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■女子中学生・夢見るセーラー服(9)

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(C) Eriko Kawaguchi 2022-01-21
 
2003年4月28日、統一地方選挙の一環として、東京の世田谷区議会議員選挙が行われ、性同一性障害(MTF)であることを公表している、上川あやさんが区議に当選。日本初のトランスジェンダー議員となった。彼女の活動は自民党内で調整中であった性別訂正のための特例法実現への大きな力のひとつとなったとも言われる。
 

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「チンコ無くなったら、小便は座ってしないといけないなあ」
「でもあんた小さい頃はよくスカート穿いてて、個室でトイレしてた」
 
母は自分が女子トイレを使ってたことまでは言わないんだなと思った。
 
「スカート割と好きなんだけどね。みんなぼくには似合わないって言うんだよね」
「それは慣れてないからかもね」
 
でも女物着てると、あいつに殴られるしなあ、と彼は思った。
 

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細川保志絵は、夜中に唐突に目が覚めた。トイレに行って来てから、部屋に戻って再度寝ようとした時、窓から射し込む月の光が、神棚に置いている桐の箱を照らした。
 

 
月が何かを示唆しているように感じて、保志絵はその桐の箱を取り、開けてみた。
 
中に入っている美しい龍笛を取り出す。
 
この龍笛の値段は夫には内緒だ(知られたら絶対叱られる)。でももしかしたら、この龍笛を使うべき人が現れるのかも知れないという気がした。
 

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あれは10年程前のことであった。保志絵が買った1993年の年末ジャンボで1等の6000万円が当たった。バラで買っていたので、前後賞はもらえないが、6000万円単独でも大きなプレゼントである。当時は美姫を妊娠したばかりで「このお腹の中の子が当ててくれたのかも」などと言った。
 
保志絵はこの6000万で、まずは自分と夫の借金を全部精算した。そして留萌市内に300万円で72坪の土地を買い、1800万円で重量鉄骨造り・4LDKの住宅を建てた。家具などを新しく買い、また自分と夫の車を新しく買って合計700万円くらい使ったが、まだ2000万円以上残っていたので、子供たちの学資とするため、投信・学資保険などにした。
 
海外旅行とかにでも行こうかという話もしたのだが、当時は妊娠中なので、取り敢えず出産まで延期され、その間に熱も冷めて、結局海外には出なかった。でも美姫を出産して1年ほど経った1995年7月に、新しい孫を礼文島に住む望信の両親に見せに行こうというので、3泊4日の旅行をした(まだ礼文空港への飛行機があった時代)。
 
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(初日)留萌→稚内
(2日)稚内→礼文(泊)
(3日)礼文
(4日)礼文→稚内→留萌
 

この旅の帰路途中のことであった。望信は礼文でさんざん飲まされてほぼダウンしているので、保志絵が1人で車を運転していた。途中休憩で中川町のドライブインに寄った時のことである。食事を取っている最中に美姫が泣いたので、保志絵はあやすように立ち上がり、店内を歩き回った。
 
その時、その龍笛に気付いたのである。それはガラスケースの中に納められていた。そしてそのガラスケースの前で美姫がピタリと泣き止んだのである。
 
保志絵がその龍笛を見ていると80歳くらいの作務衣を着た男性が声を掛けてきた。
 
「笛を吹きなさる?」
「はい、少し。あまり上手ではないんですけど」
「あんた、神様の気をまとってる。巫女さんだね?」
「留萌のQ神社という所でご奉仕しています」
 
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「それなら、色々見てみない?この隣に展示してるんだよ」
と言って、誘われるように、保志絵はドライブインに隣接する手塩竹笛工房という工房に美姫を抱いたままお邪魔した。
 
篠笛、龍笛・高麗笛・神楽笛、試作品という竹製フルート、また尺八などが並んでいる。おもちゃのふくろう笛まである。しかし尺八やおもちゃの笛の面積は小さく、横笛がメインのようである。
 
「横笛がご専門なんですね」
「うん。ひたすら横笛を作ってる。もっとも売上は尺八の方が多い」
「演奏人口が違いますからね〜」
「篠笛を吹く人も多いけど、篠笛はローカルな規格が多くて地元の人以外は買わないから。まあ観光客がたまに買ってくけどね」
「ああ」
 
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それで見ていた時、その笛に目を留めたのである。
 
「これ・・・煤竹(すすたけ)ですよね」
「うん」
「本物の煤竹という気がするんですけど」
 
「あんた、さすが巫女さんだね。そもそも煤竹と白竹の違いも漆塗りした上から見たら普通の人には分からない。更に天然煤竹と人工煤竹との違いなんてほとんど分からないもんだけど。それは10年くらい前に解体した初山別村(しょさんべつむら)の古い民家の囲炉裏の上にあった竹を使ったものだよ。明治13年に建てた家だと言ってた」
 
「このお値段は?」
「値段は付けても意味ないから付けてない」
「この龍笛を売って頂く訳には」
 
と保志絵が言うと、工房の主は
「待って」
と言って、なんと筮竹で易を立てた!
 
