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■女子中学生・夢見るセーラー服(5)

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(C) Eriko Kawaguchi 2022-01-15
 
2003年4月26日(土).
 
千里たちS中剣道部は中体連の留萌支庁大会に出場した。千里や玖美子は女子、沙苗は男子の団体戦に出る。会場はC中の体育館が使用された。C中の2階の教室が女子の更衣室に指定されている。沙苗はおどおどしていたが、玖美子と千里に連行されるように更衣室に連れ込まれ着替えた。
 
「これまで男子と一緒に着替えてたのに問題がある」
と武智さんが言う。
「この子、これまではトイレで着替えてたらしいですよ」
と玖美子。
 
「君が男子更衣室に居ること自体が男子たちにとっては困った存在だったと思う」
「だから女子のほうにおいでよと言ってたんですけどねー」
 
白い道着を着ける沙苗は、白い道着が多い女子更衣室では全く目立たない(男子同様紺色を着ける女子もわりと居る)。沙苗自身「緊張しなくて済む〜」と言っていた。
 
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今回の大会に出場しているのは、男子12校、女子8校であった。
 
初戦のH中戦では、先鋒の千里、次鋒の玖美子、中堅の武智さんが三連勝して副将・大将戦をせずに準決勝に進出した。準決勝は次のような組み合わせになった。
 
S中┓
K中┻┓
R中┓┣
M中┻┛
 
S中とK中との対戦では、千里(1級)は先鋒の中山さん(3級)に30秒で勝利、玖美子(2級)も広島さん(1級)に辛勝した。中堅・副将戦では向こうが勝ったものの、大将戦で初段を持つ藤田さんが相手大将(2級)を圧倒して勝利。S中は決勝に進出した。
 
もうひとつの準決勝、R中とM中の対戦では、先鋒戦でR中の前田さん(2級)がM中の吉田さん(2級)に圧勝。次鋒戦でも木里さん(1級)がM中の木下さん(2級)に20秒で2本取って勝つ。更に中堅戦も勝って3人で決着が付いた。
 
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そしてS中とR中の決勝戦となるが、木里さんが残念そうな顔をしている!千里は先鋒で彼女は次鋒なので、今回は対戦が無い!
 
先鋒戦、千里は前田さんに1分で2本取って勝った。次鋒戦、木里さんは1分で玖美子から2本取って勝った。ここまで1勝1敗である。
 
中堅戦で武智さんはR中・風間さんと1本ずつ取った所で時間切れ。延長戦でも決着が付かず判定となる。判定は武智さんの勝ちだった。副将戦は相手副将・麻宮さんが終了間際に1本取って向こうの勝ちとなり、大将戦に優勝が掛かった。
 
しかし大将戦ではR中大将の田沼さんが鮮やかに藤田さんから2本取りR中の優勝を決めた。圧倒的な強さで、藤田さんが首を振っていた。
 
そういう訳で今回の団体戦でS中女子は準優勝となったのである。
 
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男子の方では、沙苗が凄かった。紺色の道着の男子の中で1人白い道着を着け、見た目も女子にしか見えないので、対戦前に
「その人女子じゃないんですか?」
と相手チームから質問が入るスタートだったが、沙苗は「性別・男」と書かれた全剣連の登録証を見せて、男子であることを納得してもらう。
 
沙苗は1回戦では30秒で相手先鋒から2本取り
「君強いね。性別疑ってごめんね。君は間違いなく男子だよ」
などと言われて、複雑な表情をしていた!
 
沙苗は、準々決勝でも1分で2本取り、準決勝では時間ギリギリまで使って2本勝ち、3位決定戦でも1本勝ちで、団体戦では無敗であった。
 
ゲームはS中は1回戦では副将戦までで3勝して勝利。準々決勝では2勝2敗から大将戦で勝ってBEST4に進出したが、準決勝で沙苗の後の次鋒・中堅・副将が敗れて、決勝進出はならなかった。3位決定戦も同じパターンで鐘江さんの所まで回らずに敗退。4位に終わった。
 
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しかしS中男子がBEST4になったのは3年ぶりらしい。
 
なおS中女子の準優勝は初めてであった!
 

