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■娘たちの面談(21)

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(C)Eriko Kawaguchi 2018-04-14
 
12月25日の夜24時(26日0時)すぎに千里と別れた後、貴司は心の中のものがすっぽり抜けた気分で、ドライブでもしようかと思ったものの、アウディを千里に貸したことをすぐに思い出す。
 
千里が置いていったZZR-1400はあるが、貴司は大型二輪どころか普通二輪の免許も持っておらず運転できない。
 
「千里も忙しそうなのに、よくそんな免許取るよなあ」
などとつぶやく。
 
取り敢えず近くのコンビニに行き、週刊誌など立ち読みしていたら
 
「あれ?細川さん」
と声を掛けられる。和服姿の女性だが、どこかで顔を見たことがある気がする。えっとこの人は誰だったっけ?
 
「あ・・・緋那のお友達の?」
「ええ、沢居です、お久しぶりです」
 
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貴司は2年ほど前2009年12月に緋那と待ち合わせていた所に千里が来て、緋那とのデートをぶち壊した時、この女性が千里のインプに同乗してきていたことを思い出した。つまり千里の知人なのだろう。その時、千里はインプの鍵を緋那に渡して自分のインプを使っていいよと言ってさっさと貴司のアウディA4に乗り込んだのだが、彼女は緋那とも友人だった様子であった。そしてその夜、千里と緋那は再度会ったようでふたりは話し合い?緋那がマンションの鍵を千里に返して緋那は自分との関わり合いを(一応)断ったのである。
 
もっとも緋那は本当に完全に諦めた訳ではなく、2010年の5月には自分の不在中の留萌の実家に押しかけてきて父にお土産を渡して「よろしくお願いします」と言ったと聞いて貴司はぶっ飛んだ。もっとも帰宅した母が追い出してお土産も捨ててしまったらしい。
 
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緋那についてはその後の動向を聞いていなかった。
 

「緋那とは時々会われるんですか?」
と貴司は尋ねた。
 
「結婚しました」
と沢居が言ったが、貴司は理解できなかった。
 
「緋那が結婚したんですか?」
「ええ」
「誰かいい彼氏ができたんですね」
「結婚したのは私です」
 
貴司には理解できない。
 
「沢居さんも結婚なさったんですか?」
「ええ、緋那と」
 
やはり貴司には理解できない。
 
「緋那と沢居さんが結婚したんですか!?」
「そうですよ。12月10日に結婚式を挙げました」
「え?まさか女同士で?」
「私、男ですけど」
「え〜〜〜!?」
 

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少しドライブでもしながら話しませんかということになり、沢居がコンビニの前に駐めていた赤いギャラン・フォルティスに乗り、貴司はその助手席に乗せてもらった。
 
「私はこういう服を着るのが好きだから着ているだけなんだけど、しばしば女装しているように誤解されるんですよね〜」
などと沢居は言っている。声も女性の声である。
 
なお、彼女(彼?)はコンビニに居た時は、和服に合わせて草履を履いていたのだが、運転する時はバックベルトのあるミュールに履き替えている。
 
「えっと・・・僕には女装しているように見えます」
「そうですか?おかしいなあ」
などと彼女(やはり彼女と書こう)は言っている。
 
「緋那とは高校時代に恋人同士だったんですよ。高校卒業後は切れていたんですが2年前に再会しまして」
 
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それがあの2年前の南摂津駅での遭遇だったのだろうか?と貴司は考えていた。
 
「その時、私は緋那に今でも好きだから恋人になって欲しいと言ったのですが、自分には好きな人がいるからと断られまして」
 
と沢居は言っているが半分は嘘である。緋那と再会したのは南摂津駅での遭遇の1月ほど前、千葉のファミレスでだったのだが、この時、沢居は緋那にふられて結局桃香とホテルに行っている。
 
(『私ちんちん付いてるよ』と言う桃香を“去勢”して女の子に変えてセックスしている)
 
