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日食を見た翌日、6月1日(日)は体育祭が行われた。
走る競技は複数の競技があり、全員どれかに出るようになっている。1組女子14人は次のように分けられた。
100m 恵香、美那、萌花、幸代
200m 蓮菜、侑果、尚子、小春
800m 沙苗、優美絵
1500m 千里、玖美子
クラス対抗リレー(200m) 亜美
スウェーデンリレー(100m) 朱実
クラス対抗リレーは、1年女子→男子→2年男子→女子→3年女子→男子、
スウェーデンリレーは1年男子→女子→2年女子→男子→3年男子→女子、とバトンをつなぐ。
スウェーデンリレーは1年100m, 2年200m, 3年400mとなっている(男女とも)。
なお男子は1500mの代わりに3000mがある。
出場者を決めるホームルームでは、男子と女子に分かれて教室の前半分と後半分を使って決めて行った。女子の司会はクラス委員の侑果(P小出身)と体育祭委員に選ばれた玖美子(N小出身)である。
「セナちゃん、女子に来ない?」
「どうしよう?」
「君には1500mを用意しているのだが」
「ぼく、男子の方に残る!」
それで希望者の無かった女子1500mには、千里が指名された。
「うそ!? 1500mなの〜?」
と千里。
「君は少し本気を出せば走れるはず」
と玖美子から言われた。その玖美子も1500mを走る。
どうも希望者が居なかった時、誰を指名するかを、事前に数人で話し合って決めていたようだ。
800mも希望者が居なかったので、司会者から指名された。
「私800mなの〜?」
と沙苗。
「800m走っても死にそうにない子を選んだ」
と玖美子。
「私800m頑張る!」
ともうひとり選ばれた優美絵は楽しそうである。
優美絵は小学6年の1学期まではとても、ひ弱な子だったが、夏頃から急速にバストが発達するとともに身体がよく動くようになって、今ではバレー部のリベロとして活躍している。女性的な身体が発達するのに合わせて運動能力が低下する女子が多い中で、逆に女性的な身体付きになると共に運動能力が向上した、不思議な子である。
なお。男子に残ったセナは800mに指名されて悲鳴をあげていた。
体育祭のプログラムはこのようになっていた。
入場行進
開会式
準備体操
男女100m走
男女200m走
1年生玉入れ
2年生綱引き
3年生大玉転がし
男女800m走
女子1500m走
男子3000m走
(昼食)
応援合戦
1年生パン食い競争
2年生借り物競走
3年生障害物競走
1年生フォークダンス
2年生ソーラン節
3年生マスゲーム
部活対抗リレー
クラス対抗リレー
スウェーデンリレー
閉会式
男子のみ、女子のみの競技・演目がほとんど無いのは、やはり女性の山口教頭の意向が働いているのかも、と蓮菜や玖美子は話していた。クラス対抗リレーでも、全学年で女子→男子ではなく、2年生は男子が先に走る。
千里は部活対抗リレーで、バスケ部からも剣道部からも「出て」と言われたがバスケ部の方は「私男子なのでパスで」と言って逃げ、剣道部の方は「先輩方に譲ります」と言って逃げた。剣道部は結局、大会にあまり出られないメンバーを中心に編成していた。バスケ部は、体力の無い友子を除いた4人で出ることにしたようである。
クラス単位で入場行進をして、開会式が行われ、生徒会長(女子)と副会長(男子)が、生徒を代表して選手宣誓をした。準備体操の後、競技が始まり、まずは男女の100m,200mが行われた。
1年生の玉入れでは、1組の千里、3組の杏子が全く外さずにどんどん放り込むので1組・3組は時間内に全ての玉を籠(かご)に入れてしまい、1組・3組の引き分け1位となった。
2年生綱引き・3年生大玉転がしを経て、男女の800m走が行われたが、女子で優美絵が3位になる活躍を見せた。沙苗は走った18人中10位だった。
「手抜きしてな〜い?」
「ちゃんと真面目に走ったよぉ」
とは言っていたけど、肉体的に男子である自分が女子の上位に入ってはと思ってきっと少しゆっくり走ったのだろう。もっとも既に男子廃業している気もするが。
女子1500mでは、この種目に出る留実子は「男子の3000mは次だよ」と言われていた(お約束)が、千里が「この子、女の子なんです」と証言してあげた。
スタート直前、一緒に走る玖美子から
「るみちゃんの次あたりを狙おうよ」
と言われて、千里はわりと真面目に走った。それで玖美子の言った通り、1位留実子、2位玖美子、3位千里となって1年生が3位までを独占した(マラソン大会で留実子とトップ争いをした陸上部の3年生は800mに出ていた)。
でも1500mは、やはりきつい!
でも玖美子たちに1周差を付けて1位で入った留実子は、千里たちに
「君たち手抜きしてない?」
などと言っていた。
男子3000mの後、お昼となる。千里は(お弁当の無い)留実子を呼んで、蓮菜親子、沙苗親子も一緒にお弁当を食べた。
千里の母、千里、玲羅(小5)
蓮菜の母、蓮菜
沙苗の両親、沙苗、笑梨(幼稚園の年中)
留実子
留実子は(今日も休んでいる)鞠古君のことが心配ではあるようだが、今日はそのもやもやした気持ちを競技にぶつけているようだ。
昼休み後の応援合戦では応援部の子・チア部の子を中心にみんなで声援を送った。千里はチアリーダーに徴用されて、チア部の子たちと一緒にチアの衣裳を着けてパフォーマンスをした。
「千里ちゃん、ここは肩の上から、空中で1回前転して飛び降りて」
「空中前転ですか?できるかなあ」
「後方回転でもよいが」
「無理です」
などと言っていたのだが、千里は真ん中でのパフォーマンスだった!