男子の団体戦が終わった後、千里と玖美子が沙苗を連れて女子の控室に戻り、お弁当を食べる。
 
「千里も沙苗もお弁当の量が少ない」
などと玖美子が言っている。確かに玖美子のお弁当は千里や沙苗の倍くらい入っている。
「でも、くみちゃんのお弁当すごくきれいにできてる。お母さんが作ったの?」
「そうだけど、君たちは?」
「私、自分で作った」
「私もー」
 
「よく朝から作れるなあ」
 
そんな会話をしていたら、隣に陣取っていたF中の桜井さんが、こちらに気付いた。
 
「あれ?あなた男子の団体戦に出てませんでした?」
 
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千里は
「桜井さんなら言いふらしたりしないだろうから、ちゃんとお話しますけど、あまり大きな声では言いたくないので、ちょっとこちらへ」
と彼女を呼び寄せてから、千里が事情を説明する。
 
こういうことを訊かれるのは“想定範囲内”である。沙苗は彼女に全剣連の登録証と生徒手帳の両方を見せた。
 
「女子生徒なのに、全剣連では男子なんだ!」
「ちょっと複雑な事情でこういうことになっちゃって。それでこの子は女子だから、女子の更衣室で着替えるし、白い道着を着けてるけど、全剣連の登録では男子なので、男子の試合に出るんですよ」
 
「へー。色々事情があるんだね。でも凄い格好よかったね。男子を鮮やかに倒していくし」
 
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「うん。この子は強いですよ。1級持ってるし」
「すごいなー。現代の中沢琴だね」
などと桜井さんは言っていた。
 
中沢琴というのは、新撰組の女隊士である。1927.10.12に85-6歳で亡くなったとされるので、1843年頃の生まれということになる。無茶苦茶強くて「私に一本でも打ちこむ男が居たら結婚する」と言っていたが、1本取れる男がついに現れなかったので、生涯独身を貫いたらしい。女剣士であるが、新撰組では男装しており、女性にかなりもてたという。戊辰戦争の後は故郷の群馬県利根村で生涯を過ごしたようだが、後半生については、よく分かっていない。
 
(2017年に黒木メイサが中沢琴を演じるドラマ『花嵐の剣士』が放送された)
 
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しかし桜井さんが言った“現代の中沢琴”というのがこの後、広まってしまい、沙苗には“留萌の中沢琴”という異名が付いてしまう!
 

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午後から個人戦になる。女子は個人戦の参加者は60人ほどであった。
 
千里は1回戦・2回戦と順当に勝ち、取り敢えずBEST16まで来る。3回戦あたりから強い人同士の潰し合いになっていく。
 
3回戦で、千里はF中・大将の横川さんに、きれいに2本で勝ってBEST8に進出した。ここに残ったのは下記の8人である。S中とR中が3人ずつ残っていて、この2校のレベルが高いことも分かる。
 
村山(S中先鋒1級1年)
掛川(C中大将初段3年)
沢田(S中次鋒2級1年)
田沼(R中大将初段3年)
木里(R中次鋒1級1年)
藤田(S中大将初段3年)
麻宮(R中副将1級2年)
曽根(K中大将1級3年)
 
準々決勝では、千里はC中・大将の掛川さんと当たったが、時間内に面で1本取り勝利した。玖美子はR中・大将の田沼さんと当り、2-1で敗戦した(優勝本命の田沼さんから1本でも取ったのが凄い)。藤田さんはR中の木里さんに敗れた。それでBEST4はこのようになった。
 
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村山(S中1級1年)
田沼(R中初段3年)
木里(R中1級1年)
曽根(K中1級3年)
 
なんと初段が1人しか残っていない。千里や木里さんは初段程度の実力があるが、中学2年にならないと初段になれないので“最強クラスの1級”である。
 
準決勝の組み合わせは、村山−田沼、木里−曽根となった。どちらも1年生と3年生の戦いである。
 
先に行われた木里−曽根戦では、木里さんが先に1本取ったものの、それで曽根さんは完璧に本気モードになり、その後、立て続けに2本取られて負ける。
 
千里はこの大会の“優勝本命”田沼さんにあっさり2本取られて負ける。田沼さんは最初から全開で、凄まじい気を帯びていた。団体戦で前田さんと千里の対戦を見ていたからだろう。
 
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ということで、千里と木里さんは3位決定戦で対戦することになった。
 

木里さんが物凄く嬉しそうである。
 
「剣道続けてくれたんだね。新人戦では決勝で闘(や)ろう」
などと言っている。
 
試合は最初から激しい攻め合いになる。
「女子の試合とは思えん」
と言って立ち止まって見ている人もある。
 
2分ほど行った所で千里が面で1本取るが、終了間際、木里さんが小手で1本取り返す。それで延長戦(最大2分)に突入する。どちらも1本取れないままもう少しで時間切れという時、お互いに最後の勝負を掛けて相手の面を狙う。
 
ほぼ同時に面を打ったが、僅かに木里さんが早かった気がした。
 
が・・・停められない!
 
すぐお互い残心を残したまま体勢を立て直して、再度面を打ちに行くが、これは打つ前に終了のブザーが鳴ってしまった。
 
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判定になる。
 
引き分け!
 
