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■女子中学生・夏祭り(21)

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8月4日(木).
 
千里Vは黄色い腕時計をし黄色い髪ゴムを付け、善美の運転するBMW-miniに同乗してP神社に入った。
 
すると御札授与所の所に宮司さんと菊子さんが居る。つまり巫女が出払っている!むろん、こうなっているタイミングで到着できるように来たのである。
 
「宮司さん、ただいま。だいぶ留守にしました」
と千里は宮司さんに話しかける。
 
「お帰り、大変だったね」
と宮司はねぎらってくれる。
 
「ちょっと事情で連絡ができなくて済みません」
「いや君が無事ならいいよ」
 
あまり無事ではなかったのだが。
 

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「これ三重のお土産の僧兵餅と、東京のお土産の東京ばな奈です」
と千里はお土産を出す。
 
「東京にも寄ってきたんだ!?」
 
「実は三重での作業が終わって帰ろうとしていた時に東京の知人が亡くなったことを聞きまして」
「ありゃ」
「それでお悔やみを言いに寄ったんですよ」
「ほお」
「それでこちらはその亡くなった知り合いのお孫さんで七尾善美さんです」
 
「七尾善美です。お初にお目に掛かります」
「P神社宮司の翻田常弥です」
と挨拶を交わしながらも、宮司はなぜそのお孫さんがここに来ているのか疑問を持っている
 
「善美さんはちょうど北海道旅行がしたかったということで、私と一緒に北海道に来て、函館・室蘭・札幌・旭川と回って留萌に来た所で」
「へー」
「それで折角なので、こちらでご祈祷をお願いできないかと」
「ああ、そういうことでしたら、こんな田舎の神社でよければどうぞ」
 
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それで善美は1万円の大祈祷を申し込む。善美は住所に留萌市W町と書いた。
 
「あら、留萌にお住まいですか?」
と菊子が訊く。
「しばらく留萌に滞在することにしたので」
「へー」
 
菊子は知人の家に滞在しているのだろうと思ったようである。
 
「千里ちゃん、巫女さんが出払ってるんだよ。帰ってきたばかりで悪いけど笛を頼む」
「分かりました」
 
「あ、そうだ。河洛邑から、村山さんの傘が忘れてあったと言って送ってきてくれたんだけど」
と言って宮司は傘を取って来てくれた
 
「ありがとうございます。でも私傘忘れましたっけ?」
 
見てみると千里の好みではないデザインである。
 
「これ他の人の傘かも」
「え〜〜!?」
 
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(後で真理の傘と判明。紀美が回収して行った)
 

それで千里は善美をいったん待合室に入れ、巫女控室に行って巫女衣装に着替える。小町を召喚するが、小町が戸惑っている様子である。コリンの様子から、Yは死んだのではと小町は思っていた。
 
「私は黄色い千里の代理」
と言うと、納得していた。
「ついでに黄色は生きてるから」
「ほんとですか。良かった!」
 
拝殿に行き、玉串と授与品の準備をする。夏なので玉串は拝殿そばの冷蔵庫に入れられている。
 
それからNo.222の笛(千里Yの常用笛)を持ち、善美に声を掛けて一緒に昇殿する。P大神が千里は何をするつもりだ?と眺めている。拝殿の柱にあるボタンを押す。これで小町が宮司を先導して拝殿に来る。
 
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(P大神はこの千里をYだと思っている)
 

それで祈祷が始まる。
 
まず大幣(おおぬさ)でお清めをし、更に鈴祓いをする。小町が太鼓を叩いて千里が笛を吹き、宮司さんの祝詞が始まる、これが大祈祷なので長い。
 
椅子でなかったら足が辛くなるくらいである。
 
やがて祝詞が終わり、ここで普通は宮司さんが短いお話をして祈祷を終えるのが常だが、
 
「暑いし、クーラーの利いた所でお話ししましょう」
と言って、拝殿を降りて待合室に行く。千里が祈祷の授与品(御札・御守り・携帯ストラップ・お箸・御神酒・塩・米・昆布)の入った袋を善美に渡す。小町は玉串を冷蔵庫に戻し、御札授与所に行って菊子と交替した。
 
待合室に宮司と千里、善美が入る。菊子が冷たい麦茶と今千里が持って来た東京ばな奈を出す。
 
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「千里ちゃんのお持たせで悪いね」
「いえ、東京に住んでたらあまり食べる機会無いだろうし」
と千里。
「あ、そうかも」
「東京ばな奈なんて多分10年くらい食べてません」
と善美。
「なるほどですね」
 
