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■娘たちの面談(8)

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9月25日(日).
 
千葉県クラブ選手権大会が行われたが、ローキューツは圧倒的な強さで優勝。2月に栃木県でおこなわれる関東クラブ選手権に進出した。
 
千里たちの大学は10月3日から後期の授業が始まった。《てんちゃん》は夏休みが終わり、千里の元に復帰したが《きーちゃん》はまだなので、それまでは大学には千里自身が通っている。ああ、なんか大学の授業受けるの久しぶりだなあ、と千里は思った。
 
10月4日(火)のファミレス夜勤は《てんちゃん》がしてくれたが、6日から来週いっぱいはファミレスの方はお休みさせてもらう。
 
そしてその6日、青葉と朋子が《はくたか》および上越新幹線の乗り継ぎで東京まで出てきた。千里と桃香は東京駅で合流し、一緒に羽田空港に移動する。出国手続きをしてから夕食を取り、そのあと深夜の出発時刻までロビーで待機する。千里は椅子に座ったまま仮眠していた。
 
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「でも出国はあまり揉めなかったみたいだな」
と桃香が言っている。
 
「ニューハーフなんですぅと言ったら通してくれた」
と青葉は言っている。
 
「私も咎められたが、間違い無く女ですと言ったら『ああ、性別を変更なさったんですね』と言われた」
と桃香は言っている。
 
「確かに青葉や千里ちゃんより、あんたの方が危ない」
と朋子。
 
「千里に揉めなかったと訊いたら?『私オカマなんです』と言ったら通してくれたと言っていたから、同様だったみたいだ」
と桃香。
 
「戸籍を修正できるまでは入出国の度に大変だね」
と朋子は言っていた。
 

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0:45の出発時刻には朋子もうとうととしていたが、桃香と青葉がしっかり起きていたので、朋子も千里も青葉・桃香に起こされてロサンゼルス行きに搭乗した。朋子は搭乗するとすぐ眠ってしまったが、千里も青葉もすぐ寝る。桃香はしばらく音楽を聴いていたが、話し相手が居ないので、じきに眠ってしまった。
 
ロサンゼルスに10月6日19時前に到着した。そして入国審査で揉める。この時、朋子、青葉、桃香、千里の順に並んでいた。
 
「この航空券とパスポートは男性のものだが、あなたは女性ではないのか?」
と青葉が言われた。
 
「この子はトランスジェンダーなんですよ」
と青葉の次に審査を受けるので待っていた桃香が寄って行き言う。
 
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「証明書とかをお持ちですか?」
「いいえ」
「別室で身体検査させてもらっていいですか?」
「いいですよ」
 
それで青葉は女性の検査官と一緒に別室に入る。身体を触られて「女性のように感じる」と言われるので、結局裸になり、男性であることを確認してもらった。こういう場合に備えてタックは解除しておいたのである。しかし検査官は「この男性器は本物?」などといって触る!
 
「触っても大きくならない。作り物じゃないの?」
「女性ホルモンを摂っているから勃起能力は消失してるんです」
 
それでもなかなか納得せず、引っ張ったりしても外れないので、本物かも知れないという感じのところで、やっと解放してくれた。
 

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その桃香は
「あなたは女性の航空券とパスポートを持っているが、男性なのでは?」
と言われる。
 
「私は女です」
と言って、日本の運転免許証を取り出して見せるが、運転免許証には性別は記載されていない。結局
 
「別室で検査を」
と言われる。
 
「仕方無いなあ。ちなみに、私の後ろにいる子は女みたいに見えるけど、男ですから」
と桃香は言った。それで別室に行き、検査官から身体を触られるが
 
「あれ?女性のような感触だけど、ちんちんがありますね」
と言われる。
 
「あ、それ作り物です」
と言って、ズボンと男物のパンツを脱ぎ、ちんちんも取り外して見せる。それで取り外した後はちゃんと女性の形になているのを見てもらった。
 
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「確かに女性のようですね」
と言われてそれで解放してもらった。
 