なお、留実子は学生服を着て、ウィッグを外し丸刈りの頭を見せて大きな声で声援を送っていた。
千里は放送委員なので、この応援合戦の後、午後の体育祭アナウンスを担当した。それで1年生全員参加のパン食い競争は免除してもらった(でもアンパンを1個もらった)。フォークダンスには出たが、その間だけ2年生の人に代わってもらった。
フォークダンスでは、セナをうまく乗せて女子の輪で踊らせた。曲目はジェンカとマイムマイムで、男女ペアになる踊りが無い!(これもきっと山口教頭の意向)
1組は(鞠古君が休んでいるので)男子13人・女子14人だったが、ジェンカではセナを女子に連行して、男子12人(4人×3)、女子15人(5人×3)で踊った。セナは女子の肩に手を掛けるのを恥ずかしがったので、沙苗の後にした。沙苗の前は蓮菜であった。千里は先頭で、千里の後は尚子だったが、尚子は
「千里ちゃん、普通に女の子の感触だから、全く緊張しなかった」
などと言っていた。
マイムマイムでは、女子の輪は、セナの左右は恵香と美那、沙苗の左右は千里と玖美子であった。千里の左は尚子である。
「セナちゃん、火曜からはセーラー服で出て来てね」
「持ってないよぉ」
フォークダンスの後は、千里は放送席に戻って、その後、閉会式までのアナウンスを担当した。部活対抗リレーでは、男子は1陸上部、2野球部、3スキー部、女子では、1陸上部、2水泳部、3ソフト部、であった。バスケ部は男子は5位、女子は最下位!、剣道部は男子は6位、女子は4位だった。
クラス対抗リレーでは2組、スウェーデンリレーでは3組が勝った。そして総合成績では、このスウェーデンリレーの成績で逆転し、3組(青組)の優勝となった。
「君、いっそのこと女の子になる?」
「え〜〜!?」
「男か女かなんて大きな問題じゃ無い。人は自分が生きやすいほうの性で生きればいいんだよ」
「そんなものですかね」
「君が女の子になるなら、女の子としてやっていきやすい身体にしてあげるよ。お嫁さんにも行けるようになるし」
6月2日(月)は体育祭の代休で、6月3日(火)からS中は衣替えとなった。
男子は学生服を脱いでワイシャツ姿に、女子は冬服のセーラー服から、夏服のセーラー服に衣替えする。
「夏服はちゃんと最初から女子制服で出て来たな」
と校門の少し先で遭遇した恵香から言われた。
「ワイシャツとか入らないし」
「まあ千里のその胸が入るワイシャツが存在するわけがない」
そんな会話をしながらやがて生徒玄関まで来る。千里たちは通学用の靴を各々の出席番号の靴箱に入れ、そこに入れていた上履きを履く。
「そういえば、男子の方の靴箱で12の次が14になってて、間に番号が貼ってない靴箱があるけど、やはり13って不吉だから飛ばしたのかな?」
「違うよ。13は元々は沙苗の番号だったんだよ」
「あぁ!」
「でも沙苗が性転換して女の子になっちゃったから、13は欠番にして、沙苗には新たに33番を割り当てたんだよ」
「そういうことだったのか」
「でも33番の次の靴箱、いつも靴が入ってるよね」
「空いてるから誰か入りきれない靴を入れてるんじゃない?」
「上履きを3つくらい持ってる人とか?」
「どう使い分けるのよ!?」
「足が6本あるとか」
6月8日(日).
この日は、道北ジュニア・バスケット・フェスティバルという大会が開かれた。道北地区の中高生のバスケットチームが多数出場するイベントである。このフェスティバルでは中学生・高校生、および中高混成チーム、また男女混成チームなども自由にエントリーできるので、“女子チームの男子メンバー”である千里もプレイヤーとして参加できるのである。
あまり強いチームは出ていない(強豪校は2軍を試合経験を積ませるために出した学校もあったようである)が、“弱小未満”のS中女子バスケ部にはちょうどいいレベルの大会だった。
ただここでひとつ問題があった。このイベントには、子供の頃、留萌に住んでいたという、ルメエラ国の王女様(父がビジネスマンとして赴任していたが、その父が思いがけず王位を継いだらしい)が来賓としておいでになることになっていて、それをお迎えする形で、小杉宮・則子女王殿下まで出席なさる。
それで開会式は、ユニフォームではなく第一礼装になる学校の制服で参列してと言われた。
「千里、学生服で並ぶ?」
と節子さんから訊かれる。
千里は首を振る。せっかく女子(?)チームの一員として参加できるのに男子制服なんて絶対に着たくない。
「じゃ、誰かに頼んでセーラー服の冬服を貸してもらって着るかね?」
「誰か貸してくれそうな友だちとかいる?」
「セーラー服、夏冬とも自分のを持ってます」
「何〜〜〜!?」
それでこの日はセーラー服(の冬服)で出て来たのだが、
「可愛いじゃん」
「女の子にしか見えない」
と好評だった。
「それで通学しなよ」
「そうですね」
いや、普段これで通学してるんだけど、そういえば、バスケット部の人にはセーラー服姿は見せてなかったかなあと考えた。貴司まで、何だがぼーっとした様子でこちらを見ている。あれ〜、私、貴司にもセーラー服姿見せてなかったっけ?と考えた。そういえばグリーンランドで会った時は和服だったし。
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女子中学生・夢見るセーラー服(10)