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一応バスは、静狩PA・萩野PAと秩父別PA、でトイレ休憩した。
萩野PAでのトイレ休憩では、司は、男の子のユニフォーム着てるしと思い、男子トイレに入ろうとしたものの「司ちゃんはこっち」とチア部の子に連行されて女子トイレに入った。
「司ちゃんはタキシード着てても女の子にしか見えないよ」
トイレを済ませてからバスに戻ろうとしていた時、小林君が司に声を掛けた。
「ちょっと話がある」
というので、少し離れた場所で話を聞く。司は何だろうと思った。
「福川さん、好きです。ガールフレンドになってください」
これが“告白ラッシュ”の始まりだったのである。
司は驚いたが答えた。
「ぼく野球にしか興味ないから、悪いけど今恋愛には興味無い。部活としては終わっちゃうけど、高校の部活に向けて練習を続ける。だからライバルとして頑張ろうよ」
「う、うん」
と小林君はがっかりしながらも、告白したことで満足した感じもあった。
バスの席に戻ってから
「ぼく告白されちゃった」
というと尚美が
「当然、これから大量告白が始まるでしょうね。みんな司先輩と恋人になりたいと思ってますよ。同性の私たちだって憧れるくらいだもん。男の子たちはみんな司先輩に熱い視線を送ってましたよ」
「え〜〜?そう?」
「野球部は部内恋愛禁止だったけど大会が終わって3年生は部活からは引退ですからね。縛りが無くなって告白してくる男子はきっと多いですよ」
「ひゃー」
「(生駒)優先輩も去年の秋に野球部のほぼ全員から告白されたらしいし」
「あはは」
「実際大会で会う他校の女子マネと話してても、部員から言い寄られる女子マネは多いらしいですよ。何かそれ目的でやってる子もいるみたい。その気になれば“よりどりみどり”だし」
「ああ、そういう子は居そう」
「逆に言い寄られるのが面倒だから誰か1人と早々に恋人になちゃうのが楽という子もいるし」
「それはひとつの手だね」
「今の3年生には女子マネがいなかったからよけい司先輩に集中するのかも」
「わぁ」
「男の中に女が1人いると取り合いになるんですよねー」
と美甘。
「逆に女の中に男が1人いると女性化するよね」
と飛鳥。
「そうそう。女は環境に影響されにくいけど、男は簡単に女性化する」
「やはり男の子ってみんな本心では女の子になりたいんですよ」
ぼくもやはり女の子になりたかったのかも、と司は思った。
一行はその日の夜11時頃に留萌に戻った。
この帰りの行程の中で司は秩父別PAでのトイレ休憩でも、2年生の宇川君からも告白された!
ところで7月15日(金)に終業式に出て雅海が帰宅したら、母から言われた。
「あんた法的にも女の子になったから」
「えっと何だっけ?」
「5月に性別検査受けたでしょ。でその結果を裁判所に出して、性別の訂正が認められたから」
「え?そうなんだっけ」
「ちゃんと言ったじゃん。それであんたも女の子になっていいと言うから訂正してもらったんだよ」
そういえば裁判所で事務の女性から色々聞かれて適当に答えたことを思い出す。ぼくって公世ちゃんにも言われたけど自分の意志を明確にしないから何か周囲に流されてしまうよなあと思う。
でもぼく女の子になっちゃうの?
「今日裁判所からの書類が届いたんだよ。今から一緒に学校に行って学籍簿も修正してもらお」
「ぼくもしかして女子生徒になるの?」
「あんたはもう1年くらい前から女子生徒だったと思うけど」
そう言われたらそんな気もする。
「あ、ちゃんとスカート穿いてね」
「え〜?」
「だってあんた女子なんだからスカート穿くのは当然」
「ひゃー」
それで雅海は恥ずかしかったが、初めてスカートを穿き、リボンも結んだ。母の車に乗って再度学校に行く。それでまだ残っていた担任の先生、教頭や校長、保健室の先生などと話し
「おめでとう、これで君も立派な女子中学生だね」
と言われた。
そうか。ぼく女子中学生になっちゃったのか。
新たに女子33番の生徒手帳ももらった。(裁判所に申請した時点で学校に連絡したので作ってくれていた)
性別:女と印刷された生徒手帳を見て、ほんとにぼく女子生徒になったんだと思い、なんか凄く落ち着かない気分がした。
ぼくもうおちんちんのある身体に戻されることはないんだろうなあと雅海は少し寂しい気分がした。でもここ2ヶ月半は男になったり女になったりしてたけど、男の身体でいる時は、ちんちんが凄く変な物に思えて、胸が無いのも凄く変な感じだったもんなぁ。
千里(R)が早川ラボで練習していて少し休んでいると、九重が来て言った。
「千里さん、ご相談があるのですが」
「いったい何?」
「いや私たち、よくここ(早川ラボ)のそばでチャンバラごっこして遊んでるのですが」
「ああ、なんかやってるね」
ミズナラの木(まるごと)とか時には、巨大な鉄骨を持ってチャンバラしているようである。勾陳が鉄骨でぶん殴られるのも見たが、まあ丈夫な奴だから大丈夫だろう。頭のネジが2〜3本飛んだかも知れないが!