ということで、この中学最初の大会で、千里と木里さんは3位を分け合うことになったのであった。
 
フロアから退場した後で木里さんが
「あの面は相打ちとみなされたみたいだけど、村山さんの方が僅かに早かった気がしたけどなあ」
などと彼女が言う。
「私は木里さんの方が僅かに早かった気がした!」
 
「どう思います?」
とたまたま近くに居たM中の吉田さんに尋ねた。
 
「私には完全に同時に見えた」
と彼女は言う。
 
「じゃ本当に相打ちだったのかなあ」
と千里も木里さんも首を傾げた。
 

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なお決勝戦は田沼さんが曽根さんから2本取って文句無しの優勝を決めた。
 
男子の個人戦も凄いことになっていた。
 
S中では鐘江さんもBEST8で消えたのだが、沙苗が1回戦・2回戦・3回戦・4回戦と短時間で2本勝ちを決め、準々決勝でも1本勝ちしてBEST4に進出する。
 
そして準決勝ではR中の羽崎さん(3年初段・団体戦の大将)と激しい闘いをしたものの、1本取られて敗退した。そしてこの羽崎さんが個人戦では優勝した。
 
R中は男女の団体戦、男女の個人戦、全て優勝である。
 
その決勝戦が行われる前に行われた3位決定戦で、沙苗はK中の吉永さんと対戦し、鮮やかに2本決めて3位を獲得した。男子の試合で彼女の白い道着・袴はとても目立つので“白い稲妻”などと言っている人もあった。
 
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表彰式では、S中は団体戦女子で準優勝の賞状、個人戦は女子で千里が3位の賞状、男子で沙苗が3位の賞状をもらった。
 
新聞記者が優勝インタビューをした後、沙苗にも取材をしたがっていたが、顧問の岩永先生が、自分が取材に応じるから本人へのインタビュー等は勘弁してくれと言い、別室で詳しい話をした。それで結果的にこういう記事になったのであった。
 
“白い稲妻・留萌を走る”
 
昨日開かれた中体連剣道・留萌支庁大会で、男子の部に女性剣士のAさん(12)が出場し、個人戦で3位の成績を収め、笑顔で賞状を受け取った。Aさんは留萌市内の中学にセーラー服で通学する女子生徒ではあるものの、大会の規定で女子の部に出場できず、男子の部に出場した。白い道着・袴姿で、居並ぶ紺色道着・袴姿の男性剣士を次々と倒し、歓声があがっていた。彼女は団体戦でも男子チームの先鋒を務め無敗で、チームのBEST4入りに貢献した。
 
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「これ読んだ人は男女混成チームで男子の部に参加したのかなと思うかもね」
などと玖美子は言っていた。
 
田舎なので、チーム編成の人数が足りず、男女混成チームで出てくる学校は、バレー・バスケット、サッカー、陸上、などでも時々あるようである。但し、柔道や野球は男子の部に女子選手が出るのは禁止らしい。野球は認めてもいい気がするけど、柔道は男子選手がやりにくいかもね、と千里と玖美子は言い合った。
 
(サッカーは以前にも書いたが男子チームで活躍する女子選手は多い。陸上で筆者が中学生の時に出場した駅伝大会には男子チームで走る女子が2人いた。いづれも男子と同じ10kmを力走して、すごーい!と思った)
 

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さて、千里Rが剣道の大会に出ていた4月26日(土)、千里Bは、
「部活に入ってない人、自分の入っている部が今週は試合がない人は、どこかの応援に行って」
と言われていたことを思い出した。
 
(千里Yはそんな話を忘れていたので神社に出ている)
 
それで千里Bは見に行った後で買物が出来るし、と思い、町中のスポーツ・センターで行われるバスケットボールを応援に行った。
 
この日はセーラー服はクリーニングに出していたので、体操服を着て行った。
 
スポーツセンターの入口から入り、外履きを体育館シューズに履き替え、外履きはビニール袋に入れて手に持ち、中に入る。S中の試合は何時頃かな?と思って対戦表を見ていたら、
「ね、ね」
と声を掛けられる。
 
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「はい?」
「君、S中の子?」
「はい、そうですけど」
 
「悪いけどちょっと顔貸してくれない?」
「は?」
 
話を聞くと、人数が5人ぎりぎりだったのに、1人休んでしまって4人しかおらず、これでは参加できないので困っていたらしい。それで千里に休んだ選手の代わりに出てくれないかというのである。
 
「私、バスケットのルールなんて知りませんよー」
 
4年生頃までは神社の境内に置かれたバスケットゴールで遊んでいたけど、さすがに自分たちには小さくなって、もっと下の学年の子に譲っている。それにそもそも自分たちは凄く適当なルールで遊んでいた。
 
「ボールを持ったまま3歩以上歩いてはいけないってのと、ダブルドリブルの禁止が分かってれば充分だけどな」
「ああ、そのくらいは分かります」
「じゃ、来て来て」
 
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と言って、千里は連れて行かれ、唐突にS中女子バスケット部のメンバーとして大会に参加することになってしまったのである。
 

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女子中学生・夢見るセーラー服(5)

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