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■女子中学生・夢見るセーラー服(4)

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4月25日(金).
 
千里はこの日、昼休みは放送委員の当番だったので、放送室に行き、昼休みの放送を担当した。先日はワンティスをかけまくって好評だったので、今回は
 
「私、個人的には微妙なんですけど、ワンティスのすぐ後でデビューしたバンドで、今はあまり有名じゃないけど、もしかしたら将来的にワンティスのライバルになるかも知れないバンド」
と言って、ドリームボーイズのCDを5枚掛けた。
 
先頭に今年2月に出た『大胆お肉』を掛ける。これはジャケ写で、ドリームボーイズ専属ダンサーの女子高生・葛西樹梨菜ちゃんが『タイタニック』のポーズをしている所が映っていて、テレビ出演の際もわざわざ作ったタイタニックの船首のセットで彼女がそのポーズをするシーンから始まっていた。つまり「だいたん・おにく」は「タイタニック」のもじりである!
 
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この曲は12万枚売れてドリームボーイズの出世作になった曲(話題になってから焼肉屋さんのCM曲に採用され、更に売れた)なので、結構知っている人もあり、わりと好評であった。
 
その後、デビュー曲の『雪の中の白兎』、それに続く『波打ち際のかたつむり』、そして初めて1万枚売れた『夢に見たセーラー服』を掛ける。
 
「この曲は、一般発売されたバージョンでは、小さな女の子がお姉さんのセーラー服姿を見て憧れるようなPVが作られていて、歌詞も自分がもっと大きくなったらセーラー服を着られるのかなあと歌っています。PVに出演しているのも、リアルの女子中学生モデル・青島凛奈ちゃん(*2)とその妹の小学生・涼奈ちゃんです」
 
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「ところがこの曲には、another versionが存在して、ライブで公開されて好評だったので、ファンクラブ限定でCDがリリースされました。私の友人(恵香)が持っていたので、今日はそちらもお掛けします」
と言って、そちらを掛けると、放送を聞いていた生徒たちが結構ざわめく。
 
「この曲、実は最初このanother versionの方が作られたものの、歌詞の内容にレコード会社が難色を示して、表バージョンが作られたんですよね。でも、表バージョンは2000枚しか売れてなかったのに、ライブで話題になってから発売された、このanother versionがその4倍以上売れて、合計で初めて1万枚を超えたんです」
 
「好評だったので、これもPVが作られたんですが、こちらのPVでは学生服を着た男の子がセーラー服を着たクラスメイトを憧れるように見ているので、てっきりその女の子が好きなのかなと思わせます。ところが実は本人がセーラー服を着たかったんですね。つまりクラスメイトの女子に憧れていたのではなく、その着ているセーラー服に憧れていたんです。PVの最後では、お友だちの女の子たちに乗せられてセーラー服を身につけ、鏡を見てうっとりとした様子が映ります」
 
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「このセーラー服を着たかった男の娘を演じているのは、リアル男の娘モデルの近藤うさぎ(*3)ちゃんです。インターネットで検索すると、このanother versionのPVもヒットすると思うので、興味があったら見てみて下さい。凄く可愛い子なんですよ。女の子にしか見えないし。本当に中学生時代セーラー服を着たかったのに着られなかったから、この企画で着られて凄く嬉しかったそうです。でも彼女は身長が175cmあるから、女の子の服で着られる服を探すのがたいへんらしいですよ。PVに使用したのは彼女のサイズに合わせてオーダーしたもので撮影後は本人が頂いてワードローブに収納されたそうです」
 

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(*2) 後のシンガーソングライター青島リンナ。
 
(*3) 近藤うさぎはこの曲が出た2002年3月当時、1980年生まれの21歳と公称した。しかし実は1982年生まれで当時はまだ19歳だったことが後でバレた。彼女はこのお仕事のギャラのおかげで性転換手術を受けることができた。彼女は2005年にはマリンシスタにダンサーとして加入、解散まで在籍した。それで、一般には“元マリンシスタの近藤うさぎ”と言われることが多い。
 

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千里は続いて、ビールのCMに使用された『裸でバーベキュー』を掛けた。
 
「『裸(はだか)でパーベキュー』は最初は『褌(ふんどし)でバーベキュー』にするつもりが、CMに使うビール会社から褌(ふんどし)は勘弁してと言われて、裸(はだか)になっちゃったらしいです」
 
と裏話も語る。さっきの『夢に見たセーラー服』にしても、こういう話の情報源はドリームボーイズのファンである恵香と玲羅である。実はこの日掛けた音源も恵香から借りたものである。
 