「このラボが町中に移転したらそんな遊びができないなあと思って」
まあこの子たちにも娯楽が必要だな。
「じゃ早川ラボに隣接する山側の土地が買えないか前橋さんに訊いてみてよ。買えそうだったら買ってそこで遊んでいいよ」
「ありがとうございます!」
実際前橋が調べてみると新しい土地に隣接する山側の土地(移転用地とは3mほどの段差というより崖で別れている)は売りには出ていなかったものの、持ち主は「どうせ売れないし」と思って登録してなかっただけなので交渉すると喜んで売ってくれた。それで移転予定地の山側の山林600坪を千里は入手した(移転予定地自体より広い)。
九重たちはここの木を“遊びながら”切った。何か人の顔を木に描いてはそれを切って遊んでいるようである。切り倒した木は取り敢えず積み上げて自然乾燥させていた。半年くらいしてから、先日買収した製材所に持ち込むらしい。
木は本当に遊びながら切ったのだが、早川ラボを移転するまでにはきれいに木の無い状態になり、そこで彼らはチャンバラごっこをしていたようである。
さて留萌S中では、野球部が帰ってきた翌日、7月19日(火)から3年生は修学旅行に出掛けた。野球部・応援団・チア部の3年生にとっては夜11時に帰ってきては翌日朝6時には出掛けるという慌ただしい日程になった。
しかし着替えの用意が大変だった子もいた。チア部の子には深夜にお父さんが車でコインランドリーに運んで洗濯乾燥したところもあったらしい。本人はもちろんひたすら寝ている。(翌日もバスの中でひたすら寝ていた)
千里Rは終業式の後、7月15日の午後以降、18日までずっと早川ラボで剣道の練習をしていた。ここで一緒に練習していたのは、玖美子・公世・沙苗・由紀・清香・柔良・詩歌の6人と、高校生の工藤弓枝(公世の姉/三段)・潮尾晴美(由紀の姉/二段)である。如月は1学期の成績があまりに悪かったため旭川の予備校のサマースクールに行かされているらしい。人数が中途半端になるので由紀を誘い、その姉も付いてきた。
「成績のいい人は大変ネ」
などと千里は言っていた。
この4日間、千里Rは1日中練習していたので
「疲れたぁ。もうここで寝るー」
と言って早川ラボで寝ていた。実は千里だけが、保護者が迎えに来たりしないのである。一応沙苗のお母さんが
「千里ちゃん一緒に送って行こうか」
と声を掛けたのだが
「きついからもう少しここで寝てます」
と言って寝ていた。
沙苗の母も村山家の内情が分かるので、自宅に帰ると、ゆっくり眠れないかもと思い「風邪引かないようにね」と声を掛けて帰った。
千里Rが帰らないので、この4日間、自宅には千里Yが帰っていた。Yは何だか久しぶりに家に帰ったなあと思っていた。
「そうそう。お母ちゃん、私19日から三重県に行ってくるね。帰りは何日になるか分からない」
とYは母に言ったが、母は19日からって修学旅行じゃないのかねと思った。
Yは神社の宮司さん、また高木姉妹にも
「19日から河洛邑に行ってきます」
と言っていた。
「まあ曾祖母ちゃんがいる限りは一応おもてなししてくれると思うけど少々不快なことあったらごめんね」
と紀美は言っていた。
おそらく紀美はあれこれ“不快で面倒なこと”から逃げて留萌に来たのだろう。
18日の午前中は、市長さんが今回道大会代表になった選手を激励してくれるということだったので千里は「面倒くさいなあ」と思いつつも夏制服を着て出て行った。玖美子、公世と竹田君、R中の清香と柔良、所沢君も一緒である。H中の権藤君は留萌市ではないので来ていない。きっと向こうの町長さんに激励されているかも。