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「沢天夬の2爻。売ってもいいけど。それを使うのは、あんたじゃない」
「私もそんな気はしました」
「何年か先に、この龍笛を使える人物が現れる。その人に売ってあげてよ。たぶん、自分はその子がここに現れるまで生きてない」
「それでお値段は?」
「あんたが決めて」
 
それで保志絵はこの龍笛“織姫”を買う約束をし、翌日またここを訪れて、帯封のついた現金4束!を払ってこの龍笛を入手したのである。工房の主はこの龍笛を買ってくれた御礼と言って、普通の人工煤竹(工房主が風呂釜で1年掛けて作ったもの)の龍笛をおまけで1本くれた。これだけでも本来は50-60万円はするものである。更に試作品の竹製フルートまで押しつけてきた(試奏したらインドのヴェヌに似た音がした。篠笛より西洋のフルートに近い音だった:ピッチは正確に西洋フルートに合わせてあった)。
 
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しかしあれは宝くじが当たった余韻が残っていた時期でなければ買うことはなかった買物であった。そして1年後にこの場所を通った時、工房は無くなっていた。あれは呼ばれたのだろうなと保志絵は思っている。
 
そしてこの龍笛はそれから8年間、吹き手が現れるのをずっと待っていた。
 

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5月22日(木)、S中では1学期の中間試験が行われた。科目は基本の5科目だけなので1日で終了したが、千里は丸一日頭を集中的に使って、フラフラする感じだった。
 
しかし先日実力テストがあったばかりで、中学って試験が多いんだなあと思う。
 
実際この後、高校卒業まで、毎月のように何かの試験が続くことになる。
 

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5月31日(土).
 
千里は唐突に知らない場所に居た。
 
「おはよう、きーちゃん」
「おはよう、千里」
と挨拶を交わす。
 
「金環食?」
「そうそう。約束だったからね」
「ここは・・・アイスランド?」
「さすが千里だね。場所の名前分かる?」
「なんか高い山の上にいる感じなんですけど」
「標高はいくらかな〜?」
と試すように訊く。
 
「うーん・・・1480m?」
「惜しい。ここは1440mくらい。山頂は1466mだけどね」
 
(多分、寒冷地なので気温が低すぎて勘違いした)
 
「40mずれてた?ごめーん。ここは・・・スナイフェルシュークッチ?」
「うんうん。そんな感じの名前の山。山の上の方が見やすいだろうと思ってね」
「とりあえず寒いでーす!」
「まあ零下20度くらいだから」
「寒いと思った」
 
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「でもスコットランドとか言ってなかった?」
「よく調べたら、スコットランドよりアイスランドの方が継続時間が長いことが分かったら、こちらに変えた」
 
「へー!」
 
実は怪我の功名なのである。今回の金環食は誰かを連れて行く予定も無かった。千里とは金環食を見せると約束したけど、千里は4月に死ぬはずだしと思って何の準備もしていなかった。それでスコットランドに行ってみたが、観測条件の良い所はもうかなり混雑していた。しかし中心食帯の地図を見ていたら、アイスランドの大半も入っていることに気付く。確認すると、こちらのほうが継続時間か長い。しかし、レイキャビクは人が多いだろうと考え、レイキャビク近く?の山の上に千里を連れて来ることにしたのである。
 
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千里がこのアイスランドのスナイフェルシュークッチ(Snæfellsjökull)火山に来た時は、空は明るいものの、まだ太陽は昇っていなかった。千里の時計で12:22(日本時間)、北東の空から太陽が昇ってくるが、既に部分的に欠けていた。
 
※レイキャビク(Reykjavik)の北西120kmほどの所にある火山だが、最後の噴火は1800年ほど前である。国立公園になっていて、夏にはけっこう観光客もある。ジュール・ヴェルヌ『地底旅行』ではこの山に地下世界への入口があることになっていた。
 
本来の山の名前は“スナイフェルス”(Snæfells 雪の降る山という意味。日本的に言えば“白山”、スペイン語ならシェラ・ネバダ)だが、同名の他の複数の山と区別するために“ユークッチ” (jökull氷河の)を付ける。
 