さて千里は前に並んでいた桃香から「その子は男ですから」と言われて、困ったなあと思った。案の定
 
「あなたのお友達は男だと言っていたが、あなたは女性のように見えるし、パスポートも航空券も女性のものですね」
と言われる。
 
「私は女ですけど、彼女は勘違いしているんですよ」
「念のため別室で検査してもいいですか?」
「はい、どうぞ」
 
それで結局千里も別室に入れられる。しかし千里も桃香同様女性の検査官に着衣のまま触られ「確かに女性ですね」と言われてすぐ解放してもらった。
 
そういう訳で入国審査では朋子以外の3人が全員別室にご案内されたが、青葉がいちばん大変で、千里は簡単に済んだのである。
 
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タクシーでホテルに入りチェックインする。
 
部屋はツインを2つ予約していた。予約したのは桃香であるが、
 
朋子と桃香→同じ苗字なので同室になれる
青葉と千里→どちらもパスポート上男性なので同室になれる
 
と桃香は考えていた。パスポートは4冊まとめて渡したが、フロントマンはその番号だけ控えると
「予約は女性2名、男性2名で入っていますが、実際は男性1名、女性3名ですね?」
と言った。
 
「慣れてなくて予約の時、操作間違ったかも」
と千里が言うと、フロントマンは頷いて鍵を2つ渡してくれた。
 
ここでフロントマンは4つのパスポートの内、青葉のパスポートだけが男だったし、“見た目”では桃香が男に見え他の3人は女に見えるし、その男に見える桃香が代表してパスポートを渡したので、パスポートの性別と実際の性別は一致していると思ってしまったのである。
 
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むろん部屋は実際には朋子と青葉がひとつ使い、千里と桃香がひとつ使う。
 

部屋に荷物を置いてからホテル内のレストランに行く。
 
夕食をオーダーする。
 
「何かお昼くらいのような気がするのだが」
と桃香。
 
「私の時計では12:15」
と千里が言っている。
 
「今は20:15だよ」
と青葉。
 
青葉は機内にいる内にロサンゼルスの時刻に合わせていたようだ。
 
「じゃ時差が8時間あるのか」
「いや16時間の時差だよ」
「よく分かんないや。桃香、私の時計直せる?」
「貸して」
と言って桃香が千里が愛用しているスントの腕時計を受け取る。
 
「何かいい腕時計を使っているな」
と言って、桃香は時計を世界時モードにし、設定をLAX の夏時間にしてくれた。
 
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「すごーい。私は説明書見ても出来ないのに」
「こういうのは、だいたいパターンがあるから少し触れば分かるよ」
「桃香、男の子みたい」
「えへへ」
と桃香は褒められて(?)得意そうである。
 
「桃姉は男の子みたいというのが褒め言葉になるのか」
「千里や青葉は女の子らしいというのが褒め言葉だな」
 
「私のはどうすればいいんだろう?」
と朋子が言うので桃香は見ていたが
 
「これはそのまま針を16時間戻した方がいい」
と言って調整していた。
 
ちなみに桃香は時計を持って来ていない!携帯の時刻設定をやはりロサンゼルスの夏時刻に変更していた。
 

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「しかし入国審査は参った。うっかりちんちん付けてたから、取り外して女だということを確認してもらった」
と桃香。
 
「男になりたい女と思われたかもね」
「そんな気はする」
 
「私は完全に裸になった上でちんちん触られて、大きくならないから作り物ではと疑われてひっぱったりされた」
と青葉。
 
「たいへんだったね」
 
「ちー姉は?」
「私も似たようなものかな」
と千里は言っておいた。
 
「千里は男の声を出してみせれば男と納得してもらえるだろう」
と桃香は言っている。
「うん。それもやったよ」
「なるほどねー」
 
「でもアメリカで性転換手術を受けて帰国する時は、もう身体で証明するのが不可能だよ。どうする?」
と桃香が指摘する。
 
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「ほんとにどうしよう!?」
と青葉は悩んでいた。
 
「性転換手術を受けて女になりました、という医師の診断書を発行しておいてもらえばいいと思う」
と千里が言う。
 
「なるほどー、それは行けそう」
「桃香も性転換手術で男になりましたという証明書を書いてもらうといいかもね」
「どこで書いてもらおうか」
と桃香が悩んでいるふうなので、朋子が顔をしかめていた。
 