市長から激励のことばがあり、竹田君・所沢君とは握手をしていた(多分女子選手とは遠慮した:だから公世とも遠慮した!)。
千里・玖美子・公世・清香・柔良の5人は、S中の教頭、R中の教頭に早川ラボまで送ってもらった。
「なんか凄い山の中で練習してるんだね」
「いかにも山籠もりしてる感じがいいのですが」
「何か熊でも出そう」
「ああ、クマは毎月2〜3頭出ます」
「ひぇー、それどうすんの?」
「銃持ってる人がいるから倒してますよ。だから毎月数回熊肉パーティーです」
「凄いね!」
「ワイルドというか」
「でも今年の秋にはY町に移転するんですよ」
「Y町なら熊は出ないだろうね」
(出ないといいね)
18日の夕方、R中組は
「では次は23日」
と言って帰って行った。19-22日は千里が修学旅行で居ない(はず)なので早川ラボでの練習もお休みになる。その間は学校や天野道場で練習すると言っていた、
なおR中は9月に修学旅行が予定されており、行き先はS中と同じである、C中も8月下旬に同じ所に行くらしい。
そして7月19日(火)、千里Yは数日分の着替えその他を持って夏制服で自宅を出た。出がけに母に
「これ私が居ない間の生活費」
と言って封筒を渡した。
津気子が見てみると30万円もあった。
「もらっちゃお」
と津気子は思った。
千里Rはスヤスヤと早川ラボで寝ていた。
だから修学旅行の朝、学校に集まりバスに乗ったのは千里Yである。当然小春もYに付いていった。(ちゃんと小春の分も旅行代金は払っている)
6:30集合だが例によって留実子が6:35くらいになってお父さんの車で駆け付けてきて、先生に無茶苦茶叱られていた。どうもこの子は時間感覚が悪すぎる。普段遅刻魔の前河杏子だってこういうイベントの時はちゃんと5分前には来るのに。
留実子は清原先生(保健室)に言われてトイレ(もちろん男子トイレ!)に行って来てからクラスの列に並んだ。全員揃ったのでバスは6:45に留萌市北部のS中を出発した。
さて服装だが、セナと沙苗は普通に女子制服(ブラウスにリボン、スカート)である。
雅海は終業式まではブラウスと女子用スラックスでリボンも付けていなかったが出がけに母から言われた。
「あんたも正式に女子生徒になったんだからスカートにすべき」
「そうだね」
と雅海も言って本人も素直にスカートを穿いた。リボンも結んだ。
それで母の車で送ってもらい学校に出て行った。クラスメイトにはスカート姿の初お披露目である(昨年の文化祭でも一応見せてるが)。
「あ、雅海ちゃんスカート穿いたんだ」
とみんなから言われる。
「まだ恥ずかしい。でもぼく女生徒になったぁ」
と言って新しい生徒手帳を見せる。
3年1組33番・祐川雅海・女
と印刷されている。
「正式に女子生徒になったんだ!」
「おめでとう!」
と言われる。やはり、女の子になることって、おめでたいことなのかな。
一方、司はこれまではブラウスと女子用スラックスで通学していた。リボンも付けていなかった。それでトイレは女子トイレを使うが、着替えは保健室を使っていた。この日もその格好で出掛けようとしたのだが母は言った。
「もう道大会も終わったんだから女の子に戻ろう」
本人も今回の函館行きで女の子たちと3日間一緒だったことから結構女の子的な気分になっていた。それで本人も
「そうだね女の子になろうかな」
と言い、ちゃんとスカートを穿いてリボンを結んだ。
「スカートなんて恥ずかしいー」
と言っていたが、
「女の子がスカートを穿くのは普通」
と言われていた。
それで司も母の車で学校に送ってもらい、みんなから
「あ、司ちゃんがスカートだ」
「可愛いよ」
と言われて
「恥ずかしー」
と言っていた。