「ドリームボーイズって個人的には歌詞が軽薄過ぎて微妙に思うんですけど、曲はよくできてると思います」
 
と千里は正直な感想を言ったのだが、この放送の後、S中ではドリーム・ボーイズのファンが数十人は増えた。
 
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放送の当番の時は、給食のトレイを持って放送室に入り、CDを掛けている間に食べるのだが、この日は5時間目が体育だった(と思っていた)ので、千里は、誰も居ないしと思い、放送室の中で体操服に着替えてしまった。それでセーラー服と着替えの入ったスポーツバッグを持って、小体育館の方に行こうとしていたら、校舎の端の、渡り廊下で、特別教室棟と小体育館の分かれ目の所で声を掛けられた。
 
━━━━━━━━━━━
←特別教室 小体育館→
━━━━┓ ┏━━━━
    ┃校┃
    ┃舎┃
    ┃↓┃

 
「君1年生だよね?」
「はい」
「もうすぐ始まるよ。入って入って」
と言われる。
 
「体育の授業に行く所なんですが」
「1年生の5時間目の授業は全クラス保健に切り換えになったんだよ。お昼休みに各クラスに伝達したんだけど」
「あ、私お昼休みに居なかったから」
 
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それで、千里は体操服を着てスポーツバッグを持ったまま、特別教室棟2階の視聴覚教室に入った。
 

視聴覚教室は半分くらいまで席が埋まっていたが、千里は遅れてきたのに前の方の席に行ってはと思い、人が埋まっているラインのすぐ後の席に座った。
 
どうも千里が最後の方だったようで、千里が席に座った後、更に2人入ってきたところで照明が落ちる。そして映画(?)が始まった。
 
「性のしくみ」
などというタイトルである。
 
ん?まさかこれって・・・
 
映画では最初に「男の子と女の子の違い」という題で、男女の身体の違いがイラストで説明される。お股の付近の拡大図が出ると、教室全体が息を呑む感じ。男の子のペニスは性的に興奮すると、大きく硬くなるなどとイラスト付きで説明される。更に興奮のピークに達すると、精液がペニスの先から出て、この“射精”が起きるとペニスは小さくなるという所まで説明される。
 
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続いて「月経のしくみ」と題して、女の子の身体の中ではだいたい28日くらいに1度卵子が成熟して卵巣から出て来て、“受精しなかった”場合、14日後に排出されて、月経となるという話が説明される。“例の”性周期のグラフが表示されて、女性の身体は、卵胞期・排卵期・黄体期・月経期というサイクルが繰り返されること、一般に女性は月経が終わった後の卵胞期のほうが体調が良いことなども説明される。
 

 
また黄体期の中でも月経間近になると腹痛頭痛などを含む症状が出ることがあり、これをPMS(月経前症候群)と言う、といった話もされる。
 
そして話は核心に入る!
 
「赤ちゃんができるしくみ」というタイトルに、教室内の空気が変わる!赤ちゃんは、女性の卵巣で育てられる卵子と男性の睾丸内で生産される精子が結合して“受精卵”になると出来ると説明される。この受精卵が女性の子宮の中で約266日間育つと、出産に至り、赤ちゃん誕生となる。
 
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ここで教室内であきらかに首を傾げている子たちが多数いる。
 
“266日”という数字に疑問を持ったのだろうが、映画はちゃんとそれを説明する。
 
一般に妊娠期間は“280日”と言われることが多いが、それは“最終月経”から数えた日数なので、排卵は月経の14日後に起きるから、排卵≒受精から数えると妊娠期間は280-14=266日になる、と説明され、多くの子が納得したように頷いていた。
 

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そしていよいよ“受精”がどのようにして起きるかの説明がなされる。この日の映画で最も重要な部分である!
 
これまでずっとイラストだったのが、唐突に実写で外人さんの男女(着衣)が出て来て、抱き合いキスをする。そして2人は一緒にベッドに倒れ込むが、その先は、2人の表情だけが映される。そして少々スキップされて、2人が満足そうな表情をしている所が映される。
 
つまり肝心の所は映っていない!
 