小町が授与所に行ったので、菊子もそのまま待合室に居る。
 

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「しばらく留萌に滞在なさるんですか」
「実をいうと留萌に住もうかなと思って」
「お仕事は?」
「実は東京では会社を解雇されてきたんです」
「ありゃ」
 
「バス会社に勤めていたんですが、SARS(*46)でお客が激減した影響から抜け出せなくて、更に今年は鳥インフルエンザが流行りそうな雰囲気ですし」
「ああ」
 

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(*46) SARS (Severe acute respiratory syndrome 重症急性呼吸器症候群) は2002年末から2003年夏に掛けてアウトブレイクを起こした、新型コロナウィルスによる重大な呼吸器疾患である。2019年以降にパンデミックを起こしたCOVID-19 (Corona Virus Disease 2019) のウィルスと比較的近い関係にある SARS ウィルスによって発症する。COVID-19のウィルスはSARS2 ウィルスと呼ばれる。
 
SARSでは飛行機の中で大規模なクラスターが起きたこともあり、人々が素行機・電車・バスなどの交通機関の利用を控え、航空業界を始めとする交通業界、旅行業界に深刻な打撃を与え、大量の倒産を出した。
 
旅行代理店を経営していた青葉の父もこの影響で会社が倒産した設定である。
 
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善美の説明は続く。
 
「それで会社の社長が亡くなって息子さんに代替わりしたのを機会に大規模なリストラが行われて、転職しやすい若い社員を中心に解雇されて、私もほぼ指名解雇に近い形で辞めました」
 
「大変でしたね」
と宮司。
 
「ちょうどそのタイミングで私がお寄りしたものだから、それから一緒に留萌まで旅してきたんですよ」
と千里は言う。
 
「ああ、そういうことでしたか」
「私の親戚の家が空き家になっている所に取り敢えず滞在していただこうというので実は荷物を置いてからすぐここに来たんですよね」
「ああ」
 

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「善美さん、バス会社でドライバーをしていたんですよ。だからバス会社かタクシー会社の仕事の口が無いかなあとか言っておられるんですけどね」
と千里が言う。
 
「バスガイドとかじゃないんだ!」
と宮司さんが驚く。
 
「最初はバスガイドとして入社したんです。でも元々車が好きでA級ライセンスとかも取ったので、君運転がうまいなら大型二種取らない?と言われて社内で訓練を受けて取得して運転手になりました。女性ドライバーということで、女子校の行事とかに投入されて、女子高生とかから随分応援してもらいました」
「へー」
 
すると菊子が反応した。
「ねえ、女の人で運転がうまいというのなら、この方に運転をお願いしたら」
と言い出す。
 
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「でもうちあまり高い給料出せないよ」
と宮司は言う。
 
「運転手を募集なさってたんですか?」
と善美が言う(白々しい)。
 

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「ええ。実は。私が視力が衰えて、今のままでは免許の更新ができない可能性があるので」
と宮司。
 
「ただ運転手といっても仕事はあまり多くないんです。普段は巫女さんとか御札・御守りの販売とかしてもらってて、必要な時にドライバーを頼める人がいたらなんて言ってたんですよ」
と宮司は付け加える。
 
「私、中高生の時に巫女さんのバイトしてましたけど、使えません?」
と善美は積極的に売り込む。
 
「経験者ですか!」
 
実は、梨花・花絵の離脱で“おとな”の巫女が居なくなる問題も起きていた。今のままでは結婚式とかも行えない。中高生に三三九度をさせる訳にもいかないし。
 
(一応宮司が三三九度をする手もある。そういう神社はわりと存在する)
 
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「私、給料安くてもいいですよ」
と善美。
「善美さんの人柄については私が保証しますよ」
と千里も言う。
 
「だったらしばらくは取り敢えずバイトということでお願いしようかな」
と宮司も言ったのである。
 

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それでその日から善美はP神社の巫女としてご奉仕することになった。
 
一応、千里からこの神社の礼拝の作法とかも教えることになった。善美が以前務めていた神社では笛や太鼓もしていたというので、まず太鼓を叩かせてみると非常にリズム感がよい。龍笛も取りあえず千里が貸した花梨の龍笛を吹かせて見ると結構上手い(実はここ数日特訓していた:元々龍笛は吹いていたが“間違った吹き方”だった。この花梨の龍笛はGが札幌の和楽器店で買ってきた)。
 