「そうですか・・・」
「ところがその1ヶ月後に、千里さん、細川さんを含めて4人での遭遇があって」
と彼女が言うので、やっと貴司には当時の状況が分かった。
 
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「あの時、細川さんと千里さんがさっさとアウディで去ってしまったので、私と緋那は取り残されて仕方ないので残されたインプレッサに乗ってデートをしまして」
 
「あぁ」
 
「それでやっと私は緋那を口説き落として、恋人関係が復活したんですよ」
「そうだったんですか・・・」
 
「それで去年の秋にやっと指輪を受け取ってくれまして」
「緋那さんはわざわざその指輪を僕に見せに来ました」
「あはは、あの子らしい」
と沢居は笑っている。
 
その見せに来た現場を千里に見られて、千里は自分が緋那に指輪を贈ったように勘違いし、喧嘩になったもののすぐに誤解は解けて千里は謝った。しかし・・・この夏にも再度同じようなことをやられた!
 
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緋那も緋那だが、自分も脇が甘いし、千里もまた簡単に誤解するし、何か全員、「どっちもどっち」という感もある。
 

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「それで今年の6月に緋那の両親と会って結婚に同意してもらい、7月に結納を納めて、今月結婚したんですよ。実は新婚旅行に行っていて、昨日24日に帰国したばかりなんですけどね」
と彼女は言った。
 
「そうだったんですか!」
「新婚旅行先ではしばしばレスビアンの夫婦かと思われて苦労しましたが、パスポート見せて納得してもらいました」
「なるほどー」
 
つまりこの人、新婚旅行に女装で出かけたのか!?
 
「千里さんや細川さんにも色々ご迷惑掛けてしまっているような気がしますけど、もうそちらに干渉することはありませんから」
 
そう願いたいよ!
 
「細川さんたちはいつ結婚するんですか?」
と沢居は訊いた。
 
貴司はひとつ息を吸ってから答えた。
 
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「年明けに再度プロポーズするつもりです。たぶん来年中に結婚します」
 
「それは良かった。幸せになってください」
「ええ、そちらも」
とふたりは言って、握手を交わした。握った沢居の手は女性の手のような感触だった。
 
この人、もしかして女性ホルモン飲んでる?と貴司は思った。
 
和服は身体の線が分かりにくいが、それでも胸がけっこうあるように見える。これはパッドなのだろうか?それとも、おっぱい大きくしているのだろうか。
 

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貴司を乗せた沢居のギャラン・フォルティスは府道2号(中央環状線)を走っていたのだが、八尾市の神武町交差点で府道5号に移った。後から聞いてみたのだが、沢居も特に何か考えて移動した訳ではなく、適当に曲がっただけらしい。
 
この道はやがて南港方面に行く。そして《眼鏡橋》との愛称もある千本松大橋に“登って”木津川を越える。この橋は大型船舶が下を通行する必要性から桁下が33mにもなるように作られており、両岸の道路から橋まで登る720度のループがある。
 
沢居はこのループをぐるぐる回るのが楽しそうであった。貴司はちょっと目が回るなと思ったものの、33m(1階3mとして12階)の高さを走るのはなかなか快適だ。それで橋の上を走っていた時のことであった。
 
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「あれ?今の」
「うん。何だろう?」
 
通り過ぎてしまったのだが、何か歩道の所に人影が2つあり、揉めているように見えたのである。
 
沢居はハザードを焚いて車を路肩に駐める。そしてふたりとも降りてそちらに駆けつけた。
 
貴司の目には身体の大きな浮浪者のような男が、女性を羽交い締めにして、今まさに橋から突き落とそうとしているように見えた。女性は靴が脱げて裸足である(実際にはストッキングを履いていた)。
 
「何してる!?」
と貴司が大きな声で言う。
 
すると男は驚いて手を放した。
 
女性が座り込む。
 

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「君、大丈夫?」
と沢居が女性に声を掛けて手を握り、更にハグした。(それ自体が痴漢行為では?と一瞬貴司は思った)
 
貴司は男に言った。
「今警察を呼ぶからそこから動くな。俺はプロのバスケット選手だ。腕力ではお前に負けないぞ」
 
若干ハッタリだ。実は貴司はそんなに腕力のある方ではない。それにプロと名乗ったのは詐称だ!
 