ここで“性交(セックス)”ということばが表示される。
 
受精は、男性の精子が女性の卵子と出会うことで起きるが、それが起きるのは男性がペニスを女性の身体の中に入れて、“射精”によって精子を女性の体内に注入するからである、というのが言葉で説明される。このペニスを女性の体内に入れることを“性交”というのだと説明されるが、この時ペニスが挿入されるのが、女性の膣であるというのがイラストで説明される。
 
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このあたりで「え〜?」とか「うそ〜」という声が少々上がる。
 
千里などは小学校高学年から“恋愛する女子”のグループに入っていたから知っているが、全然知らなかった人には結構衝撃的な内容である。
 
映画の中の解説者は、恋愛をして好きになった男女は、自然な感情として、性交(セックス)をしたくなる。でも性交(セックス)をすると、赤ちゃんができてしまうので、性交をする以上は、赤ちゃんを産む覚悟が必要であると解説者は語る。
 
解説者は「赤ちゃんができることだから、本当は性交は結婚してからすべきです。でも結婚前に我慢できなくて、してしまう場合もあります。その時はこれを使って下さい」と言って、コンドームの実物を映す。
 
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パッケージに入った状態から端を手で切って中身を取り出す。それをペニスに見立てた木の模型にかぶせるところが、実写で映される。
 
「このようにしてコンドームを、ペニスにかぶせた状態で性交をすれば、ペニスから出た精液はこのコンドーム内に留まり、女性の体内には入らないので、妊娠を避けることができます」
 
「中学生・高校生の内は、できるだけ性交は我慢したほうがいいのですが、どうしてもしたい時は、必ずコンドームを使って下さい。コンドームはドラッグストアなどで売られています。基本的には男の子が買うのがマナーですが、彼氏と性交することになる可能性があると思う女の子も念のため持っていた方がいいです」
と解説者は語った。
 
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更に解説者はさっきの生理周期のグラフをあげ、妊娠しやすいのは何と言っても排卵期に性交をした場合であることを説明する。この時期はたとえコンドームを使っても性交はしない方がいいこと。この時期をずらせば妊娠は、しにくいと述べた上て、
 
「生理周期は唐突に乱れることもあるので、安全な時期だと思って性交してしまうと、その性交に刺激されて排卵が起きて妊娠してしまうこともよくあります。基本的には“安全な時期”というのは存在しないと考えておきましょう」
と付け加えた。
 

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そういう訳で、この日の映画は、開放的な気分になりやすいゴールデンウィークを前に、性教育をしっかりやっておくというのが目的だったのである。
 
映画の上映が終わってから、保健室の清原先生は言った。
 
「そういう訳で、ゴールデンウィークに彼氏ができて、あるいは彼氏と、いい雰囲気になって、セックスしたくなっても、高校卒業までは我慢しようと言いましょう。それでもどうしても我慢できない時は、必ずコンドームを使ってください。基本的にはコンドームを使わないセックスは拒否しましょう。『するなら着けろ』、『着けないならするな』いうのが絶対です」
 
と言って、先生はホワイトボードに
 
“するなら着けろ”
“着けないならするな”
 
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とわざわざ板書した。
 
「映画の中でも言っていましたが、コンドームは基本的には男の子が買うのがマナーですけど、女の子も念のため持っていてナプキン入れとかに入れておいたほうがいいです。買う勇気が無いという人は保健室に来てくれたら、あげますから、妊娠してしまって後悔しないようにしてください。中学生が赤ちゃん産んだら、本当に大変ですよ。皆さんは生理が始まった時から、もうお母さんになれる身体になっているんです」
 
と先生は強調した。
 

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映画とその後の先生のお話などがあってから、みんな席を立って退出する。
 
やや騒然とした雰囲気であった。結構ショックを受けているような顔をしている子もある。それで取り敢えず教室の方に向かう。
 
その時、たまたま尚子が千里の近くに居た。
 
「あ、千里ちゃんも今の映画みたのね?」
などと言う。
 
「え?1年生全員見たんじゃないの?」
「1年生の女子はね。あ、でも千里ちゃんも女子だもんね。千里ちゃんには必要な内容だよね」
などと尚子は言っていた。
 
ちなみに男子はこの時間、持久走をやらされていたらしい!私、女子の方に来て良かったぁと千里(千里B)は思った。
 
ちなみにこの映画は沙苗も見ていたが、沙苗は「赤ちゃんができる仕組み初めて知った!」などと言って「それも理解しないで性転換手術を受けたなんて信じられない」などと佳美から言われていた!もっとも沙苗はまだ性転換手術までは受けてないと思うけど(ひょっとして睾丸は取ったのでは?と千里は疑っている)。
 
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ちなみにセナまで視聴覚室に連れ込まれていたらしい(連行したのは優美絵と2組の麦美)。彼は体操服姿だったので女子の中に埋没していたが、男の子とバレないだろうかとドキドキしながら見ていたらしい。でも多分セナにも必要な話だったと思う。セナは女装はおふざけてしたのを数回見ただけだけど、よく女子たちから「セナちゃはお嫁さんになりたいんでしょ?」などと言われている。でも取り敢えず彼も男子が持久走させられていたと聞いて「男子の方に行かなくて良かったぁ」と言っていた!
 
ちなみに留実子は男子の方に参加して持久走で3位だったらしい!!
 
 
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