
「昨年も今年も2部リーグの最下位争いをしてるし」
「でもなかなか下に転落しない所がいい所だね」
と麻依子。
 
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「まあ待遇はいいし、それなりに充実してるけどね」
「じゃその内、手合わせを」
と千里は言った。
 
「麻依ちゃん、一度うちの練習場に呼んでみては?」
と薫が言う。
 
「あ、歓迎歓迎」
と浩子も言っている。
 
「じゃ1度お邪魔してみようかな」
と彼も言っていた。
 
 
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娘たちの面談(12)

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