それで宮司はこの人、結構使えるぞと思ったのであった。
 

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「でも千里ちゃん、この人のお祖母さんかお祖父さんと知り合いだったの?」
「そうなんですよ。実は善美さんの高祖父が凄い霊能者だったんですよね」
「へー」
「それで善美さんのお祖母さんがその2代目を継いで、善美さんが3代目です」
「凄い!」
 
「孫へ、孫へと継承するってやはりこういうのは隔世遺伝なのね」
と菊子さんが言う。
 
「高祖父も祖母も凄い人だったから私みたいなのが3代目名乗るのは、おこがましいんですけどね。それに東京には霊能者なんてたくさん居るから、よほど営業のうまい人以外は、お金はもうからずに、ただ苦労するだけだし」
と善美。
 
「逆にもうかってる人はほとんどが“あちら”に墜ちてますよね」
と千里は言う。(*47)
 
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宮司はこの人の“実力”が見たいなと思った。
 
そしてP大神も興味深げに善美を見ていた。確かに善美にはわりと霊感があるのは分かる。少なくとも玲羅や恵香、更に沙苗などより強い。なんか強そうな眷属も連れているし。しかし“3代目子牙”を名乗るほどだろうかと疑問を感じた。しかしどうも千里は何か“たくらんで”いるみたいだぞと思う。
 
先にも述べたが、P大神はここにいる千里が千里Yだと思っている。だって体内に小春の身体があるのも見えるし!!
 

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(*47) 千里Rや桃源はかなり潤っているが、普通の霊能者が手をこまねいた大物を専門に処理しているからである。青葉の曾祖母“岩手のおしら様”八島賀壽子なんて失せ物探しとか嫁姑問題の相談のような小ネタが多く、しかも報酬を魚とか大根とかで受け取っていた。名前は有名なのに事実上年金で生活していた。
 
2代目子牙・五島照子は実際には日本舞踊の師匠としての収入が大きかった。実は善美も名取りだったりする。むろん女舞の名取り!舞踊教室は善美の母(七尾和子)が継承した。
 
善美の兄たちは舞踊界とは無関係の生活をし舞踊をしない女性と既に結婚している。善美は誰か理解のある?お弟子さんと結婚させられそうだったことから逃げて来たのもある。
 
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午後になって、恵香や美那、セナなど、それに高木姉妹がやってくるので、千里は善美さんをみんなに紹介した。セナは「千里ちゃん、剣道の練習はいいのかな」と思うが、まあいいかと思った
 
(千里Rは8/3-8/6の間、早川ラボで練習している。8/7に旭川に移動予定)
 
高木紀美が七尾善美に言った。
「ジャンケンしません?」
「じゃんけん?いいけど」
 
善美が勝つ。
 
「負けたぁ!」
と紀美が悔しがっていた。
 
しかしこれを見て妹の貞美のほうは
「この人、見た目より実力があるみたい」
と思った。
 
(貞美に善美の眷属は見えない。そもそも“ここに”は居ない。別の所に居て、呼べば来るタイプである。このタイプの“呼び出し型”眷属にはかなりレベルの高い人でないと気付けない)
 
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夕方、昇殿祈祷のお客さんが来たので、恵香と善美さんで出て行った。恵香が笛、善美さんが太鼓を叩いたが、恵香は「この太鼓、笛が吹きやすい」と思った。
 
善美は実際中高生の頃、神社で太鼓も笛も吹いていたが、P神社の太鼓の叩き方をここ数日練習していた。
 
宮司も、初めて一緒にやったのに、恵香ちゃんの笛ときれいに調和した太鼓の叩き方であったので安心した。
 

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玲羅は千里に
「お母ちゃんが心配してるけど」
と言ったが
「諸事情で今帰宅できない。適当に誤魔化しといて。あと“赤”の私は7日から旭川で合宿するから」
と答える。
 
「分かった」
「そうだ。お金大丈夫?」
「くれるならありがたくもらう」
「じゃ取り敢えず」
 
と言って3万円渡したら、それでまたゲームを買っていたようである!
 

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8月5日(金).
 
この日も、村山家では玲羅が熊カレーをたくさん買ってきた。昨日千里(実はV)からお金をもらっているので資金は豊かである。御飯はもちろん玲羅が炊く。
 
それでこの日帰って来た武矢は美味しいカレーに満足気であった。
 

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