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北極圏は66゜33′以北、白夜が起きるのは65゜44′以北、であるのに対してここは64゜48′なので、ここは白夜にはならない。アイスランドでもたとえば北部のクリムセイ島(Grimsey - 島の真ん中を北極圏の線が横切る)だと、夏至の前後1ヶ月くらいが白夜になる。アイスランドと日本の時差は9時間。日本時間12時は現地の午前3時である。
 

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太陽はどんどん欠けていく。そして(千里の時計で)13:04:24、ついに金環食が始まる。千里は「わぁ」と言って楽しそうに日食グラスで見ている。そして3分36秒の天体ショーを経て、13:08:00に金環食は終了した。
 
「楽しかったぁ」
と千里は楽しそうである。
 
「良かったね」
 
しかし千里はわくわくしたような顔で言った。
「次の日食はいつ?」
 
待て。もしかして私は、日食の度にこの子を日食の見える場所に連れてこないといけないのか??(元々はもうすぐ死ぬ子への“はなむけ”のサービスだった)
 

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Snæfellsjökull 64.8N 23.47W 1466m
Annular Eclipse at 2003.5.31 (以下は日本時間。現地時間は-9h)
 
部分食の始まり 12:10 (地平線下で見えない)
日出 12:22
金環食開始 13:04:24
食の最大 13:06:12
金環食終了 13:08:00 (継続時間3:36)
部分食の終わり 14:03
 
「次は11月だったかなあ」
と《きーちゃん》は顔がひきつりながら答えた。
 
千里は満面の笑みで
「11月かぁ。楽しみ〜」
と言った。
 

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それで「帰ろうか」と言っていた時のことである。
 
「ね?何か聞こえない?」
と千里は言った。
 
「人の声がするね」
と、きーちゃんは答えてから、近くに人が居るなら、早めに退散した方がいいと思った。ところがその声が「ヘルプ」とか「ヒルフェ」とか聞こえる気がする。
 
「誰か助けを求めているとか?」
「私、見てくる。ここに居て」
「うん」
 
それで、きーちゃんが姿を消して、そちらに行ってみると、千里たちから100mくらい離れた場所で、50代くらいの男性が、崖の端の木の根っこを掴んでいて、必死で落ちないように頑張っているのを見る。足は崖面の小さな石に掛かっているが、いつまでもつかは分からない。もし手が離れたら、あるいはあの木の根っこが抜けたら、100m以上ある崖の下に転落する。
 
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きーちゃんは千里の所にいったん戻る。
 
「男の人が崖から落ちそうになってた。関わりにならない内に帰ろうか?」
「助けようよ!」
 
それで、きーちゃんは千里と2人でそこに行った。
 

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「私は空中で彼を押す。千里は崖の上から引いて」
「分かった」
 
それで千里は彼の傍に寄り、
「Lend me your another hand」
と言って、彼が木の根を掴んでるのと反対側の手を握る。
「Fight!」
と言いながら、強い力で引く。千里もかなりマジになるが、男性の体重が重すぎる。
 
「これ女の力では無理。誰か近くに男の人居ないかな?」
と千里は日本語で、きーちゃんに言う。
「うーん」
 
「あ、2kmくらい先、110度の方向に男の人がいる。きーちゃん、連れて来て」
「分かった」
 
千里が言うのなら間違い無いだろうと思い、そちらに飛んで行くと、確かに結構しっかりした体格の男性がいる。きーちゃんは彼を勝手にさっきの場所に転送した。
 
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「Wow?」
と言って男性は驚いている。
 
千里は
「Help us!」
と彼に向かって叫ぶ。
 
男性は駆け寄り、
「I'll take your place」
と言って、千里の代わりに落ちそうな男性の手を掴む。きーちゃんが再び空中で彼の身体を押す。
 
(この男性の身体をそもそも崖上に転送する手はあったのだが、それは最後の手段と、きーちゃんは考えていた)
 
木の根が抜けてしまうが、すぐにその手を千里が掴んだ。
(物凄い反射神経だと、きーちゃんは思った)
 
それで3人がかりで、何とか男性の身体を崖から引き上げることに成功した。
 

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千里は、きーちゃんと目配せし、すぐに姿を消した。
 
「You saved my life. Thank you so much」
「I am glad you are alive」
 
などと言って2人の男性は握手している。2人ともかなり大きな息をしていたが
 
「Where is your daughter?」
と助けた方の男性が言う。
 
「Wasn't she your daughter?」
「No」
「But where she is?」
 
ふたりともあたりを見回すが、誰もいない。
 
「She may be a mountain elf or something」
「You might be true」
 

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