「ちょっと待って。君たち何か誤解している」
と男は言った。
 
30歳くらいかと思ったのだが、声が若い。まだ22-23くらいだろうか。
 
「誤解?」
 
「この女性がここから身を投げようとしていたんです。それを僕が停めたんですよ」
と男は言っている。
 
へ?
 
「君、本当?」
と沢居が女性に訊く。
 
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「はい、そうです。私色々嫌なことあって死のうと思って。それで飛び降りようとした時に、この人に呼び止められて。それでも飛び込もうとしたので、この人に身体を押さえられて。それで死にたいから放してと言っていたところなんです」
 
「本当?ごめん!勘違いして」
と貴司は言った。
 
「どっちみちここは寒い。よかったら一緒にどこかもう少し暖かい所に行かない?」
と沢居は言った。
 
冬の千本松大橋は風も強いし無茶苦茶寒い。
 
「分かりました」
と女性が言った。
 

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それで結局女性を助手席に乗せ、貴司と男が後部座席に乗って、車は発進。橋の向こう側でUターンして、10分ほど走り、手近のファミレスに入った。
 
女性は篠田と名乗った。男性は花見と言っていた。
 
貴司が
「ここは僕がおごるよ」
と言ってすき焼き定食を4人前頼んだ。
 
女性は泣いていたが、隣に座った沢居がずっと手を握ってあげていたら、かなり落ち着いたようで、沢居から
「人生ほんとに辛いこともあるだろうけど、塞翁が馬っての知ってる?悪いことがあった後には必ず良いことがあるんだよ」
などと言われると
 
「そうですよね。私また頑張ってみようかな」
と言って、30分くらいした所で冷めてしまったすき焼き定食を食べた。
 
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ただ彼女はこの日は自分のことについてあまり詳しいことは話さなかった。
 

花見の方は
「まあ僕はたまたま通りかかっただけなんだけどね。でも頂きます。実はもう2日何も食べてなかったので」
などと言って、あっという間にすき焼き定食を食べてしまったので
 
「何ならお代わりします?」
と貴司から言われ
 
「あ、だったら何か安いのでもいいですので」
などというので、ピザとチキンを取ってあげたら
「美味しい美味しい」
と言って食べていた。
 
「花見さんもお若いのに何か苦労しておられるようですね」
と貴司が言う。
 
「いや。ちょっと人間関係でトラブって逃げ出してしまって」
と彼は言っていた。
 
その話し方が犯罪性のものを感じさせたので、貴司と沢居は顔を見合わせた。
 
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「もし必要なら、警察に行きます?付いていってあげますよ」
「うーん。いっそ警察に捕まるようなことなら、まだ楽なのですが」
「ヤクザか何かとの揉め事?」
「そういう系統ではないです。でも自分が根性無しだった。ちゃんと謝らなければいけないのを逃げ出して大阪まで来てしまって」
 
「花見さん、東京方面の人ですか?」
と沢居が言った。彼のイントネーションが少なくとも関西の人のものではなかった。
 
「ええ。半月前までは埼玉に住んでいました」
 
「もしその人に再度会うのに、東京方面に戻られるのでしたら、新幹線代くらい貸しましょうか?」
と貴司は言った。
 
「そうですか?実は悩んでいたんですが、戻る金も無いしと思っていた所で」
「だったら貸しますよ。返すのは余裕が出た時でいいですから」
「済みません!」
 
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この日4人は明け方まで3時間ほど話していた。途中代わる代わるトイレに行くが、絶対に篠田さんは2人以上で見ているようにしていた。ちなみに沢居はちゃっかり女子トイレを使っていた!
 
この日の出来事で、結果的に貴司と沢居は2人の人物を助けたことになったようだが、このことが自分と千里との関係に新たな波乱を生み出すことになるとは、この時貴司は思いもよらなかったのであった。
 

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娘たちの面談(21)

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