桃香は時々1万円で性転換手術が受けられるなら男になりたい、などと言っているが、千里は1万円で手術してあげますという病院があったら、その方がよほど恐い、と言っている。
 

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食事が終わったら寝ることになる。
 
「まだお昼過ぎのような感覚なんだけど」
「取り敢えず寝ればいいよ」
「やはりここはセックスすれば安眠できると思う」
「セルフサービスでどうぞ」
 
「そんなこと言わずにしようよぉ」
と桃香は言って寄ってくるが、しっかり撃退する。
 
「暴力反対」
「セクハラ反対」
 
「旅先なんだからセックスくらいいいじゃん」
「**ちゃんに告げ口しちゃうよ」
「なんで千里、私の彼女の名前知ってるの〜?」
「朱音も美緒も知ってたよ」
「ぐっ・・・」
 

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明けて10月7日。
 
6日夕方に羽田で落ち合い7日になってから飛行機に乗ったのに6日の夕方に着いて、また7日というので2日だぶっている気分である。朝から空港に行きサンフランシスコ行きの飛行機に乗って、空港を降りた後バスでバーリンゲームに入る。バス停から更にタクシーに乗って、その病院に入った。
 
例によって、手術を受けたいのは桃香かと思われる。
 
「私がSRS(Sex Reassignment Surgery)を受けたいんです」
と青葉が言うと
 
「え?君ほんとにMTFなの。手術済み?」
と言われる。
 
「いえ、まだ手術はしてません。でも女性ホルモン優位ですし、それでバストも発達していますし、睾丸は自然消滅してしまったんです」
 
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「自然消滅!信じられない」
「東洋の神秘かも」
「東洋の神秘なら、そのまま卵巣や子宮が自然発生したりしてね」
 
などと言いながらも、青葉はさまざまな検査を受けることになる。自分史は一応(英語で)書いておいたのだが、それについてもかなり細かいことを質問された。青葉は英語の会話は問題ないので、通訳など無しで質問に答えていく。
 
保護者の朋子も質問されるが、これは千里が通訳をしてあげた。
 
「そういえばあなたは、クライエントのお姉さん?」
と医師が直接千里に尋ねるので
 
「私はクライエントの姉代わり(surrogate sister)なんですよ」
と千里は答えた。
 
朋子が
「訳あって青葉を保護することになったのですが、最初にあの子を保護したのが私の娘の桃香と、この千里ちゃんだったので、ふたりは姉代わりということにしています。特に千里ちゃんは、英語がうまいし、青葉と同じMTFなので、色々と力になってくれるだろうということで一緒にこちらに来てもらいました」
 
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と言い、それを千里が通訳すると、最初医師は頷いていたものの千里がMTFという話に驚いたような顔をした。
 
「え?あなたもGIDなんですか? Post-op?」
と千里自身に尋ねる。
 
「いえ、Pre-opです」
と千里は笑顔で答えた。
 
「あなたも手術希望ですか?」
「すみません。私は既にタイの病院で来年の夏手術することにしていて予約済みです」
 
それで医師は頷いていた。
 

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医師との話が終わった後で、今度は朋子から訊かれた。
 
「千里ちゃんも手術するんだ?」
 
「来年の夏休みに手術する予定です。青葉と同時期になるかも知れませんね」
と千里。
「兄弟から姉妹へそろって性転換というパターンだな」
と桃香が言っている。
 
「桃香も一緒に男に性転換する?北海道の越智さんからもらったお金で桃香も手術受けたら?」
と千里が言うと
 
「ちょっと待って。心の準備が」
などと焦っていた。
 
 
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娘たちの面談(8)

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